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イングランドが勝ったのはいいのですが……

2019年10月28日
さすがW杯、ベスト4が戦うステージともなると外国人の観客が目につきます。それも、目の肥えたイギリス人の数が圧倒的です。今日(26日)のカードは、事実上の決勝とも言われるイングランドvsニュージーランドですから余計でしょう。

ゴールドやグリーン、青や赤などカラフルなジャージが目立つ中、イングランドの、飾り気のない純白はかえってイキな印象。胸の赤いバラのマークもどこか由緒を感じさせます。ちなみに、15世紀の半ば頃イングランドの王位継承をめぐって起こった「バラ戦争」を戦った2つの名門一族(ランカスター家vsヨーク家)の家紋がどちらもバラだったことからそう呼ばれているですが、勝利したランカスター家のバラが「赤」だったそうです。写真はカンタベリー社の広告から(左からカリー、ジョセフ、ファレルの3選手)。

試合はイングランドがニュージーランドを破りました。それも、相手の力をまったく出させずじまいで、スコア以上(19対7)の完勝です。前回は、主催国であるにもかかわらず予選プールで敗退という屈辱を味わっただけに、今大会は並々ならぬ決意で臨んだようです。4年前までJAPANを見ていたエディー・ジョーンズをHCに迎えて強化の取り組み、ここ2年ほどでその成果がはっきり見えてきていましたから。当然の結果と言えなくもありません。

昨年から今年にかけてのテストマッチの結果を見てもそれははっきりしています。2018年の「6ネーションズ」は優勝(今年は3勝1分け1敗で2位。スコットランドと引き分け、ウェールズには勝っています)。南半球の国相手では南アに勝ち、ニュージーランドとオーストラリアには負け。また、昨年11月にはJAPANにも勝ちました。直近の8月のテストでも、イタリア、ウェールズ、アイルランドを破っており、一時期の苦境からはほぼ脱したと見られていました。それどころか、今大会でニュージーランドの3連覇を阻む第一候補として名前があがりさえしていたのです。

ただ、イングランドのラグビーというのは、強いかもしれませんが、いまひとつ面白みに欠けるのです。手堅さばかりが目立ち、華麗さ、奔放さ、意外性となるとほぼゼロ。泥臭いラグビーとでも言いますか。2003年W杯の決勝で延長戦終了間際にジョニー・ウィルキンソンのドロップゴールでオーストラリアに“サヨナラ勝ち”したのは、そうした意味では例外で、それ以外は地道に勝ちを積み重ねるスタイル。スコットランドやウェールズ、アイルランドと同様、やはり泥臭さが前面に出てくるのは、イングランドとしょっちゅう戦っているせいなのか? と言いたくなるほど。グレートブリテンの伝統なのかもしれません。

ホイッスルが吹かれる前、スタジアムにどよめきが起こりました。恒例によりハカを披露するニュージーランドの前で。イングランドの選手たちが「V」の字に並んでみせたのです。ハカの陣形は前の尖った三角形ですが、それを受け止めるかのような「V」の陣形。こういうパフォーマンスを見せれば、さしものニュージーランドも多少は動揺するのでは……というエディー・ジョーンズHCの読みがあったのかもしれません。それが功を奏したのか、開始早々イングランドがノーホイッスルトライ。ニュージーランドの選手がまだ心を落ち着かせずにいるスキを狙ったのだとすれば、これはみごとな采配としか言いようがありません。©『RUGBY JAPAN 365』

そう言えば2007年(開催地はフランス)の準々決勝で、フランスの選手全員がハーフウェーラインを越えニュージーランドの目の前に横一列に並んで挑発、ニュージーランドが負けたということがありました。同じように、次の大会(同ニュージーランド)は決勝での対決となり、フランス選手は「V」字形の陣列を作って少しずつ前進するという“挑発行為”をおこなっています(試合はニュージーランドの勝利)。それに比べれば、今回のイングランドはおとなしいものですが。
2007年→https://www.youtube.com/watch?v=_USmnbVbJNI
2011年→https://youtu.be/yiKFYTFJ_kw

しかし、ドラマチックだったのはここまで。その後はディフェンスの強さ・堅さを前面に出し、ニュージーランドに何もさせない78分でした。後半早々イングランドのトライかと思わせた部分もありましたが、TMOによる判定でノートライ。攻めの形は、イングランドらしくてよかったのですが……。

それにしても、イングランドのタックルはすさまじかったですね。なかでも、ロックのマロ・イトジェ、第3列のアンダーヒルとカリーは出色でした。イトジェはこの試合のPOTMにも選ばれていました。ニュージーランドの大きな選手が次々とその餌食になり吹っ飛ばされ、あるいは倒されていきます。1試合で数えるほどしかないようなシーンが、この試合では何度となく見られました。これほど漆黒のジャージがグラウンドの上に倒れるとは!!

ターンオーバーもずばずば決まっていました。密集戦でニュージーランドがキープしていたはずのボールが、気がつくとイングランドの手にというシーンが何度もありました。常日頃見ているニュージーランドとは真逆です。打つ手に窮し始めたニュージーランドはタッチを狙ってキックを放ちますが、それもプレッシャーを受けながら窮屈に蹴ることを余儀なくされ、思うような展開に持ち込めません。イングランドの素晴らしいディフェンスが最後の最後までニュージーランドを苦しめました。反則数はイングランドが6、一方ニュージーランドは11。この数字がすべてを物語っているのではないかという気がします。

一夜明けた27日のニュージーランドの地元紙の第1面は、なんと黒一色だったそうです。いかにショッキングな出来事だったのか、よくわかります。

ファンの多さが日本のラグビーを強くする

2019年10月23日

さて、昨日書いたような流れで負けてしまったJAPANではありますが、これから先の目標もはっきり見えてきたように思います。一つは、フィジカル&フィットネスのさらなる強化です。今大会は、ジェイミー・ジョセフがHCに就任して以来、JAPANの選手は、常識では考えられないくらいのトレーニングを積んできたといいます。その結果、3年余で見違えるほどの成長を見せました。

しかし、フィジカルの部分は遺伝子に左右される部分もあるので、限界はありそうです。となると、外国からよりハイレベルの素質を持った選手を加えるしかありません。この先、外国籍の選手が国代表になるには、現行の「3年居住」から「5年居住」に改訂されるといいます。次のフランス大会まではすでに4年を切っており、いまからで間に合うのかビミョーですが、まずはそこから手を着けるしかなさそうです。

