作成者別アーカイブ: edit-house

「すそ野を広げる」といっても、土のグラウンドでは絶望

2019年11月15日
11月5日、新聞のスポーツ欄に、高校ラグビーの県予選の結果が出ていました。文字だけ見ると、
「島根県 決勝 石見智翠館 130─0 出雲
(石見智翠館は29大会連続29回目)」
とあり、同校の強さがきわだっているような印象を受けます。ただ、「決勝」といっても、そもそも同県の予選参加校はこの2校のみ。夏の甲子園(野球)が39校 サッカーが32校、予選に参加していることを思うと悲しいというか、情けないというか。

ほかにも、高校ラグビーの予選参加校が少ないのは、山形県が4校(サッカー24校、野球48校)、福井県が3校(サッカー28校、野球30校)、香川県が4校(サッカー37校、野球38校)、徳島県が4校(サッカー29校、野球30校)、佐賀県が2校(サッカー35校、野球39校)など、いくつかあります。もちろん、予選参加校が少ないからといって本大会に出場することの価値がダウンするわけではありません。ただ、これでは、「日本のラグビー、大丈夫なの?」と心配になってしまいます。

そういえば、今年3月、母校ラグビー部の創部70周年を祝う会でも、後輩が「去年、今年は入部者が少なく、単独でチームを組めない心配もあります」と語っていました。6年前、「選抜高校ラグビー」に“21世紀希望枠”で出場したことがある我が母校ですらこれが現実なのです。それから3年ほどの間に急激に弱くなってしまったという背景はあるにしても、たかだか2、3年でこれはないんじゃないの!? と言いたくなりますね。

それはともかく、日本のラグビーのすそ野の狭さはただただ驚くばかり。それでも、今大会のベスト8達成で、ラグビーをやってみようという子どもがかなり増えるかもしれません。ただし、彼らのモチベーションをどうやって維持するかが実は大きな問題で、前にもこのブログで記したように、信じられないほどプアな日本のグラウンド事情(芝でなく土)が大きな妨げになるのではないかと心配しています。

ラグビーのルールブックの中に、「人工芝の使用に関する基準」という条項(第22条)があります。そこには、「ラグビーの試合は伝統的に天然芝の競技場で行われてきた。(中略)理想的な状態の天然芝の競技場は、ラグビーの試合に最適だからである。天然芝によるフィールドは、最高レベルの国際試合に適した足場の確保、衝撃吸収性、ボールの弾み、トラクション(スパイクの引っかかり)、変形度や安定性のほか、景観的な美しさを実現することができる」とあります。ただし、こうした理想的な天然芝は、その性能特性を維持するために、徹底的な維持管理体制が必要なため、将来は人工芝、あるいはハイブリッドの芝の採用も考えていかなければならない。その基準・仕様についてもルールで定めていきましょうということのようです。

早い話、あれほど危険に満ちたスポーツを土のグラウンドの上ですること自体、大げさかもしれませんが非人道的なのです。というか、ラグビー発祥の地イングランドでは、サッカーやラグビーを土のグラウンドでおこなうなど、想像すらしていなかったのでしょう。世界各地に広がっていたイギリスの植民地も同様です。

しかし、サッカーもラグビーも、数十年という時を経てから入ってきた日本にはそうした考え方がなじまなかったのか、土の上でプレーすることになってしまいました。だからといって、誰も不平不満を口にしたりはしませんでした。私が高校生の頃「泥濘【でいねい】戦」という言葉を教えられたことがあります。グラウンドが雨でぬかるむと、足が思うように動かくなくなります。かりに雨自他はあがっていても、水分をたっぷり含んだグラウンドでは、通常のときと同じようにはプレーできません。また、雨が降るとボールが滑りやすくなり、どうしてもノックオンが増えます。つまり雨が降っているとき(降ったあと)の試合は、ふだんとはまったく違った注意を向けないとダメだよという意味でした。ノックオンしやすくなるのは別として、こうした注意はグラウンドが土だからシビアな内容になるわけで、芝生であればかなり様相は違ってきます。

今大会スコットランド戦でトライを決めたプロップ稲垣啓太の母校・新潟工業高校では今年、新入部員が7人しか集まらなかったといいます。それに危機感を抱いた同校の監督が、人工芝のあるライバル校に対抗して芝生の導入を思いつきました。そして各方面に相談したところ、稲垣が快諾し資金を提供したとのこと。こんな粋な話が各地で実現すればいいのですが、果たして……。

さて、校庭の芝生化と並行して進めなくてはならないのが競技人口を増やすことです。野球の甲子園、サッカーの国立(ただし、2020東京五輪に向け工事中のためおそらくは埼玉スタジアム?)に対し、ラグビーは花園(東大阪市)。ただ、全国高校ラグビーの参加校数はここのところ減少の一途をたどっており、2020年大会(第100回の記念大会)はおそらく1000校を割っているはず。高校生の競技人口も2万人カツカツで、これはサッカーの8分の1。バスケットボール、バレーボールより少ないのはなんとなく実感できますが、ハンドボールよりも少ないという事実には驚きました。

対象を全世代に広げても、日本は約11万人(総人口1億2600万人に対し0.09%)。南アフリカの約63万人(同1.1%)のほぼ6分の1です。サッカーの約89万人(0.71%)、バスケットボールの約62万人(0.49%)と比べるとあまりに差が大きすぎます。

世界各国のラグビー「選手登録者」 2018年
順位 国   名 競技人口 総人口 比率
1位 南アフリカ 63万人 5543万人 1.1%
2位 イングランド 35万人 5561万人 0.6%
3位 オーストラリア 27万人 2464万人 1.1%
4位 フランス 26万人 6493万人 0.4%
5位 ニュージーランド 15万人 460万人 3.3%
6位 アメリカ 13万人 3.2億人 0.04%
7位 フィジー 12.3万人 90万人 13.7%
8位 ケニア 12.2万人 4970万人 0.25%
9位 アルゼンチン 12.1万人 4427万人 0.27%
10位 中国 11万人 13.8億人 0.008%
https://rugbyhack.com/2016/09/28/population/ をもとに算出

日本ラグビー協会は2019年に20万人に増やすことを目標に掲げていました(「日本ラグビー戦略計画2016-2020」)が、2015年の115205人から108796人(2018年)と、逆に6千人以上も減っているのが現実です。ちなみに、ここには登場していませんが、アメリカは近年、学校の授業などでラグビーを取り入れるなど普及に力を入れてきた成果もあり約150万人まで増えました。これは絶対数ではイングランドに次いで第2位です。2018年にはプロリーグ「Major League Rugby」がスタート、近い将来代表チームも強くなることが予想されます。

サッカーの競技人口がここまで増えたのはひとえにJリーグの成功によるものです。野球も一時期の危機を脱した感がありますが、プロスポーツはいまや地域振興を支える重要なコンテンツの一つ。とくに地方ではその傾向が強く、Jリーグが大きく拡散したことでサッカー(球技)用スタジアムが全国各地にできました。ラグビーW杯もそうしたインフラがあったからこそ日本開催がかなったのですが、それが整備されてからせいぜい四半世紀しか経っていません。

しかし、だからといってサッカー&ラグビー場を新しく作ろうといっても、おいそれとは行きません。そこで、これから先は(少年)野球場をサッカー&ラグビー場に仕様替えしていくのも一法かもしれません。というのは、少年野球の競技人口はここ数年減る一方だそうです。将来野球場がダブつくのははっきりしていますし、しかも全国、どんな小さな町や村にもあるので、それを有効に使いまわせばいいのではないでしょうか。

プロリーグ化の成功は、スポンサー企業しだいかも

2019年11月13日
今回のワールドカップはこれまでで最高の成功を収めたというのが、ラグビーの国際統括団体WR(ワールドラグビー)の総括だったようです。WRがめざしているのは、ラグビーを世界中に拡大すること。サッカーに比べるとまだまだ広がりを欠くラグビーにとってこれは絶対的な課題で、いまの熱が冷めないうちに、次の一手をどう打つかがとても重要になってきます。ポテンシャルが予想していた以上に高いことがわかった日本のマーケットを最大限活かしたいとの考えも芽生えたのではないでしょうか。大会が終わって早々に、イングランド、スコットランド、アイルランドなど「ティア1」の国々とJAPANのテストマッチが組まれたことでも、それがよくわかります。

