早明戦もいいですが、やはり「トップリーグ」でしょう

2019年11月22日
とてもうれしい話を聞きました。11月15日から始まったトップリーグの一つ下「トップチャレンジリーグ(TCL)」の試合に多くの観客が詰めかけたそうです。「TCL」は言うならば「トップリーグ」の2部で、8チームの構成。この日は平日(金曜日)で、しかもナイターという悪条件。にもかかわらず、愛知県刈谷市のウェーブスタジアム刈谷(豊田自動織機vsマツダ)に、3182人もの観客が集まったといいます。昨年9月の「TCL」開幕戦(マツダvs近鉄)のなんと4倍で、これは明らかにW杯で日本中が盛り上がった余波でしょう。豊田自動織機には、W杯予選プールであいまみえたサモアのトゥシ・ピシが先発出場していた影響もありそうです。(写真は日刊スポーツ)

   

さらに、翌11月17日、大阪のヤンマーフィールド長居でおこなわれた近鉄vs清水建設のゲームには、W杯で献身的な活躍を見せたトンプソンルーク、元オーストラリア代表(70キャップ)のクウェイド・クーパーが先発出場。同じくオーストラリア代表のウィル・ゲニア(110キャップ・写真はスポニチ)も後半途中からプレーし、スタンドをほぼ埋め尽くした5068人の観衆も大喜びだったといいます。トンプソンルーク(写真は共同通信)にとっては最後のシーズンですが、「本当にびっくり。近鉄入りしたときはこんなに人はいなかった。雰囲気が変わってうれしい。最後のシーズン。でも、いつものように次の試合に集中してチームのためにプレーする」と語っていたそうです。

 

ちなみに、この試合でフル出場した清水建設のサム・ワイクス(元オーストラリアU20代表・ポジションはロック)は昨年2月、リオデジャネイロで私が観戦したスーパーラグビー(ジャガーズvsサンウルブズ)の試合に出場しており、日本への帰途、乗り継ぎのサンチャゴ空港でその姿を見かけ一緒に写真を撮ってもらいました(左端)。

ほかにも、コカ・コーラにはウィリアム・トゥポウ(JAPAN代表)、清水建設にはルーク・マカリスター(元ニュージーランド代表・33キャップ)が所属しており、コアなファンには見逃せないカードも少なくありません。とともに、年明けからスタートする「トップリーグ」への期待が高まります。

そんな中、「早明戦」(毎年12月第1日曜日)のチケットが取れないというニュースを聞きました。関東大学ラグビー対抗戦グループに属する早大vs明大の試合は、かつて「学生スポーツのドル箱」と言われるほど多くの客を集めました。秩父宮に入りきらないということで、1973年~2013年は旧国立競技場でおこなわれたほどです。なかでも82年の入場者数66999人は、64年の東京オリンピック開会式・閉会式に次いで3番目に多かったとのこと。早大の本城和彦、吉野俊郎、明治の藤田剛、河瀬泰治など、いまでもその顔やプレーぶりが目に浮かびます。80年代後半から90年代初め頃は早大が清宮克幸、堀越正巳、今泉清、増保輝則、明大は大西一平、太田治、永友洋司、吉田義人、元木由記雄らが活躍。それより前、70年代にも、早大の藤原優、石塚武生、明大の笹田学、松尾雄治など、名プレーヤーがいました。

私も早明戦は何度か国立で観戦しましたが、感動で胸を熱くした記憶があります。しかし、それから何年か経ち、世界のラグビーを見始めるようになると、プレーのレベルの低さに愕然としてしまいました。「世界」どころか、大学ラグビーの前に社会人ラグビーが立ちはだかったのです。

1960年に始まった日本選手権(当初はNHK杯)は大学選手権の優勝チームと社会人の優勝チームが雌雄を決するスタイルでした。87年まで両者の力は拮抗しており、早大が4回、同大が2回、日体大と明大が各1回、社会人に勝ったこともあります。日本人特有の判官びいきの心情もたぶんに影響していたのでしょうが、大学チームが勝ったときは非常に気分がよかったものです。しかし、87年の早大を最後に(東芝府中に22対16)大学勢は社会人にまったく歯が立たなくなります。その差が年々顕著になったこともあり、97年からは出場チームの選定など試合方式を変更したのですがそれも焼け石に水。大学チームの優勝はここ四半世紀ありません。

それだけ社会人の力が学生をはるかにしのぐようになったわけですが、その社会人のベストメンバーを集めて編成されるJAPANが、世界を相手にするとさっぱり歯が立たないのです。それは1987年に始まったW杯でくっきりあらわれました。W杯には毎回出場しているJAPANですが、第1回の代表メンバーは、大学ラグビーで大活躍した選手も含め26人。しかし、予選プールではアメリカ、イングランド、オーストラリアに連敗しました。次の91年は宿沢広朗の率いたチームで、スコットランド、アイルランドに連敗したあと、3戦目のジンバブエ戦で初めて勝利します(52対8)。しかし、このあと2011年まで5大会(20年間)、JAPANの勝利はありませんでした。

91年のスコッドを見ると、FWに藤田剛、大八木淳史、林敏之、HBに堀越正巳、BKに平尾誠二、朽木英次、元木由記雄、吉田義人など、当時国内では超一流とされていた選手の名前がズラッと並んでいます。それでもまったく歯が立たないのですから、日本のレベルがよくわかります。

それから4年後、95年のW杯でJAPANは歴史に残る屈辱を味わいます。予選プールでウェールズ、アイルランドに完敗したあとの最終戦、ニュージーランドになんと17対145という大敗(145得点は大会史上最高、得点差128、失トライ数21はいまもなおW杯のワースト記録)を喫したのです。このときのメンバーも、けっして91年に劣りません。にもかかわらずこの悲しい結果。世界とのあまりに大きな差に日本のラグビーファンは打ちひしがれました。というか、私など、ほとんどドッチラケ状態におちいりました。そして、この大会の2カ月後、世界のラグビーは本格的にプロ化が始まります。しかし、日本ではアマチュアリズム信仰が強く、そうした流れに乗れませんでした。

99年、2003年、07年、11年と、JAPANは4大会連続で1勝もできない状態が続き、予選プールで敗退。ようやく2003年になって「トップリーグ」が発足、プロ契約でラグビーをする選手が出てきました。それが前回の15年、エディー・ジョーンズに4年間鍛え上げられたJAPANはすっかり生まれ変わり、南アフリカ、サモア、アメリカと3勝をあげるまでに。勝ち点の差で残念ながら決勝トーナメントには進めませんでしたが、ようやく光が見えてきたのです。

しかし不思議なのは、W杯でまったくいいところなしの敗北を繰り返していたにもかかわらず、国内では大学ラグビーが相変わらず盛り上がりを見せていたことです。2008年までは早明2校を軸に大東文化、関東学院がリードしましたし、10年以降は帝京が大学選手権9連覇を達成しています。関西は1984年の同大を最後に低迷が続いていましたが、ようやく19年、天理大が決勝まで進みました(明大に敗れ優勝は逃す)。

2019年1月の大学選手権決勝=明大vs天理大はテレビで観戦しましたが、何より興味深かったのは天理大で外国人留学生の選手がプレーしていたことです。18年まで9連覇していた帝京大にも外国人選手はいましたが、1人だけ。同じ対抗戦グループに属する大学を見ても、日体大を除き外国人選手は皆無です。一方、リーグ戦グループ(1部)はというとガラリ一変、流通経大、拓大、東海大、法政大、日大など多くの大学で留学生がプレーしています。関西Aリーグでも天理大のほか、京都産業大、摂南大に外国人選手がいますが、同大、立命館、関大、関西学院大といった伝統校にはいません。(写真は毎日新聞社)関東・関西を問わず、伝統校の場合、チームは日本人だけでという考えがまだまだ強いのでしょう。

しかし、これからの時代、大学スポーツはもちろん、高校スポーツでも外国人留学生抜きで好成績を収めるのは難しくなるのではないでしょうか。ラグビーもいずれそうなるのは目に見えているにもかかわらず、そうした中、純血主義=日本人選手だけのチーム編成にこだわるのは時代錯誤というか、むしろ違和感を覚えます。

いまでこそ外国人選手抜きのプロ野球など考えられませんが、大昔のプロ野球セ・リーグの巨人は、どうした理由かわかりませんが、純血主義にこだわっていました(正確には「見かけ」だけ)。巨人の場合、姑息というか、顔が日本人ならOKと勝手な理屈をこさえ、ハワイに移民した日本人2世の選手(与那嶺要、宮本敏雄)を使っていたのです。まさかいまのラグビー協会がそうした考え方をしているとは思えませんが、これからはむしろ、外国人をどんどん、それも高校・大学のうちから集めたほうが賢明だと思います。

南太平洋のトンガ、フィジー、サモアを始め、ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、アルゼンチンといったラグビーの盛んな国々、さらにインド、スリランカといったアジアの国からどんどん留学生を集めるのです。私が密かに期待しているのはモンゴルです。モンゴルのラグビーなど聞いたことがありませんが、いまの大相撲での活躍ぶりを見ると、日本に来てから始めても、鍛えさえすれば強くなるのははっきりしています。高校から日本に留学してもらい、ラグビーを覚えさせても十分間に合うのではないでしょうか。最初はモヤシのような細い体であったとしても、こちらでトレーニングを積み、作っていけばよいのです。それこそ、大相撲の力士のような身長180センチ以上、体重も100キロ以上でラグビーができる学生が育ちJAPANのメンバーになれば、「ティア1」の国々と戦っても十分太刀打ちできると思うのですが。

今年はW杯の余波もあり、久しぶりに大学ラグビーにも大きな関心が集まっているようです。早明戦のチケットが手に入らないというのも、その影響でしょう。各大学には将来のJAPAN代表になるメンバーもいるはずで、4年後のW杯に出てくるような成長株を見つける楽しみもたしかにあります。大学生が一生懸命やっているのだから……という心情も理解できないではありません。ただ、そのあたりで満足していると、そのレベルで終わってしまいます。それだけならいいのですが、大学ラグビーの人気イコールラグビー全体の人気などと思い違いをする人が出てくるのが怖いのです。

もちろん、ラグビーですから、どんなレベルであっても、野球やサッカーをはるかに上回る面白さには満ちています。しかし、大学ラグビーはしょせん一段も二段も下。どうせお金と時間をかけて観戦するなら、やはり「トップリーグ」を追いかけたほうが得だと思います。

「すそ野を広げる」といっても、土のグラウンドでは絶望

2019年11月15日
11月5日、新聞のスポーツ欄に、高校ラグビーの県予選の結果が出ていました。文字だけ見ると、
「島根県 決勝 石見智翠館 130─0 出雲
(石見智翠館は29大会連続29回目)」
とあり、同校の強さがきわだっているような印象を受けます。ただ、「決勝」といっても、そもそも同県の予選参加校はこの2校のみ。夏の甲子園(野球)が39校 サッカーが32校、予選に参加していることを思うと悲しいというか、情けないというか。

ほかにも、高校ラグビーの予選参加校が少ないのは、山形県が4校(サッカー24校、野球48校)、福井県が3校(サッカー28校、野球30校)、香川県が4校(サッカー37校、野球38校)、徳島県が4校(サッカー29校、野球30校)、佐賀県が2校(サッカー35校、野球39校)など、いくつかあります。もちろん、予選参加校が少ないからといって本大会に出場することの価値がダウンするわけではありません。ただ、これでは、「日本のラグビー、大丈夫なの?」と心配になってしまいます。

そういえば、今年3月、母校ラグビー部の創部70周年を祝う会でも、後輩が「去年、今年は入部者が少なく、単独でチームを組めない心配もあります」と語っていました。6年前、「選抜高校ラグビー」に“21世紀希望枠”で出場したことがある我が母校ですらこれが現実なのです。それから3年ほどの間に急激に弱くなってしまったという背景はあるにしても、たかだか2、3年でこれはないんじゃないの!? と言いたくなりますね。

それはともかく、日本のラグビーのすそ野の狭さはただただ驚くばかり。それでも、今大会のベスト8達成で、ラグビーをやってみようという子どもがかなり増えるかもしれません。ただし、彼らのモチベーションをどうやって維持するかが実は大きな問題で、前にもこのブログで記したように、信じられないほどプアな日本のグラウンド事情(芝でなく土)が大きな妨げになるのではないかと心配しています。

ラグビーのルールブックの中に、「人工芝の使用に関する基準」という条項(第22条)があります。そこには、「ラグビーの試合は伝統的に天然芝の競技場で行われてきた。(中略)理想的な状態の天然芝の競技場は、ラグビーの試合に最適だからである。天然芝によるフィールドは、最高レベルの国際試合に適した足場の確保、衝撃吸収性、ボールの弾み、トラクション(スパイクの引っかかり)、変形度や安定性のほか、景観的な美しさを実現することができる」とあります。ただし、こうした理想的な天然芝は、その性能特性を維持するために、徹底的な維持管理体制が必要なため、将来は人工芝、あるいはハイブリッドの芝の採用も考えていかなければならない。その基準・仕様についてもルールで定めていきましょうということのようです。

早い話、あれほど危険に満ちたスポーツを土のグラウンドの上ですること自体、大げさかもしれませんが非人道的なのです。というか、ラグビー発祥の地イングランドでは、サッカーやラグビーを土のグラウンドでおこなうなど、想像すらしていなかったのでしょう。世界各地に広がっていたイギリスの植民地も同様です。

しかし、サッカーもラグビーも、数十年という時を経てから入ってきた日本にはそうした考え方がなじまなかったのか、土の上でプレーすることになってしまいました。だからといって、誰も不平不満を口にしたりはしませんでした。私が高校生の頃「泥濘【でいねい】戦」という言葉を教えられたことがあります。グラウンドが雨でぬかるむと、足が思うように動かくなくなります。かりに雨自他はあがっていても、水分をたっぷり含んだグラウンドでは、通常のときと同じようにはプレーできません。また、雨が降るとボールが滑りやすくなり、どうしてもノックオンが増えます。つまり雨が降っているとき(降ったあと)の試合は、ふだんとはまったく違った注意を向けないとダメだよという意味でした。ノックオンしやすくなるのは別として、こうした注意はグラウンドが土だからシビアな内容になるわけで、芝生であればかなり様相は違ってきます。

今大会スコットランド戦でトライを決めたプロップ稲垣啓太の母校・新潟工業高校では今年、新入部員が7人しか集まらなかったといいます。それに危機感を抱いた同校の監督が、人工芝のあるライバル校に対抗して芝生の導入を思いつきました。そして各方面に相談したところ、稲垣が快諾し資金を提供したとのこと。こんな粋な話が各地で実現すればいいのですが、果たして……。

さて、校庭の芝生化と並行して進めなくてはならないのが競技人口を増やすことです。野球の甲子園、サッカーの国立(ただし、2020東京五輪に向け工事中のためおそらくは埼玉スタジアム?)に対し、ラグビーは花園(東大阪市)。ただ、全国高校ラグビーの参加校数はここのところ減少の一途をたどっており、2020年大会(第100回の記念大会)はおそらく1000校を割っているはず。高校生の競技人口も2万人カツカツで、これはサッカーの8分の1。バスケットボール、バレーボールより少ないのはなんとなく実感できますが、ハンドボールよりも少ないという事実には驚きました。

対象を全世代に広げても、日本は約11万人(総人口1億2600万人に対し0.09%)。南アフリカの約63万人(同1.1%)のほぼ6分の1です。サッカーの約89万人(0.71%)、バスケットボールの約62万人(0.49%)と比べるとあまりに差が大きすぎます。

世界各国のラグビー「選手登録者」 2018年
順位 国   名 競技人口 総人口 比率
1位 南アフリカ 63万人 5543万人 1.1%
2位 イングランド 35万人 5561万人 0.6%
3位 オーストラリア 27万人 2464万人 1.1%
4位 フランス 26万人 6493万人 0.4%
5位 ニュージーランド 15万人 460万人 3.3%
6位 アメリカ 13万人 3.2億人 0.04%
7位 フィジー 12.3万人 90万人 13.7%
8位 ケニア 12.2万人 4970万人 0.25%
9位 アルゼンチン 12.1万人 4427万人 0.27%
10位 中国 11万人 13.8億人 0.008%
https://rugbyhack.com/2016/09/28/population/ をもとに算出

日本ラグビー協会は2019年に20万人に増やすことを目標に掲げていました(「日本ラグビー戦略計画2016-2020」)が、2015年の115205人から108796人(2018年)と、逆に6千人以上も減っているのが現実です。ちなみに、ここには登場していませんが、アメリカは近年、学校の授業などでラグビーを取り入れるなど普及に力を入れてきた成果もあり約150万人まで増えました。これは絶対数ではイングランドに次いで第2位です。2018年にはプロリーグ「Major League Rugby」がスタート、近い将来代表チームも強くなることが予想されます。

サッカーの競技人口がここまで増えたのはひとえにJリーグの成功によるものです。野球も一時期の危機を脱した感がありますが、プロスポーツはいまや地域振興を支える重要なコンテンツの一つ。とくに地方ではその傾向が強く、Jリーグが大きく拡散したことでサッカー(球技)用スタジアムが全国各地にできました。ラグビーW杯もそうしたインフラがあったからこそ日本開催がかなったのですが、それが整備されてからせいぜい四半世紀しか経っていません。

しかし、だからといってサッカー&ラグビー場を新しく作ろうといっても、おいそれとは行きません。そこで、これから先は(少年)野球場をサッカー&ラグビー場に仕様替えしていくのも一法かもしれません。というのは、少年野球の競技人口はここ数年減る一方だそうです。将来野球場がダブつくのははっきりしていますし、しかも全国、どんな小さな町や村にもあるので、それを有効に使いまわせばいいのではないでしょうか。

プロリーグ化の成功は、スポンサー企業しだいかも

2019年11月13日
今回のワールドカップはこれまでで最高の成功を収めたというのが、ラグビーの国際統括団体WR(ワールドラグビー)の総括だったようです。WRがめざしているのは、ラグビーを世界中に拡大すること。サッカーに比べるとまだまだ広がりを欠くラグビーにとってこれは絶対的な課題で、いまの熱が冷めないうちに、次の一手をどう打つかがとても重要になってきます。ポテンシャルが予想していた以上に高いことがわかった日本のマーケットを最大限活かしたいとの考えも芽生えたのではないでしょうか。大会が終わって早々に、イングランド、スコットランド、アイルランドなど「ティア1」の国々とJAPANのテストマッチが組まれたことでも、それがよくわかります。

ただ、この先どのような方向に進むにしても、いちばん重要なのは当事国である日本です。本当なら、前大会でJAPANが南アを相手に大番狂わせを演じたのを機に、ラグビーへの関心はもっと高まってもよかったはず。しかし、日本ラグビー協会はじめ関係者が、南アに勝ったという出来事を十分咀嚼しきれなかったのか、年が明けてしばらく経つまでボーッとしていたのが響いた部分もあります。そうでなければ、日本唯一のプロチーム(サンウルブズ)の「スーパーラグビー」除外をおめおめと受け容れてしまう、それもW杯開催の直前に!──などということは本来あり得ない話でしょう。