もう一つの目標は、選手たちを常に緊張感のある環境に置くことではないでしょうか。今大会が終わると、各国の代表選手のほとんどが故国に帰りますが、だからといってのんびり休んでいられる選手はほとんどいません。たいがいは所属チーム(クラブ)に戻って、地域レベル、あるいは国内のリーグ戦に臨みます。イングランドでは「Premiership」、スコットランド、ウェールズ、アイルランド、イタリア、南アフリカ5カ国のクラブによる「GUINESS Pro14」、フランスの国内リーグ「Top14」などですが、これらはいずれも、例年と同じく8月、9月にシーズンがスタートしているのです。

しかも、そこには少ない試合でも6千、多いと2万7千近くの観客が訪れています(「Premiership」第1週の表参照)。世界最高レベルのワールドカップが開催中であるにもかかわらずです。それくらい、いわゆる「ティア1」の国々ではラグビーが盛んで、ファンも多いということを示していますが、日本にもそんな状況が訪れてほしいものです。もちろん、かの国々には野球もなければバスケットボールもハンドボールもアイスホッケーもありません。サッカーが強敵ではありますが、それに負けるとも劣らないファンが確実に存在するのは驚くべきことです。

そうしたことを考えると、日本でも、国内で選手たちがラグビーで食べていける環境を整える必要があります。それには、現在のトップリーグに代わる、まったく新たなスタイル=プロのリーグを作り上げることです。協会副理事長の清宮克幸などがさまざま模索しているようですが、時間はほとんどないので、即断即決が求められることでしょう。W杯に出られればいいという段階は、今回の大会で終わりました。これからは毎回ベスト4までは行く──それを実現できるような体制を築き上げることが課題です。

今回初めてベスト8になり日本全国に「ラグビー」への関心が高まったのは、その強力な後押しになるはず。とともに、国際的な部分でも、現行の「6ネーションズ」「チャンピオンシップ」で組まれている体制にくさびを入れてほしいものです。ラグビーの国際統括組織WRも、今大会でJAPANが「ティア1」の領域に頭を突っ込んできたことで、これまでの考え方にこだわっていてはいけないという意識がめばえてきてほしいと思います。

今回のW杯、日本全国が予想をはるかに上回るラグビーブームが起こった理由はただ一つ。JAPANが強かった(正確には「強くなった」)からです。スポーツに限らずどんな世界でもそうですが、強くなれば人気になり、人気がサポートする力を強め、それによって湧き上がるパワーがまた強くするという好循環が生まれるのです。かつてのプロ野球・巨人軍がそうでした。一時期Jリーグが盛り上がったのもそうでしょう。いま、その時期に差しかかりつつあるのがバスケットボールです。

ラグビーも千載一隅と言えるチャンスをつかみつつあるいま、日本人特有の「右へならえ」「乗り遅れるな」という気質をうまく活かせば、この人気をある程度までキープすることは可能でしょう。そして、その火が弱まらないうちに、国内のラグビーを盛り上げることです。日本人選手だけではプレーのレベルが上がることは期待できないので、海外からいい選手をどんどん引っ張ってくることです。昨年トップリーグで、前回のW杯で大活躍したニュジーランド元代表のダン・カーターやオーストラリア元代表のアダム・アシュリークーパー(ともに神戸製鋼)が加入・出場するというだけでも、観衆、それも自腹を切ってチケットを買う人の数が一気に増えました。

今大会のあと、来年1月からスタートするトップリーグにも南アフリカ、ニュージーランド、オーストラリアからかなりの数の選手が日本にやって来るといいます。とくに南半球の国々の選手にとっては、来年2月まで国内・地域がオフになるため、言葉は悪いですが出稼ぎの大きなチャンスなのです。にわかでもなんでも、今回の大会をきっかけにラグビーの面白さを知った方が一人でも多く、まずはトップリーグの試合を観て、さらに興味を深めると、すそ野が大きく広がるのではないかと期待しています。

試合前からハンパなく疲れていたJAPAN

2019年10月22日

JAPAN、負けました! やはり地力の差としか言いようがありません。何日か前に披露した私の妄想──南アに勝ち、準決勝でウェールズもしくはフランスに勝ち、決勝でニュージーランドと戦う……もあえなく打ち砕かれてしまいましたが、しょせんは妄想なので、お許しのほど。

20日の試合、前半が終わった時点で3対5という僅差。見かけはJAPANの大健闘という印象ですが、それより目についたのは南アフリカのミスの多さ。いいところでノックオンやスローフォワードなどのハンドリングエラーをしてしまい、なかなか得点に至りません。選手もかなりフラストレーションをためていったようで、その象徴が前半ラストの場面。トライかと思われましたが、レフェリーの笛が鳴りません。プロジェクターで見ると、タックルされたらボールからいったん手を離さなければならないのですが、それを忘れそのまま持ち込んでいたのがはっきり映っていました。「なんとか1本トライを」と気が早っていたのでしょうね。

それにしても、これまでグラウンドを縦横無尽に動き回っていたJAPANがこの日は、時間の経過とともにどんどんへたっていくのがうかがえました。スクラムは押される、ラインアウトはマイボールを奪われる、モールは押される、パスを回そうとすると強烈なタックルを浴びる、そればかりか持ったまま押し戻される、密集でボールを奪われる(ジャッカルですね)、キックしても相手にキャッチされ逆襲される……。前後半を通じ、これまでのようにボールが5人、6人とつながる場面がほとんど見られませんでした。

その原因は南アのチョー素早いディフェンスです。「オフサイドぎりぎり」「いや、ひょっとしてオフサイドじゃないの」と言いたくもなるほど、南アのディフェンスは前に出てきました。しかも、早いこと、早いこと。今大会でこれほど早いディフェンスは、初めて見ました。

ハーフタイムで、南アのヘッドコーチが選手たちを覆っていたフラストレーションを拭い去る魔法をかけたのか、後半は規律を保ち、のびのびとプレーしていたように思います。単純なミスも減りました。それにより、持ち前のフィジカルの強さがいよいよ生きてきます。選手交替でグラウンドから出ていくJAPANの選手は皆ヘトヘトの様子。代わって出てくる選手の表情にもそれが乗り移ってとまでは言いませんが、何かはじけた様子が感じられません。これまでの4試合はすべて「ヨーシ、オレの出番だ!」といった雰囲気がしていたのですが。