ただ、この先どのような方向に進むにしても、いちばん重要なのは当事国である日本です。本当なら、前大会でJAPANが南アを相手に大番狂わせを演じたのを機に、ラグビーへの関心はもっと高まってもよかったはず。しかし、日本ラグビー協会はじめ関係者が、南アに勝ったという出来事を十分咀嚼しきれなかったのか、年が明けてしばらく経つまでボーッとしていたのが響いた部分もあります。そうでなければ、日本唯一のプロチーム(サンウルブズ)の「スーパーラグビー」除外をおめおめと受け容れてしまう、それもW杯開催の直前に!──などということは本来あり得ない話でしょう。

この一件についてはいまだどこからも納得の行く見解が明らかにされず、私のようなポジションにあるファン(数的には日本国内でいちばん多いと思います)にとってはミステリー以外の何物でもありません。伝え聞くところによればお金の問題が重いようですが、「スーパーラグビー」に参戦することの意味をきちんと理解していない人が協会の周辺に少なからずいたにちがいありません。

サンウルブズの除外決定をくつがえすのも重要ですが、それ以上に力を入れてほしいのはトップ・リーグの盛り上げです。年明け1月からスタートするトップ・リーグは、どのチームの陣容を見ても、これまでにない充実ぶりです。今回のW杯を戦った選手が10人以上、かつてティア1の代表としてプレーした経験を持つ選手も籍を置くことになります。そうしたチームどうしの戦いにいかに多くの観客を呼び込むかが勝負になるでしょう。

それにはメディア対策(テレビなら地上局とBS)が一つの大きな柱になりそうです。毎週末に「今週のトップ・リーグ」とでも題して、金曜日は見どころの紹介、土・日は全試合のダイジェストを解説付きで流すくらいのことはしないとダメでしょう。プロ野球もJリーグも皆それを実行してきました。また、SNSも活用してほしいものです。これは協会と参加全14チームが文字どおり「ONE TEAM」となって展開しなくてはなりません。

これもまだウワサの域を出ませんが、2021年からはトップ・リーグをベースに新たなプロのリーグをスタートさせるそうです。とりあえずは、今回W杯の試合を開催した12の都市に1チームをということになりますが、現状からすれば、正直12チームはハードルが高そうな気もします。ラグビー熱が伝統的に高い九州とはいえ、3チーム(福岡・熊本・大分)は多すぎるでしょう。となると、福岡で1+熊本か大分で1の、合わせて2チーム。

関西には3チーム(大阪・兵庫・京都)あってもよさそうです。W杯のJAPANの選手のインタビューを聞いていてお気づきの方も多いでしょうが、いまも昔も優秀なラグビー選手は関西からというのは変わりません。さらに東京は2チーム、神奈川・埼玉に各1チーム、愛知で1チームは順当なところ。ただ、釜石は心配です。ラグビー専用のスタジアムはあるものの、交通の便となるといまひとつ。昔から強い秋田、さらに宮城(仙台)も取り込んで1チームが妥当ではないかという気がします。サッカーJリーグに2チームある静岡もビミョーな感じがします。あとは北海道ですが、札幌よリ函館、あるいは思い切って道東の根室・釧路あたりか。中国・四国はいまの段階では難しそう。これで足し算をすると、静岡と北海道を入れて12チームにはなるのですが。

従来のトップ・リーグ的なコンセプトを完全に断ち切るとなると、観客の集め方も相当知恵を絞る必要があるでしょう。Jリーグ、Bリーグと同じように地域ごとのスポンサーをまんべんなく集めなくてはなりません。もちろん、その前にプロリーグ全般をスポンサリングする大手企業を確保すること。たとえば、今回のW杯も含め、長らくテストマッチのスポンサーを続けてきているリポビタンDの大正製薬。同社は特定のチームというより、日本のラグビー界全体を支える存在であってほしいですね。

また、今大会でウェールズ代表の練習の様子がニュースで紹介されたとき、ジャージにISUZUの名前がプリントされているのに気がついた人もいるでしょう。実はISUZUはスバルとともに、同国代表チームのスポンサーになっているのですが、どちらも日本国内ではラグビーと縁がありません。オーストラリアのDAIKINはじめ、世界各地のラグビーを見ると三井不動産、NISSUI、asics、三菱自動車の名も見えますし、W杯ではキヤノン、三菱地所グループ、大成建設、TOTO、NEC、SECOM、ヒト・コミュニケーションズもスポンサーに名前を連ねていました。このほか、これまで日本のラグビーとまったくかかわりを持ったことのない有名企業も含め、果敢にアプローチしていってほしいものです。豊富な資金を確保した上で、知恵者・切れ者がかかわっていけば、短期間のうちに斬新なアイデアが浮かび上がり、それを実際の形にしていくのも難しくはないでしょう。(共同通信)

最近めきめきファンを増やしているのがプロのバスケットボール=Bリーグです。テレビ報道などを見ると、若い女性から高齢者まで、その層が広いのが特徴だといいます。きっかけはイケメン選手、かわいいグッズ……など人それぞれのようですが、なんであろうと関係ありません。それがきっかけでファンのすそ野が広がれば、いずれその周辺で実際にプレーする人(主に子ども)が増えるからです。千葉ジェッツや川崎ブレイブサンダースなど、大都市周辺にこうしたパターンが多いようです。

もう一つは強烈なローカリティーでしょう。チームの地元が官民一体となってサポートしながらチームを育てていくことで、その地域全体が活性化していくというパターンです。琉球ゴールデンキングスが代表でしょうか。ただ、ポイントは、そのチームが強くなること。今回のJAPANのように、強ければサポーター、ファンはさらに増えていきます。そこから生まれるパワーが選手、チームに伝わるとますます強くなるという好循環が生まれます。

Bリーグの広がりはすさまじく、2019-20シーズンは全国に36チーム。準加盟やライセンス不交付のチームまで含めると40を軽く越えています。さすがに、これは多すぎるかもしれません。すでにサッカーJリーグが全国に定着し、そこへBリーグが加わっていささか過剰なところへ、さらにラグビーが加わるのはけっして容易なこととは思えませんが、いまの熱さが保たれているうちなら、なんとかなるような気がします。

サッカーが逆立ちしてもかなわない、ラグビーだけの魅力

2019年11月12日
44日間の大会が終わり、もう10日が過ぎました。全国8都市、17試合を見て回りましたが、JAPANの5試合はもちろん、どの試合も印象に残ります。世界最高レベルのプレーを間近で、しかも毎日のように見るなどという経験はほとんど初めてなので、よけい強烈なインパクトを感じました。

ゲームとしての面白さもありますが、それ以上に、生身の体が音を立ててぶつかり合う興奮、自分自身がグラウンドの上にいるかのように錯覚してしまう迫力──。ラグビーの醍醐味はそれに尽きます。ただ、そうした体験ができるのは、球技専用のスタジアム、それもグラウンドに近い席だけです。その点、豊田タジアムで前から5列目に座れたJAPAN vs サモア戦は最高でした。選手の声も聞こえますし、表情もはっきり見えましたから。

11月2日の決勝戦も同じように前から6列目でしたが、こちらは横浜国際総合競技場で、陸上競技用のトラックが邪魔をして、迫力はいまひとつでした。しかも、6列目というのはやや半端で、サイドラインがギリギリで見えないのです。もう2、3列後ろだともっとよかったのですが……。もちろん、上すぎればすぎたで、興奮・感動のレベルはグンと下がります。同じカテゴリーで同じ料金なのにどうしてこれほど差があるのか不思議ですが、それでも、テレビの画面ではけっして感じ取れないスリルを味わうことができたので、よしとしましょう。そうしたことからすると、秩父宮ラグビー場のグラウンドと観客席の近さは何物にも代えがたいですね。近すぎて、選手は危険を感じるともいいますが……。

サッカーのW杯も一度だけナマで見たことがあります。2006年6月22日、ドルトムント(ヴェトファーレン・スタジアム)でおこなわれたJAPAN vs ブラジルの試合で、1対4で完敗。試合が終わったあと、MFの中田英寿がしばらくの間ピッチに仰向けで倒れ込んだまま動かなかったシーンはいまでも脳裏に焼きついています。ただ、100分近くナマで見たものの、個別のシーンで印象に残っているのはJAPAN唯一のシュートくらいのもの、要するにボールがゴールネットを揺らした瞬間だけなのです。

しかしラグビーは、トライの「瞬間」だけでなく、そこに至るまでの「スピーディーな流れ」が一つのパッケージとして記憶に刻まれます。しかも、そこには何人もの選手がからんでおり、そのうちの誰か一人でもコンマ何秒かアクションが遅れればその後の展開はまったく違っていたというケースもあり得ますし。もちろん、サッカーもそれは同じでしょうが、空間的に広いので印象としてはどこか希薄なのですね。まして、聴覚的な記憶はほとんど皆無でしょう。