この一件についてはいまだどこからも納得の行く見解が明らかにされず、私のようなポジションにあるファン(数的には日本国内でいちばん多いと思います)にとってはミステリー以外の何物でもありません。伝え聞くところによればお金の問題が重いようですが、「スーパーラグビー」に参戦することの意味をきちんと理解していない人が協会の周辺に少なからずいたにちがいありません。

サンウルブズの除外決定をくつがえすのも重要ですが、それ以上に力を入れてほしいのはトップ・リーグの盛り上げです。年明け1月からスタートするトップ・リーグは、どのチームの陣容を見ても、これまでにない充実ぶりです。今回のW杯を戦った選手が10人以上、かつてティア1の代表としてプレーした経験を持つ選手も籍を置くことになります。そうしたチームどうしの戦いにいかに多くの観客を呼び込むかが勝負になるでしょう。

それにはメディア対策(テレビなら地上局とBS)が一つの大きな柱になりそうです。毎週末に「今週のトップ・リーグ」とでも題して、金曜日は見どころの紹介、土・日は全試合のダイジェストを解説付きで流すくらいのことはしないとダメでしょう。プロ野球もJリーグも皆それを実行してきました。また、SNSも活用してほしいものです。これは協会と参加全14チームが文字どおり「ONE TEAM」となって展開しなくてはなりません。

これもまだウワサの域を出ませんが、2021年からはトップ・リーグをベースに新たなプロのリーグをスタートさせるそうです。とりあえずは、今回W杯の試合を開催した12の都市に1チームをということになりますが、現状からすれば、正直12チームはハードルが高そうな気もします。ラグビー熱が伝統的に高い九州とはいえ、3チーム(福岡・熊本・大分)は多すぎるでしょう。となると、福岡で1+熊本か大分で1の、合わせて2チーム。

関西には3チーム(大阪・兵庫・京都)あってもよさそうです。W杯のJAPANの選手のインタビューを聞いていてお気づきの方も多いでしょうが、いまも昔も優秀なラグビー選手は関西からというのは変わりません。さらに東京は2チーム、神奈川・埼玉に各1チーム、愛知で1チームは順当なところ。ただ、釜石は心配です。ラグビー専用のスタジアムはあるものの、交通の便となるといまひとつ。昔から強い秋田、さらに宮城(仙台)も取り込んで1チームが妥当ではないかという気がします。サッカーJリーグに2チームある静岡もビミョーな感じがします。あとは北海道ですが、札幌よリ函館、あるいは思い切って道東の根室・釧路あたりか。中国・四国はいまの段階では難しそう。これで足し算をすると、静岡と北海道を入れて12チームにはなるのですが。

従来のトップ・リーグ的なコンセプトを完全に断ち切るとなると、観客の集め方も相当知恵を絞る必要があるでしょう。Jリーグ、Bリーグと同じように地域ごとのスポンサーをまんべんなく集めなくてはなりません。もちろん、その前にプロリーグ全般をスポンサリングする大手企業を確保すること。たとえば、今回のW杯も含め、長らくテストマッチのスポンサーを続けてきているリポビタンDの大正製薬。同社は特定のチームというより、日本のラグビー界全体を支える存在であってほしいですね。

また、今大会でウェールズ代表の練習の様子がニュースで紹介されたとき、ジャージにISUZUの名前がプリントされているのに気がついた人もいるでしょう。実はISUZUはスバルとともに、同国代表チームのスポンサーになっているのですが、どちらも日本国内ではラグビーと縁がありません。オーストラリアのDAIKINはじめ、世界各地のラグビーを見ると三井不動産、NISSUI、asics、三菱自動車の名も見えますし、W杯ではキヤノン、三菱地所グループ、大成建設、TOTO、NEC、SECOM、ヒト・コミュニケーションズもスポンサーに名前を連ねていました。このほか、これまで日本のラグビーとまったくかかわりを持ったことのない有名企業も含め、果敢にアプローチしていってほしいものです。豊富な資金を確保した上で、知恵者・切れ者がかかわっていけば、短期間のうちに斬新なアイデアが浮かび上がり、それを実際の形にしていくのも難しくはないでしょう。(共同通信)

最近めきめきファンを増やしているのがプロのバスケットボール=Bリーグです。テレビ報道などを見ると、若い女性から高齢者まで、その層が広いのが特徴だといいます。きっかけはイケメン選手、かわいいグッズ……など人それぞれのようですが、なんであろうと関係ありません。それがきっかけでファンのすそ野が広がれば、いずれその周辺で実際にプレーする人(主に子ども)が増えるからです。千葉ジェッツや川崎ブレイブサンダースなど、大都市周辺にこうしたパターンが多いようです。

もう一つは強烈なローカリティーでしょう。チームの地元が官民一体となってサポートしながらチームを育てていくことで、その地域全体が活性化していくというパターンです。琉球ゴールデンキングスが代表でしょうか。ただ、ポイントは、そのチームが強くなること。今回のJAPANのように、強ければサポーター、ファンはさらに増えていきます。そこから生まれるパワーが選手、チームに伝わるとますます強くなるという好循環が生まれます。

Bリーグの広がりはすさまじく、2019-20シーズンは全国に36チーム。準加盟やライセンス不交付のチームまで含めると40を軽く越えています。さすがに、これは多すぎるかもしれません。すでにサッカーJリーグが全国に定着し、そこへBリーグが加わっていささか過剰なところへ、さらにラグビーが加わるのはけっして容易なこととは思えませんが、いまの熱さが保たれているうちなら、なんとかなるような気がします。

サッカーが逆立ちしてもかなわない、ラグビーだけの魅力

2019年11月12日
44日間の大会が終わり、もう10日が過ぎました。全国8都市、17試合を見て回りましたが、JAPANの5試合はもちろん、どの試合も印象に残ります。世界最高レベルのプレーを間近で、しかも毎日のように見るなどという経験はほとんど初めてなので、よけい強烈なインパクトを感じました。

ゲームとしての面白さもありますが、それ以上に、生身の体が音を立ててぶつかり合う興奮、自分自身がグラウンドの上にいるかのように錯覚してしまう迫力──。ラグビーの醍醐味はそれに尽きます。ただ、そうした体験ができるのは、球技専用のスタジアム、それもグラウンドに近い席だけです。その点、豊田タジアムで前から5列目に座れたJAPAN vs サモア戦は最高でした。選手の声も聞こえますし、表情もはっきり見えましたから。

11月2日の決勝戦も同じように前から6列目でしたが、こちらは横浜国際総合競技場で、陸上競技用のトラックが邪魔をして、迫力はいまひとつでした。しかも、6列目というのはやや半端で、サイドラインがギリギリで見えないのです。もう2、3列後ろだともっとよかったのですが……。もちろん、上すぎればすぎたで、興奮・感動のレベルはグンと下がります。同じカテゴリーで同じ料金なのにどうしてこれほど差があるのか不思議ですが、それでも、テレビの画面ではけっして感じ取れないスリルを味わうことができたので、よしとしましょう。そうしたことからすると、秩父宮ラグビー場のグラウンドと観客席の近さは何物にも代えがたいですね。近すぎて、選手は危険を感じるともいいますが……。

サッカーのW杯も一度だけナマで見たことがあります。2006年6月22日、ドルトムント(ヴェトファーレン・スタジアム)でおこなわれたJAPAN vs ブラジルの試合で、1対4で完敗。試合が終わったあと、MFの中田英寿がしばらくの間ピッチに仰向けで倒れ込んだまま動かなかったシーンはいまでも脳裏に焼きついています。ただ、100分近くナマで見たものの、個別のシーンで印象に残っているのはJAPAN唯一のシュートくらいのもの、要するにボールがゴールネットを揺らした瞬間だけなのです。

しかしラグビーは、トライの「瞬間」だけでなく、そこに至るまでの「スピーディーな流れ」が一つのパッケージとして記憶に刻まれます。しかも、そこには何人もの選手がからんでおり、そのうちの誰か一人でもコンマ何秒かアクションが遅れればその後の展開はまったく違っていたというケースもあり得ますし。もちろん、サッカーもそれは同じでしょうが、空間的に広いので印象としてはどこか希薄なのですね。まして、聴覚的な記憶はほとんど皆無でしょう。

その点、ラグビーは聴覚が伴いますし、関わっている選手の数が多く、しかもスピーディーである分、映像的にも強烈なインパクトがあります。ただし、ルールがわかりにくいのは欠点かもしれません。TMO(テレビジョン・マッチ・オフィシャル)の回数が多いのも、一連のプレーにかかわっている選手の数、そこで展開されるプレーの複雑さなどさまざまな要素が錯綜しているからです。しかも、プレーのスピードが想像以上に速いため、何度も繰り返し映像を検証し直さなければなりません。3、4台のカメラを駆使しさまざまな角度から捉えた映像をコマ送りで見てもキャッチしきれないことすらありますから。

今大会はこれまでのW杯で最高だったと、関係者が口をそろえて評価していたといいます。競技そのものは当然として、観客、運営役員、ボランティア、そのほかのスタッフなど、どれを取ってみても、これほどレベルの高い大会はなかったと。たしかに、ほかの国での試合で、これほど温かみを感じたことは私もありません。

2007年の大会は、決勝トーナメントを6試合──もちろん内容的には相当のハイレベルです──観戦しましたが、対戦相手の国に露骨なまでの敵意を見せる観客もけっこう目につきました。相手がPKやコンバージョンキックを蹴る段になると、バスケットボールのフリースローのときと同様、思い切りブーイングやノイズを出したりするのです。こうした行為は、日本ではまず見聞きしないので、「これって、許されるの?」と驚きました。陸上競技のスタート時に「しーっ!」という文字が場内のスクリーンに出てきますが、ラグビーの試合でそうしたものを見たことは一度もありません。そうした行為はそもそもあり得ないと思っていましたから。

ニュージーランドなど南太平洋の国のチームにだけ許されているハカ(フィジーのシピ、サモアのシヴァタウ、トンガのシビタウ)についても、昔から議論があるようです。とくに、イングランドとアイルランド、フランスは、NZのハカに対しては敵意をむきだしにするところがあり、今大会でもそれを隠そうとしませんでした。日本人的には、「神聖な儀式なのだから、おとなしく見ていればいいではないか」と思うのが普通でしょう。しかし、イングランドやアイルランド、フランスの選手たちには「NZだけがそうやって戦意高揚を図るのは不公平だ」「黙って見ていろというのはおかしい」という思いが昔からあるようなのです。

日本では、選手がグラウンドに入るとき(交代で出るときも)かならず一礼します。JAPANの、日本人選手は当たり前のようにそうしていました。しかし、外国出身でそうしたことをする選手はほとんどいません。文化の違いというといささか大袈裟ですが、日本ではそういうふうに教え込まれてきているのです。もとをたどれば、剣道や柔道と同じく、神の前で力を競うプレーするといった考え方が根づいているのかもしれません。ラグビーに限りませんが、日本ではなぜか、そもそもスポーツは神聖であるという考え方が主流を占めていました。そのためか、スタンドに向かってお辞儀をするのも、国内の試合ではごく当たり前におこなわれています。しかし、これも海外のファンにとってはとても新鮮なアクションとして受け止められたようです。

試合が終わったあとお互いの健闘を讃え合うのは、どの国も同じ。これはラグビーの基本精神だからです。花道を作り、相手チームのメンバーを送るのも、ほかのスポーツでは見られないシーンでしょう。日本の出ない試合であっても、二つの国の国歌を、日本人の観客が歌詞カードを見ながら歌うというのもえらく新鮮な印象を与えたようです。

こうした場面をスタジアムで、またテレビの中継で目にすることで、「ラグビーはサッカーや野球とはかなり違う」ということに気づいた観客・視聴者も多いはず。ただ、そういうことに美しさを見出すのは日本人特有の感覚かもしれません。ただ、意外なことに今回はそれが大きな反響を呼んだというのですから、わからないものです。今大会がきっかけで、世界中に広まれば面白いのですが……。

こうしたこととも関わるのでしょうが、日本ではスポーツに関してはアマチュアリズムが厳しく問われるところがあります。1935年前後、日本でプロ野球が産声を上げたとき「スポーツをやってお金をもらうなど、とんでもない!」という議論が沸き起こったといいます。そうしたこともあって、相撲をスポーツの一種と考える人は少なかったようです(その名残はいまだにありますが)。プロレスも、最初は日本人の誰ひとりとしてスポーツだとは思わず、「ショー」という受け止め方をしていました。プロボクシングも似たようなものでしょう。

そうした中にあって、ラグビーはとりわけアマチュアリズムにこだわってきました。サッカーが各国でプロ化していく中でラグビーが大きく遅れたのはそうした事情もあるのです。日本でもまだまだそうした考え方にこだわっている人も少なくないようで、とくに協会のお歴々に、その傾向があるとも聞きます。「スーパーラグビー」への参加を心よしとしなかった役員が少なからずいたという話が伝えられていますが、それもむべなるかなでしょう。

今回、釜石鵜住居【うのすまい】スタジアムでおこなわれたフィジー vsウルグアイの試合。ラグビーの競技人口比率が世界でもNo.1のフィジーは世界ランキングも日本とさほど変わりません。もちろん、選手は全員プロです。これに対しウルグアイは、31人のスコッド中9人がアマチュアだというのです。公認会計士もいれば医者もいる、自動車整備工場の経営者もいれば銀行に勤める者もいる。チームもほかの国のように、何カ月も合宿をして力をつけていくなどというプロセスはまったく経ていません。ところがなんと、そのウルグアイがフィジーを相手に30対27で勝ったというので大きな話題になりました。フィジーがプロらしからぬミスを連発したせいもあるのですが、それにしてもウルグアイの選手は皆、溌溂とプレーしていました。それが観客だけでなく、取材に訪れていた日本のメディア関係者や新聞記者にも伝わったのではないでしょうか。

行くぞーっ! 2023年フランスW杯も!

2019年11月3日

新横浜駅の構内の看板が、決勝戦用に付け替えられていました。人の出も準決勝のときよりさらに早い感じ。駅からスタジアムまで、外国人があふれています。早々にやってきてビール、ビール、ビールで盛り上がるのが彼らの習慣なのです。人が多すぎて歩道に収まりきらない場所もあるほど。イングランドのサポーターは、定番の応援歌『スウィングロウ・スウィートチャリオット』を大合唱しています。
Swing low, sweet chariot,
Coming for to carry me home,
Swing low, sweet chariot,
Coming for to carry me home.

それにしても、外国人サポーター(男性)の体の大きさには、感心するばかり。レプリカジャージのままグラインドに出れば、選手ですといっても通りそうな人が多いのです。決勝とあって、飲んでいるビールの量も! 声も大きいですし、騒ぎ方もハンパありません。

   

イングランドvs南アフリカの組み合わせは、くしくも2007年10月21日の決勝と同じ。このときも私はパリ郊外サン・ドニのスタジアム(Stad de France)で観戦しています。試合は6対15で南アが勝ちましたが、両国とも得点はすべてPK。トライは見られずに終わってしまいました。ビッグゲームではよくあることと聞いてはいましたが、実際にこの目で見ると、そうなるべくしてなっているのがよくわかります。どちらもディフェンスに全精力をぶつけるので、その堅いことといったらありません。逆に言うと、最終的にはペナルティーを多く犯したほうが不利ということになるのですね。

2007年の南アの優勝は初出場の1995年以来2回目、ちょうど12年後でした。それからすると、12年後の今回は優勝してもおかしくないかも。ただ、今回の下馬評はイングランドが有利で、私の周りも、「イングランドの大勝」と予測する人が多数。でも、南アが勝てば、その南アに負けたJAPANはたいしたものだという評価が聞こえてきても不思議ではないはず。私としては南アに勝ってもらいたいというのが正直な気持ちです。

17時50分、選手がグラウンドに入ってきます。太鼓の音ともに両チームが入ってくるのは日本らしさ満点で、ホントよかったですね。南ア初めての黒人主将・シヤ・コリシもいささか緊張気味。でも、胸に期すところは大きいのではないでしょうか。

 

一方、イングランドの主将オーウェン・ファレルの不敵な表情はいつもどおり。ニュージーランドとの準決勝、ハカの前でV字陣形を組んだとき中心に立っていたファレルの笑みは世界中に流れたはずです。まだ28歳と若いのですが、顔に刻まれている経験値は30代半ばの貫禄がただよっています。プロデビューは17歳、イングランド代表デビューは20歳、キャップ数も70ですから、当然といえば当然かも。

さて、試合のほうはというと。今日も後半25分までは12年前とまったく同じ。このままで終わってしまうのかと思っていたのですが、後半26分にマカゾレ・マピンピが、さらにその8分後には“ポケットロケット”チェスリン・コルビがトライを決め、終わってみれば32対12で南アの快勝でした。

イングランドは準決勝のNZ戦とはまるで別のチームのようで、ほとんどいいところなしで終わってしまいました。何より、スクラムでいやと言うほどペナルティーを取られたのが響きました。80分を通じて6回もペナルティーを取られてしまってはイングランドも苦しいでしょう。開始早々、スクラムの中心=プロップのカイル・シンクラーが負傷退場したのが大きかったようです。

PKを得るたび、南アのSOハンドレ・ポラードが百発百中とまでは言いませんが、PKを確実に決め早々と優位に立ちます。前半30分過ぎからイングランドがフェイズを重ねましたが、5分間攻めに攻めましたが、結局トライは取れずPKの3点のみ。しかも、その直後南アにPKを2本連続で決められ、これで「勝負あった」の感じがしました。最後は時間を告げるドラが鳴ると、FWが密集から出したボールをBKが蹴り出してホイッスル。

今日の試合は秋篠宮ご夫妻が観戦に来られ、イギリスのヘンリー王子と並んでロイヤルボックスにその姿が見えました。表彰式のメダル・プレゼンターもされていましたね(安倍首相もいたようですが、別に出てこなくてもいいんじゃないのと思いましたが)。

表彰式は2位・1位の順でメダルの授与→「ウェブ・エリス・カップ」授与の流れ。でも、イングランドの選手のうち何人かはメダルを首にかけてもらうのを拒んだり、かけてもらってもすぐ外してしまったり。悔しいのはわかりますが、こういう姿は見たくないですね。もうひとつ、「ウェブ・エリス・カップ」授与のときの盛り上げは少々物足りませんでした。前回がド派手だっただけに、いささか見劣りしました。(写真は©World Cup Rugby)

まあ、それはそれとして、すべて終わったあと、イングランド、南アの順に全選手がスタンドの前まで歩いてきて、今大会ですっかり定着したお辞儀をしていたのを見て温かい気持ちになりました。次回は、そうした「(日本流の)礼」とは縁の薄そうなフランス開催ですから、ぜひとも現地に行って確かめてみたいとも思っています。

 

  

なお、南ア代表として今大会に出場していた選手のうち、フッカーのマルコム・マークスがNTTコミュニケーションズ、BKのダミアン・ディアレンデがパナソニック、同じくジェシー・クリエルがキャノン、さらにBK(FB&ウィング)のウィリー・ルルーがトヨタ自動車でプレーすることになっているといいます。ヤマハのクワッガ・スミス(FW第1列)、クボタのドウェイン・フェルミューレン(NO.8)、HondaのRG・スナイマン(ロック)の3人はこれまで同様。また、ルルーもかつてキャノンに2年在籍していたことがありますが、昨日記したニュージーランド代表の3人、オーストラリアの4人、サモアの2人も含め、2020年のトップリーグは興味津々です。

 

 

準決勝の負けでさばさばしていたNZがウェールズを退ける

2019年11月2日
さあさあ、W杯もいよいよ今日が決勝。イングランドvs南アフリカの対戦となりました。こんな黄金、いや“プラチナカード”が横浜で見られるなど、10年前には想像すらできませんでした。W杯を日本で開催できたことを、いまさらながら改めて喜びたいですね!

