港と道路が消えたら、どんなに栄えた街もパワーを失ってしまう

●羽州街道━━。名前はともかく、どこをどう通っているのか、正直ほとんど知りませんでした。でも今回、1週間かけゆっくり走り抜けてみると、穴場というか、名前は知られていなくても一見の価値があるスポットが点在していることがわかりました。最後の宿泊地・弘前を出て向かった黒石市もその一つ。羽州街道の宿場ではありませんが、小さな城下町としてにぎわっていたようです。


●往時の面影を残すのが中町こみせ通り。「こみせ」とは、両側に並ぶ店が、雪が降ってもお客が楽に出入りできるように、道路との間に作った、いまでいうアーケードのこと。道路と接する部分にも防雪用の板を立てるなど、こまやかな気遣いが行き届いた街並みは、重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。


●津軽三味線の演奏会などさまざまなイベントを催すなどして集客を図っているようですが、ひっそり感は否めません。知名度がいまひとつなのは、宣伝力が弱いのかも。でも、「津軽の三ふり(①えふり=いいふり・いいかっこする②へふり=ないのにあるふりをする③おべだふり=知ったかぶりをする)」からすると、そうでもなさそうな気もするのですが。


●ツアーのゴール油川宿は、羽州街道の終点であるとともに松前街道の起点。しかし、明治に入って新しい道路が作られて以降はすっかりさびれてしまいました。北前船でにぎわった港も青森に一本化され、いまでは「羽州街道 松前街道 合流之地」と記された碑と、黒石と同じような「こみせ」を残す蔵元(元は近江商人)が当時をしのばせるくらいです。海上交通の重みを改めて実感した次第。(2022/7/27)

朝ご飯をもう一度、ならばもう一泊。な〜んて旅があってもいい

●ツアー最終日は弘前泊。有名なのにさほどにぎにぎしくない駅前に建つシティホテルでした。東京あたりなら”過去の遺物”扱いされそうなフツーの外観。でもこれが大当たり! 朝食がずば抜けて素晴らしかったのです。

●ホテルの朝食というと、国内外を問わずバイキングが標準仕様。ただ、ヨーロッパでは、それぞれの国・地域・都市の個性がよく出ていて十分楽しめます。ここも同じで、地元で獲れた旬の野菜・果物、肉、乳製品を駆使したメニューが多彩(ガーリック豚の極上ハム、ほたてとリンゴの炊き込みご飯、板きり麩すき煮仕立て、いがめんち、若鶏の源たれ焼き、けの汁など)で、どれを皿に載せるか迷いっぱなし。1回(1泊)ではとても食べきれません。


●日本の観光地が海外のそれと決定的に違うのは、「滞在」「連泊」を想定していないこと。休暇は英語でvacation、フランス語ではvacanceですが、どちらも、ラテン語で「空っぽ」を意味する vaco に由来しています。体も頭も空っぽにするのが休暇の本来の目的なのでしょう。それには、何もせずにぼーっとしているのが一番。でも働き者の日本人は、そんなふうに時間を過ごすと罪悪感にさいなまれてしまうのかも。


●旅に出ると、1日目はここに行って、2日目はああしてこうして……と目いっぱい詰め込まずにはいられない、なんとも悲しい性[さが]というか。当然、同じところに何泊もしてのんびり、などという発想はありません。ようやくここ数年、欧米風の休み方に合わせたホテルや旅館、あるいはツアープランも現れ始め、個人的にはとてもうれしく思っています。ここの朝飯を食べたいからもう1泊━━そんな旅があってもいいですよね。(2022/7/24)

コロナ禍で海外の観光客が来なくなったらお手上げ、では情けない

● ツアー6日目は、大館宿からバスで30分、青森県との境にある矢立[やたて]峠から。標高258mとさほど高くはありませんが、天然の秋田杉の間を縫うように作られた遊歩道はまさに昼なお暗き態(てい)。吉田松陰、前田利家、伊能忠敬、高山彦九郎、明治天皇、大久保利通、イザベラ・バードなど、歴史にその名を残す人たちもこの地を訪れています。


●峠を下ったところにある碇ヶ関[いかりがせき]は江戸時代、箱根より厳しい取り調べがおこなわれた関所といいます。ここを抜けると温泉とスキーで有名な大鰐[おおわに]宿。一時は熱海と競うほどのにぎわいを見せていたようですが、いまその面影はまったくなし。


●コロナ禍の前は、全国の観光地の多くがインバウンド(といっても、そのほとんどは中国から)需要の恩恵に浴していました。さほど努力をしなくても次々やってくるツアー客に浮かれていた業者も少なくなかったはず。それがもう2年以上もストップしているのですから、沈没していくところがあっても不思議ではありません。


●インバウンドの中でもお金持ちに狙いを絞っていたところもあります。いまは国内の富裕層が相手なのでしょうが、1泊2食付きで1人5〜10万円もする旅館やホテルを利用する人がそれほどいるのかとなると。まして観光地としては地味な北東北ですし。「旅」に求めるものがますます多様化しているいま、どこまで創意と工夫を凝らせるかが、これからの浮沈を左右しそうです。(2022/7/23)

落ち着いた空気に心が休まるのは、歳を取った証拠!?

●最上川の舟下りを終えた日の宿は新庄。山形新幹線の開通を機に新駅舎ができ、周辺を大々的に整備、ガラス張りの巨大な地域交流施設も建っています。ただ、利用しているのは高校生ばかりで、駅前の商店街は人っ子ひとりいません。人口減に歯止めがかからない地方都市の、ある種典型的な姿を呈しています。


●ツアー4日目、最初の訪問地は山形県最後の宿場となる金山[かねやま]町。二度目の訪問ですが、「美しいまちなみ大賞」に輝いている心地よい空間に改めて感動。当地特産の杉で造った木造の橋から川や山々を見ているだけで、ほっこりした気持ちになります。


●秋田県に入り八代目佐藤養助総本店の稲庭うどんでランチの後、前総理の故郷でもある湯沢を経て「蔵の町」増田(横手市)へ。旧羽州街道の両サイドには、家の中に蔵がある大きな商家(奥行き110〜120m!!)がズラーっと建ち並び、重要伝統的建造物群保存地区にも選定されています。吉永小百合が出ていたJR東日本のCMをご記憶の方もいるのではないでしょうか。