その点、ラグビーは聴覚が伴いますし、関わっている選手の数が多く、しかもスピーディーである分、映像的にも強烈なインパクトがあります。ただし、ルールがわかりにくいのは欠点かもしれません。TMO(テレビジョン・マッチ・オフィシャル)の回数が多いのも、一連のプレーにかかわっている選手の数、そこで展開されるプレーの複雑さなどさまざまな要素が錯綜しているからです。しかも、プレーのスピードが想像以上に速いため、何度も繰り返し映像を検証し直さなければなりません。3、4台のカメラを駆使しさまざまな角度から捉えた映像をコマ送りで見てもキャッチしきれないことすらありますから。

今大会はこれまでのW杯で最高だったと、関係者が口をそろえて評価していたといいます。競技そのものは当然として、観客、運営役員、ボランティア、そのほかのスタッフなど、どれを取ってみても、これほどレベルの高い大会はなかったと。たしかに、ほかの国での試合で、これほど温かみを感じたことは私もありません。

2007年の大会は、決勝トーナメントを6試合──もちろん内容的には相当のハイレベルです──観戦しましたが、対戦相手の国に露骨なまでの敵意を見せる観客もけっこう目につきました。相手がPKやコンバージョンキックを蹴る段になると、バスケットボールのフリースローのときと同様、思い切りブーイングやノイズを出したりするのです。こうした行為は、日本ではまず見聞きしないので、「これって、許されるの?」と驚きました。陸上競技のスタート時に「しーっ!」という文字が場内のスクリーンに出てきますが、ラグビーの試合でそうしたものを見たことは一度もありません。そうした行為はそもそもあり得ないと思っていましたから。

ニュージーランドなど南太平洋の国のチームにだけ許されているハカ(フィジーのシピ、サモアのシヴァタウ、トンガのシビタウ)についても、昔から議論があるようです。とくに、イングランドとアイルランド、フランスは、NZのハカに対しては敵意をむきだしにするところがあり、今大会でもそれを隠そうとしませんでした。日本人的には、「神聖な儀式なのだから、おとなしく見ていればいいではないか」と思うのが普通でしょう。しかし、イングランドやアイルランド、フランスの選手たちには「NZだけがそうやって戦意高揚を図るのは不公平だ」「黙って見ていろというのはおかしい」という思いが昔からあるようなのです。

日本では、選手がグラウンドに入るとき(交代で出るときも)かならず一礼します。JAPANの、日本人選手は当たり前のようにそうしていました。しかし、外国出身でそうしたことをする選手はほとんどいません。文化の違いというといささか大袈裟ですが、日本ではそういうふうに教え込まれてきているのです。もとをたどれば、剣道や柔道と同じく、神の前で力を競うプレーするといった考え方が根づいているのかもしれません。ラグビーに限りませんが、日本ではなぜか、そもそもスポーツは神聖であるという考え方が主流を占めていました。そのためか、スタンドに向かってお辞儀をするのも、国内の試合ではごく当たり前におこなわれています。しかし、これも海外のファンにとってはとても新鮮なアクションとして受け止められたようです。

試合が終わったあとお互いの健闘を讃え合うのは、どの国も同じ。これはラグビーの基本精神だからです。花道を作り、相手チームのメンバーを送るのも、ほかのスポーツでは見られないシーンでしょう。日本の出ない試合であっても、二つの国の国歌を、日本人の観客が歌詞カードを見ながら歌うというのもえらく新鮮な印象を与えたようです。

こうした場面をスタジアムで、またテレビの中継で目にすることで、「ラグビーはサッカーや野球とはかなり違う」ということに気づいた観客・視聴者も多いはず。ただ、そういうことに美しさを見出すのは日本人特有の感覚かもしれません。ただ、意外なことに今回はそれが大きな反響を呼んだというのですから、わからないものです。今大会がきっかけで、世界中に広まれば面白いのですが……。

こうしたこととも関わるのでしょうが、日本ではスポーツに関してはアマチュアリズムが厳しく問われるところがあります。1935年前後、日本でプロ野球が産声を上げたとき「スポーツをやってお金をもらうなど、とんでもない!」という議論が沸き起こったといいます。そうしたこともあって、相撲をスポーツの一種と考える人は少なかったようです(その名残はいまだにありますが)。プロレスも、最初は日本人の誰ひとりとしてスポーツだとは思わず、「ショー」という受け止め方をしていました。プロボクシングも似たようなものでしょう。

そうした中にあって、ラグビーはとりわけアマチュアリズムにこだわってきました。サッカーが各国でプロ化していく中でラグビーが大きく遅れたのはそうした事情もあるのです。日本でもまだまだそうした考え方にこだわっている人も少なくないようで、とくに協会のお歴々に、その傾向があるとも聞きます。「スーパーラグビー」への参加を心よしとしなかった役員が少なからずいたという話が伝えられていますが、それもむべなるかなでしょう。

今回、釜石鵜住居【うのすまい】スタジアムでおこなわれたフィジー vsウルグアイの試合。ラグビーの競技人口比率が世界でもNo.1のフィジーは世界ランキングも日本とさほど変わりません。もちろん、選手は全員プロです。これに対しウルグアイは、31人のスコッド中9人がアマチュアだというのです。公認会計士もいれば医者もいる、自動車整備工場の経営者もいれば銀行に勤める者もいる。チームもほかの国のように、何カ月も合宿をして力をつけていくなどというプロセスはまったく経ていません。ところがなんと、そのウルグアイがフィジーを相手に30対27で勝ったというので大きな話題になりました。フィジーがプロらしからぬミスを連発したせいもあるのですが、それにしてもウルグアイの選手は皆、溌溂とプレーしていました。それが観客だけでなく、取材に訪れていた日本のメディア関係者や新聞記者にも伝わったのではないでしょうか。

行くぞーっ! 2023年フランスW杯も!

2019年11月3日

新横浜駅の構内の看板が、決勝戦用に付け替えられていました。人の出も準決勝のときよりさらに早い感じ。駅からスタジアムまで、外国人があふれています。早々にやってきてビール、ビール、ビールで盛り上がるのが彼らの習慣なのです。人が多すぎて歩道に収まりきらない場所もあるほど。イングランドのサポーターは、定番の応援歌『スウィングロウ・スウィートチャリオット』を大合唱しています。
Swing low, sweet chariot,
Coming for to carry me home,
Swing low, sweet chariot,
Coming for to carry me home.

それにしても、外国人サポーター(男性)の体の大きさには、感心するばかり。レプリカジャージのままグラインドに出れば、選手ですといっても通りそうな人が多いのです。決勝とあって、飲んでいるビールの量も! 声も大きいですし、騒ぎ方もハンパありません。

   

イングランドvs南アフリカの組み合わせは、くしくも2007年10月21日の決勝と同じ。このときも私はパリ郊外サン・ドニのスタジアム(Stad de France)で観戦しています。試合は6対15で南アが勝ちましたが、両国とも得点はすべてPK。トライは見られずに終わってしまいました。ビッグゲームではよくあることと聞いてはいましたが、実際にこの目で見ると、そうなるべくしてなっているのがよくわかります。どちらもディフェンスに全精力をぶつけるので、その堅いことといったらありません。逆に言うと、最終的にはペナルティーを多く犯したほうが不利ということになるのですね。

2007年の南アの優勝は初出場の1995年以来2回目、ちょうど12年後でした。それからすると、12年後の今回は優勝してもおかしくないかも。ただ、今回の下馬評はイングランドが有利で、私の周りも、「イングランドの大勝」と予測する人が多数。でも、南アが勝てば、その南アに負けたJAPANはたいしたものだという評価が聞こえてきても不思議ではないはず。私としては南アに勝ってもらいたいというのが正直な気持ちです。

17時50分、選手がグラウンドに入ってきます。太鼓の音ともに両チームが入ってくるのは日本らしさ満点で、ホントよかったですね。南ア初めての黒人主将・シヤ・コリシもいささか緊張気味。でも、胸に期すところは大きいのではないでしょうか。

 

一方、イングランドの主将オーウェン・ファレルの不敵な表情はいつもどおり。ニュージーランドとの準決勝、ハカの前でV字陣形を組んだとき中心に立っていたファレルの笑みは世界中に流れたはずです。まだ28歳と若いのですが、顔に刻まれている経験値は30代半ばの貫禄がただよっています。プロデビューは17歳、イングランド代表デビューは20歳、キャップ数も70ですから、当然といえば当然かも。