どちらが勝ってもいいといえばいいのですが、心情的には、JAPANを破った南アにエールを送りたい。せこいと思われるかもしれませんが、JAPANの価値を少しでも上げるためにも……。

 

さて、昨夜は東京スタジアムで、ニュージーランドvsウェールズの3位決定戦を見ました。9月20日の開幕戦、日の入りは18時10分だったのが今日は16時48分。スタジアムに入ったときは夕日の残照が空を染めていました。どこかさみしげな印象がしますが、これはやはり「3位決定戦」という、ある意味位置づけの難しい試合のせいでしょうか。勝っても3位ですから、選手たちのモチベーションもいまひとつ高まらないのではという気もします。

 

観客も、両国だけでなく多彩。ほとんどはベスト8に進んだ国の人たちですが、心の底では、「ホントは明日試合するはずだったんだよな」くらいに思っているのでしょう。スタンドも、オーストラリの集団がいたり、イングランドのサポーターがあちこちに固まっていたり、ビールをガンガン飲んでいるアイルランドのグループも。

 

もちろん、いちばん目立ったのはNZサポーターの集団。2カ所、それぞれ数百人が陣取っていました。ただ、本心は「こんなところにオレたちがいるはずじゃなかったんだけどなぁ」というところでしょう。

先週はイングランドに持ち味をほぼ100%封じられたNZでしたが、今日はうって変わって、のびのびしたプレーを見せてくれました。今大会の途中まで、W杯では18試合負け知らず(台風による中止で引き分け扱いになったイタリア戦を含めれば19試合)で来たのが、それを封じられたがために、かえってさばさばした気持ちで臨めたのかもしれません。

キャプテンのキアラン・リード(NO.8)も代表としては最後の試合、またスティーブ・ハンセンHCも同じく最後とあって、チームの全選手も心に期するところがあるようで、ハカも気合満点。ちなみに、通算127キャップで代表を退くことになったキアラン・リードは、来年1月から日本のトップリーグでプレーするとのアナウンスもありましたよ。ちなみに、この日出場していた選手のうち、POTM(プレイヤーオブザマッチ)に輝いたロックのブロディー・レタリックは神戸製鋼、トライを決めたCTBのライアン・クロッティはクボタ、FW第1列のマット・トッドは東芝(昨シーズンはパナソニック)だそうです。これでトップリーグ観戦の楽しみが増えますね。

 

試合のほうはNZが持ち味の変幻自在ぶりをこれでもかと発揮。ウェールズも意地を見せますが、過去66年間NZには一度も勝てていないのも影響しているのか、攻めても攻めても強力なタックルのえじきになるばかり。後半20分過ぎ、ウェールズのジョシュ・アダムズ(ウィング)が今大会7個目のトライを決めたのが救いでしょうか。アダムズはこれでトライ王をほぼ確実に。

今日のサプライズは上皇ご夫妻が観戦にいらしたこと。後半からでしたが、巨大なスクリーンにお二人の姿が大写しになったときはどよめきが起こりました。決勝戦にも皇族のどなたかがいらっしゃるのかもしれませんが、3位決定戦というのが、いまのお立場を感じさせます。

 

 

両チームとも、キャプテン、ヘッドコーチが最後の試合ということで、終了後の雰囲気もどこか温かい雰囲気が。「戦い切った」という満足感があふれていました。もちろん、3位決定戦ゆえの“ゆるさ”も影響しているのかもしれません。

3位チームにメダルを授与するセレモニーがあったのですがパスさせてもらい、武蔵境南口行きのバスに。15分ほどで到着すると、この日から年末のイルミネーションが始まったようで、これまでとはガラッと様変わり。「ああ、終わりなんだなぁ」との思いを噛みしめながら帰路につきました。

 

今夜、ラグビーの世界最高峰が決まります。横浜はどうなっているでしょうか

 

「にわか」から「本格ファン」に昇格したいなら

2019年11月1日
これまで1999年(イギリス)、2007年(フランス)、11年(ニュージーランド)、15年(イギリス)と見て回りましたが、今回のW杯ほどうまくハマったというか、盛り上がりを見せた大会は、なかったように思います。主催者のWR(ワールドエアグビー)も万々歳のはずです。

どの開催都市に行っても、空港、駅、主要道路、繁華街、デパート、小売店など、ポスターや横断幕、幟【のぼり】、捨て看、バナー、ラグビーボールのオブジェ、公式マスコットの「レンジー」を見かけましたし、居酒屋やカフェもにぎわっていました。「4年に一度じゃない。一生に一度だ」のキャッチコピーどおりの体験をした人もいっぱいいるのではないでしょうか。

 

経済効果は4300億を突破しそうだといいますし、JAPANvs南アフリカ戦のテレビ実況中継は41・6%という驚異的な視聴率を達成したとも。これは、今年に入ってすべての番組の中でトップのようです。あと2カ月余、よほどの一大事でもない限り変わらないでしょう。

しかも、9月20日から11月2日までのW杯開催期間と日程が重なり合うスポーツイベントには、プロ野球のセ・パ両リーグのCS、日本シリーズ(ソフトバンクのストレート勝ちで10月23日に終戦)、バレーボール男子のワールドカップ、競馬のGⅠ菊花賞に天皇賞、プロ野球ドラフト会議(高校生)、日本初開催となる男子ゴルフのPGAツアー「ZOZOチャンピオンシップ」(タイガー・ウッズが13年ぶりに日本で出場)など、強力なコンテンツが目白押し。また、サッカーJリーグも最終盤に来て激しい優勝争い(10月29日現在、4チームが勝ち点5の差でひしめく)が展開されていますし、バスケットボールBリーグも開幕しました。

そうした中で大変な数の「にわか」ラグビーファンが生まれたのは間違いありません。多くの人が「いやぁ、私はにわかなので」「世の中ラグビーで盛り上がっているのに一人だけ外れているとさびしくて」……、さまざまな人がいるでしょうが、とりあえず2試合でもテレビ中継を観た人は、なぜラグビーがこれほど多くの人の心を鷲づかみにするのか、理屈抜きで感じ取れたと思います。こまかなルールなどうっちゃってOK、要は相手ゴールラインを越えたエリアにグラウンディングすればトライだということさえ分かっていれば、ハンパなく濃密な80分間を経験できることが体感できたのではないでしょうか。

つい半年、いな3カ月ほど前までは、どこに行ってもラグビーの「ラ」の字も見えませんでした。「これで大丈夫かなぁ」と、大会関係者でもなんでもない私ですら心配になったものです。それがなんと、国民の半分半分近くが、突然“ラグビーファン”になって熱くなり、南アに負けて“JAPANロス”、そして大会が終わったら“ラグビーロス”になりかねないような雰囲気すら感じられます。

それはともかく、今回「にわかラグビーファン」になった中には、このままではもったいない、もっともっとJAPANを応援したいと思っている人もいるはずです。ただ、座して待っているだけでは、どんどん熱が下がるのは確実。そこで、そうならないための秘訣を一つお伝えしましょう。来年2月まで、日本国内は高校・大学ラグビーが盛り上がります。

高校ラグビーはちょうど高校サッカーと時期が重なりますが、サッカーよりよほど面白いのではないかと思います。大学ラグビーも近頃は様変わりしつつあり、海外からの留学生もけっこういますし、そうした中から次のJAPAN代表になりそうな選手を見つけるのも楽しいのではないでしょうか。一定期間続けてラグビーに触れれば、かならずハマるのがラグビーです。(各国サポーターの写真はすべて©Getty Images)

トヨタスタジアムで遭遇した、私より少し年上とおぼしきご婦人(「おばちゃん」と呼ぶのがはばかられるほど上品な雰囲気をただよわせていた)は、試合が始まるやいなやガラッと変貌、すぐ横にいた私はただただ驚くばかりでした。「堀江~~っ、ハリハリー(=急げを意味するかけ声)!」「姫野――っ! めくれ、めくれよーっ(=ラックでボールを奪うさまたげになっているプレーヤーを排除する)!」などと、けっこうかん高い、というよりドスの利いた声で叫び続けるのです。それも、JAPANのワンプレー、ワンプレーに対してですよ。かなり年季の入ったファンとお見受けしましたが、ここまで到達するのは時間とエネルギーが要ります。

でも最初は彼女も、「ラファエレティモシーっていうの? あの人、いいわねェ」と笑顔でのたまうおばあちゃんや、「稲垣――! 笑ってぇ」「福岡さーん、こっち向いてー!」という女子高生のレベルだったのではないかという気がします。女性の多くがこのパターンかと思いますが、何事も「好き」になるのが一番のきっかけですから。

好きな選手の一挙手一投足に注目することから、各ポジションの役割や選手の動き、パスやキック、ラン、ボールキャリー、タックルについての見方、相手のディフェンスをかわすさまざまな手立て、スクラムやラインアウトの駆け引きなど、一つひとつのプレーを見る目が養われていきます。さらに、両チームの布陣や個々の選手の動きなど、ゲーム全体が見えてくれば面白さはぐんと増すでしょう。興味・関心を抱いた一人の選手が、ラグビー全体にあなたを引き込んでくれるというわけです。言うならば、好きな選手こそが「にかわ」=“接着剤”のようなもの。「にわか」が「にかわ」に代わるのは簡単だということがわかるでしょう。

私が高校でラグビーをしていた頃、早稲田大学ラグビー部や日本代表チームの監督を務めた大西鐵之祐(1995年に死去)が打ち出した「接近・展開・連続」という理論を学ばされました。海外の強豪国に比べ体格の劣る日本人がそれに対抗するには、器用さや俊敏性、持久力では負けないという考え方に基づいたものです。攻撃するときは接触を避けつつギリギリまで相手に「接近」し、器用な手さばきでパスを出してつなぎ、グラウンドを広く使って「展開」する。こうした攻撃をチーム全員が粘り強く繰り返す(「連続」)ことで相手の優位性をくつがえすことができるという内容でした。実際、1968年5~6月、日本代表がニュージーランドに遠征したとき、オールブラックス・ジュニアに23対19で勝利を収め、私たちも大喜びしたものでした(このときの通算成績は5勝5敗・写真の出典は不明です)。

ラグビーの本格ファンになるのも、この「接近・展開・連続」が必要な気がします。W杯で「接近」、高校・大学ラグビーに「展開」、そして「連続」の対象は代表レベルの試合です。

今回JAPANの代表に選ばれた31人のほとんどが「トップリーグ(16チーム)」に所属しています。チーム別では、
◎NTTコミュニケーションズ(千葉県市川市) アマナキ・レレイ・マフィ
◎NTTドコモ(大阪市) ヴィンピー・ファンデルバルト
◎キャノン(東京都町田市) 田中史朗、田村優
◎クボタ(千葉県船橋市) ピーター・ラピース・ラブスカフニ
◎神戸製鋼 中島イシレリ、山中亮平、ラファエレティモシー アタアタ・モエアキオラ
◎サントリー(東京都府中市) 北出卓也、ツイヘンドリック、中村亮土、流大、松島幸太朗
◎東芝(東京都府中市) 徳永祥尭、リーチマイケル
◎トヨタ自動車(愛知県豊田市) 木津悠輔、茂野海人、姫野和樹
◎パナソニック(群馬県太田市) ヴァルアサエリ愛 稲垣啓太、坂手淳史、福岡堅樹、堀江翔太、松田力也
◎HONDA(三重県鈴鹿市) 具智元 レメキロマノラヴァ
◎宗像サニックス(福岡県宗像市) ジェームス・ムーア
◎ヤマハ(静岡県磐田市) ヘルウヴェ
同リーグにはこのほか、今大会では代表を送り込めなかったNEC(千葉県我孫子市)、リコー、日野自動車(東京都日野市)、三菱重工相模原の4チームがあります。
また、トップチャレンジリーグからは、
◎近鉄(大阪府東大阪市) トンプソンルーク
◎コカコーラ(福岡市) ウィリアム・トゥポウ
の2人が代表に選ばれていました(チーム名のあとのカッコは練習場のあるところ)。そうした選手たちに焦点を絞って試合を見て回るのも面白そうです。一般のファンが多く行けば行くほど、「仕事する場所が変わっただけの社員」「動員された取引先」「いやいや付き合わされた来た人」といった不自然な観客は減るでしょうから、ゲームも楽しめるはずです。

ちなみに、31人のうち東日本出身は稲垣啓太(新潟)のみ、西日本出身は京都が4人、大阪3人、愛知・福岡が各2人、兵庫・大分・鹿児島が各1人です。日本人の国民性を考えるのにさんこうになりそうな話です。また外国出身は、ニュージーランドとトンガが各5人、南アフリカが3人、韓国・オーストラリア・サモアが各1人。

トップリーグの試合は全国各地で開催されます。これはラグビーの普及という意味合いもあるようで、W杯の試合がおこなわれなかった秋田、仙台、千葉県、三重県、京都、広島県、山口県、高知県、佐賀県などでも1、2試合が組まれています。

ただし、JリーグやBリーグのようにホームとアウェーで1試合ずつという仕組みではありません。ハードなスポーツなので、5日~1週間のインターバルが必要なのです。スケジュールは1月から5月までほぼ毎週末、16チーム総当たり。W杯では同じJAPANのジャージを着ていた選手が敵味方に分かれて戦うのを見るのも一興です。トップリーグのウェブサイトは、
https://www.top-league.jp/

また、各チームとも外国人選手が大勢います。彼らが見せるハイレベルのプレーにも注目したいですね。自分の出身国で代表寸前まで行ったものの選ばれなかった、あるいは国代表としては引退してもまだプレーを続けたい……そうした選手が多いので、下手な日本人選手よりよほど迫力があります。なかには、次のJAPAN代表に選ばれようと、資格(居住期間5年)をクリアするためにプレーする選手もいるでしょうし。

トップリーグとほぼ同じ時期に「スーパーラグビー」が始まります。詳しくは近々書こうと思っていますが、こちらはニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、アルゼンチン、そして日本の5カ国にまたがる15のクラブで覇を競います。日本に本拠を置くのは「サンウルブズ」といい、今回のW杯に出場していた選手が異なるクラブに所属して戦うので、楽しみもいっぱい。トップリーグよりチケット代は少々高いのですが、それだけの価値は十分あります。スーパーラグビーのウェブサイトは、
https://super.rugby/superrugby/

「スーパーラグビー」、来シーズンは日本国内でも6試合開催されます。W杯とはかなり様相の違う攻撃的・冒険的なシーンの連続に、別の楽しみ方ができること請け合い。「一生に一度」で終わらせてしまってはホントもったいない話です。「4年後に(フランスで)もう一度」をめざし、ラグビーを楽しみたいものです。

ラグビー選手にとって最高の名誉は「野蛮人」になること?

2019年10月31日
W杯もいよいよ最終ステージ。優勝国、準優勝国の選手・スタッフに送られるメダルも発表になり(©Rugby World Cup Limited 2007 – 2019)、大団円のときが刻々と近づきつつあります。ウェッブ・エリス・カップを高々と掲げるのはイングランドのオーウェン・ファレルか南アフリカのシヤ・コリシか、楽しみですね。

選手個々人はこのほか、いくばくかの賞金も手にするようですが、それとは関係なく、ラガーマンにとって最高に名誉で誇らしいことがあります。それは、「バーバリアンズ(Barbarians)」というチームのメンバーに選ばれることです。英語のbarbarianは「野蛮人」を意味するのが面白いのですが、ラグビー界で「バーバリアンズ」といえば、「ホームグラウンドを持たず、数名の役員によって選ばれた世界の一流選手で編成される伝統あるラグビーユニオンクラブ」(Wikipedia)のこと。もちろん各国の代表チームやクラブなどと試合をするために編成されるのですが、チャリティーの目的で試合をすることも多く、テストマッチのようなピリピリした緊張感はありません。

それでも、1973年オールブラックスがイギリスに遠征し最終試合で対戦したときのバーバリアンズは、古くからのラグビーファンなら誰もが記憶しているのではないでしょうか。この試合でバーバリアンズのSHガレス・エドワーズ(ウェールズ代表)が奪ったトライは「ラグビー史上最高のトライ(the greatest try ever scored)」と伝えられています。映像はチョー劣悪ですが、TouTubeで見られます。私自身は学生時代、テレビで見て体が震えた記憶があります。
https://www.youtube.com/watch?v=AwCbG4I0QyA

 

最近では2017年11月にオーストラリア、ニュージーランド、18年12月にアルゼンチンで試合をしています。南アの司令塔ハンドレ・ポラード(©Getty Images)、NZの同じくリッチー・モウンガがいつもと違う白黒のストライプのジャージを着ている(ただし、ソックスだけは選手個人の所属クラブのものを履く)ので、まったく別人のように見えてしまいます。モウンガが出たときの相手はなんとNZなので、余計です(©the Guardian)。

今年もW杯終了後間もない11月16日にフィジー(会場はラグビーの聖地トゥイケナム!)、20日にブラジル@サンパウロ、30日にウェールズ@カーディフとの試合が組まれています。また、フィジー戦の出場選手を選ぶのは、イングランドのHCエディー・ジョーンズとのこと。

日本の選手でこれまで選ばれたのは、今大会でも活躍した田中史朗、ほかには林敏之(同志社大→神戸製鋼)、元木由記雄(明大→神戸製鋼)、ホラニ龍コリニアシ(埼玉工大→パナソニック)、藤田慶和(早大→パナソニック)しかいません。©Daily Telegraph

 

このように、ラグビー選手にとって「Barbarians」は誇り高き存在なのですが、ラグビーを観戦するスモーカーも同じく「barbarian」として扱われています。ただし、この場合は文字どおりの「野蛮人」という意味。

ご承知のように、ここのところスモーカーにははなはだ暮らしにくい世の中になっています。もちろん、スタジアムでもそれは同様。ただし、会場によってかなり差があります。当初から、吸える場所は少ないだろうなと予想していたので、大きな声では言えませんが、「隠れて吸ってもわからない、それでいて吸わない人にご迷惑をおかけしない」場所を見つけられるかが勝負。味スタは係員が多いため、悩みました。緒戦の9月20日は、秋篠宮ご夫妻や安倍総理も観戦していたせいもあってか、とにかく厳しかったですね。タバコどころか、スタジアム内を動くことさえ制限されました。そこへさらに警官まで加わり、不自由なことこの上なし。

2回目のウェールズvsオーストラリア戦のときはそれほどでもなかったように思います。前半戦を見終えた客が一斉にスタンドの外に出てきて、所定の喫煙場所に。しかし、狭いスペースに収まり切ろうはずもなく、最初はその入口近くにはみ出していましたが、そのうちどんどん横に広がり、通路の端っこはスモーカーでいっぱい。運営役員が「おタバコは所定の場所で……」と、義務的に、というか半ばあきらめた口調で注意を促していたものの誰も耳を傾ける人はいません。さすがに、10月19日の準々決勝(ニュージーランドvsアイルランド)以降は増設されたようで、ゲーム時間中のみという場所も設けられたようです。

悲惨だったのは横浜。7万人近くのキャパなのに、喫煙場所は4カ所のみ。運が悪いと200メートル以上歩かなくてはたどり着きません。スモーカーは野蛮人(バーバリアン)とでも言いたいのでしょうか。仕方なく、係員の目が行き届かない場所を探すのですが、比較的容易に見つかります。日本人より外国人のほうがスモーカーは多そうで、彼らには日本人ボランティアも多少甘く対応しているようでした。横浜では、イリーガルな場所でも外国人の横で吸っていればおとがめなしで済みました。

福岡が異常に盛り上がっていたのはなぜ?