●それにしても、蔵の規模、お金のかけ具合には驚くばかり。いま実際に人が暮らす家の中にあり、しかも使われているので、ホコリっぽさとは無縁。金山町もそうでしたが、いかにもそれっぽいカフェとか安直な土産物店もなく、ゆっくり落ち着いて楽しめる観光地といえます。早い話、それだけ歳を取ったのかも。(2022/7/21)

雨の山寺にはお手上げ。それでも……。

●「羽州街道の旅」初日は福島駅からバスで15分ほど、皇室献上桃の産地・桑折[こおり]が出発点です。この地で奥州街道から分岐する脇往還[わきおうかん]なので、東海道や中山道ほどメジャーではありません。宿場の名を聞いても知らないところばかり。


●そんな中、1泊目の上山[かみのやま]宿は、以前”日本一おいしい芋煮を食べる会”のイベントで泊まったこともある町。宿場町でありながら城下町、しかも温泉まであるというレアな存在なのだとか。有馬屋、しまづなどの名を冠した旅館があるのは、明治初期に県令(いまの知事)を務めた薩摩藩士・三島通庸[みちつね]との縁でしょうか。”土木県令”とも呼ばれ、県内の道路・橋梁・トンネルなどインフラ整備に辣腕をふるった三島ですが、サクランボ栽培の普及にも貢献しています。


●しかし、この日の焦眉はやはり立石寺[りっしゃくじ]。別名を山寺というように、頂上近くの奥之院までは1015段。根本中堂から始まり、途中、開山堂、納経堂などいくつかのお堂や仁王門、松尾芭蕉が「閑さや岩にしみ入る蝉の声」を詠んだ場所も。1時間半かけて登りきったのですが、ひどい雨で、全身ほとんどずぶ濡れになりました。


●山の上からの景観どころか、見えたのは雲と霧のみ。それでも、達成感はひとしおで、天に少しでも近づきたいという人間の本性に偽りはなさそうです。それに加え、登り口にある売店で食べたさくらんぼソフトクリームのおいしかったこと。これも三島通庸のおかげでしょうか。せっかくなので一句。
 山寺の雨もかなわぬ桜桃━━(笑)。(2022/7/19)

大きな仕事にひと区切り。7/18から長めの息抜き旅です

●ここ2週間、リフォーム工事もありほとんど缶詰め状態だったため、仕事には集中できました。いまだかつてないボリュームの本の編集を仰せつかり、なかなか前に進めずにいたのですが、思わぬ形で最後のスパートがかない、ひと区切り。もちろん第二ラウンドが控えてはいるのですが、まずはほっとしました。


●この2年半コロナ禍もあり、それまでは”日常”だった国内外の旅がほほストップ。あるのは家事の手伝いと仕事だけという状態が続いていましたが、時間がたっぷりあるからといって仕事がはかどるわけではありません。私の場合ある程度時間を限らないと、かえってダラダラしてしまうのです。たまたま、明日から1週間旅に出る予定を組んでいたので、それが効いたのでしょう。


●仕事の対極にあるのは遊びと、よく言われます。なかには、来る日も来る日も、朝から晩まで仕事に励む人もいます。でも、休みや遊びが適当に混じり合っていてこそ仕事もはかどり、しかもそのレベルも上がるというのが私のパターン。そのメリハリをうまくつけられるかどうかが、私のような自由業の者には大事だと思っています。


●自由業の定義は「一定の雇用関係によらず、また時間に束縛されることもなく、独立して営む職業」。なんだかいいことずくめのようですが、そこには先のような落とし穴も。コロナ禍がなければ、いまごろはアメリカのオレゴン州ユージーンで世界陸上を楽しんでいるはずでした。今回それはかなわなかったので、せめて18日から出かける「羽州街道の旅」で憂さ晴らしをしようかと思っています。(2022/7/18)

銭湯も子どもにとってはこの上ない体験

●先週はキッチン、今週はバスルーム+洗面所のリフォームで、家の中は、1年前こちらに引っ越してきたときのようなしっちゃかめっちゃか状態。風呂が使えないので、先日小4の孫(男の子)を連れて銭湯に行きました。昔に比べ数が激減している銭湯ですが、いまの住まいから自転車で5分ほどのところにあり大助かり。*写真はホームページから借用しました。

●孫にとって2回目、私自身も、温泉やビジネスホテルの大浴場は別として10数年ぶりの銭湯です。でも、そこに息づく”文化”、たとえば見知らぬ人とのコミュニケーションはいまでも健在のよう。

●お湯の中で大湯舟の湯に脚を入れたとたん「熱ーっ!」と叫んだ孫を見て、職人っぽいおじさんが(隅のほうを指差しながら)「ここから入んな、熱くねーから」と教えてくれたかと思うと、別のご隠居さん風がそこにある水道栓をひねって水を出し、「こうすればさっと入れるよ」などと、矢継ぎ早に声をかけてくれていました。ここでは新顔の孫は、常連客からすると格好の”刺激材”だったのかもしれません。

●帰宅後、母親に「みんなが優しくしてくれて楽しかった」と笑顔で報告していました。子どもにとっては貴重な体験になったのでしょう。お金のかかる海外旅行でも行かないと満足できない大人の私たちと違い、たかだか200円で目いっぱい楽しめてしまうのですから、とても安上がり。いまの時代、どこで「貴重な体験」ができるのかわかりません。(2022/7/16)

後半30分過ぎまでフランスをリードしていたのに……惜しい!