さて、試合のほうはというと。今日も後半25分までは12年前とまったく同じ。このままで終わってしまうのかと思っていたのですが、後半26分にマカゾレ・マピンピが、さらにその8分後には“ポケットロケット”チェスリン・コルビがトライを決め、終わってみれば32対12で南アの快勝でした。

イングランドは準決勝のNZ戦とはまるで別のチームのようで、ほとんどいいところなしで終わってしまいました。何より、スクラムでいやと言うほどペナルティーを取られたのが響きました。80分を通じて6回もペナルティーを取られてしまってはイングランドも苦しいでしょう。開始早々、スクラムの中心=プロップのカイル・シンクラーが負傷退場したのが大きかったようです。

PKを得るたび、南アのSOハンドレ・ポラードが百発百中とまでは言いませんが、PKを確実に決め早々と優位に立ちます。前半30分過ぎからイングランドがフェイズを重ねましたが、5分間攻めに攻めましたが、結局トライは取れずPKの3点のみ。しかも、その直後南アにPKを2本連続で決められ、これで「勝負あった」の感じがしました。最後は時間を告げるドラが鳴ると、FWが密集から出したボールをBKが蹴り出してホイッスル。

今日の試合は秋篠宮ご夫妻が観戦に来られ、イギリスのヘンリー王子と並んでロイヤルボックスにその姿が見えました。表彰式のメダル・プレゼンターもされていましたね(安倍首相もいたようですが、別に出てこなくてもいいんじゃないのと思いましたが)。

表彰式は2位・1位の順でメダルの授与→「ウェブ・エリス・カップ」授与の流れ。でも、イングランドの選手のうち何人かはメダルを首にかけてもらうのを拒んだり、かけてもらってもすぐ外してしまったり。悔しいのはわかりますが、こういう姿は見たくないですね。もうひとつ、「ウェブ・エリス・カップ」授与のときの盛り上げは少々物足りませんでした。前回がド派手だっただけに、いささか見劣りしました。(写真は©World Cup Rugby)

まあ、それはそれとして、すべて終わったあと、イングランド、南アの順に全選手がスタンドの前まで歩いてきて、今大会ですっかり定着したお辞儀をしていたのを見て温かい気持ちになりました。次回は、そうした「(日本流の)礼」とは縁の薄そうなフランス開催ですから、ぜひとも現地に行って確かめてみたいとも思っています。

 

  

なお、南ア代表として今大会に出場していた選手のうち、フッカーのマルコム・マークスがNTTコミュニケーションズ、BKのダミアン・ディアレンデがパナソニック、同じくジェシー・クリエルがキャノン、さらにBK(FB&ウィング)のウィリー・ルルーがトヨタ自動車でプレーすることになっているといいます。ヤマハのクワッガ・スミス(FW第1列)、クボタのドウェイン・フェルミューレン(NO.8)、HondaのRG・スナイマン(ロック)の3人はこれまで同様。また、ルルーもかつてキャノンに2年在籍していたことがありますが、昨日記したニュージーランド代表の3人、オーストラリアの4人、サモアの2人も含め、2020年のトップリーグは興味津々です。

 

 

準決勝の負けでさばさばしていたNZがウェールズを退ける

2019年11月2日
さあさあ、W杯もいよいよ今日が決勝。イングランドvs南アフリカの対戦となりました。こんな黄金、いや“プラチナカード”が横浜で見られるなど、10年前には想像すらできませんでした。W杯を日本で開催できたことを、いまさらながら改めて喜びたいですね!

どちらが勝ってもいいといえばいいのですが、心情的には、JAPANを破った南アにエールを送りたい。せこいと思われるかもしれませんが、JAPANの価値を少しでも上げるためにも……。

 

さて、昨夜は東京スタジアムで、ニュージーランドvsウェールズの3位決定戦を見ました。9月20日の開幕戦、日の入りは18時10分だったのが今日は16時48分。スタジアムに入ったときは夕日の残照が空を染めていました。どこかさみしげな印象がしますが、これはやはり「3位決定戦」という、ある意味位置づけの難しい試合のせいでしょうか。勝っても3位ですから、選手たちのモチベーションもいまひとつ高まらないのではという気もします。

 

観客も、両国だけでなく多彩。ほとんどはベスト8に進んだ国の人たちですが、心の底では、「ホントは明日試合するはずだったんだよな」くらいに思っているのでしょう。スタンドも、オーストラリの集団がいたり、イングランドのサポーターがあちこちに固まっていたり、ビールをガンガン飲んでいるアイルランドのグループも。

 

もちろん、いちばん目立ったのはNZサポーターの集団。2カ所、それぞれ数百人が陣取っていました。ただ、本心は「こんなところにオレたちがいるはずじゃなかったんだけどなぁ」というところでしょう。

先週はイングランドに持ち味をほぼ100%封じられたNZでしたが、今日はうって変わって、のびのびしたプレーを見せてくれました。今大会の途中まで、W杯では18試合負け知らず(台風による中止で引き分け扱いになったイタリア戦を含めれば19試合)で来たのが、それを封じられたがために、かえってさばさばした気持ちで臨めたのかもしれません。

キャプテンのキアラン・リード(NO.8)も代表としては最後の試合、またスティーブ・ハンセンHCも同じく最後とあって、チームの全選手も心に期するところがあるようで、ハカも気合満点。ちなみに、通算127キャップで代表を退くことになったキアラン・リードは、来年1月から日本のトップリーグでプレーするとのアナウンスもありましたよ。ちなみに、この日出場していた選手のうち、POTM(プレイヤーオブザマッチ)に輝いたロックのブロディー・レタリックは神戸製鋼、トライを決めたCTBのライアン・クロッティはクボタ、FW第1列のマット・トッドは東芝(昨シーズンはパナソニック)だそうです。これでトップリーグ観戦の楽しみが増えますね。

 

試合のほうはNZが持ち味の変幻自在ぶりをこれでもかと発揮。ウェールズも意地を見せますが、過去66年間NZには一度も勝てていないのも影響しているのか、攻めても攻めても強力なタックルのえじきになるばかり。後半20分過ぎ、ウェールズのジョシュ・アダムズ(ウィング)が今大会7個目のトライを決めたのが救いでしょうか。アダムズはこれでトライ王をほぼ確実に。

今日のサプライズは上皇ご夫妻が観戦にいらしたこと。後半からでしたが、巨大なスクリーンにお二人の姿が大写しになったときはどよめきが起こりました。決勝戦にも皇族のどなたかがいらっしゃるのかもしれませんが、3位決定戦というのが、いまのお立場を感じさせます。

 

 

両チームとも、キャプテン、ヘッドコーチが最後の試合ということで、終了後の雰囲気もどこか温かい雰囲気が。「戦い切った」という満足感があふれていました。もちろん、3位決定戦ゆえの“ゆるさ”も影響しているのかもしれません。

3位チームにメダルを授与するセレモニーがあったのですがパスさせてもらい、武蔵境南口行きのバスに。15分ほどで到着すると、この日から年末のイルミネーションが始まったようで、これまでとはガラッと様変わり。「ああ、終わりなんだなぁ」との思いを噛みしめながら帰路につきました。

 

今夜、ラグビーの世界最高峰が決まります。横浜はどうなっているでしょうか

 

「にわか」から「本格ファン」に昇格したいなら

2019年11月1日
これまで1999年(イギリス)、2007年(フランス)、11年(ニュージーランド)、15年(イギリス)と見て回りましたが、今回のW杯ほどうまくハマったというか、盛り上がりを見せた大会は、なかったように思います。主催者のWR(ワールドエアグビー)も万々歳のはずです。

どの開催都市に行っても、空港、駅、主要道路、繁華街、デパート、小売店など、ポスターや横断幕、幟【のぼり】、捨て看、バナー、ラグビーボールのオブジェ、公式マスコットの「レンジー」を見かけましたし、居酒屋やカフェもにぎわっていました。「4年に一度じゃない。一生に一度だ」のキャッチコピーどおりの体験をした人もいっぱいいるのではないでしょうか。

 

経済効果は4300億を突破しそうだといいますし、JAPANvs南アフリカ戦のテレビ実況中継は41・6%という驚異的な視聴率を達成したとも。これは、今年に入ってすべての番組の中でトップのようです。あと2カ月余、よほどの一大事でもない限り変わらないでしょう。