Rugby World Cup Limited © 2007 – 2019

後半に入り3本のPKを決められ3対14になった時点で、「なんとか1本、トライを決めてほしい」という願いに切り替えました。そうしたことを一瞬期待させる場面も1、2回はあったのですが、逆にラインアウトからのモールをなんと40メートル近く押され、最後はハーフの金髪ロン毛のデクラークに持ち込まれ、ほぼジエンド。この試合を象徴するようなシーンでした。デクラークは試合を通じて縦横無尽の活躍を見せ、プレイヤー・オブ・ザ・マッチに輝いています。

南アは百戦錬磨のチームで、フィジカルもさることながらゲームコントロール、攻撃、ディフェンス、レフェリーとの駆け引き、選手層の厚さ、すべてにわたりJAPANを上回っていました。言うならばこれが「ティア1」の壁なのでしょう。日本は今大会「ティア1.5」くらいまではレベルアップできたと思います。しかし、その先に立ちはだかる分厚い壁は一朝一夕で突き崩せるものではありません。

また、最初から予選プール、準々決勝、準決勝、そして決勝まで見据えて選手を起用していくプロセスに慣れている南アのようなチームと、まずは決勝トーナメント進出が目標というJAPANとでは、選手の意識、フィットネスコントロールも違っていそうです。
©Getty Images

 

選手は「疲れている」「どこそこが傷んでいる」などとは、口が裂けても言おうとしないはず。ただ、コーチ陣はそれをキャッチしているにちがいなく、スコッド31人の状況を踏まえながら出場メンバー23人、先発メンバー15人を決めていったのでしょう。しかしJAPANの場合、31人のうち、FW第1列の北出卓也、木津悠輔、同3列の徳永祥尭、ハーフの茂野海人、BKのアタアタ・モエアキオラの5人は最後まで、ジャージを着てグランドに出ることはありませんでした。

決勝トーナメントに進んだほかの7国はすべて、スコッド31人全員が出場しています。要は手駒の数がそもそも違っていたということです。ちなみに、南アで予選プール4試合とも出場していた選手は7人、ただしフル出場はゼロ、一方JAPANは16人、うちフル出場はラファエレティモシー、松島幸太朗、姫野和樹、ラブスカフニの4人もおり、全員がそろってタックルしまくっていました。しかも姫野とラブスカフニはFWですから、消耗の度合いもハンパではなかったはずです。

考えてみると、このハンディは大きいですよね。ほかの7国が31人の中から試合ごとに23人を選んでいるのに、JAPANは26人からなのですから。予選プール4試合を、全員が心身とも疲れの極致にあるのはわかっていても、補充が利かないのです。もちろん、使ってみたらどうだったのかという疑問は残ります。でもジェイミー・ジョセフの目からすると、5人は残念ながら力不足と判断せざるを得なかったのでしょう。

決勝トーナメントに進むまではそれでもなんとか間に合ったのですが、結局のところ、そこから先となると、チーム総体としての力がいまひとつ足らなかったとしか言いようがありません。次大会以降はこうした問題を解決すべく準備を進めていく必要がありそうですね。

JAPANのフィジカル、テクニックはいまや一流の域

2019年10月17日

JAPANがスコットランドに勝った13日の試合。最初のトライは福岡堅樹からのオフロードパス(タックルされながら出すパスのこと)を受けた松島幸太朗が、2本目は体を回転させて相手ディフェンダーを振り切った堀江翔太からジェームズ・ムーア、ウィリアム・トゥポウと3連続のオフロードパスを受けた稲垣啓太が、3本目はウィリアム・トゥポウのキックを体を伸ばしてつかんだ福岡の、どれも素晴らしいトライでした。
Rugby World Cup Limited © 2007 – 2019.

 

ついでに言うなら後半早々のトライも、福岡がリーチ・マイケルのタックルを受けた相手のボールをもぎ取り、そのまま40メートル独走してゴールポスト下に飛び込んだもの。4本とも、これまでのJAPANにはできなかったプレーばかりです。
Rugby World Cup Limited © 2007 – 2019.

 

なかでも2本目は、ラグビー好きなら誰もがしびれるようなとても美しい流れの中で生まれました。オフロードパスを3回も続けるというのは、「ティア1」の代表国でもそうそう見られないシーンです。コンマ5秒(いや3秒かも)でもタイミングがずれればパスを受け取ることはできず、あとにつながりません。それを、なんと3回連続! ニュージーランドやイングランドの選手がこのシーンを見ていたらおそらく肝を冷やしたにちがいありません。このシーンのビデオは何度見ても、身の毛がよだってきます。体がふるえます。そして、目頭が熱くなります。初めてラグビーの試合を観た人でも、うれしくなるのではないでしょうか。下記が大会の公式映像ですが、その1分30秒あたりから2分の映像をご覧ください。

Rugby World Cup Limited © 2007 – 2019.

https://www.rugbyworldcup.com/video/513197

 

3本目の福岡のトライも、「JAPANも、あんなことができるようになったんだ!」と思わずにいられませんでした。これまで「ティア1」の国の試合を見るたびに、絵に描いたようなキックパスを目にしながら、「これは日本人には無理だろうな」と思ったものでした。エネルギー効率という点からすれば、これほど楽なトライはありません。でも、それを現実におこなうのはチョー難しいのも事実。それこそ何百回も練習しなければ決められるようにはなりません。

Rugby World Cup Limited © 2007 – 2019.