●先週土曜日、今夏のラグビーテストマッチ最後となるフランス戦を観に行きました。新しい国立競技場では初のテストマッチで、観衆は史上最高の57000超え。座席は5月のリーグワン決勝戦に凝り、今回はカテゴリー1のメインスタンドを購入。おかげで座席にも多少余裕があり、しかもときおり風も吹き抜けたりして、とても快適でした。


●何より素晴らしかったのは、あわやというところまでJAPANが迫ったこと。最後はフランスの部厚い壁にはね返され、15対20で敗れはしたものの、半世紀近くもの間弱いJAPANしか知らずにきた私のような世代の者にとっては、信じられないような光景です。2015年のW杯で南アフリカに勝てたことが、JAPANを大きく変えたのでしょう。


●もちろん、選手の3分の2近くが外国人ではありますが、それはそれ。近ごろは日本のどのスポーツでもこれに似た現象が見られるように、奇異なことではありません。”○○人”などということにこだわるのはもはやナンセンス。いまの世界に純血種の人などほとんどいないのですから。


●ちなみに、この週末、常勝オールブラックスが地元ニュージーランドでアイルランドに敗れたこともあり、フランスが初めて世界ランク1位にのし上がりました。フランスだって、かつてはシャンパンラグビーなどと揶揄されていたくらい、むらっ気の多いチーム。それがいまやトップなのですから、JAPANにとっても大きなチャンス。今年3回目となるテストマッチでのリベンジに期待しましょう。(2022/7/11)

冷たい目で見られても、元気になれるタバコは断てません

●事が起こらないと何も書けない。物を目にしないと手が動かない━━。どちらも言い訳ですが、先週までは異常な暑さで、誰しも事や物から縁遠かったのではないでしょうか。「これではまずい、今日こそは……」と思って、起きしなタバコを喫いに玄関のドアを開けると、朝6時前だというのに強烈な陽射しが。これでは気持ちが萎えても当然かも。

●そのタバコ、ここ10年以上喫っているのがAmerican Spirit 。オーガニック栽培の葉から作られているので「体にいいタバコ」と自慢しています(もちろん、誰も同意してはくれませんが)。これまでは20本入りだけでしたが、今月から14本入りが発売に。ここ2年、1日の本数を減らしている私にとってはとてもありがたい商品で、さっそくそちらに切り換えました。

●昨日から我が家はキッチンのリフォーム工事がスタート。いま収まっている食器やら何やかやすべてを一時的に移動するのに、前夜は家族総出。換気扇も取り外されたため、タバコは玄関の外だけ。それでも、友人が贈ってくれた灰皿スタンドのおかけで、堂々とタバコを喫えるのはありがたいかぎりです。

●今日は、午前中から夕方まで日比谷図書文化館で会合。昼食は、木々の美しい緑の下を歩いて、久しぶりに松本楼へ。夏は、さほど暑くなくても、ビールにビーフ(カレー)の組み合わせに勝るものはありません。沢ユリがいまを盛りと咲き競う園内をゆっくり歩きながら、人から見えない場所で食後の一服。午後のセッションも元気に臨めました。(2022/7/5)

ハッキング小説を読み終えた翌日、ハッキングに遭う

●コロナ禍で外に出る時間が減ったおかげで、読書の量が増えました。新刊もさることながら、圧倒的に多いのが”積ん読”本。昨年の引っ越し時そうした類をゴッソリ処分したのですが、これはと思うものは取り置いていました。その中の1冊が『青い虚空』というアメリカのミステリーで、620ページの長編。読み始めたら止まりませんでした。

●21年も前の作品で、ひとことで言うと、邪悪なハッカーを正義のハッカーが追跡するというストーリー。専門用語もかなり出てくるので、私のようなコンピューターのど素人にとってはしんどいのではと思いきや、勢いで突破してしまいました。いつもながら、作者ジェフリー・ディーヴァーの腕には舌を巻くばかり。

●ところが、読み終えた翌日、なんと自分のFacebookが”乗っ取り”に遭ってしまったのです。まさか自分がと驚きましたが、ハッキングをきわめれば人を殺すことさえできるという先の小説に比べればかわいいもので、動揺もさほどではありませんでした。とはいえ、私のアカウントを乗っ取った者が、Facebookの友だちにあれこれちょっかいをかけることについては、もうお詫びするしかありません。

●四方八方あたって手を尽くし、FBのアカウントはなんとか取り戻せました。というわけで、再出発の第一弾として取り上げた次第。この記事をアップしようとした矢先、先週半ば、高校の同期生が銀座で開いたグループ展で購入した絵が届きました。「WOW 太陽がいっぱい」のタイトルどおり、今日もまた酷暑の一日になりそうです。(2022/6/30)

花菖蒲、鏑木清方、ポンペイよりもイタリアン!

●京都2日目は、小学校の修学旅行以来60年ぶりという平安神宮の神苑から。應天門に貼られた「花菖蒲見頃」の文字が期待をそそります。神苑とは庭園のことですが、大きな池に群生する2千株の花菖蒲は圧巻。お昼近い時間でしたが、蓮の花もまだ開いたままで、朝早ければ池の水面が見えないほどだったかも。

●平安神宮周辺は一大文化ゾーンになっていて、そこから歩いて5分のところにある国立京都近代美術館が、3連チャンの二つ目、「鏑木清方」展の会場。中に入るまでは有名な美人画家といった認識くらいしかありませんでしたが、自身の無知を思い知らされました。美人画といっても、顔かたちだけでなく、着物・履き物、髪飾りや簪[かんざし]など一つひとつが丁寧に描かれているのにびっくり。

●それ以上に感動したのが庶民の生活・風俗を描いた作品。展覧会に出品するような大作とは趣きが違い、親しみやすい素材なのですが、こまやかな観察眼は、穂積和夫を思い出させます。感動の余韻にひたりながら、すぐ向かい側に建つ京セラ美術館の「ポンペイ」展。3連チャンのラストで、期待が大きかった分、裏切られた感も大。ポンペイの遺跡はやはり、現地で観るしかないのかもしれません。

●夏の京都の定番「鍵善」の葛切りで疲れをいやそうとしましたが、癒しきれぬままホテルへ帰還。ポンペイの仇はやはりイタリア料理で━━はこじつけですが、ホテルのすぐ近くで見つけたカジュアルなお店が大当たり! これはと思った品を少しずつ食べられる「おばんざい」っぽいスタイルで、昼間の疲れはきれいさっぱり消えました。(2022/6/11)

京都で美術館3連チャンの1日目

●土曜日に京都で仕事があり、せっかくなので、木曜日からこちらにやってきました。折しもアジサイや花菖蒲が真っ盛りの時期。そちらも楽しもうと、ネットで検索すると、あちこち”名所”が。選んだのはアサヒビール大山崎山荘美術館。その庭園が素晴らしいとあったので、そちらに決めました。「ポンペイ」展、「鏑木清方」展を観に行くつもりだったので、図らずも3連チャンに。