2019年10月30日
イングランドの決勝戦観戦のため、エリザベス女王の孫ヘンリー王子が急きょ日本を訪れることになったそうです。王子がイングランド・ラグビー協会の後援者(パトロン)であることを考えると、驚くことではないのかもしれません。準決勝の前には、令和天皇の即位式で来日していたプリンス・オブ・ウェールズの称号を持つチャールズ皇太子がウェールズの選手たちを激励していましたが、イギリス国民にとってラグビーがいかに重みを持っているのかを感じさせます。

日本ラグビー協会がジェイミー・ジョセフに今大会終了後も引き続き指揮を執ってもらうよう要請することになったとのニュースも伝わってきました。お金に糸目はつけないとの話もあるようで、果たしてどうなるか興味津々です。W杯は4年に1回の大イベントですから、毎回、終わるたびに世界中で激動が起こります。あっと驚く人があっと驚く国やクラブのHCになったりすることもしばしばで、ジョセフは今回の“目玉”なのでしょう。日本ラグビー協会もボーッとしていると、どこかの国に持っていかれかねません。

そのジョセフHCが、JAPANの決勝トーナメント進出が決まった3日後、福岡の企業サニックスの本社を訪れ、ベスト8入りを報告したというニュースが新聞に小さく出ていました。同社とジョセフHCとの縁は深く、1995年、同社の創業社長・宗政伸一さん(2017年に死去)に請われてラグビーチームに加わり、2003年までプレー。その間チームはめきめき力をつけ、トップリーグ加入も成し遂げました。99年のW杯ではJAPANの代表にも選ばれています。

今大会の代表メンバーの一人ジェームス・ムーア(ポジションはロック)も現在サニックスに所属しています。試合中ずっとヘッドキャップを着けているので思い出す人も多いでしょう。「私はサニックスのファミリー」と公言するほど同社との縁を大切にするジョセフHCならではのこうした行動に、同社現社長の宗政寛さんも感激の面持ちで対面したとのことでした。©読売新聞

W杯観戦ツアー(2回目)の途中、10月8日、福岡に立ち寄りました。同地では計3試合が組まれていましたが、JAPAN戦はなし。というのも、会場となった「レベルファイブスタジアム(東平尾公園博多の森球技場)」のキャパが2万1千と小さいからです。今回も準々決勝2試合が九州で組まれましたが、会場は福岡ではなく大分スポーツ公園総合競技場。こちらは4万人収容ですから、仕方ありません。

にもかかわらず福岡の熱気といったら……。それは、予選プールで4本、それも派手なトライを決めた福岡堅樹(ウィング)のおかげでしょう。地元福岡県古賀市生まれ、福岡高校出身(→筑波大学)、そして名前が福岡。これで盛り上がらないほうがおかしいかもしれません。「JAPAN躍進の電源地は福岡だ」と、誰もが思っているようなのです。ちなみに、日本ラグビー協会の会長も、福岡の森重隆さん(福岡高→明大→新日鉄釜石)です。©サンケイ

ただ、福岡は昔からラグビーの盛んなところでした。私くらいの年齢のファンなら、社会人の八幡製鉄(現新日鉄住金八幡)が強かったのを覚えていることでしょう。1948年から始まった全国社会人ラグビー選手権で、1950年~68年までの間に12回も優勝していますし(準優勝も2回)、JAPAN代表に23人もの選手を送り込んでいます。高校ラグビーでは東福岡高校が2007年から18年までの12年間で6回全国制覇を成し遂げています。

しかし、そうした表舞台の出来事とは別に、派手さはないものの、日本ラグビー界に貢献していることがあります。それは「サニックス ワールド・ラグビー ユース交流大会」です。これは2000年から始まった、高校生の国際大会で、会場は福岡県宗像【むなかた】市のグローバル・アリーナ。毎年5月のゴールデンウィークに世界各国から16チームが参加して開催されます。過去20回おこなわれたうち、ニュージーランドが10回優勝しており、もちろん最多。残念ながら日本のチームが優勝したことはないのですが、世界の高校生ラガーマンのあこがれと言っても過言ではありません。

 

この大会を始めたのが、先に記した宗政伸一さん。私も20年以上前ですが、雑誌のインタビューの仕事でお目にかかったことがあります。ラグビーに強烈な情熱を持っていたのが印象的です。サニックスは現在トップリーグに加わっていますが、1994年の創部当初は西日本リーグの一員でした。チームを強化すべく、宗政さんがこの年のW杯で準優勝したニュージーランドのFWジェイミー・ジョセフを招いたのです。
©西日本新聞

 

 

ラグビーに限りない情熱と愛情を注ぎ、「スポーツ、文化を通じて世界中の子どもたちが集う場を」との思いを抱いていた宗政さんにとって同大会は何よりも大切な場だったのでしょう。これまでの参加国・地域は20カ国・地域、のべ384チーム(日本207、海外177)、参加者は1万3千人を数え、そのうち145人が国代表になっているといいます。

今回のW杯でJAPAN代表に選ばれた選手の中にも、山中亮平(バックス)、松島幸太朗(同)、坂手淳史(プロップ)、松田力也(バックス)、ラファエレティモシー(バックス)の5人が名前を連ねています。日本と戦った相手では、アイルランドのジョナサン・セクストン(スタンドオフ)、ジョン・ライアン(プロップ)の二人、スコットランドのジョン・バークレー(FW3列)、ブレイド・トムソン(同)もそうでした。優勝を争うイングランドにも、ルーク・カウワンディッキー(フッカー)、エリス・ゲンジ(プロップ)、ジャック・ノーウェル(ウィング)と3人がおり、カウワンディッキーとゲンジは出場メンバーにも選ばれているようです。

彼らは、高校生の頃、短期間ではあっても訪れたことのある日本の地でW杯に出場することにひとかたならぬ縁【えにし】を感じているのではないでしょうか。そうしたことからすると、福岡は秩父宮、花園と並ぶ、“ラガーマンの聖地”と言えそうです。今回福岡でお邪魔したお寿司屋さんで、食事を共にした方から「来年5月は、ぜひ福岡にいらしてください」との誘いを受けました。なかなかある機会ではないので、ぜひ足を運んでみたいと思っています。お祭り好きが福岡の県民性ですから、「サニックス・ワールド・ラグビー・ユース交流大会」も相当な盛り上がりを見せるのでしょう。

ラグビーが楽しめれば、南アでもウェールズでもOK!?

2019年10月29日
準決勝の2試合目は南アフリカvsウェールズという好カード。前週の結果次第ではJAPAN vs ウェールズになる可能性もなくはなかったのですが、残念ながらです。

しかし、この試合、今大会で私が観たJAPAN戦以外では最高にスリリングでした。チケットの価格も高額ですが、その金額に十二分にどころか、十五分に見合う内容で、わざわざ買っておいてよかった! と思った次第。スポンサー企業のどこぞから頂戴したタダ券で見に来るような人に、その価値はけっして理解できないでしょう。毎回、それっぽい客──なぜかスーツを着込んでいるので、すぐにそれとわかる──がいるのには驚くというか、「お前みたいなヤツが日本のラグビーを、いなスポーツをダメにしているんだよ!」と言いたくなってしまいます。

それはともかく、この試合のどこに価値があったのか──。前半を終わって南アが9対6でリードしていましたが、後半6分でウェールズがPKで追いつきます。その後は1トライ1ゴールずつを取り合い、残り7分の時点で16対16。私は延長戦になりそうだなと予測し、ビールをもう1本買ってしまいました。ところが、それから数分後、残り4分のところでウェールズが自陣ゴール前で痛恨のペナルティー。この日南アのハンドレ・ポラードは絶好調だったので、きっちり決め19対16となり、そのまま終了となりました。

©Getty Images

強国どうしのテストマッチでも同じような傾向が見られるのですが、負けたら終わりのノックダウン方式になると、どの国のチームも、予選プールとは戦い方がまったく違ってきます。予選プールでは、ボーナスポイントもからんでくるので、強い国は一つでも多くトライを重ねようと早めからガンガン来ます。

しかし、決勝トーナメントに入ると、その必要はありません。終了のホイッスルが吹かれた時点でとにかく1点でも相手を上回っていればいいので、何がなんでもトライを取ることに固執する必要はないのです。DG(ドロップゴール)もありますし、相手にペナルティーを犯させ(もちろん相手の陣地内、それもゴールラインに近いほどベター)PKを獲得するという手もあります。この場合、大事なのがキックの能力で、「ティア1」の国ともなると、傑出したキッカーがかならずいます。ハーフウェーラインより手前からPKを蹴ってゴールポストの真ん中を余裕で通すキッカーさえいるほどです。

前週の準々決勝フランスvsウェールズ戦。終了間際(後半34分)まで19対13でリードしていたフランスが、土壇場でウェールズにトライを取られ、コンバージョンゴールも決まったために19対20と逆転。残り5分を守り切ってこの日の準決勝にコマを進めてきたのです。後半早々、このフランス最初のトライを決めたセバスチャン・バハマイナ(ロック)が危険なプレーでレッドカード(退場)をくらい、30分以上も14人で戦ってきたことによる消耗の結果と言えなくもありませんが、それにしても残り5分でトライを決める戦闘心・粘り強さは並大抵のものではないでしょう。

結局、南アのPKが決勝点となりましたが、それまでの攻防はなんとも息詰まるものでした。トライは双方1本ずつで派手さはほとんどなかったのですが、攻めてはつぶされ、つぶしたところから相手が攻撃し、それがまたタックルで止められる……。この繰り返しです。肉と肉、骨と骨のぶつかり合いがここまで続くと、観ている側の体も徐々に固まってきてしまいます。JAPANの試合でなくてよかった! というのが正直な気持ちですね。

 

横浜のスタジアムは今日が5回目になりますが、ようやくアクセスのコツも飲み込み、すんなりと行けました。しかし、予選プールのときよりも人の出足が早く、途中の道筋にある居酒屋、カフェ、コンビニなど、酒を売っている店は、中はもちろん、店の前、さらにはその周囲まで人でビッシリ。それもでき上がり具合が相当のレベルまで行っているように感じました。外国からの観客もどうやら日本のパターンに慣れてきたようです。

 

飲むときは同じ外国人どうし、敵も味方もないようで、そこへさらに、場合によってはこの日ここで試合をするはずだった国のサポーターまで加わっています。イングランド、南ア、ニュージーランド、アイルランドとすべて異なるジャージを着た男女4人組も見かけましたし、スコットランドの民族衣装とウェールズ、オーストラリアのジャージを着た5人グループとか、もうワケがわからない感じです。

共通するアテ(酒肴)はラグビーで、ニュージーランドが負けたのはなぜか、決勝で当たったらイングランドよりウェールズのほうが強いとか、皆それぞれ自説を曲げません。いわゆる「にわか」ファンとはまた違う、けっこうクロウトはだしのファンが多いのです。たしかに、着ているレプリカのジャージを見ると、「2003」「2007」「2011」などという数字がプリントされていたりします。毎回、かならず観戦に行っているようです。もちろん、自分の応援している国が優勝するのが最高なのでしょうが、そうでなかったとしても、準決勝、3位決定戦、優勝で超ハイレベルの試合が見られればそれだけで満足というファンが多いように感じられます。

 

スタンドの外でもこれは同じ。さらに言うなら、スタンドの中でも同じです。サッカーのように、アウェーのサポーターはこのエリアなどという制限はありません。一人で、イングランドの応援歌をがなりたてる人がいるかと思えば、その2、3段後ろの席に陣取ったサポーターがオールブラックスの旗を体に巻いて盛り上がっていたり……。敵も味方もごちゃ混ぜに座っているのはごく普通で、対戦していない国のファンがけっこういるのも珍しくありません。要は、ラグビーというスポーツが楽しめればOKなのです。今日も、ウェールズのサポーターの中にはイングランド、スコットランド、アイルランドから来たとおぼしき人がいっぱいいました。「同じイギリスだから」ということなのかどうかはわかりませんが、そうした合従連衡・呉越同舟的な雰囲気は当たり前なのかもしれません。

 

それにしても面白いのは、外国人サポーターの鉢巻き姿です。たぶん、そうした応援グッズが向こうにはないのでしょうが、今大会で一気に広まった感じがします。鉢巻のデザインはほぼ一様。白地の真ん中に赤い丸があり、その横に漢字二文字が配されています「必勝」「闘魂」「一番」あたりはよくわかりますが。店の側も「これはどんな意味があるのか?」とたずねられ、「We must win !」とか「Fighting Spirit」「No.1」などと説明したのでしょう。しかし、なかには「神風」とか「合格」など、説明の難しそうなものもあります。まあ、日本の象徴である「漢字」が書かれていればそれでOKなのでしょうが……。値段も手ごろで、おみやげにもってこいというのもあるかもしれません。法被もけっこう目につきましたね。その国のジャージと同色の地、前の襟立部分にチーム名、背中に漢字で「勇」の文字が描かれたデザインが多いのですが、鉢巻きに法被とくれば、お祭り気分も高まるというものです。

 

素晴らしい盛り上がりを見せているW杯も残すところ、あと2戦。この南アフリカvsウェールズのテレビ実況中継の視聴率も19・5%だったとのこと(イングランドvs NZ戦は16・3%)。さすがに、JAPAN vs南ア戦には及びませんでしたが、それでも驚きの数字ではないでしょうか。残された祝祭の時間を最後まで楽しみたいものです。

イングランドが勝ったのはいいのですが……

2019年10月28日
さすがW杯、ベスト4が戦うステージともなると外国人の観客が目につきます。それも、目の肥えたイギリス人の数が圧倒的です。今日(26日)のカードは、事実上の決勝とも言われるイングランドvsニュージーランドですから余計でしょう。

ゴールドやグリーン、青や赤などカラフルなジャージが目立つ中、イングランドの、飾り気のない純白はかえってイキな印象。胸の赤いバラのマークもどこか由緒を感じさせます。ちなみに、15世紀の半ば頃イングランドの王位継承をめぐって起こった「バラ戦争」を戦った2つの名門一族(ランカスター家vsヨーク家)の家紋がどちらもバラだったことからそう呼ばれているですが、勝利したランカスター家のバラが「赤」だったそうです。写真はカンタベリー社の広告から(左からカリー、ジョセフ、ファレルの3選手)。

試合はイングランドがニュージーランドを破りました。それも、相手の力をまったく出させずじまいで、スコア以上(19対7)の完勝です。前回は、主催国であるにもかかわらず予選プールで敗退という屈辱を味わっただけに、今大会は並々ならぬ決意で臨んだようです。4年前までJAPANを見ていたエディー・ジョーンズをHCに迎えて強化の取り組み、ここ2年ほどでその成果がはっきり見えてきていましたから。当然の結果と言えなくもありません。

昨年から今年にかけてのテストマッチの結果を見てもそれははっきりしています。2018年の「6ネーションズ」は優勝(今年は3勝1分け1敗で2位。スコットランドと引き分け、ウェールズには勝っています)。南半球の国相手では南アに勝ち、ニュージーランドとオーストラリアには負け。また、昨年11月にはJAPANにも勝ちました。直近の8月のテストでも、イタリア、ウェールズ、アイルランドを破っており、一時期の苦境からはほぼ脱したと見られていました。それどころか、今大会でニュージーランドの3連覇を阻む第一候補として名前があがりさえしていたのです。

ただ、イングランドのラグビーというのは、強いかもしれませんが、いまひとつ面白みに欠けるのです。手堅さばかりが目立ち、華麗さ、奔放さ、意外性となるとほぼゼロ。泥臭いラグビーとでも言いますか。2003年W杯の決勝で延長戦終了間際にジョニー・ウィルキンソンのドロップゴールでオーストラリアに“サヨナラ勝ち”したのは、そうした意味では例外で、それ以外は地道に勝ちを積み重ねるスタイル。スコットランドやウェールズ、アイルランドと同様、やはり泥臭さが前面に出てくるのは、イングランドとしょっちゅう戦っているせいなのか? と言いたくなるほど。グレートブリテンの伝統なのかもしれません。

ホイッスルが吹かれる前、スタジアムにどよめきが起こりました。恒例によりハカを披露するニュージーランドの前で。イングランドの選手たちが「V」の字に並んでみせたのです。ハカの陣形は前の尖った三角形ですが、それを受け止めるかのような「V」の陣形。こういうパフォーマンスを見せれば、さしものニュージーランドも多少は動揺するのでは……というエディー・ジョーンズHCの読みがあったのかもしれません。それが功を奏したのか、開始早々イングランドがノーホイッスルトライ。ニュージーランドの選手がまだ心を落ち着かせずにいるスキを狙ったのだとすれば、これはみごとな采配としか言いようがありません。©『RUGBY JAPAN 365』

そう言えば2007年(開催地はフランス)の準々決勝で、フランスの選手全員がハーフウェーラインを越えニュージーランドの目の前に横一列に並んで挑発、ニュージーランドが負けたということがありました。同じように、次の大会(同ニュージーランド)は決勝での対決となり、フランス選手は「V」字形の陣列を作って少しずつ前進するという“挑発行為”をおこなっています(試合はニュージーランドの勝利)。それに比べれば、今回のイングランドはおとなしいものですが。
2007年→https://www.youtube.com/watch?v=_USmnbVbJNI
2011年→https://youtu.be/yiKFYTFJ_kw

しかし、ドラマチックだったのはここまで。その後はディフェンスの強さ・堅さを前面に出し、ニュージーランドに何もさせない78分でした。後半早々イングランドのトライかと思わせた部分もありましたが、TMOによる判定でノートライ。攻めの形は、イングランドらしくてよかったのですが……。

それにしても、イングランドのタックルはすさまじかったですね。なかでも、ロックのマロ・イトジェ、第3列のアンダーヒルとカリーは出色でした。イトジェはこの試合のPOTMにも選ばれていました。ニュージーランドの大きな選手が次々とその餌食になり吹っ飛ばされ、あるいは倒されていきます。1試合で数えるほどしかないようなシーンが、この試合では何度となく見られました。これほど漆黒のジャージがグラウンドの上に倒れるとは!!