しかも、実際はグラウンドの上で自分自身も動きながら、味方と相手の選手の一夜動くスピードを一瞬で判断して蹴るのですから、それこそ百戦錬磨を経なければ得点にはつながりません。せっかくいいキックパスが飛んできても、ピンポイントのタイミングでキャッチできなければトライにはつながらないのです。これまで相手国の選手がキックパスからトライを取るシーンを見るたびに、うらやましさを感じ、ため息をついてきました。それを、我がJAPANが決めたのです。言葉だけでなく、JAPANは文字どおり「ONE TEAM」になっています。

Rugby World Cup Limited © 2007 – 2019.
フィジカルの点でも鍛え上げられているという感じがします。とにかくバテません。15分ほどのハーフタイムをはさんで正味80分間、走り・追いかけ、ぶつかり・ぶつかられ、倒し・倒され、もみくちゃにされ、踏まれの連続。バテているかどうかは、選手が両手を膝や太腿についているかどうかで判断できますが、そういう選手がJAPANは少ないのです。プレーが進んでいる間グラウンド上に倒れたままになっている(負傷した場合は別として)選手もほとんど見ません。倒されてもすぐ起き上がり、密集の下で踏みつけにされていたところからもすぐに脱し、次のポジションに移動(しようと)しディフェンスに、あるいはアタックにかかろうとしています。息つく暇もないという言葉どおりに動き続けるJAPANの選手のタフさは群を抜いているのではないでしょうか。

今大会のJAPANは、これまでホントに長い間、日本のラグビーファンが夢に見ていたことを次から次へやってのけてくれています。JAPANにもう「まさか」はなさそうです。長い間「まさか」の領域に閉じ込められてきた高等技術も、いまや「お手のもの」とまでは言いませんが、JAPANの選手たちにとってはごく日常的なものになっています。すごい時代がやってきました。それを67666人の一人として目の当たりにできる私は幸せです。

ひょっとして決勝まで──“妄想”と言われるのは覚悟の上で

2019年10月16日

 

決勝トーナメントの組み合わせが決まりました。プールAを1位で突破したJAPANは、B2位通過の南アフリカと当たります。W杯直前、9月6日のテストマッチで敗れ(7対41)ていますし、最新の世界ランキングはもちろん上。昨年はニュージーランドと1勝1敗(いずれも2点差)と互角に渡り合い、今年も7月の「チャンピオンシップ(南半球4カ国対抗戦)」では引き分けています。このW杯では予選プールB組で対戦(9月21日)、13対23で負けました。4年前の大会でJAPANは“世紀の番狂わせ”で勝った相手ですが、普通に考えれば、負けて当然の相手です。
Rugby World Cup Limited © 2007 – 2019.

希望は、南アとのテストマッチ後ひと月しか経っていませんが、JAPANの実力がさらに伸びていること。それが、予選プールでのアイルランド戦、スコットランド戦の勝利につながりました。南アに勝つと、真面目な話、決勝進出も夢ではなくなります。ウェールズvsフランスの勝者と戦うことになるわけですが、どちらも南アよりはJAPANにとってはいくぶん分がいい相手だからです。当然、つけ入るスキもあるわけで、けっして勝てない話ではありません。ウェールズには2016年11月のテストマッチで30対33とあと一歩の接戦を演じましたし、フランスとは引き分けています(2017年11月25日)。

もう一つのブロックはどこが勝ち上がってきても同じ。順当ならニュージーランドとイングランドでしょうが、アイルランドは昨年11月ニュージーランドに勝っている(16対9)ので、けっして100%の確率とは言えません。ティア1でも、このあたりの国はそのときのちょっとした選手起用、運不運によって勝敗が左右されることもあるのです。

ちなみに、イギリスの大手ブックメーカー「ウィリアムヒル」によると、日本の勝ちは5・5倍で、南アの勝ちは1・18倍とのこと。勝てばもちろん番狂わせとなります。また、優勝となると、ニュージーランドが2・25倍、南アフリカが4・33倍、イングランドが5倍、ウェールズが9倍、アイルランドが17倍、オーストラリアが21倍、日本が26倍、フランスが34倍。

ただ、「ティア1」の国々と、「ティア2」から唯一決勝トーナメントに進んだJAPANとの間には目に見えない壁のようなものがあるのはまぐれもない事実。また、レフェリーも「ティア1」の国に有利な判定をする傾向があるのは否めません。そのあたりをいまノリに乗るJAPANが突き破れるか、期待したいものです。リーチマイケルのリーダーシップがもの言うといいのですが。

それにしても、このあとの展開を予想するのは難しいですね。大方の日本人は「南アに敗けてジ・エンド」といったあたりでしょう。しかしいまの私は、希望的観測も含め、次のような、とてつもない“妄想”を抑えきれずにいます。

準々決勝で南アフリカに僅差で勝利(それも、前大会と同じ逆転サヨナラ勝ち!)、準決勝でフランス(これも番狂わせですが)を破って決勝に進む。相手はニュージーランド(イングランドということもあり得ますよ)でしょうが、さすがに勝つまでは無理。それでも、前々回までわずか1勝しかしたことのないJAPANが、前回は3勝、今大会は開催国の有利さがあるとはいえ、ベスト8からさらに決勝まで行けば、これはもう天地がひっくりかえるほどの大騒ぎになるのは必至。この競技の最高統括機関である「ワールドラグビー(かつてのIRB=国際ラグビー評議会)」にも大きな波紋を投げかけるはずです。長らく続いてきた「ティア1」重視のやり方ではいけないという考え方が出てくることすら予想されます。

競馬の「有馬記念」的な妄想かもしれませんが、今回の目標(といってもJAPANの周囲の)だったベスト8まで上がってきたのですから、これくらいの「たら・れば」は許されるでしょう。ジェイミー・ジョセフや選手たちは「行けるところまで、脇目もふらず行く」という気持ちでいますし。ただし、南アに勝って有頂天になったり、「ここまでやれば大満足」などと思ったりすると、フランスにはボロ負けということもあり得ます。さてさて、どんな結果が待っているのでしょうか……。こんなシーンをあと2回は見てみたいものです。

 

大河ドラマも吹っ飛ばすJAPANの8強進出

2019年10月15日

 

やりましたねーッ、JAPAN!! でも、昨日の各紙朝刊やテレビに「番狂わせ」などという文字やナレーションはまったく出ていませんでした。調子のいい人は「実力ですよ、これが」とまで言っていましたし。そう思いたい気持ちもわからなくはありません。でも、いわゆる「ティア1(強豪国・伝統国)」の国々は、ホント強いのです。

もちろんスコットランドもその一つ。ほかはイングランド、ウェールズ、アイルランド、フランス、ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカまでが数年前までの「ティア1」。そこにイタリアとアルゼンチンが加わり、いまは10カ国を数えます。JAPANは現在フィジー、ジョージアなどと並んで「ティア2」に属しています。

