本は消えても、中身は残る

●今年の春、家の中の大整理&大掃除をしました。折からのコロナ禍もあり、まるまる2カ月、来る日も来る日も作業に専念。おかげで、「ここまでできるのか!」と自分でも感心するくらいスッキリしたのですが、いちばんの要因は6000冊もの本を処分したことにあります。愛着のあるものもたくさんありましたが、涙を飲んでおさらばした次第。
●その後、「コロナ禍で時間ができ、昔読んだ本を再読してみた」といった新聞記事やSNSをあちこちで目にしているものの、私にとってはいまさら詮ないことと、あきらめています。そんな中、手許に残した1冊が「いのちの初夜」。18歳でハンセン病に罹り、施設に隔離された北條民雄という作家がその体験を描いた短編小説集です。高校2年のとき現代国語の先生が教えてくれた本で、すぐに買い求め、ひと晩で読み終えた記憶があります。
●それが今年、角川文庫で復刊されたという記事を目にしました。「自然は絶え間なく人間を滅ぼそうと試みている。生命とは自然の力と戦うもう一つの意志なのだ」との一節がいま、胸に刺さってきます。多感な時期にこの本に触れた経験が、いまの自分の、ほんのわずかかもしれませんが、一部になっているのは間違いないはず。
●ハウツーものの出版社に勤めていたころ、「”おもしろい・わかりやすい・役に立つ”の三つそろっているのがいい本だ」と教えられました。退社してからもずっと本の世界で仕事をしていますが、「いつ、どのような社会にあっても、読んだ人の心を揺さぶる」というのも、”役に立つ”に含まれるのではないかと。そんな本を書ける自分に成長したいものです。

Facebook Post: 2020-12-30T22:03:43