ターンオーバーもずばずば決まっていました。密集戦でニュージーランドがキープしていたはずのボールが、気がつくとイングランドの手にというシーンが何度もありました。常日頃見ているニュージーランドとは真逆です。打つ手に窮し始めたニュージーランドはタッチを狙ってキックを放ちますが、それもプレッシャーを受けながら窮屈に蹴ることを余儀なくされ、思うような展開に持ち込めません。イングランドの素晴らしいディフェンスが最後の最後までニュージーランドを苦しめました。反則数はイングランドが6、一方ニュージーランドは11。この数字がすべてを物語っているのではないかという気がします。

一夜明けた27日のニュージーランドの地元紙の第1面は、なんと黒一色だったそうです。いかにショッキングな出来事だったのか、よくわかります。

ファンの多さが日本のラグビーを強くする

2019年10月23日

さて、昨日書いたような流れで負けてしまったJAPANではありますが、これから先の目標もはっきり見えてきたように思います。一つは、フィジカル&フィットネスのさらなる強化です。今大会は、ジェイミー・ジョセフがHCに就任して以来、JAPANの選手は、常識では考えられないくらいのトレーニングを積んできたといいます。その結果、3年余で見違えるほどの成長を見せました。

しかし、フィジカルの部分は遺伝子に左右される部分もあるので、限界はありそうです。となると、外国からよりハイレベルの素質を持った選手を加えるしかありません。この先、外国籍の選手が国代表になるには、現行の「3年居住」から「5年居住」に改訂されるといいます。次のフランス大会まではすでに4年を切っており、いまからで間に合うのかビミョーですが、まずはそこから手を着けるしかなさそうです。

もう一つの目標は、選手たちを常に緊張感のある環境に置くことではないでしょうか。今大会が終わると、各国の代表選手のほとんどが故国に帰りますが、だからといってのんびり休んでいられる選手はほとんどいません。たいがいは所属チーム(クラブ)に戻って、地域レベル、あるいは国内のリーグ戦に臨みます。イングランドでは「Premiership」、スコットランド、ウェールズ、アイルランド、イタリア、南アフリカ5カ国のクラブによる「GUINESS Pro14」、フランスの国内リーグ「Top14」などですが、これらはいずれも、例年と同じく8月、9月にシーズンがスタートしているのです。

しかも、そこには少ない試合でも6千、多いと2万7千近くの観客が訪れています(「Premiership」第1週の表参照)。世界最高レベルのワールドカップが開催中であるにもかかわらずです。それくらい、いわゆる「ティア1」の国々ではラグビーが盛んで、ファンも多いということを示していますが、日本にもそんな状況が訪れてほしいものです。もちろん、かの国々には野球もなければバスケットボールもハンドボールもアイスホッケーもありません。サッカーが強敵ではありますが、それに負けるとも劣らないファンが確実に存在するのは驚くべきことです。

そうしたことを考えると、日本でも、国内で選手たちがラグビーで食べていける環境を整える必要があります。それには、現在のトップリーグに代わる、まったく新たなスタイル=プロのリーグを作り上げることです。協会副理事長の清宮克幸などがさまざま模索しているようですが、時間はほとんどないので、即断即決が求められることでしょう。W杯に出られればいいという段階は、今回の大会で終わりました。これからは毎回ベスト4までは行く──それを実現できるような体制を築き上げることが課題です。

今回初めてベスト8になり日本全国に「ラグビー」への関心が高まったのは、その強力な後押しになるはず。とともに、国際的な部分でも、現行の「6ネーションズ」「チャンピオンシップ」で組まれている体制にくさびを入れてほしいものです。ラグビーの国際統括組織WRも、今大会でJAPANが「ティア1」の領域に頭を突っ込んできたことで、これまでの考え方にこだわっていてはいけないという意識がめばえてきてほしいと思います。

今回のW杯、日本全国が予想をはるかに上回るラグビーブームが起こった理由はただ一つ。JAPANが強かった(正確には「強くなった」)からです。スポーツに限らずどんな世界でもそうですが、強くなれば人気になり、人気がサポートする力を強め、それによって湧き上がるパワーがまた強くするという好循環が生まれるのです。かつてのプロ野球・巨人軍がそうでした。一時期Jリーグが盛り上がったのもそうでしょう。いま、その時期に差しかかりつつあるのがバスケットボールです。

ラグビーも千載一隅と言えるチャンスをつかみつつあるいま、日本人特有の「右へならえ」「乗り遅れるな」という気質をうまく活かせば、この人気をある程度までキープすることは可能でしょう。そして、その火が弱まらないうちに、国内のラグビーを盛り上げることです。日本人選手だけではプレーのレベルが上がることは期待できないので、海外からいい選手をどんどん引っ張ってくることです。昨年トップリーグで、前回のW杯で大活躍したニュジーランド元代表のダン・カーターやオーストラリア元代表のアダム・アシュリークーパー(ともに神戸製鋼)が加入・出場するというだけでも、観衆、それも自腹を切ってチケットを買う人の数が一気に増えました。

今大会のあと、来年1月からスタートするトップリーグにも南アフリカ、ニュージーランド、オーストラリアからかなりの数の選手が日本にやって来るといいます。とくに南半球の国々の選手にとっては、来年2月まで国内・地域がオフになるため、言葉は悪いですが出稼ぎの大きなチャンスなのです。にわかでもなんでも、今回の大会をきっかけにラグビーの面白さを知った方が一人でも多く、まずはトップリーグの試合を観て、さらに興味を深めると、すそ野が大きく広がるのではないかと期待しています。

試合前からハンパなく疲れていたJAPAN

2019年10月22日

JAPAN、負けました! やはり地力の差としか言いようがありません。何日か前に披露した私の妄想──南アに勝ち、準決勝でウェールズもしくはフランスに勝ち、決勝でニュージーランドと戦う……もあえなく打ち砕かれてしまいましたが、しょせんは妄想なので、お許しのほど。

20日の試合、前半が終わった時点で3対5という僅差。見かけはJAPANの大健闘という印象ですが、それより目についたのは南アフリカのミスの多さ。いいところでノックオンやスローフォワードなどのハンドリングエラーをしてしまい、なかなか得点に至りません。選手もかなりフラストレーションをためていったようで、その象徴が前半ラストの場面。トライかと思われましたが、レフェリーの笛が鳴りません。プロジェクターで見ると、タックルされたらボールからいったん手を離さなければならないのですが、それを忘れそのまま持ち込んでいたのがはっきり映っていました。「なんとか1本トライを」と気が早っていたのでしょうね。

それにしても、これまでグラウンドを縦横無尽に動き回っていたJAPANがこの日は、時間の経過とともにどんどんへたっていくのがうかがえました。スクラムは押される、ラインアウトはマイボールを奪われる、モールは押される、パスを回そうとすると強烈なタックルを浴びる、そればかりか持ったまま押し戻される、密集でボールを奪われる(ジャッカルですね)、キックしても相手にキャッチされ逆襲される……。前後半を通じ、これまでのようにボールが5人、6人とつながる場面がほとんど見られませんでした。

その原因は南アのチョー素早いディフェンスです。「オフサイドぎりぎり」「いや、ひょっとしてオフサイドじゃないの」と言いたくもなるほど、南アのディフェンスは前に出てきました。しかも、早いこと、早いこと。今大会でこれほど早いディフェンスは、初めて見ました。

ハーフタイムで、南アのヘッドコーチが選手たちを覆っていたフラストレーションを拭い去る魔法をかけたのか、後半は規律を保ち、のびのびとプレーしていたように思います。単純なミスも減りました。それにより、持ち前のフィジカルの強さがいよいよ生きてきます。選手交替でグラウンドから出ていくJAPANの選手は皆ヘトヘトの様子。代わって出てくる選手の表情にもそれが乗り移ってとまでは言いませんが、何かはじけた様子が感じられません。これまでの4試合はすべて「ヨーシ、オレの出番だ!」といった雰囲気がしていたのですが。

Rugby World Cup Limited © 2007 – 2019

後半に入り3本のPKを決められ3対14になった時点で、「なんとか1本、トライを決めてほしい」という願いに切り替えました。そうしたことを一瞬期待させる場面も1、2回はあったのですが、逆にラインアウトからのモールをなんと40メートル近く押され、最後はハーフの金髪ロン毛のデクラークに持ち込まれ、ほぼジエンド。この試合を象徴するようなシーンでした。デクラークは試合を通じて縦横無尽の活躍を見せ、プレイヤー・オブ・ザ・マッチに輝いています。

南アは百戦錬磨のチームで、フィジカルもさることながらゲームコントロール、攻撃、ディフェンス、レフェリーとの駆け引き、選手層の厚さ、すべてにわたりJAPANを上回っていました。言うならばこれが「ティア1」の壁なのでしょう。日本は今大会「ティア1.5」くらいまではレベルアップできたと思います。しかし、その先に立ちはだかる分厚い壁は一朝一夕で突き崩せるものではありません。

また、最初から予選プール、準々決勝、準決勝、そして決勝まで見据えて選手を起用していくプロセスに慣れている南アのようなチームと、まずは決勝トーナメント進出が目標というJAPANとでは、選手の意識、フィットネスコントロールも違っていそうです。
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選手は「疲れている」「どこそこが傷んでいる」などとは、口が裂けても言おうとしないはず。ただ、コーチ陣はそれをキャッチしているにちがいなく、スコッド31人の状況を踏まえながら出場メンバー23人、先発メンバー15人を決めていったのでしょう。しかしJAPANの場合、31人のうち、FW第1列の北出卓也、木津悠輔、同3列の徳永祥尭、ハーフの茂野海人、BKのアタアタ・モエアキオラの5人は最後まで、ジャージを着てグランドに出ることはありませんでした。

決勝トーナメントに進んだほかの7国はすべて、スコッド31人全員が出場しています。要は手駒の数がそもそも違っていたということです。ちなみに、南アで予選プール4試合とも出場していた選手は7人、ただしフル出場はゼロ、一方JAPANは16人、うちフル出場はラファエレティモシー、松島幸太朗、姫野和樹、ラブスカフニの4人もおり、全員がそろってタックルしまくっていました。しかも姫野とラブスカフニはFWですから、消耗の度合いもハンパではなかったはずです。

考えてみると、このハンディは大きいですよね。ほかの7国が31人の中から試合ごとに23人を選んでいるのに、JAPANは26人からなのですから。予選プール4試合を、全員が心身とも疲れの極致にあるのはわかっていても、補充が利かないのです。もちろん、使ってみたらどうだったのかという疑問は残ります。でもジェイミー・ジョセフの目からすると、5人は残念ながら力不足と判断せざるを得なかったのでしょう。

決勝トーナメントに進むまではそれでもなんとか間に合ったのですが、結局のところ、そこから先となると、チーム総体としての力がいまひとつ足らなかったとしか言いようがありません。次大会以降はこうした問題を解決すべく準備を進めていく必要がありそうですね。

JAPANのフィジカル、テクニックはいまや一流の域

2019年10月17日

JAPANがスコットランドに勝った13日の試合。最初のトライは福岡堅樹からのオフロードパス(タックルされながら出すパスのこと)を受けた松島幸太朗が、2本目は体を回転させて相手ディフェンダーを振り切った堀江翔太からジェームズ・ムーア、ウィリアム・トゥポウと3連続のオフロードパスを受けた稲垣啓太が、3本目はウィリアム・トゥポウのキックを体を伸ばしてつかんだ福岡の、どれも素晴らしいトライでした。
Rugby World Cup Limited © 2007 – 2019.

 

ついでに言うなら後半早々のトライも、福岡がリーチ・マイケルのタックルを受けた相手のボールをもぎ取り、そのまま40メートル独走してゴールポスト下に飛び込んだもの。4本とも、これまでのJAPANにはできなかったプレーばかりです。
Rugby World Cup Limited © 2007 – 2019.

 

なかでも2本目は、ラグビー好きなら誰もがしびれるようなとても美しい流れの中で生まれました。オフロードパスを3回も続けるというのは、「ティア1」の代表国でもそうそう見られないシーンです。コンマ5秒(いや3秒かも)でもタイミングがずれればパスを受け取ることはできず、あとにつながりません。それを、なんと3回連続! ニュージーランドやイングランドの選手がこのシーンを見ていたらおそらく肝を冷やしたにちがいありません。このシーンのビデオは何度見ても、身の毛がよだってきます。体がふるえます。そして、目頭が熱くなります。初めてラグビーの試合を観た人でも、うれしくなるのではないでしょうか。下記が大会の公式映像ですが、その1分30秒あたりから2分の映像をご覧ください。

Rugby World Cup Limited © 2007 – 2019.

https://www.rugbyworldcup.com/video/513197

 

3本目の福岡のトライも、「JAPANも、あんなことができるようになったんだ!」と思わずにいられませんでした。これまで「ティア1」の国の試合を見るたびに、絵に描いたようなキックパスを目にしながら、「これは日本人には無理だろうな」と思ったものでした。エネルギー効率という点からすれば、これほど楽なトライはありません。でも、それを現実におこなうのはチョー難しいのも事実。それこそ何百回も練習しなければ決められるようにはなりません。

Rugby World Cup Limited © 2007 – 2019.

しかも、実際はグラウンドの上で自分自身も動きながら、味方と相手の選手の一夜動くスピードを一瞬で判断して蹴るのですから、それこそ百戦錬磨を経なければ得点にはつながりません。せっかくいいキックパスが飛んできても、ピンポイントのタイミングでキャッチできなければトライにはつながらないのです。これまで相手国の選手がキックパスからトライを取るシーンを見るたびに、うらやましさを感じ、ため息をついてきました。それを、我がJAPANが決めたのです。言葉だけでなく、JAPANは文字どおり「ONE TEAM」になっています。

Rugby World Cup Limited © 2007 – 2019.
フィジカルの点でも鍛え上げられているという感じがします。とにかくバテません。15分ほどのハーフタイムをはさんで正味80分間、走り・追いかけ、ぶつかり・ぶつかられ、倒し・倒され、もみくちゃにされ、踏まれの連続。バテているかどうかは、選手が両手を膝や太腿についているかどうかで判断できますが、そういう選手がJAPANは少ないのです。プレーが進んでいる間グラウンド上に倒れたままになっている(負傷した場合は別として)選手もほとんど見ません。倒されてもすぐ起き上がり、密集の下で踏みつけにされていたところからもすぐに脱し、次のポジションに移動(しようと)しディフェンスに、あるいはアタックにかかろうとしています。息つく暇もないという言葉どおりに動き続けるJAPANの選手のタフさは群を抜いているのではないでしょうか。

今大会のJAPANは、これまでホントに長い間、日本のラグビーファンが夢に見ていたことを次から次へやってのけてくれています。JAPANにもう「まさか」はなさそうです。長い間「まさか」の領域に閉じ込められてきた高等技術も、いまや「お手のもの」とまでは言いませんが、JAPANの選手たちにとってはごく日常的なものになっています。すごい時代がやってきました。それを67666人の一人として目の当たりにできる私は幸せです。

ひょっとして決勝まで──“妄想”と言われるのは覚悟の上で

2019年10月16日

 

決勝トーナメントの組み合わせが決まりました。プールAを1位で突破したJAPANは、B2位通過の南アフリカと当たります。W杯直前、9月6日のテストマッチで敗れ(7対41)ていますし、最新の世界ランキングはもちろん上。昨年はニュージーランドと1勝1敗(いずれも2点差)と互角に渡り合い、今年も7月の「チャンピオンシップ(南半球4カ国対抗戦)」では引き分けています。このW杯では予選プールB組で対戦(9月21日)、13対23で負けました。4年前の大会でJAPANは“世紀の番狂わせ”で勝った相手ですが、普通に考えれば、負けて当然の相手です。
Rugby World Cup Limited © 2007 – 2019.

希望は、南アとのテストマッチ後ひと月しか経っていませんが、JAPANの実力がさらに伸びていること。それが、予選プールでのアイルランド戦、スコットランド戦の勝利につながりました。南アに勝つと、真面目な話、決勝進出も夢ではなくなります。ウェールズvsフランスの勝者と戦うことになるわけですが、どちらも南アよりはJAPANにとってはいくぶん分がいい相手だからです。当然、つけ入るスキもあるわけで、けっして勝てない話ではありません。ウェールズには2016年11月のテストマッチで30対33とあと一歩の接戦を演じましたし、フランスとは引き分けています(2017年11月25日)。

もう一つのブロックはどこが勝ち上がってきても同じ。順当ならニュージーランドとイングランドでしょうが、アイルランドは昨年11月ニュージーランドに勝っている(16対9)ので、けっして100%の確率とは言えません。ティア1でも、このあたりの国はそのときのちょっとした選手起用、運不運によって勝敗が左右されることもあるのです。

ちなみに、イギリスの大手ブックメーカー「ウィリアムヒル」によると、日本の勝ちは5・5倍で、南アの勝ちは1・18倍とのこと。勝てばもちろん番狂わせとなります。また、優勝となると、ニュージーランドが2・25倍、南アフリカが4・33倍、イングランドが5倍、ウェールズが9倍、アイルランドが17倍、オーストラリアが21倍、日本が26倍、フランスが34倍。

ただ、「ティア1」の国々と、「ティア2」から唯一決勝トーナメントに進んだJAPANとの間には目に見えない壁のようなものがあるのはまぐれもない事実。また、レフェリーも「ティア1」の国に有利な判定をする傾向があるのは否めません。そのあたりをいまノリに乗るJAPANが突き破れるか、期待したいものです。リーチマイケルのリーダーシップがもの言うといいのですが。

それにしても、このあとの展開を予想するのは難しいですね。大方の日本人は「南アに敗けてジ・エンド」といったあたりでしょう。しかしいまの私は、希望的観測も含め、次のような、とてつもない“妄想”を抑えきれずにいます。

準々決勝で南アフリカに僅差で勝利(それも、前大会と同じ逆転サヨナラ勝ち!)、準決勝でフランス(これも番狂わせですが)を破って決勝に進む。相手はニュージーランド(イングランドということもあり得ますよ)でしょうが、さすがに勝つまでは無理。それでも、前々回までわずか1勝しかしたことのないJAPANが、前回は3勝、今大会は開催国の有利さがあるとはいえ、ベスト8からさらに決勝まで行けば、これはもう天地がひっくりかえるほどの大騒ぎになるのは必至。この競技の最高統括機関である「ワールドラグビー(かつてのIRB=国際ラグビー評議会)」にも大きな波紋を投げかけるはずです。長らく続いてきた「ティア1」重視のやり方ではいけないという考え方が出てくることすら予想されます。

競馬の「有馬記念」的な妄想かもしれませんが、今回の目標(といってもJAPANの周囲の)だったベスト8まで上がってきたのですから、これくらいの「たら・れば」は許されるでしょう。ジェイミー・ジョセフや選手たちは「行けるところまで、脇目もふらず行く」という気持ちでいますし。ただし、南アに勝って有頂天になったり、「ここまでやれば大満足」などと思ったりすると、フランスにはボロ負けということもあり得ます。さてさて、どんな結果が待っているのでしょうか……。こんなシーンをあと2回は見てみたいものです。

 

大河ドラマも吹っ飛ばすJAPANの8強進出

2019年10月15日

 

