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ファンの多さが日本のラグビーを強くする

2019年10月23日

さて、昨日書いたような流れで負けてしまったJAPANではありますが、これから先の目標もはっきり見えてきたように思います。一つは、フィジカル&フィットネスのさらなる強化です。今大会は、ジェイミー・ジョセフがHCに就任して以来、JAPANの選手は、常識では考えられないくらいのトレーニングを積んできたといいます。その結果、3年余で見違えるほどの成長を見せました。

しかし、フィジカルの部分は遺伝子に左右される部分もあるので、限界はありそうです。となると、外国からよりハイレベルの素質を持った選手を加えるしかありません。この先、外国籍の選手が国代表になるには、現行の「3年居住」から「5年居住」に改訂されるといいます。次のフランス大会まではすでに4年を切っており、いまからで間に合うのかビミョーですが、まずはそこから手を着けるしかなさそうです。

もう一つの目標は、選手たちを常に緊張感のある環境に置くことではないでしょうか。今大会が終わると、各国の代表選手のほとんどが故国に帰りますが、だからといってのんびり休んでいられる選手はほとんどいません。たいがいは所属チーム(クラブ)に戻って、地域レベル、あるいは国内のリーグ戦に臨みます。イングランドでは「Premiership」、スコットランド、ウェールズ、アイルランド、イタリア、南アフリカ5カ国のクラブによる「GUINESS Pro14」、フランスの国内リーグ「Top14」などですが、これらはいずれも、例年と同じく8月、9月にシーズンがスタートしているのです。

しかも、そこには少ない試合でも6千、多いと2万7千近くの観客が訪れています(「Premiership」第1週の表参照)。世界最高レベルのワールドカップが開催中であるにもかかわらずです。それくらい、いわゆる「ティア1」の国々ではラグビーが盛んで、ファンも多いということを示していますが、日本にもそんな状況が訪れてほしいものです。もちろん、かの国々には野球もなければバスケットボールもハンドボールもアイスホッケーもありません。サッカーが強敵ではありますが、それに負けるとも劣らないファンが確実に存在するのは驚くべきことです。

そうしたことを考えると、日本でも、国内で選手たちがラグビーで食べていける環境を整える必要があります。それには、現在のトップリーグに代わる、まったく新たなスタイル=プロのリーグを作り上げることです。協会副理事長の清宮克幸などがさまざま模索しているようですが、時間はほとんどないので、即断即決が求められることでしょう。W杯に出られればいいという段階は、今回の大会で終わりました。これからは毎回ベスト4までは行く──それを実現できるような体制を築き上げることが課題です。

今回初めてベスト8になり日本全国に「ラグビー」への関心が高まったのは、その強力な後押しになるはず。とともに、国際的な部分でも、現行の「6ネーションズ」「チャンピオンシップ」で組まれている体制にくさびを入れてほしいものです。ラグビーの国際統括組織WRも、今大会でJAPANが「ティア1」の領域に頭を突っ込んできたことで、これまでの考え方にこだわっていてはいけないという意識がめばえてきてほしいと思います。

今回のW杯、日本全国が予想をはるかに上回るラグビーブームが起こった理由はただ一つ。JAPANが強かった(正確には「強くなった」)からです。スポーツに限らずどんな世界でもそうですが、強くなれば人気になり、人気がサポートする力を強め、それによって湧き上がるパワーがまた強くするという好循環が生まれるのです。かつてのプロ野球・巨人軍がそうでした。一時期Jリーグが盛り上がったのもそうでしょう。いま、その時期に差しかかりつつあるのがバスケットボールです。

ラグビーも千載一隅と言えるチャンスをつかみつつあるいま、日本人特有の「右へならえ」「乗り遅れるな」という気質をうまく活かせば、この人気をある程度までキープすることは可能でしょう。そして、その火が弱まらないうちに、国内のラグビーを盛り上げることです。日本人選手だけではプレーのレベルが上がることは期待できないので、海外からいい選手をどんどん引っ張ってくることです。昨年トップリーグで、前回のW杯で大活躍したニュジーランド元代表のダン・カーターやオーストラリア元代表のアダム・アシュリークーパー(ともに神戸製鋼)が加入・出場するというだけでも、観衆、それも自腹を切ってチケットを買う人の数が一気に増えました。

今大会のあと、来年1月からスタートするトップリーグにも南アフリカ、ニュージーランド、オーストラリアからかなりの数の選手が日本にやって来るといいます。とくに南半球の国々の選手にとっては、来年2月まで国内・地域がオフになるため、言葉は悪いですが出稼ぎの大きなチャンスなのです。にわかでもなんでも、今回の大会をきっかけにラグビーの面白さを知った方が一人でも多く、まずはトップリーグの試合を観て、さらに興味を深めると、すそ野が大きく広がるのではないかと期待しています。

試合前からハンパなく疲れていたJAPAN

2019年10月22日

JAPAN、負けました! やはり地力の差としか言いようがありません。何日か前に披露した私の妄想──南アに勝ち、準決勝でウェールズもしくはフランスに勝ち、決勝でニュージーランドと戦う……もあえなく打ち砕かれてしまいましたが、しょせんは妄想なので、お許しのほど。

