「えんぶり」にはやはり雪がよく似合いそう

2015年2月17日
今日が「えんぶり」の本番です。「えんぶり」という言葉は「いぶリ(揺り)」に通じているとかで、大地を揺さぶる、揺さぶり起こす、かき混ぜるといった意味が込められているそうです。けっして派手な催しではないのですが、鎌倉時代以来という長い伝統があるだけに、様式はきちんと整っています。

この日はまず、町の中心にある長者山新羅【しんら】神社に朝早くから、30いくつかのえんぶり組(阿波踊りでいうなら「連」のようなもので、親方以下総勢20~30人から成る)が集まり、本殿の前で順番にえんぶり摺【ず】り=舞いを披露します。「えぶり」と呼ばれる農具を使って田んぼの土を平らにならすことを「摺る」ということから来ているそうです。舞うのは「太夫【たゆう】」と呼ばれる3人もしくは5人。それに「お囃子【はやし】(太鼓、笛、手平鉦、歌い手、太鼓持ちなど)」が加わります。

L1010247_2神事が終わると、各組が一定の間隔で町中に繰り出し、お囃子に合わせて舞いながら練り歩きます。もともとがその年の豊作を祈願するための舞い。太夫が馬の頭をかたどった烏帽子(全体に地味めの衣装の中でこれだけは派手で華麗)をかぶり、頭を大きく振る独特の所作に特徴があります。また、舞いも、種まきや代掻【しろか】き、田植え、刈り取りなどの動作を表現したもので、飛んだり跳ねたりといった派手派手しさはありません。

L1010293それでも、練り歩きの途中、中心街の大通りで「のろし」を合図におこなわれる「一斉摺り」は迫力があります。すべての組が行進をやめ、それぞれ舞いを披露するのですが、その中で演じられる子どもたちの祝福芸(「松の舞」「えびす舞」「えんこえんこ」「大黒舞」)も、ユーモラスでけっこう楽しいものです。

L1010331これとは別に「お庭えんぶり」という行事があります。その昔は、「だんな様」と呼ばれる大地主や有力商家などの土間や座敷で
「えんぶり」が披露されていたそうです。それをもとに、その時代の風情を観光客にも感じてもらおうという目的でおこなわれるようになったのが「お庭えんぶり」で、会場も、国の登録有形文化財になっている「更上閣(明治期の財閥・泉山家が1897年ごろに建てた木造の純和風建築)」の庭園が使われます。

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午後は「八食センター」で昼食を取り、すぐ近くの日帰り温泉(「新八温泉」)でひと風呂浴びたあと(途中で地震があったのにはびっくり!)、夕刻になって更上閣に出向くと、丁重なお出迎えを受けます。靴を脱いで座敷に上がると、甘酒と八戸せんべい汁が振る舞われ、それこそ「だんな様」気分でえんぶりの一部始終が楽しめます。ただ、この時期の八戸では珍しく雪がいまイチ不足気味。雪がもっと深ければ、「えんぶり」の動きも一段と冴えたにちがいなく、それが残念でした。

このあとは、代表何組かによる「かがり火えんぶり」が、日の暮れた市役所前の広場でおこなわれます。市役所の職員による「組」もあり、こちらはこちらでそれなりの練習を積んできたようで、けっこう楽しめました。

地方都市はどこでもそうですが、八戸の楽しみもやはり食事です。この日の夜は、江戸時代創業の酒蔵「河内屋」の旧本社で、大正年間に建てられたという歴史的建造物(国の登録有形文化財)を利用した「ほこるや」という店。なんでも、当時流行したロシア風建築とアールデコ調の様式を取り入れた建物だそうで、外観も内装も非常にユニークです。なるほど、「八戸市まちの景観賞」を最初に受賞しただけのことはあります。ここでも、土地の料理をふんだんに楽しみました。なかでも、この地方に伝わる郷土食「蕎麦かっけ」は最高! 「秘蔵酒」も心地よい味わいでしたよ。

L1010315八戸は、地方にある数多くの都市のなかでも、「観光」という部分では成功している部類ではないでしょうか。東北新幹線の青森延伸を機に、途中駅であるがために通り過ぎていってしまいそうな観光客を下車させて引き止めるのはけっして容易なこととは思えません。それを、「八食センター」や「はっち」といった施設を武器に呼び込むことに成功しているのです。私たちもこの日「八食センター」に足を運びましたが、昭和55(1980)年に開業したというわりには、多くの客が訪れていました。明るく広々とした市場の雰囲気は素晴らしく、いればいるだけお腹がいっぱいになります。買った魚介を、その場で炭火で焼いて食べることができるのもウケているのでしょう。青森県で断トツの入込客数を誇っているのもうなずけるというものです。