やりましたねーッ、JAPAN!! でも、昨日の各紙朝刊やテレビに「番狂わせ」などという文字やナレーションはまったく出ていませんでした。調子のいい人は「実力ですよ、これが」とまで言っていましたし。そう思いたい気持ちもわからなくはありません。でも、いわゆる「ティア1(強豪国・伝統国)」の国々は、ホント強いのです。

もちろんスコットランドもその一つ。ほかはイングランド、ウェールズ、アイルランド、フランス、ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカまでが数年前までの「ティア1」。そこにイタリアとアルゼンチンが加わり、いまは10カ国を数えます。JAPANは現在フィジー、ジョージアなどと並んで「ティア2」に属しています。

「ティア1」のなかでも古豪と言ってよいスコットランドの選手たちが、後半開始早々JAPANに4つ目のトライを取られてから顔色を変えたのは、皆さんもご覧になったとおり。1871年、世界で最初のテストマッチ(国代表どうしの試合)をイングランドと戦ったというプライドがありますから、それも当然です。

ある新聞記事には「スコットランドの選手が前半の途中、レフェリーに対し、目に双眼鏡を当てるしぐさをしてみせた。これは“もっとよく見ろよ!”という無言のアピールで、それを察したのか後半はスコットランドにかなり甘い判定が何度か見られた」と。レフェリー(ニュージーランド)が今大会最年少だからということもあったのでしょうが、同じ「ティア1」の属している者どうしですから、そういうことも考えられなくはありません。「ティア1」の国々には、そうした不文律、アウンの呼吸のようなものがあるのです。

まあ、それはそれとして、スコットランド戦快勝に気をよくし、今日は浅草に行ったついでに「亀十のどら焼き」を買ってきました。勝利のお祝い、そしてこれはかなり無理がありそうですが、全力をあげて応援した自分へのごほうびですね。仙台の秋保では「主婦の店さいちのおはぎ」、大宰府(福岡県)では、“天然モノ”で売る「日本一たい焼き」、日田(大分県)では老舗の「赤司の羊羹」と、何かにつけては前祝いだの、景気づけだのと言ってはこの種の和菓子を口にしようとする食い意地には我ながらあきれてしまいますが、それもまた「楽苦備(ラグビー)」の楽しみと言っておきましょう。いささかこじつけっぽいことは百も承知で(笑)。

 

さて、このところ、町を歩いていると太めのホリゾンタルストライプ=横縞のシャツを着た男性、それも私の年齢±10歳くらのようなおじさんの姿をよく見かけます。よく見るとたいていがラガーシャツです。もちろん、買ったばかりとおぼしきものもありますが、タンスの奥に長らく眠っていた風の、ややくたびれた感じがするものも。胸に「CCC」という3文字のロゴがあるところや見ると、やはりラグビーW杯の盛り上がりが影響していると言って間違いないでしょう。

たしかに、今日発表されたJAPANvsスコットランド戦のテレビ視聴率は平均39・2%(瞬間最高では53・7%)、今年の全番組でトップだとそうですから、そうした気持ちになるのもよくわかります。20日(日曜日)の準々決勝は、多くの人が「まさか!」と思っていたカード「JAPANvs南ア」(キックオフ夜7時15分)に決まったため、NHKは当初BS1で放送する予定でいましたが、なんと大河ドラマをすっ飛ばし地上波の生中継に変更したのだとか。これはもう一大事としか言いようがありません。視聴率の数字は1%が100万人と言いますから、4000万人ですよ! 南ア戦を観ない人は「非国民」などとも言われかなねい雰囲気です。

ジャージの話は先日も少し書きましたが、ポロシャツ風に仕立てたものはやはり亜流のように思います。本流はやはりラガーシャツ(長袖もあれば半袖もあります)ではないかと。そのいちばんの老舗が1904年創業のレーン・ウォーカー・ラドキン(LWR)社カンタベリー(Cantebury)というブランド、ニュージーランドの会社です。「The World Toughest Active Wear(世界一タフな活動着)」というのが製品コンセプトだそうです。

ちなみに、今回のW杯に出場している国のジャージを見ると、JAPANのほかイングランド、アイルランド、ジョージア、アメリカ、カナダ、ロシアがカンタベリー製で、数ではトップ。決勝トーナメントに進んだ国をチェックしてみると、カンタベリーの故国ニュージーランドはadidas、南アとオーストラリアはasics、ウェールズはunder armor、フランスは自国のブランド le coq sportif とけっこう多様化しているのがわかります。日本のミズノはトンガとナミビアの2カ国でした。

全世界で数百万人の視聴者の目に何度なく触れるジャージですから、各メーカーともより高品質・高機能を追求しているわけで、準決勝、決勝と駒を進める国の選手が身に着けているジャージとそのメーカーのロゴはいやおうなしにアピールすることになります。ラグビーにはそんな楽しみ方もあるのです。

悲願達成! JAPAN、決勝トーナメントに

2019年10月14日
昨日午前11時前、PCを立ち上げ「ラグビーW杯」のサイトを立ち上げると、待望の画面が──。

よかったー! 昨夜観戦の予定だったイングランドvsフランス戦は中止、釜石のゲームも今朝早くに中止が決定。どうなるのかなぁと心配していたのですが、開催が決まったのです。

「……様々な可能性を慎重に検討した結果、一部の観客サービスを行わないことを前提に予定通り試合を開催する……
本日早朝より会場にて台風による影響を検査した結果、一部施設の破損は見られるものの、試合開催が可能であると判断しました。しかし、公共交通機関の乱れに伴うスタッフ不足や、設備の破損等により試合開始時間までに準備が整わない一部の観客サービス(※注)については、お客様の最低限の安全な観戦に影響しない範囲で、実施を取りやめ、試合運営を行う事とします。
※注:一部売店の休業、移動販売員の減員の可能性など」
ただし、スタッフの不足やインフラ復旧の遅れで売店の一部が休業を余儀なくされるため、飲み物もそのままで持ち込みOKだそうです。

ラグビーは、雪が積もってグラウンド上のラインが見えないとなれば別ですが、それ以外は何があってもやると教えられてきた私。台風くらいで中止にしていいのかといのが正直なところですが、今朝のテレビニュースを見ていると、被災された人も全国各地にたくさんおられるのに、こんなときに楽しんでいて大丈夫なのかという、別の思いもきざしてきました。それでも、ここでスコットランドと戦わぬまま予選プールが終われば、日本人にとってW杯の意義は半減してしまいます。たとえ、それで決勝トーナメントに進めたとしてもです。まして負けたりすれば、JAPANのW杯はジ・エンド。そうならないためにも、ここは勝つのが、台風で被災した地域の人たちへの大きな励ましになるのではないかとも思います。そして、私たちにも楽しみを分けてほしい!!

前回、JAPANは予選プールで同じ組にいて、南アフリカに“世紀の大番狂わせ”をやってのけた4日後にスコットランドと対戦。中7日で臨んだスコットランドの前に大敗し、その後サモア、アメリカに勝ち3勝をあげたものの、ボーナスポイントの差で決勝トーナメントに進めませんでした。もっとも、そのときは「南アに勝ったから、ま、いいか」くらいにしか思わなかったのも事実です。これでスコットランドにまで勝ったらできすぎ」だと。

でも、今回は違います。つい先日まで世界ランキング1位だったアイルランドを倒し、ボーナスポイント付きでサモアにも勝ってここまで来たのです。勝つか引き分けで決勝トーナメントに進めるとなれば、これは何がなんでも勝ってもらわなければなりません。よしんば負けても、4トライ以上あげ、なおかつ7点差以内ならボーナスポイント2を獲得できるので、スコットランドの上に立つことができます。もっとも、ヘッドコーチのジョセフ・ジェイミーも選手たちも、そんなことは考えていないでしょうが。徹底的に打ちのめす──ただそれだけです。もちろん、私とてそれは同じ。

一昨日の夜、サモアがアイルランドに屈しました。試合前の「シバタウ」は気合が入っていましたが、地力の差はいかんともし難かったようです。

結局、昨夜の段階で決勝トーナメントを決めたのは、プールAがアイルランド、同Bがニュージーランド、南アフリカ、同Cがイングランド、フランス、同Dがウェールズとオーストラリア。残るはプールAのひと枠。ここにJAPANが食い込めば、これまでえんえんと続いてきたティア1の国々によるベスト8独占に歯止めをかけることができるのです。

新横浜の駅からスタジアムに向かう観客の出足も心なしか早いよう。気持ちが急いているせいもあるのでしょう、皆、早足です。この3週間で、日が落ちるのもすっかり早くなり、5時半過ぎなのに、空は薄暮というより、夜寸前。台風が過ぎ去った直後とあって、なんとも言えない色をしています。それが何を暗示しているのか、知るのは勝負の神だけです。

試合前のウォームアップを終えたリーチマイケル主将以下、選手たち気合い満々。烈々たる闘争心と勝利への意欲が感じられました。そんなJAPANに、空に浮かぶ満月が微笑んでくれるとよいのですが。

 

さて、試合のほうはキックオフ後6分で、早くもスコットランドがトライ。これに対しJAPANの1本目は福岡堅樹からのオフロードパスを受けた松島幸太朗、2本目はなんと、FW第1列の1番・稲垣啓太。圧巻は3本目、タックルして相手のこぼした球をつかみ取った福岡が独走。表の役者、裏の役者のそろい踏みです。

後半も開始早々に福岡がトライを決め、一時は28対7に。一瞬、私の頭には前大会のスコア=10対45が頭に浮かびました。この調子なら、同じスコアでリベンジがかなうのではないかと。でも、それは甘かったようです。スコットランドはそんなにやわではありません。そのあと5分間で2つのトライを決められてしまいました。25分以降はお互い、長いフェーズの攻防が連続。

それにしても、時間の経つのがこれほどもどかしく感じたことはありません。あと10分、あと5分、あと2分、1分……。選手はもうヘトヘトだったでしょうが、耐えきったJAPAN! 観衆のカウントダウンの中、勝ちました。みごと、4年前の溜飲を下げることができました。

これでW杯史上初めて、予選プールAを1位で突破したJAPAN。次はクォーターファイナル(準々決勝)で、相手はプールBを2位で突破した南アフリカです。望むらくはもう一度ジャイアントキリングを。“二度あることは三度ある”ともいいますから。

 

 

スタジアムを後にするファンも、余韻にひたりたいせいか、これまでのどの試合よりゆっくりした足取りです。だれもが、決勝トーナメントはどこまでやってくれるだろうか、期待にワクワクしているにちがいありません。

 

 

ラグビーは「楽苦備」、でも観戦に「苦」は要らない

2019年10月13日
高校でラグビーをしているとき、先輩にこんなことを教えられました。「ラグビーっていうのは“楽苦備”と書くんだ。楽しいこともあれば苦しいこともある」と。私の高校は残念なことに弱かったので、「楽」より「苦」のほうが圧倒的に多かった記憶しかありませんが、いまのJAPANを見ていると、その言葉がいかに的確か、よくわかるような気がします。エディー・ジョーンズの時代から始まった、この上ない厳しいトレーニングに選手たちは皆苦しんだはず。でも、その成果はきっちりあらわれていて、楽しさも味わっているにちがいありません。

9月20日のラグビーW杯開幕から10月9日まで20日間、8会場で10試合を観戦した私も、これ以上ないほど楽しませてもらっています。ただ、その半面で見る側の苦しみも経験しました。それをいくつかあげておきましょう。今回のW杯は、東京オリンピックのほぼ10カ月前というタイミングで、さまざま参考になることも多いのではないかとも思うからです。

食べ物の持ち込み問題はクリアされたようなのでOK。これまでフランス、ニュージーランド、イギリスでW杯を観戦しましたが、あまり気にはなりませんでした。試合中に何かをつまむくらいならまだしも、ガッツリ食べたいと思ったことはなかったからです。そもそも海外では、どこかの店で食べ物をテイクアウトしようにも、サンドウィッチや果物くらいしかありません。日本のように弁当、寿司、おにぎり、唐揚げ、焼き鳥、シュウマイ、餃子……などといった選択肢はないのです。

飲み物は、よく言われているように、ビールをがんがん飲む人が多いです。ただし、試合が始まる何時間も前からです。もちろん、始まってからも、スタジアム内の売店で買って飲む人もいますが、それほど多くはなかったように記憶しています。今回、ラグビーにはビールがつきものということで、運営側は売り子にスタンド内でも販売できるようにしました。これは前例のないサービスで、これからの大会で取り入れられるかもしれません。

もっとも売り子の存在感は残念ながら薄い感じがしました。「ビール、いかっしょう!」と大きな声を出しながら売って回る野球場のスタイルを見習ってもいいかもしれません。スタンド内で飲み物を売るのは日本独特(アメリカ大リーグでも売るのはホットドッグだけ)。外国人客にとってはとてもありがたいサービスなのに、ちょっと残念です。

しかも、急ごしらえの売り子ばかりで、Heinekenの缶からプラスチックのコップに移す手がおぼつかないのに加え、釣り銭の支払いにモタついているので、時間がかかりすぎ。また、目をやる方向が不十分で、こちらが声をかけても手を振っても気がついてくれないのです。

スタンドにもけっこう差があります。日本がアイルランドに勝った静岡エコパスタジアムにはガックリきました。しかも、ドリンクホルダーもついていないのです。近頃のシネコン並みにとまでは言いませんが、前後のスペースの狭いこと。用があって籍を離れるとき、隣の人にお断わりし(もしくはアクションで示し)、体を縮こめてくれたのを確認した上でようやく動き始めることができます。それでも、途中体が揺れたり、足もとがおぼつかなくなったりするともう大変。まあ、これは世界中どこのスタジアムでも、ほぼ同じですけどね。ただ、ドリンクホルダーがないのはやはり参りました。

かと思うと、熊本のように、ドリンクホルダーがある席、なくても隣の席との間にミニテーブルがある席が混在しているところもありました。これは隣の人との間に余裕があり助かります。外国人は、選手だけでなく観客も大きな図体の人が多いですからね。

入口での持ち物検査は担当者によって差があるようです。でも、想像していたよりは ゆるいなと思いました。日本人はこういうことにとてもまじめに取り組むので、リュックの底の底まで手を入れて調べられるのではと覚悟していたのですが、そこまでする人はいませんでした。そこそこ厳しかったのは開幕戦だけ。秋篠宮ご夫妻がいらしていたからでしょうか。

トイレの行列はすさまじいのひと言。ビールをガンガン飲む男性のほうが行列は長く、ハーフタイムのうちには終えられません。日本のスタジアムのトイレはキホンどこでも清潔、しかも美しいので、用を足す側もそれなりの心づもりをしてアサガオに向かいます。外国の場合、たいていは左右10メートル、奥行き50センチほどの巨大な箱(たいていはブリキのような素材)のようなものがしつらえられていて、そこに向かって用を足します。一方の側から水が流れっぱなしになっているので、あとのことは心配要りません。これだとハケが早いので、多人数が相手、しかもほとんどの人が酩酊状態のときは十分という気がします。どの道、試合中に清掃作業がおこなわれるようなこともないでしょうし。

客の誘導で気になったのは神戸ノエビアスタジアム。そもそも敷地内に入るところが1カ所しかないのですが、そこからEゲート、Nゲートに行くには、スタジアムを3分の1ほど回らなくてなりません。そちらに向かうようロープが張られているのですが、それが必要以上に長く、100メートル以上歩いて100メートル戻り、また数10メートル進むようなスタイルになっていたため、けっこう疲れました。前に進むだけで入口に到達できるようにしてほしいですね。

輸送体制に問題があるように思ったのは静岡。9月28日のJAPAN vsアイルランド戦。私たちは新神戸から浜松まで新幹線、浜松から東海道線でスタジアム最寄りの愛野駅まで行ったのですが、ホームは客であふれかえっていました。私たちより前の電車で着いた客がまだ改札口まで到達できずにいるのです。それでなくても狭いホームに、電車は次々と入ってくるわ貨物列車は通過するわで、危険なことこの上ありません。結局、下車してから改札口を出るまでに20分以上もかかりました。

 

そもそも5万人を収容するスタジアムの最寄り駅なのですから、試合開催の日にだけ使用する連絡橋を作っておくとか、できなかったのでしょうか。ラグビーW杯は、世界中からファンがやって来るイベントです。にもかかわらず、そうした手を打っていないのは、ラグビーW杯の重みを理解していないとしか思えません。こうした部分に設備投資(応急的・一時的であったとしても)をしようとしないのは……。JR東海という会社のセンスに問題アリと言えそうです。

ただ、帰りの誘導はみごとでした。駅に向かう歩道の途中から、東海道線の上りに乗るか下りに乗るかで動線を分け、スムーズに改札→ホームへと進むことができました。同じタイミングに客が殺到する帰りについては対処できているのに、到着時の客の集中にほとんど無策なのはなんとも不思議です。観客に「苦」は要らないはず。1から100まで「楽」に楽しみたいというのが正直な気持ちではないでしょうか。

東海に限りませんが、JR各社になんとかしてほしいと思っているのは、新幹線の荷物(スーツケース)置き場です。なんともプアというか、1両に長期滞在の外国人観光客が数人乗っただけでほぼパンク状態になります。スーツケースを置くための場所がゼロなのです。各車両の最後部にわずかなスペースはありますが、そこにスーツケースを置くと座席のリクライニングが利きません。もちろん、網棚に上げるのは無理ですし通路に置くこともできません。といって、デッキに置いたたままになどできないでしょう。来年、東京オリンピックが開催され、今回のラグビーW杯を上回る人が海外からやってきたらどうするのでしょう。

さすがに、東海・西日本・九州の3社は2020年5月から、大型スーツケースを持ち込む場合は事前予約制にするといいます。最後部座席の後方にあるスペースを専用の置き場にし、その座席の指定席とセットで予約(追加料金は不要という)すというものですが、事前予約なしで持ち込むと1000円(税込み)の手数料が必要とのこと。しかし、これで確保できるのは普通車両で5人分。これで間に合うのでしょうか。

また、新幹線車内の一部のトイレを「荷物コーナー」に作り替えることも発表しています。ただ、こちらは工事が必要なので、実施は2023年度。オリンピックが終わって3年後ですが、これもずいぶん間の抜けた話です。

ウェールズのサポーターは大盛り上がり!

