南青山で向田邦子に触れる──私の「マイクロツーリズム」⑭

●「台湾一周鉄道の旅」を終え帰国したのはちょうど1年前。いまのところ、これが”最後の海外旅行”になっています。その台湾で40年前、飛行機事故に遭って亡くなった向田邦子。ラジオやテレビドラマの脚本、小説、エッセイなどで絶頂にあった彼女を偲ぶ特別イベント「いま、風が吹いている」が南青山でおこなわれていると知り、行ってみました。
●正直、”向田ワールド”との接点は皆無。学生時代はテレビを持ち合わせず、「寺口貫太郎一家」も「時間ですよ」も見たことありません。直木賞に輝いた1980年頃は仕事がチョー忙しく、短編小説を読む時間すらない毎日。そんな私にとって「向田邦子」は一般常識の一部分でしかありませんでした。妹の和子さんがやっている赤坂の小料理屋がおいしいものを食べさせてくれるという話は聞いており、一度行ってみたいなと思っていたくらいです。
●会場の中は9割かたが女性。うちのカミさんも含め、その多くが生前の彼女に憧れや敬意、親しみを抱いていたのでしょう。ふだん使っていた湯呑みや茶碗・皿、身につけていた洋服、愛読していた本など、心ならずも遺していった品々にも強い関心を寄せていたようです。
●会場を後にし、原宿の駅まで表参道を歩いていくと、冬枯れた樹々に温かい日差しが注いでいます。枝の合間からは抜けるような青い空が。その向こうに、どんなに忙しくても、”自分らしく気持ちよく暮らしたい”という人生を、いささかも力むことなく生きていた彼女のさわやかな笑顔がのぞき見えたような気がしました。

Facebook Post: 2021-01-22T22:18:54