しかも、9月20日から11月2日までのW杯開催期間と日程が重なり合うスポーツイベントには、プロ野球のセ・パ両リーグのCS、日本シリーズ(ソフトバンクのストレート勝ちで10月23日に終戦)、バレーボール男子のワールドカップ、競馬のGⅠ菊花賞に天皇賞、プロ野球ドラフト会議(高校生)、日本初開催となる男子ゴルフのPGAツアー「ZOZOチャンピオンシップ」(タイガー・ウッズが13年ぶりに日本で出場)など、強力なコンテンツが目白押し。また、サッカーJリーグも最終盤に来て激しい優勝争い(10月29日現在、4チームが勝ち点5の差でひしめく)が展開されていますし、バスケットボールBリーグも開幕しました。

そうした中で大変な数の「にわか」ラグビーファンが生まれたのは間違いありません。多くの人が「いやぁ、私はにわかなので」「世の中ラグビーで盛り上がっているのに一人だけ外れているとさびしくて」……、さまざまな人がいるでしょうが、とりあえず2試合でもテレビ中継を観た人は、なぜラグビーがこれほど多くの人の心を鷲づかみにするのか、理屈抜きで感じ取れたと思います。こまかなルールなどうっちゃってOK、要は相手ゴールラインを越えたエリアにグラウンディングすればトライだということさえ分かっていれば、ハンパなく濃密な80分間を経験できることが体感できたのではないでしょうか。

つい半年、いな3カ月ほど前までは、どこに行ってもラグビーの「ラ」の字も見えませんでした。「これで大丈夫かなぁ」と、大会関係者でもなんでもない私ですら心配になったものです。それがなんと、国民の半分半分近くが、突然“ラグビーファン”になって熱くなり、南アに負けて“JAPANロス”、そして大会が終わったら“ラグビーロス”になりかねないような雰囲気すら感じられます。

それはともかく、今回「にわかラグビーファン」になった中には、このままではもったいない、もっともっとJAPANを応援したいと思っている人もいるはずです。ただ、座して待っているだけでは、どんどん熱が下がるのは確実。そこで、そうならないための秘訣を一つお伝えしましょう。来年2月まで、日本国内は高校・大学ラグビーが盛り上がります。

高校ラグビーはちょうど高校サッカーと時期が重なりますが、サッカーよりよほど面白いのではないかと思います。大学ラグビーも近頃は様変わりしつつあり、海外からの留学生もけっこういますし、そうした中から次のJAPAN代表になりそうな選手を見つけるのも楽しいのではないでしょうか。一定期間続けてラグビーに触れれば、かならずハマるのがラグビーです。(各国サポーターの写真はすべて©Getty Images)

トヨタスタジアムで遭遇した、私より少し年上とおぼしきご婦人(「おばちゃん」と呼ぶのがはばかられるほど上品な雰囲気をただよわせていた)は、試合が始まるやいなやガラッと変貌、すぐ横にいた私はただただ驚くばかりでした。「堀江~~っ、ハリハリー(=急げを意味するかけ声)!」「姫野――っ! めくれ、めくれよーっ(=ラックでボールを奪うさまたげになっているプレーヤーを排除する)!」などと、けっこうかん高い、というよりドスの利いた声で叫び続けるのです。それも、JAPANのワンプレー、ワンプレーに対してですよ。かなり年季の入ったファンとお見受けしましたが、ここまで到達するのは時間とエネルギーが要ります。

でも最初は彼女も、「ラファエレティモシーっていうの? あの人、いいわねェ」と笑顔でのたまうおばあちゃんや、「稲垣――! 笑ってぇ」「福岡さーん、こっち向いてー!」という女子高生のレベルだったのではないかという気がします。女性の多くがこのパターンかと思いますが、何事も「好き」になるのが一番のきっかけですから。

好きな選手の一挙手一投足に注目することから、各ポジションの役割や選手の動き、パスやキック、ラン、ボールキャリー、タックルについての見方、相手のディフェンスをかわすさまざまな手立て、スクラムやラインアウトの駆け引きなど、一つひとつのプレーを見る目が養われていきます。さらに、両チームの布陣や個々の選手の動きなど、ゲーム全体が見えてくれば面白さはぐんと増すでしょう。興味・関心を抱いた一人の選手が、ラグビー全体にあなたを引き込んでくれるというわけです。言うならば、好きな選手こそが「にかわ」=“接着剤”のようなもの。「にわか」が「にかわ」に代わるのは簡単だということがわかるでしょう。

私が高校でラグビーをしていた頃、早稲田大学ラグビー部や日本代表チームの監督を務めた大西鐵之祐(1995年に死去)が打ち出した「接近・展開・連続」という理論を学ばされました。海外の強豪国に比べ体格の劣る日本人がそれに対抗するには、器用さや俊敏性、持久力では負けないという考え方に基づいたものです。攻撃するときは接触を避けつつギリギリまで相手に「接近」し、器用な手さばきでパスを出してつなぎ、グラウンドを広く使って「展開」する。こうした攻撃をチーム全員が粘り強く繰り返す(「連続」)ことで相手の優位性をくつがえすことができるという内容でした。実際、1968年5~6月、日本代表がニュージーランドに遠征したとき、オールブラックス・ジュニアに23対19で勝利を収め、私たちも大喜びしたものでした(このときの通算成績は5勝5敗・写真の出典は不明です)。

ラグビーの本格ファンになるのも、この「接近・展開・連続」が必要な気がします。W杯で「接近」、高校・大学ラグビーに「展開」、そして「連続」の対象は代表レベルの試合です。

今回JAPANの代表に選ばれた31人のほとんどが「トップリーグ(16チーム)」に所属しています。チーム別では、
◎NTTコミュニケーションズ(千葉県市川市) アマナキ・レレイ・マフィ
◎NTTドコモ(大阪市) ヴィンピー・ファンデルバルト
◎キャノン(東京都町田市) 田中史朗、田村優
◎クボタ(千葉県船橋市) ピーター・ラピース・ラブスカフニ
◎神戸製鋼 中島イシレリ、山中亮平、ラファエレティモシー アタアタ・モエアキオラ
◎サントリー(東京都府中市) 北出卓也、ツイヘンドリック、中村亮土、流大、松島幸太朗
◎東芝(東京都府中市) 徳永祥尭、リーチマイケル
◎トヨタ自動車(愛知県豊田市) 木津悠輔、茂野海人、姫野和樹
◎パナソニック(群馬県太田市) ヴァルアサエリ愛 稲垣啓太、坂手淳史、福岡堅樹、堀江翔太、松田力也
◎HONDA(三重県鈴鹿市) 具智元 レメキロマノラヴァ
◎宗像サニックス(福岡県宗像市) ジェームス・ムーア
◎ヤマハ(静岡県磐田市) ヘルウヴェ
同リーグにはこのほか、今大会では代表を送り込めなかったNEC(千葉県我孫子市)、リコー、日野自動車(東京都日野市)、三菱重工相模原の4チームがあります。
また、トップチャレンジリーグからは、
◎近鉄(大阪府東大阪市) トンプソンルーク
◎コカコーラ(福岡市) ウィリアム・トゥポウ
の2人が代表に選ばれていました(チーム名のあとのカッコは練習場のあるところ)。そうした選手たちに焦点を絞って試合を見て回るのも面白そうです。一般のファンが多く行けば行くほど、「仕事する場所が変わっただけの社員」「動員された取引先」「いやいや付き合わされた来た人」といった不自然な観客は減るでしょうから、ゲームも楽しめるはずです。

ちなみに、31人のうち東日本出身は稲垣啓太(新潟)のみ、西日本出身は京都が4人、大阪3人、愛知・福岡が各2人、兵庫・大分・鹿児島が各1人です。日本人の国民性を考えるのにさんこうになりそうな話です。また外国出身は、ニュージーランドとトンガが各5人、南アフリカが3人、韓国・オーストラリア・サモアが各1人。

トップリーグの試合は全国各地で開催されます。これはラグビーの普及という意味合いもあるようで、W杯の試合がおこなわれなかった秋田、仙台、千葉県、三重県、京都、広島県、山口県、高知県、佐賀県などでも1、2試合が組まれています。

ただし、JリーグやBリーグのようにホームとアウェーで1試合ずつという仕組みではありません。ハードなスポーツなので、5日~1週間のインターバルが必要なのです。スケジュールは1月から5月までほぼ毎週末、16チーム総当たり。W杯では同じJAPANのジャージを着ていた選手が敵味方に分かれて戦うのを見るのも一興です。トップリーグのウェブサイトは、
https://www.top-league.jp/