2019年10月9日
予選プールD組のウェールズvsフィジーは緊迫した一戦でした。ウェールズは勝てば決勝トーナメント進出が決まり、フィジーは望みがつながるからです。開始10分でフィジーが2トライ(コンバージョンは失敗)、そのあと15分間はウェールズが主導権を握り2トライ(コンバージョンは成功)。前半は14対10でウェールズがリード。

 

しかし後半は、まずフィジーが認定トライをあげ14対17と逆転。そのあとPGで同点に追いつくと、疲れの見え始めたフィジー相手に2本のトライを決め、29対17でウェールズが勝ちました。

大分駅からスタジアムまではシャトルバスでしたが、車内の4分の1はウェールズのサポーター。しかも、乗る前からビールででき上っており、大きな声で歌を歌っています。着いたら、赤いレプリカジャージを着込んだ人の姿がさらに目立ちます。これまで観た試合のなかで、外国人の数がいちばん多かったのではないでしょうか。フィジーも負けてはいません。世界ランキングではJAPANより一つ上ですから、実力をフルに発揮できれば決勝トーナメントに進む可能性はあります。サポーターもそれを信じ、試合前から盛り上がっていました。

試合終了後シャトルで大分駅まで戻ると、どこもかしこも赤、赤、赤。駅前のアーケード商店街はあちこちでウェールズ・サポーターが集団で大騒ぎしています。チームは地味なのですが、サポーターは素晴らしく派手なようです。いちばんすごかったのは、その中にあるアイリッシュ・パブ。まるで、こうした事態を狙いすましたような場所に店を開いています。店内はカウンター、テーブルはもちろん通路までも、そして店の外も赤一色。ビールを飲みながら大きな声で歌い、母国の勝利を喜んでいました。

12年前、フランス大会のときはあちこちで勝利を喜ぶサポーターの姿を目にしましたが、今回の日本では初めて。体も大きいので声も大きく、それがアルコールの力でさらに増幅しています。どこの会場でも帰りを急ぐ人が多いJAPANのサポーターは、こういう楽しみ方はなかなかできません。観戦地に泊まっている人がほとんどの外国人サポーターだからこそ、ここまで大騒ぎできるのでしょう。

大分は今大会、5試合がおこなわれます。もちろん、地方の都市では最多。西日本では収容能力がおそらく最大のスタジアムがあるからでしょう。今夜が早くも3試合目ですから、おもてなしの態勢はバッチリ。アーケード商店街の上には今日戦った2チームの人形がしつらえられていました。それにしても、今夜の寒さといったら。10月9日という時期を考えると当たり前なのですが、昼間の気温と差が大きく、体にはこたえます。

 

天守外観の復興が成った熊本城

2019年10月8日
昨日・今日はラグビーW杯の観戦もOFF。連泊した熊本で昨日はゆっくりさせてもらいました。といっても、日がな一日ボーッとしていたわけではありません。熊本からJR九州の数あるユニークな列車の中で以前から気がかりだった特急「A列車で行こう」に乗り、三角【みすみ】というところまで行ってみました。最終目的地は三角からタクシーで5分のところにある三角西港という世界文化遺産です。

「A列車で行こう」というのはなんともユニークなネーミング。ご存じ、チョー有名なジャズナンバーのタイトルをそっくり頂戴したものです。列車自体はとりたててジャズと関係があるわけではなく、「A」は「天草(Amakusa)」の「A」に由来しているよう。ただ、
列車自体のデザイン、とくに内装がとてもユニークだというので、話題になっているようです。水戸岡鋭治のデザインとあれば、それも理解できます。2両編成で、1両は座席のみ、もう1両は一部がバーカウンターになっており、ドリンクのサービスがあり、さまざまなグッズも売られています。私も、車内アナウンスに誘われ、昼ご飯前だというのに、デコポンのハイボールなんぞを飲んでしまいました。

「A列車」の売りはもう一つ。窓からの景色です。途中、三角行きの進行方向右側に、干満の差が日本一と言われる有明海の御輿来【おこしき】海岸が見えてきます。潮が引いたときの砂浜には美しい模様が見えるのです。列車もそこに近づくと速度を落として走ってくれるので、写真もゆっくり撮れます。私たちの乗った10時36分熊本発の列車は、ちょうど行きのときに干潮になっていたようで、なんとも不思議な模様が見えました(帰りは潮が満ちてきたため、フツーの海岸に戻っていました)。

終点の三角駅はその名、というか文字のとおり、駅舎に「三角形」があしらわれ、ユニークなデザインになっています。そこから三角西港まではすぐ。そのあたりは、突然明治時代にタイムスリップしたかのような風景が見られます。三角西港は明治初期から半ばにかけて整備された港で、設計者はオランダ人土木技師ローウェンホルスト・ムルデル。当時の最新技術を用いて近代的な港湾都市が造られました。熊本県にとっては、海外貿易が可能な初めての本格的な港だったそうです。港の発展とともに、道路沿いに2階建ての商店や旅館が立ち並び、埠頭沿いには白壁の倉庫群が続々と建てられました。

ムルデルは明治政府のお雇い外国人の一人で、三角西港の設計以外にも、新潟港の築港・信濃川改修、東京港の築港、富山県の河川改修、児島湾の干拓、広島港の築港、鬼怒川【きぬがわ】・富士川の治水、大阪港の改修・淀川治水、下関港の整備、利根運河の開削など、全国各地で築港、港湾整備、河川改修、治水事業に関わったとのこと。

三角西港一帯には当時建てられた洋風の建物がいまなおいくつか残され、けっこう観光客も訪れているようでした。ここからさらに天草に足を延ばす人が多いようです。

 

三角西港から熊本駅まで戻ると、駅構内にもあちこち「ラグビー」が。人気のクマモンもJAPANのジャージを着ていました。ホテルに戻ろうと、市電に乗って熊本城の前で下車、ちょっと立ち寄ってみました。W杯の開催に合わせるかのように天守閣外観の修復が完成したことで、特別見学会が10月5日から始まったのです。実際、フランスなど外国人観光客の姿も目立ちました。

これまでニュース映像や写真でしか見たことのなかった地震の爪痕が、3年以上経ったいまなお生々しく残っているのにまず驚かされます。被災直後は、いったいどこから、どう手をつければいいのだろうか、途方に暮れたにちがいありません。しかし、その復興の大きなポイントは天守閣の復旧にあるようです。天守閣や宇土櫓【うとやぐら】がよく見える加藤神社(全国でも珍しい名前の神社。加藤とはもちろん、熊本を築いた加藤清正のこと)の境内から見ると、完了までにはまだまだ時間がかかりそうなことがわかります。ほかの櫓はもちろん、天守を囲む堀にも、大きな石垣が崩落したままの状態で、地震のすさまじい破壊力を改めて実感しました。

ちなみに、ホテルに戻り、部屋のカーテンを開けてみると、なんと先ほど見てきた天守閣の姿が──。でも、遠目に見るのと、間近でから見上げるのとでは、この段階ではやはり違うように思いました。

 

 

 

 

熊本の街はフランス人でいっぱい

2019年10月7日

サモア戦の「興奮+感動+歓喜」がなかなか冷めやらぬまま、昨日は名古屋から熊本に移動しました。ネットで調べると、名古屋駅から空港まではシャトルバスで「18分」とあります。ホントかなぁと思っていたのですが、駅前から乗って納得。1分後には高速道路に上がっていたのです。中学生のころ小牧まで自転車で行ったことがありますが、2時間近くかかった記憶しかない私にはちょっとした驚きでした。10分ほどで高速を下り一般道に。3つ目の停留所が空港でした。

名古屋の空の玄関といえば、いまでこそ「中部国際(セントレア)」ですが、以前は「小牧【こまき】」の名で知られる空港でした。ただ、運用のされ方は大きく変わったようで、現在発着しているのはフジドリームエアラインという航空会社のみ。私たちもその名古屋→熊本便を利用しました。小さなプロペラ機ですが、この日はほぼ満席。熊本着陸の直前には、窓から立派なスタジアムが見えました。

 

空港からスタジアムまではシャトルバス。ボランティアの皆さん方のおかげでスムーズに案内され、15分も走ると駐車場に到着、そこからスタジアムまでは歩いて10分ほど。スタジアムの周りは広場になっていて、そここに三色旗を持った人が。もちろん、もう一方の手にはビールです。なぜか、スタジアム内で売られている“オフィシャルビール”=Heinekenを飲んでいる人はほとんど皆無。コンビニなどで買った一番搾りやスーパードライが目につきました。同じ500mlなのに、片や1000円、片や250円ほどですから、当然でしょう。もちろん、芝生の上に座り込んでワインを飲んでいるグループもいました。

スタジアムはといえば、もう立派のひと言。周辺は体育館など総合スポーツ公園になっており、このスタジアムもその一つ。ただし、陸上競技場と兼用なので、ラグビーやサッカーで使う場合はスタンドからピッチまでがたいそう遠いというのが、まあ難点といえば難点でしょうか。

 

 

昨日のカードはフランスvsトンガ。力の差はかなり大きいのでワンサイドゲームになるかもと予想していたのですが、どうしてどうして緊迫した内容で大満足でした。JAPANの試合ではないので、私たちも気が楽です。フランスからのサポーターの姿が予想以上に多く、場内にはときおり“Allez les Blue!!”の大合唱が響き渡ります。対するトンガのサポーターはほんのわずか。場内を見渡しても、どこにいるかさえわかりません。

試合前に披露するパフォーマンス「シビタウ」は、オールブラックスの「ハカ」に負けないくらいの迫力。その勢いそのままに、前半は17対7とフランスのリードも10点差です。ただ、南太平洋エリアの国々の通例で、トンガがバテそうな後半はフランスが縦横無尽に走り回るのかなぁと心配でした。ところが、後半7分にトライを決めてからは、全員がまるで生き返ったように、きびきびした動きに。ノーサイド直前までフィジカルも衰えることなく、フランスと互角の戦いを見せました。後半はフランスをノートライ・2ゴールのみに押さえ、トンガは逆に2トライ(2ゴール)。日本人の観客から「トンガ! トンガ!」の大声援が送られたのが力になったのかも。

終わると空港までシャトルバスで戻り、駐車場にとめておいたレンタカーで市内のホテルまで30分少々。夜8時にはチェックインできました。すぐ食事に出たのですが、日曜日の夜で早じまいの店も多く、入ったのは居酒屋。しかし、そこにも次から次へ、フランス人のグループが。日本語のメニューしかなく途方に暮れている風もありましたが、まあ、食べ物のことですから、最終的にはなんとかなるものです。

最後の最後に大ドラマが!

 

2019年10月6日
名古屋駅から電車で小1時間。豊田市駅前は豊田スタジアムをめざす人、人、人で身動きもままなりません。日本のファンにとっては大注目のサモア戦。かれこれ50年以上ラグビーを見てきた私ですが、今日は最後の最後まで手に汗を握りました。ノーサイドまで10分を切ったところでスコアは25対19と、JAPANのリード。サモアが1トライ1ゴールを決めれば、逆転できます。逆に、JAPANはこれで勝ったとしても、簡単には喜べません。予選プールを突破するには、勝つのはもちろん、ボーナスポイント1を加えておきたいからです。ボーナスポイントで上回っておけば、スコットランドと引き分けても、最悪負けたとしても、決勝トーナメントに進めます。

 

 

  

でも、わがJAPANはそれをやってのけました。それも、ほとんど“神った”という感じで! 開始早々からサモアを常にリードしてきたものの、ボーナスポイント獲得のためには何がなんでも4トライを取る必要があります。残り10分弱で2トライはかなりきつかったのですが。3本目は福岡堅樹、そして最後は松島幸太朗が決めてくれました。

とくに4本目のトライは圧巻。80分を過ぎる直前、サモア陣ゴールポスト前のスクラムからNO8の姫野和樹がボールを持ち出しハーフの田中史朗に。田中から絶妙のタイミングで左にいた松島にパス、そのままトライ! 松島の笑顔が印象的でした。もちろん、3万8千の観衆は大騒ぎ。私たちも前、後ろ、横にすわっていた人とハイタッチしていました。

今日の私たちの座席が、これまでで最高のポジション。グランドから10数メートルで、しかも前から5列目。選手たちの表情がよくわかります。試合前のウォーミングアップを見つめるジェイミー・ジョセフの凛々しい姿もばっちり見えました。

面白かったのは、試合後の両チームの“交歓”風景。サッカーでは、よくユニホームを交換し合うのが普通ですが、ラグビーではそうした習慣はありません。今日も、肩をたたき合いながらお互いの健闘を称えるまではいつもどおり。ところが、そのあとサモアの一選手がジャージを脱ぎ、日本の田村優(だったように見えました)に差し出したのです。それを機に、10人近くの選手がジャージを交換。なかにはパンツまで脱いで渡しているサモアの選手も。

これはホント異例の光景で、初めて目にしました。文字どおり「ノーサイド」です。サモアの選手も、この日の試合内容は100%とは言わないまでも、そうとうズシリと来たはずで、感極まってのことではないでしょうか。JAPAN代表の中にサモア出身のラファエレ(バックス・13番)選手がいたことも関係しているかもしれません。しかも、この日最初のトライをあげましたから。

気になったのは、JAPANに反則が多かったこと。今日のレフェリーはJAPANに厳しいことで知られているようですが、それにしても……という感じは否めません。ラグビーのレフェリーはほかのスポーツと違い、ゲーム中に「指導」をします。両チームの「協力」がないとゲームがスムーズに進行しない面があるので、レフェリーはその方向に持っていこうと、あれこれ口をはさむのです。スクラムを組むときがいちばん顕著ですが、ほかの局面でもレフェリーの声、ジェスチャー、あるいは選手と話しているシーンをしょっちゅう見聞きするはず。レフェリーがどのような考え方でゲームを進めようとしているのか、それを早くにキャッチしたチームのほうが優位に立てるというわけです。レフェリーの「指導」を素直そうに聞く選手もいれば、「この野郎!」といった表情を見せる選手もいます。ただ、そした態度がまたあとで響いてこないとも限りません。逆に、そうしたことにこだわらないレフェリーもいます。そうしたことも含め、レフェリーと付き合うことが大事なのです。

さて、この勝利で、これかで以上に“にわかラグビーファン”が増えるのは間違いありません。ラグビーが日常の話題になるような世の中になればしめたものです。スタジアムから豊田市駅まで30分近い道のりは日本人の観客でビッシリ。夜空に浮かぶ半月のもと、誰もが大きな声を出して話し、騒ぎながら興奮していました。私ももちろんその一人。ただ、帰りの電車の中では次戦以降のことを考えていました。

スコットランドに勝てば予選プールA組1位で突破するので、決勝トーナメントの初戦はニュージーランドでしょう。しかし、これではベスト8止まりでジエンド。できれば2位で突破し南アフリカと当たるほうが、希望的観測ですが、わずかながら期待の目もあります。そして、前回大会に続き南アを負かすようなことになれば、間違いなく世界的なニュースになるでしょう。そんなことを夢見ながら、13日のスコットランド戦を迎えましょう。

 

「世界陸上」より「ラグビーW杯」で正解

2019年10月5日
今年は4年に一度、「世界陸上」と「ラグビーW杯」が重なる年。4年前は陸上が北京で8月下旬、ラグビーがイギリスで9~10月と時期的にもずれていたので、両方とも
行くことができました。しかし、今年は時期が完全にカブっていますし、陸上のほうはドーハ(カタール)が開催地。1年前、今年の観戦計画を立て始めたころは、ギリギリ両方行けそうだとの思いもありました。たしかに、9月29日のオーストラリアvsウェールズ戦@味スタを終えたあと30日の午前0時5分羽田発の便でドーハに移動し、3日間観戦(プラス1日は観光か休養)。10月5日午前6時発の便で香港を経由して名古屋に戻ってくるというスケジュールは立てられるのですが、現実的にはどう考えても無理がありそうだと。結局、このプランはあきらめ、ラグビー一本に絞りました。

でも、これで正解だったと思います。その後、10月の初旬に大事な用件も入りましたし。何より、ドーハの自然条件がひどすぎるようです。昼の気温は40℃を越えるといいますし、スタジアムは空調が効いているといっても、20℃近い気温差となると、体がもたないでしょう。しかも、これは結果論ですが、期待の日本人選手もことごとく予選、準決で敗退。暑い中、スタジアムに足を運ぼうというモチベーションも下がります。いまごろ、こんなブログも書いてはいられなかったはずです。

いまは京都のホテル。昼間は、長年の念願がかなって桂離宮にも行けました。気候もようやく秋らしくなり、夜になると涼しく過ごせます。今日から10月11日まで7泊8日で、京都→豊田・名古屋→熊本→福岡→大分→日田→熊本→東京。明日は昼過ぎまで京都で仕事を片付け、そのあとは名古屋経由で豊田まで。夜は予選プールA組の重要な一戦=JAPANvsサモア。今日は桂離宮を見られたおかげでエネルギーも十分。パワー全開で声援できそうです。

 

 

夕食は駅隣接の伊勢丹の上にある名店「かつくら」でトンカツ(勝つ)。そのあと、地下の食品売り場で買った、林万昌堂の甘栗を食べながら南アフリカvsイタリアをテレビでゆっくり観戦しました。開幕2日目でオールブラックスに敗れた南アフリカですが、さすがイタリア相手だと、大人と子ども。7つのトライを重ね、49対3で圧勝です。11番(ウィング)のチェスリン・コルビの際立つ俊足、スタミナが印象に残りました。JAPANが予選プールを突破すると、決勝トーナメントで当たる可能性がある南アフリカですが、この選手は要注意でしょう。

中7日でスコットランド戦という利を活かしたい

2019年10月2日
9月30日の夜はテレビでスコットランドvsサモアの試合を観ました。前半終了時点ではスコットランドが20対0で優位に立っていました。ハーフタイムで引き揚げる両チームの選手は皆汗びっしょりで疲労感がありあり。気温・湿度ともかなり高かったようです。神戸のノエビアスタジアムは屋内なので、エアコンディショニングは万全のはずかと思いきや、私たちが観戦した日も、風通しがとても悪く、とにかく蒸しむししていました。トイレや買い物のためにスタンドを出ると、通路や階段には心地よい風が吹いており、その落差の大きいこと。しかも、通路にはプロジェクターがないため、おちおち並んでもいられません。昨夜もおそらくそれと同じだったのでしょう。

前半終了の前、スコットランドのFB(フルバック)スチュアート・ホッグが決めたDG(ドロップゴール)にはびっくりです。センターラインから数メートル相手陣内に入った、しかもそれなりに角度もある場所でしたから、まさかという感じ。一昨日書いたことがくつがえされても仕方ないような軌道を描いてポストの間を通り抜けていきました。

サモアはフィジカルも日本より上を行っている感じがしますし、個々の力量はかなりハイレベルです。ただ、ふだんは他国でプレーしている選手たちが、W杯のときだけ召集されるため、まとまりという点ではいまひとつ。高温多湿のコンディションには慣れているはずですが、それでも昨夜はかなり参っていたようです。

最終スコアは0対37で、ボーナスポイントも献上。もっとも、それを決めた4本目のトライに対する判定はかなりビミョーな感じで、残念です。スコットランドは前回大会、南ア戦に勝った4日後にJAPANがあいまみえた相手。今大会も、JAPANが決勝トーナメントに進むにあたっては、絶対に負けられません。もちろん、その前にサモアを倒すのが前提条件。できれば、ボーナスポイント1も取りたいところです。

さて、一昨日の試合が終わった時点での予選プールA組の順位と今後の試合予定はというと。
1位 JAPAN 2勝 中6日でサモア 中7日でスコットランド 15日間で2試合
2位 アイルランド 1勝1敗 中4日でロシア 中8日でサモア 14日間で2試合
3位 サモア 1勝1敗 中4日で日本 中6日でアイルランド 12日間で2試合
4位 スコットランド 1勝1敗 中8日でロシア 中3日でJAPAN 13日間で2試合
5位 ロシア 2敗 中8日でスコットランド、中8日でアイルランド 18日間で2試合
上位4カ国ではJAPANがいちばん優位で、以下アイルランド→スコットランド→サモアの順です。スコットランドは中3日で中7日のJAPANと戦うことになり、前回大会とは真逆となります。JAPANとしては、なんとかそれを活かしたいですね。スコットランドのヘッドコーチは不満を漏らしているようですが(下記の記事)、それは気にする必要ありません。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191002-00000005-asahi-spo