●京都駅から大阪方面へ5つ目の山崎駅で下車。美術館はかの有名な天王山の麓、5500坪の敷地に建っており、もとは大阪の実業家の別荘だったそうです。本人も遺族も亡くなり、長い間使われずに荒れ果ててしまったのをアサヒビールが買い取り、美術館としてよみがえらせたのが1996年。そのコレクションは、モネ、ルオー、ユトリロ、ヴラマンク、カンディンスキーらの絵画、バーナード・リーチ、宮本憲吉、濱田庄司の陶芸、イサム・ノグチの彫刻など、超一級品ばかりです。

●何よりの魅力は、それらが展示されている建物。新たに増築したコンクリートの展示館も安藤忠雄の設計だそうで、木造山荘風の本館にすんなりなじんでいます。2階のカフェテラスから木津川、宇治川、桂川が合流、淀川になる地点を見下ろす眺望は抜群。その入口には、ドイツ製、その名もMikado というオルゴールが鎮座していました。

。●美術館のあと庭園を散策し、送迎バスで阪急の大山崎駅へ。一路河原町をめざします。関西の私鉄は首都圏のそれと車体の色使いがまったく違い、阪急電車はあずき色。河原町から少し歩き、夕食は先斗町[ぽんとちょう]のおばんざいです。この季節ならではの素材をふんだんに用いたメニューを、こちらの腹具合にも気を配りながら勧めてくれる心づかいに感動。もちろん、味も最高でした。(2022/6/9)

初めての国立競技場━━試合は◎、スタンドは✕

●2019年10月のワールドカップ以来、2年半ぶりでラグビーを生で観戦しました。今年からスタートした「リーグワン」の決勝で、会場は国立競技場。1月5日の開幕戦に行くはずだったのですが、選手にコロナ陽性が出て試合が中止になり、半年近くおあずけに。試合のほうは素晴らしい内容で、3万4千の観衆も大満足だったにちがいありません。


●ただ、期待していた競技場にはガックリ。座席の前後がとんでもなく窮屈で、席が列の中ほどだったりすると、いったん座ったら最後、ハーフタイムまでまったく動けないのです。オリンピック用に新設したのに、こんな狭苦しい座席に、日本人より半回りは体が大きい外国人を座らせていたら……と思うと、無観客開催にしてホントよかった!


●この日の最高気温は31℃。さかも、私たちの座ったバックスタンドは試合中ずーっと日が当たりっぱなし。2時間もしたら日干しになってしまうのではないかと心配になりました。そもそも、この時期によりにもよってPM3時キックオフというのも信じられません。7月9日のフランス戦も同じだというのですから、主催者はいったい何を考えているのやら。


●それと、ラグビーの日本一を決めるイベントなのに、プログラムの紙切れ1枚もらえないのにも失望しました。ニュージーランドやオーストラリア、イギリスではふだんの試合でも、プログラムはそこかしこに山積み。チームのTシャツやノベルティーグッズ(はっきり言ってチープなものがほとんどですが)とか、バンバン配っています。まあ、仕切っているのが「おっさん」ばかり(2022/3/5ご参照)ではこれも致し方ないか。(2022/5/30)

「北前船」の祝賀会で、五木ひろしさんが熱唱

●歌謡曲を、それも生で聴くなんて、何年ぶりでしょうか。ひょんなきっかけで「北前船寄港地フォーラム」に関わり始めて早11年。「フォーラム」はその後発展・拡大の一途をたどり、「交流拡大機構」がスタートして6年、開催回数はすでに30回を数えています。5年前、寄港地の多くが「日本遺産」に指定されたことも追い風になりました。


●金曜日の夜、それを祝う会があり、全国から300人を越える方が出席。夕方5時からの新型コロナウィルスの抗原検査に始まり、中締めが9時という長丁場でしたが、まったく疲れないというか、むしろ元気が湧いてきました。直接人と会って言葉を交わすのが、コロナ禍にやられている私たちにとって最高のクスリのようです。前日参加した50人ほどの会合は話を聞くだけのワンウェイでどっと疲れただけに、それを強く実感した次第。


●祝賀会の最後は、歌謡界の大御所五木ひろしさんが登場し、自身の作曲による新曲「北前船」と「港町恋唄」を披露。五木さん自身、北前船の寄港地がいくつもある福井県の出身とあって、曲作りにも力が入ったそうです。その言葉どおり、ドラマチックな、それでいて親しみやすい歌に仕上がっていました。


●「北前船フォーラム」の次回開催地はなんとフランスですが、主催者もこうした展開は想像していなかったでしょう。この日の東京は昼過ぎまで猛烈な雨。それに打たれながらも、我が家のアマリリスは大きな花を咲かせていました。フォーラムにとっても、ここ2年続いているコロナ禍が、思いもかけぬ拡大・発展を促す役割を果たしてくれたのかもしれません。(2022/5/28)

排骨飯を食べたら、台湾に行きたくなりました

●歯医者に行ったついでに、新大久保で台湾の駅弁メニューの一つ排骨[パーコー]飯を食べました。魯肉[ルーロー]飯は家でも簡単に作れますが、排骨飯は、いい骨付き豚肉が手に入れにくく、しかも油で揚げなくてはならないので億劫になり、外でということになります。


●ただ、これを提供するところがなぜか少ないのです。たまたまネットでその店のことを知り、さっそくトライ。骨こそ付いていませんでしたがカラっと揚がっており完食、大満足! 私たちにとっていま現在”最後の海外旅行”となっている「台湾一周鉄道の旅」に行ったとき食べた、池上驛の排骨飯便當(弁当のこと)を思い出しました。2020年1月、コロナ禍直前のことです。


●我が家で最初に台湾を旅したのは家人で、20年ほど前のこと。話を聞き私も行ってみたところすっかりハマってしまいました。外国なのにストレスフリーでいられるのは、やはり波長が合うのでしょう。というともっともらしく聞こえるかもしれませんが、要は近い、安い、そして好みの食べ物が多いと(笑)。


●来月16〜19日、上野公園で「台湾フェスティバル」が開催されると聞き、とりあえず足を運んでみることにしました。コロナ禍が収束し、自由に海外旅行ができるようになったとき真っ先に行きたい国の一つが台湾。それだけに、香港やウクライナのような事態にならないよう心から願っています。(2022/5/21)

森と海の不思議な力が、絵と書を呼吸させるのかも

●”大人の社会見学”小田原&真鶴編”の2日目です。高校の同期生が━男子でも━7人もそろうと、話にとめどがなくなり、布団に入ったのは午前1時過ぎ。干物の朝食を済ませると、しゃべり過ぎて喉が……と、さっそく「ういろう」のお世話になるメンバーもいました。