また、各チームとも外国人選手が大勢います。彼らが見せるハイレベルのプレーにも注目したいですね。自分の出身国で代表寸前まで行ったものの選ばれなかった、あるいは国代表としては引退してもまだプレーを続けたい……そうした選手が多いので、下手な日本人選手よりよほど迫力があります。なかには、次のJAPAN代表に選ばれようと、資格(居住期間5年)をクリアするためにプレーする選手もいるでしょうし。

トップリーグとほぼ同じ時期に「スーパーラグビー」が始まります。詳しくは近々書こうと思っていますが、こちらはニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、アルゼンチン、そして日本の5カ国にまたがる15のクラブで覇を競います。日本に本拠を置くのは「サンウルブズ」といい、今回のW杯に出場していた選手が異なるクラブに所属して戦うので、楽しみもいっぱい。トップリーグよりチケット代は少々高いのですが、それだけの価値は十分あります。スーパーラグビーのウェブサイトは、
https://super.rugby/superrugby/

「スーパーラグビー」、来シーズンは日本国内でも6試合開催されます。W杯とはかなり様相の違う攻撃的・冒険的なシーンの連続に、別の楽しみ方ができること請け合い。「一生に一度」で終わらせてしまってはホントもったいない話です。「4年後に(フランスで)もう一度」をめざし、ラグビーを楽しみたいものです。

ラグビー選手にとって最高の名誉は「野蛮人」になること?

2019年10月31日
W杯もいよいよ最終ステージ。優勝国、準優勝国の選手・スタッフに送られるメダルも発表になり(©Rugby World Cup Limited 2007 – 2019)、大団円のときが刻々と近づきつつあります。ウェッブ・エリス・カップを高々と掲げるのはイングランドのオーウェン・ファレルか南アフリカのシヤ・コリシか、楽しみですね。

選手個々人はこのほか、いくばくかの賞金も手にするようですが、それとは関係なく、ラガーマンにとって最高に名誉で誇らしいことがあります。それは、「バーバリアンズ(Barbarians)」というチームのメンバーに選ばれることです。英語のbarbarianは「野蛮人」を意味するのが面白いのですが、ラグビー界で「バーバリアンズ」といえば、「ホームグラウンドを持たず、数名の役員によって選ばれた世界の一流選手で編成される伝統あるラグビーユニオンクラブ」(Wikipedia)のこと。もちろん各国の代表チームやクラブなどと試合をするために編成されるのですが、チャリティーの目的で試合をすることも多く、テストマッチのようなピリピリした緊張感はありません。

それでも、1973年オールブラックスがイギリスに遠征し最終試合で対戦したときのバーバリアンズは、古くからのラグビーファンなら誰もが記憶しているのではないでしょうか。この試合でバーバリアンズのSHガレス・エドワーズ(ウェールズ代表)が奪ったトライは「ラグビー史上最高のトライ(the greatest try ever scored)」と伝えられています。映像はチョー劣悪ですが、TouTubeで見られます。私自身は学生時代、テレビで見て体が震えた記憶があります。
https://www.youtube.com/watch?v=AwCbG4I0QyA

 

最近では2017年11月にオーストラリア、ニュージーランド、18年12月にアルゼンチンで試合をしています。南アの司令塔ハンドレ・ポラード(©Getty Images)、NZの同じくリッチー・モウンガがいつもと違う白黒のストライプのジャージを着ている(ただし、ソックスだけは選手個人の所属クラブのものを履く)ので、まったく別人のように見えてしまいます。モウンガが出たときの相手はなんとNZなので、余計です(©the Guardian)。

今年もW杯終了後間もない11月16日にフィジー(会場はラグビーの聖地トゥイケナム!)、20日にブラジル@サンパウロ、30日にウェールズ@カーディフとの試合が組まれています。また、フィジー戦の出場選手を選ぶのは、イングランドのHCエディー・ジョーンズとのこと。

日本の選手でこれまで選ばれたのは、今大会でも活躍した田中史朗、ほかには林敏之(同志社大→神戸製鋼)、元木由記雄(明大→神戸製鋼)、ホラニ龍コリニアシ(埼玉工大→パナソニック)、藤田慶和(早大→パナソニック)しかいません。©Daily Telegraph

 

このように、ラグビー選手にとって「Barbarians」は誇り高き存在なのですが、ラグビーを観戦するスモーカーも同じく「barbarian」として扱われています。ただし、この場合は文字どおりの「野蛮人」という意味。

ご承知のように、ここのところスモーカーにははなはだ暮らしにくい世の中になっています。もちろん、スタジアムでもそれは同様。ただし、会場によってかなり差があります。当初から、吸える場所は少ないだろうなと予想していたので、大きな声では言えませんが、「隠れて吸ってもわからない、それでいて吸わない人にご迷惑をおかけしない」場所を見つけられるかが勝負。味スタは係員が多いため、悩みました。緒戦の9月20日は、秋篠宮ご夫妻や安倍総理も観戦していたせいもあってか、とにかく厳しかったですね。タバコどころか、スタジアム内を動くことさえ制限されました。そこへさらに警官まで加わり、不自由なことこの上なし。

2回目のウェールズvsオーストラリア戦のときはそれほどでもなかったように思います。前半戦を見終えた客が一斉にスタンドの外に出てきて、所定の喫煙場所に。しかし、狭いスペースに収まり切ろうはずもなく、最初はその入口近くにはみ出していましたが、そのうちどんどん横に広がり、通路の端っこはスモーカーでいっぱい。運営役員が「おタバコは所定の場所で……」と、義務的に、というか半ばあきらめた口調で注意を促していたものの誰も耳を傾ける人はいません。さすがに、10月19日の準々決勝(ニュージーランドvsアイルランド)以降は増設されたようで、ゲーム時間中のみという場所も設けられたようです。

悲惨だったのは横浜。7万人近くのキャパなのに、喫煙場所は4カ所のみ。運が悪いと200メートル以上歩かなくてはたどり着きません。スモーカーは野蛮人(バーバリアン)とでも言いたいのでしょうか。仕方なく、係員の目が行き届かない場所を探すのですが、比較的容易に見つかります。日本人より外国人のほうがスモーカーは多そうで、彼らには日本人ボランティアも多少甘く対応しているようでした。横浜では、イリーガルな場所でも外国人の横で吸っていればおとがめなしで済みました。

福岡が異常に盛り上がっていたのはなぜ?

2019年10月30日
イングランドの決勝戦観戦のため、エリザベス女王の孫ヘンリー王子が急きょ日本を訪れることになったそうです。王子がイングランド・ラグビー協会の後援者(パトロン)であることを考えると、驚くことではないのかもしれません。準決勝の前には、令和天皇の即位式で来日していたプリンス・オブ・ウェールズの称号を持つチャールズ皇太子がウェールズの選手たちを激励していましたが、イギリス国民にとってラグビーがいかに重みを持っているのかを感じさせます。

日本ラグビー協会がジェイミー・ジョセフに今大会終了後も引き続き指揮を執ってもらうよう要請することになったとのニュースも伝わってきました。お金に糸目はつけないとの話もあるようで、果たしてどうなるか興味津々です。W杯は4年に1回の大イベントですから、毎回、終わるたびに世界中で激動が起こります。あっと驚く人があっと驚く国やクラブのHCになったりすることもしばしばで、ジョセフは今回の“目玉”なのでしょう。日本ラグビー協会もボーッとしていると、どこかの国に持っていかれかねません。

そのジョセフHCが、JAPANの決勝トーナメント進出が決まった3日後、福岡の企業サニックスの本社を訪れ、ベスト8入りを報告したというニュースが新聞に小さく出ていました。同社とジョセフHCとの縁は深く、1995年、同社の創業社長・宗政伸一さん(2017年に死去)に請われてラグビーチームに加わり、2003年までプレー。その間チームはめきめき力をつけ、トップリーグ加入も成し遂げました。99年のW杯ではJAPANの代表にも選ばれています。

今大会の代表メンバーの一人ジェームス・ムーア(ポジションはロック)も現在サニックスに所属しています。試合中ずっとヘッドキャップを着けているので思い出す人も多いでしょう。「私はサニックスのファミリー」と公言するほど同社との縁を大切にするジョセフHCならではのこうした行動に、同社現社長の宗政寛さんも感激の面持ちで対面したとのことでした。©読売新聞