黄色と赤の戦いは、赤に軍配

2019年9月30日
28日の夜遅く、アイルランド戦勝利の興奮に酔いしれながら帰京。しかし、昨日はゆっくりする間もなく、午後ちょっと遅めに家を出てウェールズvsオーストラリア戦(予選プールD組)に。1週間ぶりの味スタです。日本の試合ではないので、京王線新宿駅で乗る客は外国人の姿が目立ちます。飛田給駅周辺もゴールドイエロー(オーストラリア)と赤(ウェールズ)のレプリカジャージを身に着けた大男のグループが缶ビール片手でそこいら中にたむろし、歩道を歩いていました。ゴールドイエローは膨張色ですし、騒ぎ方もウェールズより派手で、声も大きいので、一瞬ここはオーストラリアかと錯覚してしまうほど。

 

試合は開始早々、ウェールズの司令塔(スタンドオフSO)ダン・ビガーのDG(ドロップゴール)が決まり、観客の度肝を抜きました。キックオフから36秒後の得点はW杯史上最短だそうです。ダン・ビガーは2013年6月15日、エディー・ジョーンズ率いるJAPANと秩父宮でテストマッチを戦ったときも同じポジションで出場していましたが、昨日はさっそくのDGで、昔からのファンは「さすが!」と思ったのではないでしょうか。ちなみに、そのときは、今回JAPAN代表になっている堀江翔太、田中史朗、福岡堅樹、田村優も出場しており、ウェールズに初めて勝ったというので大騒ぎになりました。

さて、DG(ドロップゴール)は俗に“飛び道具”ともいいますが、日本のラグビーではあまりお目にかかれません。ヨーロッパ、南半球ではひんぱんにとまでは言わないものの、それほど珍しいものではないようです。2003年W杯の決勝、イングランドの司令塔ジョニー・ウィルキンソンが決めたドロップゴールはあまりにも有名です。延長後半ロスタイムのことで、オーストラリアはこの一発に沈み、優勝を逃したのです。youtubeでぜひご覧ください。

www.youtube.com/watch?v=rpmsCUk0pKA

DGは、23メートルラインをはさんだあたり、それもゴールポストのほぼ正面に近いエリアから、いったんグラウンドにはずませたボールを蹴り、それがポストの間を通過すれば成功=3点なのですが、ふだん見慣れているスクラムやラインアウト、密集戦(モール、ラック)がラグビーだと思い込んでいる人からすると、一瞬「えっ、どうしたの?」と驚いてしまいます。選手たち、とくにFWからすると、感覚的にはそれに近いものがありそうですが、3点取れるわけですから、えらく得をしたような気持ちになるのではないでしょうか。

というわけでオーストラリ側にはいささかショッキングなスタートだったのですが、前半20分くらいまでは、ウェールズが縦横無尽に動き回っていました。アイルランドに似てさほど派手さはありませんが、実力はかなり上。現に、今年のシックスネーションズ(ヨーロッパの6カ国による総当たりリーグ戦)ではみごと全勝優勝しています。ただ、W杯では1987年の3位が最高で、ベスト8までは行ってもそこから先まではなかなか勝ち上がれずに来ました(2011年は4位)。しかし、今日オーストラリアの追撃を振り切り勝った(29対25)ことで、この先が楽しみです。

昨日は席がバックスタンド側、しかもかなり上のほうで階段の昇り降りがきつかったため、帰りはどうしようか悩んでいました。正面まで回って京王線に乗るのはしんどそうで……。そこで、とりあえずバックスタンド側から地上に降りてみたところ、JR中央線の武蔵境駅までノンストップで行くバスが用意されていることがわかり、それを利用することに。一昨日の静岡エコパスタジアムのように、交通の便が限られているところに比べると大助かりです。こういうときは、都会の便利さを痛感しますね。

 

今度はアイルランド相手にGiant killing!!

2019年9月28日

またまた、歴史が動きました。ランキング2位のアイルランドから大金星をあげたのです。もう、なんと言っていいのか! その瞬間、世界中のメディアにニュースが流れたそうですが、今大会の優勝候補にあげられている国の一つとなれば、それも当然かも。スタジアムは歓喜と感動に包まれました。最後は日本らしく、万歳三唱です。

 

ラガーマンである私も喜びました。ただ、 4年前南アフリカを破ったときほど、感動はしませんでした。このときは号泣してしまったのですが、今回は目頭がウルウルした程度。そう、アイルランドを負かしても不思議ではないくらJAPANは強くなっていたのです。

 

この試合、とにかくディフェンスがすごかった。鬼気迫るというか、とにかくしつっこく、しかも穴がほとんどなし。二人がかりのタックルも最後まで途切れません。開始から15分ほどはアイルランドの巧みなキックパスに2度もやられてしまいましたが、それ以降は、相手の好きに蹴らせることもありませんでした。日本の強力なディフェンスに、アイルランドはキックをしたくてもできなかったのでしょう。

“脚をもがれた”アイルランドは以後ほとんど何もできずじまい。前半こそ9対12でしたが、後半は完封。ノーサイド10分前にJAPANは福岡堅樹のトライ(コンバージョンも成功)で12対16とし、最後はさらにPKを1本加え、1トライ+1ゴールを入れられても負けはないスコア=19対12で歴史的な勝利をもぎ取りました! 終了間際、相手パスをインターセプトした福岡の独走が実ればさらに5~7点を上乗せし、アイルランドのボーナスポイントも与えずに済んだのですが、惜しいことをしました。

「規律」という点でもJAPANはアイルランドを上回っていたように思います。反則数は6、相手のPKにつながりやすい自陣での反則は1回きり。POTM(最高殊勲選手)にはFW(フッカー)の堀江翔太が選ばれましたが、私個人は、キャプテンのリーチマイケルとSH(スクラムハーフ)の田中史朗【ふみあき】の二人の貢献度が大きいと思っています。リーチは前半30分から交代出場でしたが、すさまじいタックルを連発、また田中は福岡のトライにつながるパス出しで貢献しました。FW第3列・姫野和樹の動きも素晴らしかったですし。

もう一つは、5万近い観客の6割を占める日本のサポーターの声援も勝利を後押ししました。前半途中までは、アイルランドサポーターの声が予想以上に大きかったのですが、ハーフタイムまであと10数分頃からほとんど聞こえなくなりました。それに代わり、「ニッポン・チャチャチャ!」の大声援がスタジアム全体に響き渡り、スタンドが揺れるほど。これほど大音量の声が選手にも届かないはずがありません。間違いなく、大きな勇気を得たのではないでしょうか。

 

スタジアムを出て最寄りの愛野駅(東海道線)に向かっているとき、後ろで花火の音が。JAPANの勝利を祝福するかのように花火が上がりました。「いやー、ラグビーって面白いなぁ」と思った客もいっぱいいたにちがいありません。もちろん、テレビやPV(パブリックビューイング)で楽しんだ人も同様。願わくは、こうしたことがきっかけになってラグビーファン、さらには競技人口も増えてほしいものです。一瞬で消えてしまう花火のようにではなく……。

 

現時点で予選プールB組のトップに立ったJAPAN。ただ、これで決勝トーナメント進出が決まったわけではありません。帰りの新幹線、喫煙ブースで一緒になったアイルランドサポーターに「どうだった、今日のゲームは。これでJAPANは1位通過だよね」と話しかけられました。「でも、ひょっとしてスコットランドにやられる心配もあるよ」と答えると、「大丈夫、大丈夫。オレたちと一緒に決勝トーナメントに行こうぜ!」と励まされました。ただ、ラグビーは番狂わせが少ないスポーツですから、アイルランドに完敗したとはいえ世界ランキングでは日本より上のスコットランドが逆襲してくる可能性は十分あります。それに、今日の試合でアイルランドがボーナスポイントを1確保したことで、プール戦の最終順位がどうなるかも気がかりですし。

“日本ラグビーの父”のお墓は神戸に

2019年9月27日
今回のラグビー観戦取材「第一シリーズ」も明日で最後。今日はオフの日です。明日の朝まで神戸なので、ゆっくりもできたのですが、一つ果たしたいことがありました。六甲山の中腹、再度【ふたたび】公園の一角にある神戸市立外国人墓地に、ラグビーを日本に伝えたイギリス人の墓があると知り、そこを訪れてみたいと思っていたのです。

エドワード・ブラムウェル・クラーク(Edward Bramwell Clarke)は、横浜生まれのイギリス人英語教師で、慶應義塾、第一高等学校、東京高等師範学校、第三高等学校、京都帝国大学などで教鞭をとりました。いったんイギリスに戻りましたが再び来日、慶應で教壇に立っていた1899年、ケンブリッジ大学留学から戻った田中銀之助の協力を得ながら、学生たちにラグビーを指導したことから、「日本ラグビーの父」とされています。その後クラークは京都に移りましたが、有馬温泉にも足を運ぶなど、神戸との縁も深かったようです。

再度公園の一帯は多くの松が生え、中にある池とあいまって、美しい空間を作っています。墓地の入口まで歩いていったのですが、残念ながら親族や遺族など関係者しか中には入れないようで、展望台からながめることしかできず。14ヘクタール広大な墓地のどこにクラークが眠っているのか、想像するしかありませんが、見つけるのは難しそうです。とりあえず、タウン誌『月刊 神戸っ子』のウェブサイトに墓石の写真が出ていたので、転載させていただきますが、毎月一度見学会が催されているようなので、いずれそれに参加してみようと思います。

 

六甲山から再び神戸の街中に下り、夕食。横浜のときにならい、元町近くの南京町でまたまた中華。ひいきにしている「民生」という店でお腹いっぱいに。これだけ食べてパワーをつけておけば、あすのJAPANvsアイルランド戦@エコパスタジアムの応援にも力が入るはずです。

 

イングランドvsアメリカの“親子”対決

2019年9月26日
仙台から伊丹のフライトが1時間遅れ。伊丹空港で乗客がナイフを持ち込んだとかで所持品検査のやり直しがあり、欠航した便もあったという中、とりあえず、飛んでよかったです。前橋上空で雲の上から頭だけ出した富士山が。どこをどう切り取っても、美しいですね。

伊丹からリムジンバスで神戸の三宮。「このバスは法定速度で運転してまいります」の“宣言”どおり、最初から最後まで、みごとな順法運転ぶり。ただ、客にとってはもどかしい感じもします。今日のように、フライトが予定より大幅遅れの場合はとくに。

ホテルを出て三宮駅から続くSOGOデパート地下で観戦時の食料を確保。昨日から、食べ物の持ち込みが認められたのです。地下鉄で5つ目の御崎公園で降り、そこから15分ほど歩くとノエビアスタジアムに。今日はイングランドvsアメリカ。旧宗主国と旧植民地の対決です。その図式はラグビーにもそっくり当てはまり、実力の差は歴然。アメリカではなぜか、サッカーもラグビーもあまり広まらなかったようです。その代わりが野球とアメリカンフットボールなのですが、それでも近年はサッカー、そしてラグビーのプロ化が始まりました。

ただ、それはそれとして、予選を突破して本大会に出てくるくらいですから、そこそこの力は備えています。しかし、この日はまるで覇気がないというか、ノーサイド間際までまったくいいところなし。最後にようやく1本トライを返し、意地を見せたものの、ちょっと……という印象は拭えません。

それより、ラグビーというスポーツの第一原則である「品位」を感じさせたのがイングランドのプレー。45対0というワンサイドゲームですから、終了間際にキープしたボールをサイドラインの外に蹴り出せばよかったのですが、さらに攻撃を続けたのです。しかし、それがアダとなり、アメリカにボールを奪われ、最後にトライを許してしまいました。レフェリーのホイッスルが鳴るまでゲームはやめないという、ラグビーの基本精神がそこにはあらわれていたように思います。

 

釜石は、絶好のラグビー日和!

2019年9月25日

朝から真っ青な空が広がっています。W杯の観戦も、今日で4戦目。フィジー vsウルグアイです。仙台で東北新幹線の各駅停車に乗り北上【きたかみ】まで小1時間、そこから釜石までバスでさらに1時間20分ほど走ります。できてまだ間もない三陸道を走り、バスの駐車場に。そこから鵜住居【うのすまい】復興スタジアムまでは歩いて15分。土の道なので、晴れてホントよかったです。

スタジアムのまわりには、みごとなほど何もありません。この一帯は、8年前の大震災+津波で何もかも流されてしまったからです。小高い丘のふもとに、すぐにそれとわかる建物が見えます。スタジアムというより、球技場の言葉のほうがふさわしい感じ。それでも、仮設スタンドを含めると1万6千人、本体だけなら6千人収容とのこと。大型映像装置も2台ついていて、フラストレーションなく観戦することができます。陸上競技用のトラックがない、ラグビー(もしくはサッカー)専用なので、最前列など、ほとんど手が届きそうな感じで観戦できますし、最上段でも、とても近くに感じます。

2011年のW杯、ニュージーランドのファンガレイ(Whangarei)でおこなわれたJAPAN vsトンガ戦(18対31で負け)を思い出しました。オークランドからバスで2時間半、途中目にしたのは羊だけと言ってもいいほど田舎にある町で、スタジアムは仮設スタンドも含め2万人収容。このときもやはり土の道を歩いていきました。でも、大きくて立派なスタジアムとはまた違う、素朴な雰囲気がいいのです。

スタンドのまわりに並ぶ売店もそれぞれ個性的。飲み物はどこも共通ですが、食べ物は東北各地のローカルなメニューを販売しています。売り手も、岩手県人ならではのほのぼのとした優しさがいっぱい。軽く言葉を交わしながら好みの物を買い、温かな日の光とさわやかな風が頬をなでる中、ベンチや芝生の上に座り込んで飲んだり食べたりしながらキックオフを待つファンがいっぱいいました。コンクリートで作られた、いかにもといった感じの都市型スタジアムとはまったく違う味わいがあります。

かつて、新日鉄釜石が日本選手権7連覇を達成した時代、釜石とその周辺に暮らす人たちにとってはラグビーが日常だったはず。シーズンともなれば、昼も夜もラグビーの話で盛り上がっていたにちがいありません。いまで言うと、サッカーJリーグ、バスケットボールBリーグのチームがある地方都市も同じような雰囲気があるのでしょう。そうした意味では先駆者ともいえる釜石。そうした頃の名残かもしれません。

両国国歌の演奏の前に、東日本大震災で亡くなった方々の冥福を祈り、黙とうをささげました。また、空にはブルーインパルスが編隊飛行で祝福します。

試合は、スコッド31人中9人がアマチュアで、世界ランキングも19位という格下のウルグアイが、W杯では毎回健闘し、いまもランキング10位のフィジーを相手に堂々と渡り合い、最後は30対27で勝利。メインスタンドに陣取っていた100人近いウルグアイ人サポーターを喜ばせました。私たちが観戦したバックスタンドにも3人の熱いサポーターがおり、大きな声を張り上げていたのが印象に残ります。帰りも順調で、スタジアムから北上の駅まで渋滞もなく到着。茜色に彩られた西の空がきれいでした。

ラグビーとおはぎの不思議な関係

2019年9月24日

まずは今夜の結果から。ロシアvsサモア。日本と同じプールの対戦ですが、サモアが地力を発揮しロシアを圧倒、34対9。ボーナスポイントも獲得し、現時点でプールAのトップに立ちました。

さて、今日は移動日です。明日午後のフィジーvsウルグアイ戦がおこなわれる釜石まで東京から当日行くのはいささかきついので、仙台で前泊する計画を立てました。とはいっても、「事のついでに」が大好きな私なので、そこにいくつか“おまけ”をつけずにいられません。

今回の“おまけ”は、仙台から車で30分ほどのところにある秋保温泉のスーパーが製造販売しているおはぎ、そして八木橋動物公園。おはぎは家人がたまたま見ていた番組で紹介されていたもの。秋保温泉の一角にあるスーパー「主婦の店さいち」で売られていて、毎日、朝から行列をして買う客が絶えないというのです。駅でレンタカーを借り、行ってみました。

平屋建ての、さして大きくもないスーパーなのに、駐車場が3カ所もあり、しかも警備員までいます。そこへ次から次へ車が入ってきて一目散に店の中に。もちろん、食料品や生活用品を買いに来る客もいるようですが、3分の2はおはぎ買いの客。狭い売り場の一角に並べられているのですが、どの客も5パック、10パックとバスケットに入れていきます。話を聞いていると、自分たち用に隣人やお客さん用などを一緒に買っているようです。

あずき、きなこ、ごまの3種類があり、それぞれ2個入り・3個入り・6個入りのパックになっています。もちろん、2種混合、3種混合も用意されています。どれも1個100円ですから、3個入りを5箱買っても1500円。安いものです。それでいて、一つの大きさは縦7センチ、横5センチほど。

あずきときなこ、2個入りを1パックずつ買いました。正直、3種すべてほしかったのですが、いくらなんでも私と家人の2人で6個は食べきれなさそうなので自重。しかし、これがもう、とんでもないあんこの量(もち米は全体のボリュームの2割ほどでしょうか)。子どものころ食べたぼた餅を思い出させます。あずきの自然な甘さが前面に出てきて、とてもいい感じ。生まれて初めての超弩級のおいしさに感動しました。文字どおりの“スーパーおはぎ”です。

 

ラグビーのJAPAN代表チームも、ロシア戦が始まる4時間前に食べる「マッチミール」でおはぎを食べたといいます。「……用意されるのは、あんこのおはぎ。今季から選手の要望を受け、エネルギー源となり、腹持ちが良い逸品がビュッフェに並ぶようになった。あんこの材料になる小豆は、邪気を払う縁起物ともされる」(日刊スポーツ)。“ONE TEAM”を合言葉に今大会に臨んでいる選手たちのきずなの一つがおはぎだったとは! 私たちもそれに続いたというわけです(笑)。

大会前、宮崎で合宿していた選手たちに、ラグビーW杯2019のPRキャプテンを務める舘ひろしが、石原軍団御用達というサザエ食品のおはぎ500個を差し入れしたという記事も出ていました。ちなみに、舘ひろしは私より1学年上で、名古屋の千種【ちくさ】高校ラグビー部。私が明和高校ラグビー部にいたとき一度だけ試合をしたことがあります(もちろん、当時は彼の存在など知る由もありませんでしたが)。その当時は明和高校のほうが強かったので勝ちましたが、その後(1999年、2002年)千種高校は花園に出るくらい強くなりました。

もう一つちなみに、サザエ食品の十勝おはぎ(同社の発祥は函館)は、これまで私がいちばんひいきにしていたもの。いまからもう40年近く前、初めて口にしたときは「世の中に、これほどうまいおはぎがあったとは!」と仰天しました。しかし、今日食べた「主婦の店さいち」には一歩及ばない感じがします。