●周りを散策に出ると、民宿の裏手から東映映画のオープニング映像で有名な巨岩(+波しぶき)のある海岸まで「お林」と呼ばれる大きな森が広がっています。「お」が付いていることからもわかるように、もともとは皇室の御用林。「お林」は俗称らしく、正式には「魚つき保安林」といって、魚の繁殖、保護を目的として海岸や湖岸に設けられた森林のことだそうです。


●森林の土に含まれる栄養分が地下水と一緒に海に流れ出るとプランクトンが繁殖、豊かな海を育てます。また、木々が直射日光を遮断して水温の急激な変化を防ぐなど、海の生物の繁殖を促す役割も。おいしい魚介類が穫れるのに大きく貢献しているというわけです。


●お林の一角に、生前この地で過ごした中川一政の個人美術館が。コンクリート打ち放しの建物ですが、周りの木々に溶け込むような感じがします。そこから少し歩くと相模湾が大きく開け、この日は向かい側の初島もくっきり見えました。アトリエがあったのもそのあたり。97歳まで創作を続けた中川の作品は天衣無縫というか、油絵も書も力みがなく、のびのびしています。彼が装丁した向田邦子の『あ・うん』は、まさしく”ジャストフィット”。森にも海にも備わる不思議な力が彼の才覚をいっそう刺激したのかもしれません。(2022/5/18)

改めて感じた、生産地でしか手に入らない物のありがたみ

●小田原駅から南へ、正面に城の櫓[やぐら]を見ながら歩くこと15分。国道1号線に面した所にその建物はあります。外観は城のようですが、「ういろう」という薬と和菓子を売る店です。1368年中国の元が滅び、日本の博多に亡命した一人の外交官が陳外郎と名乗り明から輸入したのが始まり。その後京都に移り朝廷に仕えていましたが、応仁の乱で焼け野原となってしまったため、1504年、北条早雲の招きで小田原に移り、店を開いたそうです。お菓子のういろ(う)は全国に広まりましたが、薬はここ小田原だけにしかありません。


●店の裏手にある博物館でその歴史を話してくださったのは、25代目の御当主。この日参加した高校時代の仲間6人全員、薬のほうを購入しました。というか、いまどきまれな、ネットでは販売していない(郵送も不可)ので、お店で買うしかないのです(それも1人3箱まで)。全国を相手にするとすぐ売り切れてしまい、地元や近隣の人たちが必要になったとき買えないからだといいます。「小田原で長く商売させていただいていることへの感謝」とは御当主の言葉。


●すぐ隣の蕎麦屋さんで昼食を済ませ、真鶴[まなづる]の料理民宿へ。ひと風呂(温泉ではありません)浴びたあと、地魚の刺身舟盛り+煮魚+焼き魚を囲んでの夕食となりました。宿の真ん前の海で獲れた魚しか出さないのがこの宿の信条だそうで、マグロ、ハマチといった刺身の定番もナシ。肉料理はもちろん、野菜の付け合わせ等も一切ありません。


●そのため色彩的には地味ですが鮮度は抜群、しかも美味。〆の伊勢海老の味噌汁もおいしくいただきました。山間[やまあい]の温泉宿で刺身が出てくるのを昔から疑問に思っている私も納得。「お客さんっていっても、ここらの人ばっかだからね」とは女将の言。地元への愛を最優先しているのが感じられます。どこにいてもすべて手に入るのが当たり前といういまの時代、なんだかホッコリした気持ちになりました。(2022/5/17)

なじみの薄いデザイナーズホテル━━でも、心地よかった

●浜松から名古屋までは新幹線で30分足らず。”楽器の町”ならではの駅ピアノを横目にホームに上がり、乗った車両はガラ空きです。名古屋駅近くの中華料理店で中学時代からの友2人に再会。やたら話し好きの店員さんもときおり巻き込みながら大盛り上がりし、スリーショットの写真を撮ってもらうのを忘れてしまうほどでした。


●さて、今回の旅で泊まった2つのホテルは対照的でした。1泊目は、出入口のフロアにはピアノの鍵盤、ロビーにはバイオリンとピアノ、窓には楽譜と、浜松らしく音楽にちなむデザインやツールがそこここにあしらわれている老舗ホテル。朝食のレストランの名もFigaro(フィガロ)でした。部屋はオールドタイプですが、慣れているので落ち着きます。

●夜は、高校の同期生がオーナーシェフの洋食店で弟夫婦と。コロナ禍の影響を心配していましたが、営業を続けていて何よりでした。二人と会うのもほぼ3年ぶりで、積もり積もった話に花が咲き、いまは人と会って話をするのが元気の素であることを実感。

●2泊目の名古屋は、最近増えてきたいわゆるデザイナーズ風。このテのホテルはなじみがなく心配していましたが、スタッフのカジュアルな服装も、ロビーや部屋のしつらえもすこぶる心地よかったです。朝食はプリフィックスというか、固定の部分(3パターンから選ぶ)+パンやスープ、フルーツ、サラダ、飲み物などを自分で選ぶスタイル。”和洋なんでもそろっています。お好きにどうぞ”式のフルバイキングが苦手な私にとっては、ありがたく感じられました。(2022/5/7)


駅と街の姿は変わっても、住まう人は……

●読んだり見たり聞いたりして興味を引かれた事物があったら、可能なかぎり自分の五感で確認しないと気が済まないのが私の性分。それができずにいると、ストレスがたまってしまいます。というわけで、先日の山陰ツアーでご一緒した高齢の姉妹から聞いた西武池袋線富士見台駅近くの中華料理店に、さっそく行ってみました。テーブルが5つしかなく、私たちがすわると、開店直後だというのに早くも満席。

●メニューには、「メリハリのある力強い後味をめざす」と、オーナーシェフの言葉が。ジャコと青ピーマンの炒飯にトライしてみると、見かけとは真逆であっさり・さっぱりした味つけなのですが、たしかに後味はしっかりしています。BGMで流れるシャンソンの影響かもしれません(笑)。

●帰りの電車に乗ると2つ目が、1993年から2004年まで住んでいた石神井[しゃくじい]公園駅。ふと思い立ち降りてみたのですが、高架化と同時に駅周辺が大々的に再開発されたため、以前の面影がほとんどないのです。観光案内所までできていたのには驚きました