「ティア1」のなかでも古豪と言ってよいスコットランドの選手たちが、後半開始早々JAPANに4つ目のトライを取られてから顔色を変えたのは、皆さんもご覧になったとおり。1871年、世界で最初のテストマッチ(国代表どうしの試合)をイングランドと戦ったというプライドがありますから、それも当然です。

ある新聞記事には「スコットランドの選手が前半の途中、レフェリーに対し、目に双眼鏡を当てるしぐさをしてみせた。これは“もっとよく見ろよ!”という無言のアピールで、それを察したのか後半はスコットランドにかなり甘い判定が何度か見られた」と。レフェリー(ニュージーランド)が今大会最年少だからということもあったのでしょうが、同じ「ティア1」の属している者どうしですから、そういうことも考えられなくはありません。「ティア1」の国々には、そうした不文律、アウンの呼吸のようなものがあるのです。

まあ、それはそれとして、スコットランド戦快勝に気をよくし、今日は浅草に行ったついでに「亀十のどら焼き」を買ってきました。勝利のお祝い、そしてこれはかなり無理がありそうですが、全力をあげて応援した自分へのごほうびですね。仙台の秋保では「主婦の店さいちのおはぎ」、大宰府(福岡県)では、“天然モノ”で売る「日本一たい焼き」、日田(大分県)では老舗の「赤司の羊羹」と、何かにつけては前祝いだの、景気づけだのと言ってはこの種の和菓子を口にしようとする食い意地には我ながらあきれてしまいますが、それもまた「楽苦備(ラグビー)」の楽しみと言っておきましょう。いささかこじつけっぽいことは百も承知で(笑)。

 

さて、このところ、町を歩いていると太めのホリゾンタルストライプ=横縞のシャツを着た男性、それも私の年齢±10歳くらのようなおじさんの姿をよく見かけます。よく見るとたいていがラガーシャツです。もちろん、買ったばかりとおぼしきものもありますが、タンスの奥に長らく眠っていた風の、ややくたびれた感じがするものも。胸に「CCC」という3文字のロゴがあるところや見ると、やはりラグビーW杯の盛り上がりが影響していると言って間違いないでしょう。

たしかに、今日発表されたJAPANvsスコットランド戦のテレビ視聴率は平均39・2%(瞬間最高では53・7%)、今年の全番組でトップだとそうですから、そうした気持ちになるのもよくわかります。20日(日曜日)の準々決勝は、多くの人が「まさか!」と思っていたカード「JAPANvs南ア」(キックオフ夜7時15分)に決まったため、NHKは当初BS1で放送する予定でいましたが、なんと大河ドラマをすっ飛ばし地上波の生中継に変更したのだとか。これはもう一大事としか言いようがありません。視聴率の数字は1%が100万人と言いますから、4000万人ですよ! 南ア戦を観ない人は「非国民」などとも言われかなねい雰囲気です。

ジャージの話は先日も少し書きましたが、ポロシャツ風に仕立てたものはやはり亜流のように思います。本流はやはりラガーシャツ(長袖もあれば半袖もあります)ではないかと。そのいちばんの老舗が1904年創業のレーン・ウォーカー・ラドキン(LWR)社カンタベリー(Cantebury)というブランド、ニュージーランドの会社です。「The World Toughest Active Wear(世界一タフな活動着)」というのが製品コンセプトだそうです。

ちなみに、今回のW杯に出場している国のジャージを見ると、JAPANのほかイングランド、アイルランド、ジョージア、アメリカ、カナダ、ロシアがカンタベリー製で、数ではトップ。決勝トーナメントに進んだ国をチェックしてみると、カンタベリーの故国ニュージーランドはadidas、南アとオーストラリアはasics、ウェールズはunder armor、フランスは自国のブランド le coq sportif とけっこう多様化しているのがわかります。日本のミズノはトンガとナミビアの2カ国でした。

全世界で数百万人の視聴者の目に何度なく触れるジャージですから、各メーカーともより高品質・高機能を追求しているわけで、準決勝、決勝と駒を進める国の選手が身に着けているジャージとそのメーカーのロゴはいやおうなしにアピールすることになります。ラグビーにはそんな楽しみ方もあるのです。

悲願達成! JAPAN、決勝トーナメントに

2019年10月14日
昨日午前11時前、PCを立ち上げ「ラグビーW杯」のサイトを立ち上げると、待望の画面が──。

よかったー! 昨夜観戦の予定だったイングランドvsフランス戦は中止、釜石のゲームも今朝早くに中止が決定。どうなるのかなぁと心配していたのですが、開催が決まったのです。

「……様々な可能性を慎重に検討した結果、一部の観客サービスを行わないことを前提に予定通り試合を開催する……
本日早朝より会場にて台風による影響を検査した結果、一部施設の破損は見られるものの、試合開催が可能であると判断しました。しかし、公共交通機関の乱れに伴うスタッフ不足や、設備の破損等により試合開始時間までに準備が整わない一部の観客サービス(※注)については、お客様の最低限の安全な観戦に影響しない範囲で、実施を取りやめ、試合運営を行う事とします。
※注:一部売店の休業、移動販売員の減員の可能性など」
ただし、スタッフの不足やインフラ復旧の遅れで売店の一部が休業を余儀なくされるため、飲み物もそのままで持ち込みOKだそうです。

ラグビーは、雪が積もってグラウンド上のラインが見えないとなれば別ですが、それ以外は何があってもやると教えられてきた私。台風くらいで中止にしていいのかといのが正直なところですが、今朝のテレビニュースを見ていると、被災された人も全国各地にたくさんおられるのに、こんなときに楽しんでいて大丈夫なのかという、別の思いもきざしてきました。それでも、ここでスコットランドと戦わぬまま予選プールが終われば、日本人にとってW杯の意義は半減してしまいます。たとえ、それで決勝トーナメントに進めたとしてもです。まして負けたりすれば、JAPANのW杯はジ・エンド。そうならないためにも、ここは勝つのが、台風で被災した地域の人たちへの大きな励ましになるのではないかとも思います。そして、私たちにも楽しみを分けてほしい!!

