ラグビーが楽しめれば、南アでもウェールズでもOK!?

2019年10月29日
準決勝の2試合目は南アフリカvsウェールズという好カード。前週の結果次第ではJAPAN vs ウェールズになる可能性もなくはなかったのですが、残念ながらです。

しかし、この試合、今大会で私が観たJAPAN戦以外では最高にスリリングでした。チケットの価格も高額ですが、その金額に十二分にどころか、十五分に見合う内容で、わざわざ買っておいてよかった! と思った次第。スポンサー企業のどこぞから頂戴したタダ券で見に来るような人に、その価値はけっして理解できないでしょう。毎回、それっぽい客──なぜかスーツを着込んでいるので、すぐにそれとわかる──がいるのには驚くというか、「お前みたいなヤツが日本のラグビーを、いなスポーツをダメにしているんだよ!」と言いたくなってしまいます。

それはともかく、この試合のどこに価値があったのか──。前半を終わって南アが9対6でリードしていましたが、後半6分でウェールズがPKで追いつきます。その後は1トライ1ゴールずつを取り合い、残り7分の時点で16対16。私は延長戦になりそうだなと予測し、ビールをもう1本買ってしまいました。ところが、それから数分後、残り4分のところでウェールズが自陣ゴール前で痛恨のペナルティー。この日南アのハンドレ・ポラードは絶好調だったので、きっちり決め19対16となり、そのまま終了となりました。

©Getty Images

強国どうしのテストマッチでも同じような傾向が見られるのですが、負けたら終わりのノックダウン方式になると、どの国のチームも、予選プールとは戦い方がまったく違ってきます。予選プールでは、ボーナスポイントもからんでくるので、強い国は一つでも多くトライを重ねようと早めからガンガン来ます。

しかし、決勝トーナメントに入ると、その必要はありません。終了のホイッスルが吹かれた時点でとにかく1点でも相手を上回っていればいいので、何がなんでもトライを取ることに固執する必要はないのです。DG(ドロップゴール)もありますし、相手にペナルティーを犯させ(もちろん相手の陣地内、それもゴールラインに近いほどベター)PKを獲得するという手もあります。この場合、大事なのがキックの能力で、「ティア1」の国ともなると、傑出したキッカーがかならずいます。ハーフウェーラインより手前からPKを蹴ってゴールポストの真ん中を余裕で通すキッカーさえいるほどです。

前週の準々決勝フランスvsウェールズ戦。終了間際(後半34分)まで19対13でリードしていたフランスが、土壇場でウェールズにトライを取られ、コンバージョンゴールも決まったために19対20と逆転。残り5分を守り切ってこの日の準決勝にコマを進めてきたのです。後半早々、このフランス最初のトライを決めたセバスチャン・バハマイナ(ロック)が危険なプレーでレッドカード(退場)をくらい、30分以上も14人で戦ってきたことによる消耗の結果と言えなくもありませんが、それにしても残り5分でトライを決める戦闘心・粘り強さは並大抵のものではないでしょう。

結局、南アのPKが決勝点となりましたが、それまでの攻防はなんとも息詰まるものでした。トライは双方1本ずつで派手さはほとんどなかったのですが、攻めてはつぶされ、つぶしたところから相手が攻撃し、それがまたタックルで止められる……。この繰り返しです。肉と肉、骨と骨のぶつかり合いがここまで続くと、観ている側の体も徐々に固まってきてしまいます。JAPANの試合でなくてよかった! というのが正直な気持ちですね。

 

横浜のスタジアムは今日が5回目になりますが、ようやくアクセスのコツも飲み込み、すんなりと行けました。しかし、予選プールのときよりも人の出足が早く、途中の道筋にある居酒屋、カフェ、コンビニなど、酒を売っている店は、中はもちろん、店の前、さらにはその周囲まで人でビッシリ。それもでき上がり具合が相当のレベルまで行っているように感じました。外国からの観客もどうやら日本のパターンに慣れてきたようです。

 

飲むときは同じ外国人どうし、敵も味方もないようで、そこへさらに、場合によってはこの日ここで試合をするはずだった国のサポーターまで加わっています。イングランド、南ア、ニュージーランド、アイルランドとすべて異なるジャージを着た男女4人組も見かけましたし、スコットランドの民族衣装とウェールズ、オーストラリアのジャージを着た5人グループとか、もうワケがわからない感じです。

共通するアテ(酒肴)はラグビーで、ニュージーランドが負けたのはなぜか、決勝で当たったらイングランドよりウェールズのほうが強いとか、皆それぞれ自説を曲げません。いわゆる「にわか」ファンとはまた違う、けっこうクロウトはだしのファンが多いのです。たしかに、着ているレプリカのジャージを見ると、「2003」「2007」「2011」などという数字がプリントされていたりします。毎回、かならず観戦に行っているようです。もちろん、自分の応援している国が優勝するのが最高なのでしょうが、そうでなかったとしても、準決勝、3位決定戦、優勝で超ハイレベルの試合が見られればそれだけで満足というファンが多いように感じられます。

 

スタンドの外でもこれは同じ。さらに言うなら、スタンドの中でも同じです。サッカーのように、アウェーのサポーターはこのエリアなどという制限はありません。一人で、イングランドの応援歌をがなりたてる人がいるかと思えば、その2、3段後ろの席に陣取ったサポーターがオールブラックスの旗を体に巻いて盛り上がっていたり……。敵も味方もごちゃ混ぜに座っているのはごく普通で、対戦していない国のファンがけっこういるのも珍しくありません。要は、ラグビーというスポーツが楽しめればOKなのです。今日も、ウェールズのサポーターの中にはイングランド、スコットランド、アイルランドから来たとおぼしき人がいっぱいいました。「同じイギリスだから」ということなのかどうかはわかりませんが、そうした合従連衡・呉越同舟的な雰囲気は当たり前なのかもしれません。

 

それにしても面白いのは、外国人サポーターの鉢巻き姿です。たぶん、そうした応援グッズが向こうにはないのでしょうが、今大会で一気に広まった感じがします。鉢巻のデザインはほぼ一様。白地の真ん中に赤い丸があり、その横に漢字二文字が配されています「必勝」「闘魂」「一番」あたりはよくわかりますが。店の側も「これはどんな意味があるのか?」とたずねられ、「We must win !」とか「Fighting Spirit」「No.1」などと説明したのでしょう。しかし、なかには「神風」とか「合格」など、説明の難しそうなものもあります。まあ、日本の象徴である「漢字」が書かれていればそれでOKなのでしょうが……。値段も手ごろで、おみやげにもってこいというのもあるかもしれません。法被もけっこう目につきましたね。その国のジャージと同色の地、前の襟立部分にチーム名、背中に漢字で「勇」の文字が描かれたデザインが多いのですが、鉢巻きに法被とくれば、お祭り気分も高まるというものです。

 

素晴らしい盛り上がりを見せているW杯も残すところ、あと2戦。この南アフリカvsウェールズのテレビ実況中継の視聴率も19・5%だったとのこと(イングランドvs NZ戦は16・3%)。さすがに、JAPAN vs南ア戦には及びませんでしたが、それでも驚きの数字ではないでしょうか。残された祝祭の時間を最後まで楽しみたいものです。