W杯観戦ツアー(2回目)の途中、10月8日、福岡に立ち寄りました。同地では計3試合が組まれていましたが、JAPAN戦はなし。というのも、会場となった「レベルファイブスタジアム(東平尾公園博多の森球技場)」のキャパが2万1千と小さいからです。今回も準々決勝2試合が九州で組まれましたが、会場は福岡ではなく大分スポーツ公園総合競技場。こちらは4万人収容ですから、仕方ありません。

にもかかわらず福岡の熱気といったら……。それは、予選プールで4本、それも派手なトライを決めた福岡堅樹(ウィング)のおかげでしょう。地元福岡県古賀市生まれ、福岡高校出身(→筑波大学)、そして名前が福岡。これで盛り上がらないほうがおかしいかもしれません。「JAPAN躍進の電源地は福岡だ」と、誰もが思っているようなのです。ちなみに、日本ラグビー協会の会長も、福岡の森重隆さん(福岡高→明大→新日鉄釜石)です。©サンケイ

ただ、福岡は昔からラグビーの盛んなところでした。私くらいの年齢のファンなら、社会人の八幡製鉄(現新日鉄住金八幡)が強かったのを覚えていることでしょう。1948年から始まった全国社会人ラグビー選手権で、1950年~68年までの間に12回も優勝していますし(準優勝も2回)、JAPAN代表に23人もの選手を送り込んでいます。高校ラグビーでは東福岡高校が2007年から18年までの12年間で6回全国制覇を成し遂げています。

しかし、そうした表舞台の出来事とは別に、派手さはないものの、日本ラグビー界に貢献していることがあります。それは「サニックス ワールド・ラグビー ユース交流大会」です。これは2000年から始まった、高校生の国際大会で、会場は福岡県宗像【むなかた】市のグローバル・アリーナ。毎年5月のゴールデンウィークに世界各国から16チームが参加して開催されます。過去20回おこなわれたうち、ニュージーランドが10回優勝しており、もちろん最多。残念ながら日本のチームが優勝したことはないのですが、世界の高校生ラガーマンのあこがれと言っても過言ではありません。

 

この大会を始めたのが、先に記した宗政伸一さん。私も20年以上前ですが、雑誌のインタビューの仕事でお目にかかったことがあります。ラグビーに強烈な情熱を持っていたのが印象的です。サニックスは現在トップリーグに加わっていますが、1994年の創部当初は西日本リーグの一員でした。チームを強化すべく、宗政さんがこの年のW杯で準優勝したニュージーランドのFWジェイミー・ジョセフを招いたのです。
©西日本新聞

 

 

ラグビーに限りない情熱と愛情を注ぎ、「スポーツ、文化を通じて世界中の子どもたちが集う場を」との思いを抱いていた宗政さんにとって同大会は何よりも大切な場だったのでしょう。これまでの参加国・地域は20カ国・地域、のべ384チーム(日本207、海外177)、参加者は1万3千人を数え、そのうち145人が国代表になっているといいます。

今回のW杯でJAPAN代表に選ばれた選手の中にも、山中亮平(バックス)、松島幸太朗(同)、坂手淳史(プロップ)、松田力也(バックス)、ラファエレティモシー(バックス)の5人が名前を連ねています。日本と戦った相手では、アイルランドのジョナサン・セクストン(スタンドオフ)、ジョン・ライアン(プロップ)の二人、スコットランドのジョン・バークレー(FW3列)、ブレイド・トムソン(同)もそうでした。優勝を争うイングランドにも、ルーク・カウワンディッキー(フッカー)、エリス・ゲンジ(プロップ)、ジャック・ノーウェル(ウィング)と3人がおり、カウワンディッキーとゲンジは出場メンバーにも選ばれているようです。

彼らは、高校生の頃、短期間ではあっても訪れたことのある日本の地でW杯に出場することにひとかたならぬ縁【えにし】を感じているのではないでしょうか。そうしたことからすると、福岡は秩父宮、花園と並ぶ、“ラガーマンの聖地”と言えそうです。今回福岡でお邪魔したお寿司屋さんで、食事を共にした方から「来年5月は、ぜひ福岡にいらしてください」との誘いを受けました。なかなかある機会ではないので、ぜひ足を運んでみたいと思っています。お祭り好きが福岡の県民性ですから、「サニックス・ワールド・ラグビー・ユース交流大会」も相当な盛り上がりを見せるのでしょう。

ラグビーが楽しめれば、南アでもウェールズでもOK!?

2019年10月29日
準決勝の2試合目は南アフリカvsウェールズという好カード。前週の結果次第ではJAPAN vs ウェールズになる可能性もなくはなかったのですが、残念ながらです。

しかし、この試合、今大会で私が観たJAPAN戦以外では最高にスリリングでした。チケットの価格も高額ですが、その金額に十二分にどころか、十五分に見合う内容で、わざわざ買っておいてよかった! と思った次第。スポンサー企業のどこぞから頂戴したタダ券で見に来るような人に、その価値はけっして理解できないでしょう。毎回、それっぽい客──なぜかスーツを着込んでいるので、すぐにそれとわかる──がいるのには驚くというか、「お前みたいなヤツが日本のラグビーを、いなスポーツをダメにしているんだよ!」と言いたくなってしまいます。

それはともかく、この試合のどこに価値があったのか──。前半を終わって南アが9対6でリードしていましたが、後半6分でウェールズがPKで追いつきます。その後は1トライ1ゴールずつを取り合い、残り7分の時点で16対16。私は延長戦になりそうだなと予測し、ビールをもう1本買ってしまいました。ところが、それから数分後、残り4分のところでウェールズが自陣ゴール前で痛恨のペナルティー。この日南アのハンドレ・ポラードは絶好調だったので、きっちり決め19対16となり、そのまま終了となりました。

©Getty Images

強国どうしのテストマッチでも同じような傾向が見られるのですが、負けたら終わりのノックダウン方式になると、どの国のチームも、予選プールとは戦い方がまったく違ってきます。予選プールでは、ボーナスポイントもからんでくるので、強い国は一つでも多くトライを重ねようと早めからガンガン来ます。

しかし、決勝トーナメントに入ると、その必要はありません。終了のホイッスルが吹かれた時点でとにかく1点でも相手を上回っていればいいので、何がなんでもトライを取ることに固執する必要はないのです。DG(ドロップゴール)もありますし、相手にペナルティーを犯させ(もちろん相手の陣地内、それもゴールラインに近いほどベター)PKを獲得するという手もあります。この場合、大事なのがキックの能力で、「ティア1」の国ともなると、傑出したキッカーがかならずいます。ハーフウェーラインより手前からPKを蹴ってゴールポストの真ん中を余裕で通すキッカーさえいるほどです。

前週の準々決勝フランスvsウェールズ戦。終了間際(後半34分)まで19対13でリードしていたフランスが、土壇場でウェールズにトライを取られ、コンバージョンゴールも決まったために19対20と逆転。残り5分を守り切ってこの日の準決勝にコマを進めてきたのです。後半早々、このフランス最初のトライを決めたセバスチャン・バハマイナ(ロック)が危険なプレーでレッドカード(退場)をくらい、30分以上も14人で戦ってきたことによる消耗の結果と言えなくもありませんが、それにしても残り5分でトライを決める戦闘心・粘り強さは並大抵のものではないでしょう。

結局、南アのPKが決勝点となりましたが、それまでの攻防はなんとも息詰まるものでした。トライは双方1本ずつで派手さはほとんどなかったのですが、攻めてはつぶされ、つぶしたところから相手が攻撃し、それがまたタックルで止められる……。この繰り返しです。肉と肉、骨と骨のぶつかり合いがここまで続くと、観ている側の体も徐々に固まってきてしまいます。JAPANの試合でなくてよかった! というのが正直な気持ちですね。

 

横浜のスタジアムは今日が5回目になりますが、ようやくアクセスのコツも飲み込み、すんなりと行けました。しかし、予選プールのときよりも人の出足が早く、途中の道筋にある居酒屋、カフェ、コンビニなど、酒を売っている店は、中はもちろん、店の前、さらにはその周囲まで人でビッシリ。それもでき上がり具合が相当のレベルまで行っているように感じました。外国からの観客もどうやら日本のパターンに慣れてきたようです。

 

飲むときは同じ外国人どうし、敵も味方もないようで、そこへさらに、場合によってはこの日ここで試合をするはずだった国のサポーターまで加わっています。イングランド、南ア、ニュージーランド、アイルランドとすべて異なるジャージを着た男女4人組も見かけましたし、スコットランドの民族衣装とウェールズ、オーストラリアのジャージを着た5人グループとか、もうワケがわからない感じです。