半世紀ほど前の石神井公園駅北口はこんな具合でした(練馬区HPより借用)

。●そういえば、かつて私の住んだ町にある中央線の武蔵境駅も、西武池袋線のひばりヶ丘駅も、京浜東北線の川口駅も、都電の鬼子母神[きしぼじん]停留所も、その周辺は大変貌。もともとの雰囲気を残しつついま風になっていればいいのですが、後者だけが際立ってしまうと、没個性になりかねません。ただ、見かけはどうあれ、街の個性・空気感を作るのはやはり、そこに住まう人々ではないかという気がします。(2022/5/5)

藤のない「藤まつり」━━ガックリは食で癒す

●今年のGWは最長10連休もありなのだとか。コロナ禍もなんとなく落ち着きを見せ始めてきた感じもあり、遠出する人が増えているようです。3日目の5月1日はあいにくの雨、気温も冬に逆戻り。ならば人出も少なかろうと身勝手な願いを抱きながら、亀戸天神社に行ってみました。

●ちょうど「藤まつり」のただ中で、境内は薄紫に染まっているのではと期待したのですが、なんと花は99.9%散っていました。ツツジもまだぼちぼちで、まわりはガッカリしている人の姿ばかり。緑一色の藤棚の先に見えるスカイツリーも、心なしかさびしそう。人間、期待度が高いほど、裏切られたときの落ち込み感も増しますが、今日がまさしくそうでした。

●この時期の亀戸天神社のウリは藤なのですから、もう少しサービス精神があってもいいのではとも思うのですが……。ウェブサイトに「明日から3日間がピーク」とか「見頃は過ぎましたが、ツツジがそろそろ」といった告知を入れるとか。祀られている菅原道真も、「東風[こち]吹かば 匂ひおこせよ梅の花 主[あるじ]なしとて 春な忘れそ 」と詠んでいますよね。

●実は数日前にも、METオペラ今シーズンの新作「ナクソス島のアリアドネ」@新宿ピカデリーでガックリ来ており、これで2イベント連続の不発です。新宿では寿司を食べて癒やしましたが、今日はご当地の名物くず餅。ただ、それだけではいまイチもの足りず、そのあと蕎麦を食べに上野へ向かいます。ここのところフラれ続けていたお店ですが、今日はすんなり入れ、小海老と玉ねぎのかき揚げ蕎麦に大満足。亀戸で思い切り下がったテンションもやっと回復しました。(2022/5/1)

オランダ大使館のチューリップはまた格別

●日本国内にある外国大使館など、よほどのことでもなければ足を運ぶことはありませんが、昨日、オランダ王国大使館(公邸)に行きました。私にとってはキューバ、インド、ロシアに次いで4カ国目。キューバはビザの申請、インドは舞踊の発表会、ロシアはクリスマス演奏会でしたが、今回のオランダは公邸と庭園の見学です。


●休校日だった小4の孫も連れて行ったのですが、東久留米の駅で電車に乗った瞬間から、持参したメモ帳に鉛筆でしきりと何やら書き込んでいます。何時何分どこどこ行きの電車に乗る、〇〇駅で地下鉄△△線に乗り換える、◇◇駅で降りるとホームの案内板と首っ引き。駅の近くには□□病院、▽▽ホテルがある……。「4月8日 オランダ大使館への旅」と、タイトルまで書いてありました。うーむ、誰に似たのやら(笑)。


●大使館の場所は東京タワーのすぐ近く。門を入ると大使館公邸と広い和風庭園があります。その奥が事務棟(こちらは非公開)なのですが、さすがオランダ、庭園はもちろん、そこかしこにチューリップが。濃紺、紫、オレンジなど色も多彩多様で、見たことのない品種がほとんどです。


●大使館の公開は7年ぶりとのことで、たいそうな数の人が訪れていました。コロナ禍で海外旅行か長らくNGになっているせいもあるのでしょう。かといって、流行りのバーチャルツアーでは物足りないのも事実。私も気持ちを多少なりとも盛り上げようと、オランダ国旗に合わせ青・白・赤を組み合わせた服装で行ったのですが、考えてみるとこれはロシアと同じ! でした。思慮不足の自身を反省、呪詛[じゅそ]することしきり。(2022/4/9)

エジソンが、ゴッホが……。五感への刺激を堪能した一日

●東日本大震災の被災者100余人によるミュージカル上演の本を書くとき取材させていただいた方のお一人と、神田淡路町のイタリアンでランチ会食。7年ぶりの再会で話がはずみ、名物のパスタの写真を撮るのも忘れてしまうほど盛り上がりました。


●でも、この日最大の衝撃は、オーナーのSP盤レコードと蓄音機のコレクションです。店内にさりげなく置かれているのですが、これがなんと、かのエジソンが発明した蓄音機の現物。当時の音源は蠟管[ろうかん]といい、Campbellスープの缶に似た容器に収まっています。1枚ウン十万円はするというSP盤を130年以上前の蓄音機に載せ、かけてくださったのですが、その音の心地よいことといったら。ヴァイオリンソナタも歌謡曲もリアルそのもの、あまりの臨場感に圧倒されました。


●そのあと、すぐ近くにある神保町のギャラリーで開催されている刺繍の作品展へ。ひいきにしている目白の洋服屋さん━━いま風に言うとセレクトショップ━━のオーナーがFBで勧めておられたのですが、その”推し”がなければ足を運ぶこともなかったでしょう。”不要不急”と言われればそれまでですし。


●でも行ってみると、ゴッホの「星月夜」、北斎の「富嶽三十六景」を始めどれも皆、「ここまで……!?」と絶句してしまいそうな精緻さ。離れて見るとワクワク、近づいて見るとドキドキ、とでもいいますか。聴覚と視覚に、強烈な、それでいてすこぶる心地よい刺激を受けた一日となりました。(2022/4/8)

桜は散っても😢、春の本番はこれから

●新年度は、雨と風でスタート。東京は3・4日もずっと降りどおし、しかも真冬並の寒さとあって、拙宅ベランダからの夜桜もジ・エンドとなりそうです。といって、詩ごころとはほとんど無縁の私なんぞは、「あ〜あ、これでおしまいか」でしかありません。でも、そうした情景を目にしたときの心情を三十一文字に託される方もいるのですね。