前回、JAPANは予選プールで同じ組にいて、南アフリカに“世紀の大番狂わせ”をやってのけた4日後にスコットランドと対戦。中7日で臨んだスコットランドの前に大敗し、その後サモア、アメリカに勝ち3勝をあげたものの、ボーナスポイントの差で決勝トーナメントに進めませんでした。もっとも、そのときは「南アに勝ったから、ま、いいか」くらいにしか思わなかったのも事実です。これでスコットランドにまで勝ったらできすぎ」だと。

でも、今回は違います。つい先日まで世界ランキング1位だったアイルランドを倒し、ボーナスポイント付きでサモアにも勝ってここまで来たのです。勝つか引き分けで決勝トーナメントに進めるとなれば、これは何がなんでも勝ってもらわなければなりません。よしんば負けても、4トライ以上あげ、なおかつ7点差以内ならボーナスポイント2を獲得できるので、スコットランドの上に立つことができます。もっとも、ヘッドコーチのジョセフ・ジェイミーも選手たちも、そんなことは考えていないでしょうが。徹底的に打ちのめす──ただそれだけです。もちろん、私とてそれは同じ。

一昨日の夜、サモアがアイルランドに屈しました。試合前の「シバタウ」は気合が入っていましたが、地力の差はいかんともし難かったようです。

結局、昨夜の段階で決勝トーナメントを決めたのは、プールAがアイルランド、同Bがニュージーランド、南アフリカ、同Cがイングランド、フランス、同Dがウェールズとオーストラリア。残るはプールAのひと枠。ここにJAPANが食い込めば、これまでえんえんと続いてきたティア1の国々によるベスト8独占に歯止めをかけることができるのです。

新横浜の駅からスタジアムに向かう観客の出足も心なしか早いよう。気持ちが急いているせいもあるのでしょう、皆、早足です。この3週間で、日が落ちるのもすっかり早くなり、5時半過ぎなのに、空は薄暮というより、夜寸前。台風が過ぎ去った直後とあって、なんとも言えない色をしています。それが何を暗示しているのか、知るのは勝負の神だけです。

試合前のウォームアップを終えたリーチマイケル主将以下、選手たち気合い満々。烈々たる闘争心と勝利への意欲が感じられました。そんなJAPANに、空に浮かぶ満月が微笑んでくれるとよいのですが。

 

さて、試合のほうはキックオフ後6分で、早くもスコットランドがトライ。これに対しJAPANの1本目は福岡堅樹からのオフロードパスを受けた松島幸太朗、2本目はなんと、FW第1列の1番・稲垣啓太。圧巻は3本目、タックルして相手のこぼした球をつかみ取った福岡が独走。表の役者、裏の役者のそろい踏みです。

後半も開始早々に福岡がトライを決め、一時は28対7に。一瞬、私の頭には前大会のスコア=10対45が頭に浮かびました。この調子なら、同じスコアでリベンジがかなうのではないかと。でも、それは甘かったようです。スコットランドはそんなにやわではありません。そのあと5分間で2つのトライを決められてしまいました。25分以降はお互い、長いフェーズの攻防が連続。

それにしても、時間の経つのがこれほどもどかしく感じたことはありません。あと10分、あと5分、あと2分、1分……。選手はもうヘトヘトだったでしょうが、耐えきったJAPAN! 観衆のカウントダウンの中、勝ちました。みごと、4年前の溜飲を下げることができました。

これでW杯史上初めて、予選プールAを1位で突破したJAPAN。次はクォーターファイナル(準々決勝)で、相手はプールBを2位で突破した南アフリカです。望むらくはもう一度ジャイアントキリングを。“二度あることは三度ある”ともいいますから。

 

 

スタジアムを後にするファンも、余韻にひたりたいせいか、これまでのどの試合よりゆっくりした足取りです。だれもが、決勝トーナメントはどこまでやってくれるだろうか、期待にワクワクしているにちがいありません。

 

 

ラグビーは「楽苦備」、でも観戦に「苦」は要らない

2019年10月13日
高校でラグビーをしているとき、先輩にこんなことを教えられました。「ラグビーっていうのは“楽苦備”と書くんだ。楽しいこともあれば苦しいこともある」と。私の高校は残念なことに弱かったので、「楽」より「苦」のほうが圧倒的に多かった記憶しかありませんが、いまのJAPANを見ていると、その言葉がいかに的確か、よくわかるような気がします。エディー・ジョーンズの時代から始まった、この上ない厳しいトレーニングに選手たちは皆苦しんだはず。でも、その成果はきっちりあらわれていて、楽しさも味わっているにちがいありません。

9月20日のラグビーW杯開幕から10月9日まで20日間、8会場で10試合を観戦した私も、これ以上ないほど楽しませてもらっています。ただ、その半面で見る側の苦しみも経験しました。それをいくつかあげておきましょう。今回のW杯は、東京オリンピックのほぼ10カ月前というタイミングで、さまざま参考になることも多いのではないかとも思うからです。

食べ物の持ち込み問題はクリアされたようなのでOK。これまでフランス、ニュージーランド、イギリスでW杯を観戦しましたが、あまり気にはなりませんでした。試合中に何かをつまむくらいならまだしも、ガッツリ食べたいと思ったことはなかったからです。そもそも海外では、どこかの店で食べ物をテイクアウトしようにも、サンドウィッチや果物くらいしかありません。日本のように弁当、寿司、おにぎり、唐揚げ、焼き鳥、シュウマイ、餃子……などといった選択肢はないのです。

飲み物は、よく言われているように、ビールをがんがん飲む人が多いです。ただし、試合が始まる何時間も前からです。もちろん、始まってからも、スタジアム内の売店で買って飲む人もいますが、それほど多くはなかったように記憶しています。今回、ラグビーにはビールがつきものということで、運営側は売り子にスタンド内でも販売できるようにしました。これは前例のないサービスで、これからの大会で取り入れられるかもしれません。

もっとも売り子の存在感は残念ながら薄い感じがしました。「ビール、いかっしょう!」と大きな声を出しながら売って回る野球場のスタイルを見習ってもいいかもしれません。スタンド内で飲み物を売るのは日本独特(アメリカ大リーグでも売るのはホットドッグだけ)。外国人客にとってはとてもありがたいサービスなのに、ちょっと残念です。