共通するアテ(酒肴)はラグビーで、ニュージーランドが負けたのはなぜか、決勝で当たったらイングランドよりウェールズのほうが強いとか、皆それぞれ自説を曲げません。いわゆる「にわか」ファンとはまた違う、けっこうクロウトはだしのファンが多いのです。たしかに、着ているレプリカのジャージを見ると、「2003」「2007」「2011」などという数字がプリントされていたりします。毎回、かならず観戦に行っているようです。もちろん、自分の応援している国が優勝するのが最高なのでしょうが、そうでなかったとしても、準決勝、3位決定戦、優勝で超ハイレベルの試合が見られればそれだけで満足というファンが多いように感じられます。

 

スタンドの外でもこれは同じ。さらに言うなら、スタンドの中でも同じです。サッカーのように、アウェーのサポーターはこのエリアなどという制限はありません。一人で、イングランドの応援歌をがなりたてる人がいるかと思えば、その2、3段後ろの席に陣取ったサポーターがオールブラックスの旗を体に巻いて盛り上がっていたり……。敵も味方もごちゃ混ぜに座っているのはごく普通で、対戦していない国のファンがけっこういるのも珍しくありません。要は、ラグビーというスポーツが楽しめればOKなのです。今日も、ウェールズのサポーターの中にはイングランド、スコットランド、アイルランドから来たとおぼしき人がいっぱいいました。「同じイギリスだから」ということなのかどうかはわかりませんが、そうした合従連衡・呉越同舟的な雰囲気は当たり前なのかもしれません。

 

それにしても面白いのは、外国人サポーターの鉢巻き姿です。たぶん、そうした応援グッズが向こうにはないのでしょうが、今大会で一気に広まった感じがします。鉢巻のデザインはほぼ一様。白地の真ん中に赤い丸があり、その横に漢字二文字が配されています「必勝」「闘魂」「一番」あたりはよくわかりますが。店の側も「これはどんな意味があるのか?」とたずねられ、「We must win !」とか「Fighting Spirit」「No.1」などと説明したのでしょう。しかし、なかには「神風」とか「合格」など、説明の難しそうなものもあります。まあ、日本の象徴である「漢字」が書かれていればそれでOKなのでしょうが……。値段も手ごろで、おみやげにもってこいというのもあるかもしれません。法被もけっこう目につきましたね。その国のジャージと同色の地、前の襟立部分にチーム名、背中に漢字で「勇」の文字が描かれたデザインが多いのですが、鉢巻きに法被とくれば、お祭り気分も高まるというものです。

 

素晴らしい盛り上がりを見せているW杯も残すところ、あと2戦。この南アフリカvsウェールズのテレビ実況中継の視聴率も19・5%だったとのこと(イングランドvs NZ戦は16・3%)。さすがに、JAPAN vs南ア戦には及びませんでしたが、それでも驚きの数字ではないでしょうか。残された祝祭の時間を最後まで楽しみたいものです。

イングランドが勝ったのはいいのですが……

2019年10月28日
さすがW杯、ベスト4が戦うステージともなると外国人の観客が目につきます。それも、目の肥えたイギリス人の数が圧倒的です。今日(26日)のカードは、事実上の決勝とも言われるイングランドvsニュージーランドですから余計でしょう。

ゴールドやグリーン、青や赤などカラフルなジャージが目立つ中、イングランドの、飾り気のない純白はかえってイキな印象。胸の赤いバラのマークもどこか由緒を感じさせます。ちなみに、15世紀の半ば頃イングランドの王位継承をめぐって起こった「バラ戦争」を戦った2つの名門一族(ランカスター家vsヨーク家)の家紋がどちらもバラだったことからそう呼ばれているですが、勝利したランカスター家のバラが「赤」だったそうです。写真はカンタベリー社の広告から(左からカリー、ジョセフ、ファレルの3選手)。

試合はイングランドがニュージーランドを破りました。それも、相手の力をまったく出させずじまいで、スコア以上(19対7)の完勝です。前回は、主催国であるにもかかわらず予選プールで敗退という屈辱を味わっただけに、今大会は並々ならぬ決意で臨んだようです。4年前までJAPANを見ていたエディー・ジョーンズをHCに迎えて強化の取り組み、ここ2年ほどでその成果がはっきり見えてきていましたから。当然の結果と言えなくもありません。

昨年から今年にかけてのテストマッチの結果を見てもそれははっきりしています。2018年の「6ネーションズ」は優勝(今年は3勝1分け1敗で2位。スコットランドと引き分け、ウェールズには勝っています)。南半球の国相手では南アに勝ち、ニュージーランドとオーストラリアには負け。また、昨年11月にはJAPANにも勝ちました。直近の8月のテストでも、イタリア、ウェールズ、アイルランドを破っており、一時期の苦境からはほぼ脱したと見られていました。それどころか、今大会でニュージーランドの3連覇を阻む第一候補として名前があがりさえしていたのです。

ただ、イングランドのラグビーというのは、強いかもしれませんが、いまひとつ面白みに欠けるのです。手堅さばかりが目立ち、華麗さ、奔放さ、意外性となるとほぼゼロ。泥臭いラグビーとでも言いますか。2003年W杯の決勝で延長戦終了間際にジョニー・ウィルキンソンのドロップゴールでオーストラリアに“サヨナラ勝ち”したのは、そうした意味では例外で、それ以外は地道に勝ちを積み重ねるスタイル。スコットランドやウェールズ、アイルランドと同様、やはり泥臭さが前面に出てくるのは、イングランドとしょっちゅう戦っているせいなのか? と言いたくなるほど。グレートブリテンの伝統なのかもしれません。

ホイッスルが吹かれる前、スタジアムにどよめきが起こりました。恒例によりハカを披露するニュージーランドの前で。イングランドの選手たちが「V」の字に並んでみせたのです。ハカの陣形は前の尖った三角形ですが、それを受け止めるかのような「V」の陣形。こういうパフォーマンスを見せれば、さしものニュージーランドも多少は動揺するのでは……というエディー・ジョーンズHCの読みがあったのかもしれません。それが功を奏したのか、開始早々イングランドがノーホイッスルトライ。ニュージーランドの選手がまだ心を落ち着かせずにいるスキを狙ったのだとすれば、これはみごとな采配としか言いようがありません。©『RUGBY JAPAN 365』

そう言えば2007年(開催地はフランス)の準々決勝で、フランスの選手全員がハーフウェーラインを越えニュージーランドの目の前に横一列に並んで挑発、ニュージーランドが負けたということがありました。同じように、次の大会(同ニュージーランド)は決勝での対決となり、フランス選手は「V」字形の陣列を作って少しずつ前進するという“挑発行為”をおこなっています(試合はニュージーランドの勝利)。それに比べれば、今回のイングランドはおとなしいものですが。
2007年→https://www.youtube.com/watch?v=_USmnbVbJNI
2011年→https://youtu.be/yiKFYTFJ_kw

しかし、ドラマチックだったのはここまで。その後はディフェンスの強さ・堅さを前面に出し、ニュージーランドに何もさせない78分でした。後半早々イングランドのトライかと思わせた部分もありましたが、TMOによる判定でノートライ。攻めの形は、イングランドらしくてよかったのですが……。

それにしても、イングランドのタックルはすさまじかったですね。なかでも、ロックのマロ・イトジェ、第3列のアンダーヒルとカリーは出色でした。イトジェはこの試合のPOTMにも選ばれていました。ニュージーランドの大きな選手が次々とその餌食になり吹っ飛ばされ、あるいは倒されていきます。1試合で数えるほどしかないようなシーンが、この試合では何度となく見られました。これほど漆黒のジャージがグラウンドの上に倒れるとは!!

ターンオーバーもずばずば決まっていました。密集戦でニュージーランドがキープしていたはずのボールが、気がつくとイングランドの手にというシーンが何度もありました。常日頃見ているニュージーランドとは真逆です。打つ手に窮し始めたニュージーランドはタッチを狙ってキックを放ちますが、それもプレッシャーを受けながら窮屈に蹴ることを余儀なくされ、思うような展開に持ち込めません。イングランドの素晴らしいディフェンスが最後の最後までニュージーランドを苦しめました。反則数はイングランドが6、一方ニュージーランドは11。この数字がすべてを物語っているのではないかという気がします。

一夜明けた27日のニュージーランドの地元紙の第1面は、なんと黒一色だったそうです。いかにショッキングな出来事だったのか、よくわかります。