●夜半さめて  見れば夜半さえ
  しらじらと  桜散りおり
   とどまらざらん
うーん、まさしくそのとおり! 作者の馬場あき子さんは数々の賞に輝いている93歳の歌人。先日のFBで、私が心底尊敬している福岡の出版社主がシェアした「完全保存版 絶対覚えておきたい! 究極の短歌・俳句100選」(3/27NHK-BSプレミアム)の中に紹介されていました。


●こちらは夜桜ではありませんが、散ってしまった桜を惜しむ歌(紀貫之)も。
 桜花 ちりぬる風の なごりには
  水なき空に 浪ぞたちける
なるほど、ですね〜! まるで私の前にそうした場面がリアルタイムで展開しているかのよう。どちらも、「究極」と讃えられるだけのことはあります。


●もちろん、桜が散ってしまったからといって、春が終わるわけではありません。拙宅の近くをさらさらと流れる小川のほとりを歩いてみると━━。小学生が水遊びに興じていましたし、レンゲやスミレはもちろんのこと、これまでその存在すら知らなかった花々も一挙に咲き始めています(それにしても、童謡「春の小川」はやはり名歌!)足湯やSIX PADも体には効きますが、自然の中を歩くのがやっぱり一番ですね。(2022/4/6)

「定番」にもいろいろありますが……

●先週の土曜日、久しぶりに車を走らせました。以前住んでいた豊島区まで行ったついでに、ひいきにしている蕎麦屋さんでランチを。相変わらずの素晴らしい味に舌鼓。以前は、そのあとケーキ屋に寄り、JA(農協)のショップで花や土・肥料などを買って帰るというのが”定番”のコースでした。でも、この日はお花見目的の車で道がけっこう混んでおり、まっすぐ帰ることに。それでも、両サイドから満開の桜の枝が伸びている道を2キロほど走ることができ大満足です。


●「定番」は「おきまり」「ルーティン」ともいいますが、メンタルの安定に欠かせない要素ではないでしょうか。ぐっすり眠るための「就眠儀式」とか、食後の一服とか、人それぞれ違いますが、私の場合、目覚めのコーヒーは欠かせません。


●コロナ禍になってからは、朝食後の足湯(足先の収縮した血管を広げ、血のめぐりをよくする)、夜のSIX PAD(足裏とふくらはぎを鍛える機器)の2つが新たに加わりました。この種の健康器具、以前はハナから無視していたのですが、ここ2年は時間にも余裕があり、家人にすすめられるまま、とりあえずトライしてみました。すると、意外や意外、どれも皆心地よいのです。


●面白いのは、勧めた当人がいまイチ持続しないということ。私のほうが「定番」化し、朝晩きちんと実践しているかたわらで、次の「体にいいこと」探しに打ち込んでいるようです。そっかー。彼女にとってはそれこそが「定番」なのかも。(2022/4/5)

桜だけじゃない! 野辺の花にもリスペクトを

●いま多くの人々の関心は桜、桜、桜。もちろん、私もその一人ではあるのですが、ずーっと上ばかり見ながら歩いていると首が疲れるのではないでしょうか。だからというわけではありませんが、ときおり道端に目をやると、そこにも春が見つかります。ごく小さな草花が、人々の視線などまったく気にもせず、それはそれは懸命に咲いているのです。

●誰かが苗を植えたり、種を蒔いたりしたわけでもなさそう。桜はお日様次第でその魅力が増減しますが、こちらはそんなことを気にしているふうも一切なし、神出鬼没というか、場所は定まらずとも、毎年かならず生きている証を示す強烈な生命力はリスペクトのひと言です。

●アプリで調べてもすぐに忘れてしまうほど地味、あるいはややこしい名前(こちらの記憶力が低下しているせいですが)でも、いちおうつけられてはいます。シャガ、スノーフレーク、コハコベ、ヒナゲシ、ナズナ、ヤハズエンドウ、イモカタバミ、ナカバユキノシタ、オオイヌノフグリ……。そんな中、わーっと集まって咲きよく目立つのがハナニラ。大きさはせいぜい2〜3㎝、色は青、白、ピンクで、星の形をしており、ホント、どこに行ってもよく見かけます。

●取材というのも、誰もが注目する事物や人に加え、この種の小花や、花すら咲かせない草に象徴される些事や雑事に気がつけるかどうかが、全体の構成に影響したりします。その意味では私自身にとっても戒め的な存在となっているのですが、これも考えてみればコロナ禍のおかげ。それまで”花より団子”100%のような人生を送ってきたのが、花に関心が向くようになったのですから。(2022/3/31)

秋田直送のきりたんぽ鍋で満腹、夜桜も満喫

●3月17〜20日、秋田でじっくり温泉につかり、みっちり勉強をする中、老舗の料亭で名物のきりたんぽ鍋を食する機会がありました。たいそうおいしかったので、お世話になっている友人に送ったりしたのですが、ついでに自宅にも。27日の夜、義妹のバースデー会食をすることが決まっていたからです。

●その日の夕方、秋田からクール便が届き、さっそく作りました(といっても、材料を土鍋に放り込んで温めるだけですが)。まあ、そのおいしさといったら! 本場で食べたときより素晴らしかったのにはビックリです。きりたんぽ鍋の最大の魅力は、春の七草の一つセリがふんだんに入っていること。数ある野菜の中でも、根っこまで丸ごと食べるものはそうそうありません。葉や茎より主張の強い味とシャキシャキした歯ざわりはセリならではでしょう。

●1年前はミャンマー、今年はウクライナで、これ以上はないような酷い行為がなされている中、こんなのんきな時間を過ごしていていいのだろうかと、正直、悩ましくてなりません。日本国内でも、人間がすることとは思えない、目を閉じ耳をふさぎたくなるような事件が毎日のように報じられています。でも、だからこそ、平凡な日常に感謝する気持ちにもなれるのではと、自分を納得させるしかなさそうです。

●きりたんぽ鍋に大満足した勢い(?)で2階に上がると、ベランダからなんと夜桜が。図書館の敷地内に一灯だけ━━安全上の理由かと思いますが━━、ひと晩中明かりがついているのです。人混みの中、仲間と飲み食いしながらの夜桜見物も一興ではありますが、一人で静かに楽しむのもまたよしですね。(2022/3/28)

ベランダはお花見特等席!