しかも、急ごしらえの売り子ばかりで、Heinekenの缶からプラスチックのコップに移す手がおぼつかないのに加え、釣り銭の支払いにモタついているので、時間がかかりすぎ。また、目をやる方向が不十分で、こちらが声をかけても手を振っても気がついてくれないのです。

スタンドにもけっこう差があります。日本がアイルランドに勝った静岡エコパスタジアムにはガックリきました。しかも、ドリンクホルダーもついていないのです。近頃のシネコン並みにとまでは言いませんが、前後のスペースの狭いこと。用があって籍を離れるとき、隣の人にお断わりし(もしくはアクションで示し)、体を縮こめてくれたのを確認した上でようやく動き始めることができます。それでも、途中体が揺れたり、足もとがおぼつかなくなったりするともう大変。まあ、これは世界中どこのスタジアムでも、ほぼ同じですけどね。ただ、ドリンクホルダーがないのはやはり参りました。

かと思うと、熊本のように、ドリンクホルダーがある席、なくても隣の席との間にミニテーブルがある席が混在しているところもありました。これは隣の人との間に余裕があり助かります。外国人は、選手だけでなく観客も大きな図体の人が多いですからね。

入口での持ち物検査は担当者によって差があるようです。でも、想像していたよりは ゆるいなと思いました。日本人はこういうことにとてもまじめに取り組むので、リュックの底の底まで手を入れて調べられるのではと覚悟していたのですが、そこまでする人はいませんでした。そこそこ厳しかったのは開幕戦だけ。秋篠宮ご夫妻がいらしていたからでしょうか。

トイレの行列はすさまじいのひと言。ビールをガンガン飲む男性のほうが行列は長く、ハーフタイムのうちには終えられません。日本のスタジアムのトイレはキホンどこでも清潔、しかも美しいので、用を足す側もそれなりの心づもりをしてアサガオに向かいます。外国の場合、たいていは左右10メートル、奥行き50センチほどの巨大な箱(たいていはブリキのような素材)のようなものがしつらえられていて、そこに向かって用を足します。一方の側から水が流れっぱなしになっているので、あとのことは心配要りません。これだとハケが早いので、多人数が相手、しかもほとんどの人が酩酊状態のときは十分という気がします。どの道、試合中に清掃作業がおこなわれるようなこともないでしょうし。

客の誘導で気になったのは神戸ノエビアスタジアム。そもそも敷地内に入るところが1カ所しかないのですが、そこからEゲート、Nゲートに行くには、スタジアムを3分の1ほど回らなくてなりません。そちらに向かうようロープが張られているのですが、それが必要以上に長く、100メートル以上歩いて100メートル戻り、また数10メートル進むようなスタイルになっていたため、けっこう疲れました。前に進むだけで入口に到達できるようにしてほしいですね。

輸送体制に問題があるように思ったのは静岡。9月28日のJAPAN vsアイルランド戦。私たちは新神戸から浜松まで新幹線、浜松から東海道線でスタジアム最寄りの愛野駅まで行ったのですが、ホームは客であふれかえっていました。私たちより前の電車で着いた客がまだ改札口まで到達できずにいるのです。それでなくても狭いホームに、電車は次々と入ってくるわ貨物列車は通過するわで、危険なことこの上ありません。結局、下車してから改札口を出るまでに20分以上もかかりました。

 

そもそも5万人を収容するスタジアムの最寄り駅なのですから、試合開催の日にだけ使用する連絡橋を作っておくとか、できなかったのでしょうか。ラグビーW杯は、世界中からファンがやって来るイベントです。にもかかわらず、そうした手を打っていないのは、ラグビーW杯の重みを理解していないとしか思えません。こうした部分に設備投資(応急的・一時的であったとしても)をしようとしないのは……。JR東海という会社のセンスに問題アリと言えそうです。

ただ、帰りの誘導はみごとでした。駅に向かう歩道の途中から、東海道線の上りに乗るか下りに乗るかで動線を分け、スムーズに改札→ホームへと進むことができました。同じタイミングに客が殺到する帰りについては対処できているのに、到着時の客の集中にほとんど無策なのはなんとも不思議です。観客に「苦」は要らないはず。1から100まで「楽」に楽しみたいというのが正直な気持ちではないでしょうか。

東海に限りませんが、JR各社になんとかしてほしいと思っているのは、新幹線の荷物(スーツケース)置き場です。なんともプアというか、1両に長期滞在の外国人観光客が数人乗っただけでほぼパンク状態になります。スーツケースを置くための場所がゼロなのです。各車両の最後部にわずかなスペースはありますが、そこにスーツケースを置くと座席のリクライニングが利きません。もちろん、網棚に上げるのは無理ですし通路に置くこともできません。といって、デッキに置いたたままになどできないでしょう。来年、東京オリンピックが開催され、今回のラグビーW杯を上回る人が海外からやってきたらどうするのでしょう。

さすがに、東海・西日本・九州の3社は2020年5月から、大型スーツケースを持ち込む場合は事前予約制にするといいます。最後部座席の後方にあるスペースを専用の置き場にし、その座席の指定席とセットで予約(追加料金は不要という)すというものですが、事前予約なしで持ち込むと1000円(税込み)の手数料が必要とのこと。しかし、これで確保できるのは普通車両で5人分。これで間に合うのでしょうか。

また、新幹線車内の一部のトイレを「荷物コーナー」に作り替えることも発表しています。ただ、こちらは工事が必要なので、実施は2023年度。オリンピックが終わって3年後ですが、これもずいぶん間の抜けた話です。

ウェールズのサポーターは大盛り上がり!