20日の試合、前半が終わった時点で3対5という僅差。見かけはJAPANの大健闘という印象ですが、それより目についたのは南アフリカのミスの多さ。いいところでノックオンやスローフォワードなどのハンドリングエラーをしてしまい、なかなか得点に至りません。選手もかなりフラストレーションをためていったようで、その象徴が前半ラストの場面。トライかと思われましたが、レフェリーの笛が鳴りません。プロジェクターで見ると、タックルされたらボールからいったん手を離さなければならないのですが、それを忘れそのまま持ち込んでいたのがはっきり映っていました。「なんとか1本トライを」と気が早っていたのでしょうね。

それにしても、これまでグラウンドを縦横無尽に動き回っていたJAPANがこの日は、時間の経過とともにどんどんへたっていくのがうかがえました。スクラムは押される、ラインアウトはマイボールを奪われる、モールは押される、パスを回そうとすると強烈なタックルを浴びる、そればかりか持ったまま押し戻される、密集でボールを奪われる(ジャッカルですね)、キックしても相手にキャッチされ逆襲される……。前後半を通じ、これまでのようにボールが5人、6人とつながる場面がほとんど見られませんでした。

その原因は南アのチョー素早いディフェンスです。「オフサイドぎりぎり」「いや、ひょっとしてオフサイドじゃないの」と言いたくもなるほど、南アのディフェンスは前に出てきました。しかも、早いこと、早いこと。今大会でこれほど早いディフェンスは、初めて見ました。

ハーフタイムで、南アのヘッドコーチが選手たちを覆っていたフラストレーションを拭い去る魔法をかけたのか、後半は規律を保ち、のびのびとプレーしていたように思います。単純なミスも減りました。それにより、持ち前のフィジカルの強さがいよいよ生きてきます。選手交替でグラウンドから出ていくJAPANの選手は皆ヘトヘトの様子。代わって出てくる選手の表情にもそれが乗り移ってとまでは言いませんが、何かはじけた様子が感じられません。これまでの4試合はすべて「ヨーシ、オレの出番だ!」といった雰囲気がしていたのですが。

Rugby World Cup Limited © 2007 – 2019

後半に入り3本のPKを決められ3対14になった時点で、「なんとか1本、トライを決めてほしい」という願いに切り替えました。そうしたことを一瞬期待させる場面も1、2回はあったのですが、逆にラインアウトからのモールをなんと40メートル近く押され、最後はハーフの金髪ロン毛のデクラークに持ち込まれ、ほぼジエンド。この試合を象徴するようなシーンでした。デクラークは試合を通じて縦横無尽の活躍を見せ、プレイヤー・オブ・ザ・マッチに輝いています。

南アは百戦錬磨のチームで、フィジカルもさることながらゲームコントロール、攻撃、ディフェンス、レフェリーとの駆け引き、選手層の厚さ、すべてにわたりJAPANを上回っていました。言うならばこれが「ティア1」の壁なのでしょう。日本は今大会「ティア1.5」くらいまではレベルアップできたと思います。しかし、その先に立ちはだかる分厚い壁は一朝一夕で突き崩せるものではありません。

また、最初から予選プール、準々決勝、準決勝、そして決勝まで見据えて選手を起用していくプロセスに慣れている南アのようなチームと、まずは決勝トーナメント進出が目標というJAPANとでは、選手の意識、フィットネスコントロールも違っていそうです。
©Getty Images

 

選手は「疲れている」「どこそこが傷んでいる」などとは、口が裂けても言おうとしないはず。ただ、コーチ陣はそれをキャッチしているにちがいなく、スコッド31人の状況を踏まえながら出場メンバー23人、先発メンバー15人を決めていったのでしょう。しかしJAPANの場合、31人のうち、FW第1列の北出卓也、木津悠輔、同3列の徳永祥尭、ハーフの茂野海人、BKのアタアタ・モエアキオラの5人は最後まで、ジャージを着てグランドに出ることはありませんでした。

決勝トーナメントに進んだほかの7国はすべて、スコッド31人全員が出場しています。要は手駒の数がそもそも違っていたということです。ちなみに、南アで予選プール4試合とも出場していた選手は7人、ただしフル出場はゼロ、一方JAPANは16人、うちフル出場はラファエレティモシー、松島幸太朗、姫野和樹、ラブスカフニの4人もおり、全員がそろってタックルしまくっていました。しかも姫野とラブスカフニはFWですから、消耗の度合いもハンパではなかったはずです。

考えてみると、このハンディは大きいですよね。ほかの7国が31人の中から試合ごとに23人を選んでいるのに、JAPANは26人からなのですから。予選プール4試合を、全員が心身とも疲れの極致にあるのはわかっていても、補充が利かないのです。もちろん、使ってみたらどうだったのかという疑問は残ります。でもジェイミー・ジョセフの目からすると、5人は残念ながら力不足と判断せざるを得なかったのでしょう。

決勝トーナメントに進むまではそれでもなんとか間に合ったのですが、結局のところ、そこから先となると、チーム総体としての力がいまひとつ足らなかったとしか言いようがありません。次大会以降はこうした問題を解決すべく準備を進めていく必要がありそうですね。