●このところスマホのカメラが向くのは花ばかり。拙宅前の図書館は公共施設とあって、そこここに花が植えられています。いまは桜、椿、アセビといった樹々から、チューリップ、タンポポ、ハナニラ、ハコベ、エンドウなどの草花まで、文字どおり百花繚乱、何度その前を通っても飽きません。

●4本ある桜は、どれも樹高が10mを超える古木。桜といえばこれまでは地上から見上げるばかりでしたが、昨夏引っ越したおかげで、なんと見下ろせるように。昼も夜も、ベランダに出ると4本いっぺんに見られます。枝ではなく、太い幹に花がついているのを観たのも初めてです。

●ならばと思い、いつもの散歩コース・落合川の遊歩道に出てみると━━。半月ほどご無沙汰している間に、両岸ともこれでもかというくらい花、花、花。それもソメイヨシノにサトザクラにユキヤナギにコブシにアセビ……と多種多彩。これだけ楽しめれば、足に疲れを感じている暇などありません。

●前の家から球根を持ってきたチューリップ。2年目なのでダメでもともとと思っていたのですが、小ぶりでも健気に花を咲かせた姿を見ると、花びらをそーっと撫でてやりたくなります。すぐ隣のアジサイは、始めから植わっていたもの。前の家で植えたものはとうとう一度も花を咲かせませんでしたが、こちらは花芽もしっかりついているようで、今年こそ! です。(2022/3/27)+5件

おっさんが仕切っている限り、スポーツ界の将来は……

●スポーツ関連の本2冊を一気読みしました。①『おっさんの掟 「大阪のおばちゃん」が見た日本ラグビー協会「失敗の本質」』と②『消えた球団 1950年の西日本パイレーツ』がそれ。①は大阪の知人NさんがFacebookで紹介していたものです。

●大阪弁では「おばはんvsおばちゃん」「おっさんvsおじちゃん」というたて分けがあり、いずれも前者が✕(蔑称とも、ネガティブとも)のようですが(間違っていたらご教示を)、①はその「おっさん」がハバをきかせている協会に引っ張られた「おばちゃん」=著者・谷口真由美が体験した一部始終を書いたもの。あっけらかんとした書き口ですが、内容はとてもシビア。7年前のW杯で南アを破り、3年前は初のベスト8というでき過ぎの結果に舞い上がってしまった協会と、その関係者に強烈な警鐘を鳴らしています。

●②は、プロ野球がセとパの2リーグに分裂した1950年の1シーズンだけで姿を消した西日本パイレーツ(日本プロ野球史上初の完全試合を食らったチーム)の顚末記。シーズンが終わると、同じセ・リーグの巨人、阪神、中日といった老舗球団のおっさんたちが徒党を組んで、パイレーツを追い出しにかかる醜い様子が、やはり淡々と描かれています。

●ラグビーと野球の違いはあっても、事業としてそれを運営する”おっさん”たちの側に「大義」(Jリーグ、Bリーグを軌道に乗せた川淵三郎の言葉)が欠けていることの悲しさ。70年も時を経ているのに状況がまったく変わっていないのは驚くしかありません。でもその前に、ラグビーの裾野を広げるのが先決ではないかと。全国の小学校校庭の芝生化率がわずか数%(欧米先進国では芝生が当たり前!)では、日本のラグビーは脱皮できないような気がします。(2022/3/5)

花も団子も温泉も━━ちょっと欲張りが過ぎるかなぁ?

●今週末は24日が家人の誕生日だったこともあり、ケーキやらクッキーやら、甘いもののオンパレード。当日の夜は同居する小学生の孫たちもいるので、無難なメニューでしたが、とうの立った私たちにはいまイチ感が拭えません。というわけで、翌日の昼、もろもろ用事もあって都心まで出たついでに、長らく通っている和食のお店を予約しました。

●大将は私と出身地が同じ。京都で修業したあと上京し、目白にこじんまりした京料理のお店を開きました。この日は全6品+デザート&抹茶から成るランチコース。なかでも、鯛の中落ちを軽く焼いたメインは最高でした。聞けば、この2年間の実質営業時間は通常時の半分以下なのだとか。この日も金曜日だというのに、客は私たち二人だけだそうです😢

●週末は気温が一気に上昇、あちこちで草花が一気に咲き始めました。ウォーキングの途中、ホトケノザやラッパ水仙、ハナニラなど、どれも皆小ぶりながらも、にっこり微笑んでいるかのようです。梅も白と紅がそろい、春はすぐそこ感がありあり。歩くにつれて気持ちも軽くなってきます。

●3月にあと一、二度は寒の戻りもありそうです。でも、それより春到来への期待のほうが上。春は英語で spring ですが、spring には「バネ」という意味も。草花の芽が勢いよく出てくる様がバネに通じるからでしょう。そういえば「泉」も spring だったっけ。そうだ、久しぶりに温泉へ行こう! と思いつき、計画を立てることにしました。(2022/2/27)

断髪式で鋏を入れさせていただきました

●引退相撲(断髪式)に行くのは2回目です。2年前の豪風[たけかぜ](現押尾川親方)、そして昨日が嘉風[よしかぜ]。ともに現役時代は尾車部屋の所属で、最高位は関脇でした。嘉風は中村親方を襲名し、二所ノ関(元横綱稀勢の里)部屋の所属に。10数年前に尾車親方と出会い、『人生8勝7敗』という本をプロデュース(2013年)したご縁で声をかけていただきました。

●コロナ禍第6波のまっただ中とあって、横綱照ノ富士を筆頭に19人もの関取が感染。横綱の土俵入りはなく、取り組みも大幅カットになってしまいましたが、これはもう致し方ありません。それでも、4千人近くの方が来られ、私も鋏[はさみ]を入れさせていただきたいという願いがかないました。

●嘉風関にとっては、2019年秋の引退後二度も延期を余儀なくされた断髪式。大相撲力士にとって「断髪」は、単に髷[まげ]を切り落とすだけでなく、人生のケジメをつけるという意味があるようです。多くの方に見守られながら第二の人生に向け船出することができ、本当によかったのではないでしょうか。

●「髪」とはとうの昔におさらばしている私はといえば、ここ何年か、家人や同居の孫たちから「断煙」を求められています。決断したら、「断煙式」とか開いてくれるのかなぁ。目の前にタバコをズラリと並べ、1本ずつハサミで切り刻んで……な〜んて想像すると、寿命が縮まってしまいそうです。(2022/2/6)