2019年10月9日
予選プールD組のウェールズvsフィジーは緊迫した一戦でした。ウェールズは勝てば決勝トーナメント進出が決まり、フィジーは望みがつながるからです。開始10分でフィジーが2トライ(コンバージョンは失敗)、そのあと15分間はウェールズが主導権を握り2トライ(コンバージョンは成功)。前半は14対10でウェールズがリード。

 

しかし後半は、まずフィジーが認定トライをあげ14対17と逆転。そのあとPGで同点に追いつくと、疲れの見え始めたフィジー相手に2本のトライを決め、29対17でウェールズが勝ちました。

大分駅からスタジアムまではシャトルバスでしたが、車内の4分の1はウェールズのサポーター。しかも、乗る前からビールででき上っており、大きな声で歌を歌っています。着いたら、赤いレプリカジャージを着込んだ人の姿がさらに目立ちます。これまで観た試合のなかで、外国人の数がいちばん多かったのではないでしょうか。フィジーも負けてはいません。世界ランキングではJAPANより一つ上ですから、実力をフルに発揮できれば決勝トーナメントに進む可能性はあります。サポーターもそれを信じ、試合前から盛り上がっていました。

試合終了後シャトルで大分駅まで戻ると、どこもかしこも赤、赤、赤。駅前のアーケード商店街はあちこちでウェールズ・サポーターが集団で大騒ぎしています。チームは地味なのですが、サポーターは素晴らしく派手なようです。いちばんすごかったのは、その中にあるアイリッシュ・パブ。まるで、こうした事態を狙いすましたような場所に店を開いています。店内はカウンター、テーブルはもちろん通路までも、そして店の外も赤一色。ビールを飲みながら大きな声で歌い、母国の勝利を喜んでいました。

12年前、フランス大会のときはあちこちで勝利を喜ぶサポーターの姿を目にしましたが、今回の日本では初めて。体も大きいので声も大きく、それがアルコールの力でさらに増幅しています。どこの会場でも帰りを急ぐ人が多いJAPANのサポーターは、こういう楽しみ方はなかなかできません。観戦地に泊まっている人がほとんどの外国人サポーターだからこそ、ここまで大騒ぎできるのでしょう。

大分は今大会、5試合がおこなわれます。もちろん、地方の都市では最多。西日本では収容能力がおそらく最大のスタジアムがあるからでしょう。今夜が早くも3試合目ですから、おもてなしの態勢はバッチリ。アーケード商店街の上には今日戦った2チームの人形がしつらえられていました。それにしても、今夜の寒さといったら。10月9日という時期を考えると当たり前なのですが、昼間の気温と差が大きく、体にはこたえます。

 

天守外観の復興が成った熊本城

2019年10月8日
昨日・今日はラグビーW杯の観戦もOFF。連泊した熊本で昨日はゆっくりさせてもらいました。といっても、日がな一日ボーッとしていたわけではありません。熊本からJR九州の数あるユニークな列車の中で以前から気がかりだった特急「A列車で行こう」に乗り、三角【みすみ】というところまで行ってみました。最終目的地は三角からタクシーで5分のところにある三角西港という世界文化遺産です。

「A列車で行こう」というのはなんともユニークなネーミング。ご存じ、チョー有名なジャズナンバーのタイトルをそっくり頂戴したものです。列車自体はとりたててジャズと関係があるわけではなく、「A」は「天草(Amakusa)」の「A」に由来しているよう。ただ、
列車自体のデザイン、とくに内装がとてもユニークだというので、話題になっているようです。水戸岡鋭治のデザインとあれば、それも理解できます。2両編成で、1両は座席のみ、もう1両は一部がバーカウンターになっており、ドリンクのサービスがあり、さまざまなグッズも売られています。私も、車内アナウンスに誘われ、昼ご飯前だというのに、デコポンのハイボールなんぞを飲んでしまいました。

「A列車」の売りはもう一つ。窓からの景色です。途中、三角行きの進行方向右側に、干満の差が日本一と言われる有明海の御輿来【おこしき】海岸が見えてきます。潮が引いたときの砂浜には美しい模様が見えるのです。列車もそこに近づくと速度を落として走ってくれるので、写真もゆっくり撮れます。私たちの乗った10時36分熊本発の列車は、ちょうど行きのときに干潮になっていたようで、なんとも不思議な模様が見えました(帰りは潮が満ちてきたため、フツーの海岸に戻っていました)。

終点の三角駅はその名、というか文字のとおり、駅舎に「三角形」があしらわれ、ユニークなデザインになっています。そこから三角西港まではすぐ。そのあたりは、突然明治時代にタイムスリップしたかのような風景が見られます。三角西港は明治初期から半ばにかけて整備された港で、設計者はオランダ人土木技師ローウェンホルスト・ムルデル。当時の最新技術を用いて近代的な港湾都市が造られました。熊本県にとっては、海外貿易が可能な初めての本格的な港だったそうです。港の発展とともに、道路沿いに2階建ての商店や旅館が立ち並び、埠頭沿いには白壁の倉庫群が続々と建てられました。

ムルデルは明治政府のお雇い外国人の一人で、三角西港の設計以外にも、新潟港の築港・信濃川改修、東京港の築港、富山県の河川改修、児島湾の干拓、広島港の築港、鬼怒川【きぬがわ】・富士川の治水、大阪港の改修・淀川治水、下関港の整備、利根運河の開削など、全国各地で築港、港湾整備、河川改修、治水事業に関わったとのこと。

三角西港一帯には当時建てられた洋風の建物がいまなおいくつか残され、けっこう観光客も訪れているようでした。ここからさらに天草に足を延ばす人が多いようです。

 

三角西港から熊本駅まで戻ると、駅構内にもあちこち「ラグビー」が。人気のクマモンもJAPANのジャージを着ていました。ホテルに戻ろうと、市電に乗って熊本城の前で下車、ちょっと立ち寄ってみました。W杯の開催に合わせるかのように天守閣外観の修復が完成したことで、特別見学会が10月5日から始まったのです。実際、フランスなど外国人観光客の姿も目立ちました。

これまでニュース映像や写真でしか見たことのなかった地震の爪痕が、3年以上経ったいまなお生々しく残っているのにまず驚かされます。被災直後は、いったいどこから、どう手をつければいいのだろうか、途方に暮れたにちがいありません。しかし、その復興の大きなポイントは天守閣の復旧にあるようです。天守閣や宇土櫓【うとやぐら】がよく見える加藤神社(全国でも珍しい名前の神社。加藤とはもちろん、熊本を築いた加藤清正のこと)の境内から見ると、完了までにはまだまだ時間がかかりそうなことがわかります。ほかの櫓はもちろん、天守を囲む堀にも、大きな石垣が崩落したままの状態で、地震のすさまじい破壊力を改めて実感しました。

ちなみに、ホテルに戻り、部屋のカーテンを開けてみると、なんと先ほど見てきた天守閣の姿が──。でも、遠目に見るのと、間近でから見上げるのとでは、この段階ではやはり違うように思いました。