2012年8月9日今回もさっそく、キリンとの対面です。アントワープ動物園は中央駅のすぐ隣にありますが、こうしたロケーション自体、ごくまれです。完成後100年以上を経ている中央駅自体も見るからに重厚で荘厳、交通の要所というより観光スポットといったほうが的確なのではないかと思うくらいインパクトがあります。
大理石で作られた駅舎とコンコース、そしてホームの上にかぶさっている巨大なドームは、鉄(高さ44メートル・長さ185メートル)とガラスで構成されています。駅から3・8㎞にわたって延びている高架橋には200本以上の石柱が両サイドに立っており、これまた見る人の目を楽しませてくれます。「鉄道の大聖堂」と呼ばれているといいますが、それも納得できます。駅舎内にある巨大な時計の美しさもハンパではありません。また、構内にあるカフェはその昔は貴賓室だったらしく、国王一家も利用しているそうです。
一方、動物園も、入り口が大理石と鉄柵で作られており、権威を感じさせます。一国の王様が下々の者に「見せてやるぞよ」とのたまっていた時代の産物ですから、当然といえば当然かもしれません。園内のどこにいても中央駅が見えるのがなんとも不思議です。こんな動物園、そうそうないのでは。
さて、キリンに挨拶を終えると、王様も入られたという、駅構内のカフェでカプチーノを飲んでひと休み。それから街に出ました。駅の正面を背にして中心街に向かうと、日本ではおよそ見たこともないシュールな“交通標識”に出会い、「なんだ~~、これは!」と思わず叫んでしまいました。車を運転している人は見て解読するヒマなどなさそうです。スケボー禁止、自転車乗り入れ禁止、トラック走行禁止……など、それらしいものもありますが、よく見ると、「写真撮影禁止」とか「飲酒禁止」「携帯電話使用禁止」など、ジョークっぽいものがほとんど。要するにオブジェのようで、真面目に受け止めようとした自分を笑ってしまいました。
建ち並ぶ家々のほとんどは、スリムで背丈の高いギルドハウス風。ただし木造ではなく石造りです。グローテ・マルクト(広場)に面して建つ市庁舎のファサードがことのほかきらびやかなのは「ダイヤモンドの町」だからでしょうね。そこここに見かけるオブジェも皆、存在感があります。「ファッションの町」と呼ばれているからでしょうか? 手の巨大なオブジェを前にした家人は、それに包まれうっとり(?)。巨大な手首を投げようとしている像もありました。ほかにも、思わず何かアクションしたくなるものがいっぱいで、見て楽しむだけためのものではないのかもしれません。
ノートルダム大聖堂を見たあとウオーターフロントのほうに向かって歩き続けると、MAS(Museum aan de stroom=川岸の博物館)という博物館がありました。大航海時代からのベルギー(というかオランダも含めてでしょうね)の歴史の流れを追いかけるといった内容の展示らしいのですが、博物館というのは真剣に見始めると2時間くらいすぐ経ってしまう場所です。今回はパスし、次の機会にゆずることに。
「アントワープ」というの英語で、オランダ語では「アントウェルペン(Antwerpen)」といいます。antwerpenとは「手を投げる」という意味だそうです。その昔、巨人アンティゴーンが街を流れるスヘルデ川の通行人に高額の通行税を課し、払えない人がいると、その手を切って川に放り捨てていたのだとか。そこに出現した古代ローマの英雄ブラボーがアンティゴーンを退治し、その手を切って川に投げ込んだという伝説があるとのこと。町の名前はそれに由来しているといい、市庁舎の前に、切り取られた手を投げるブラボーの銅像(噴水でもある)があったのもそれが理由なのですね。夕食はホテルの近くのアルゼンチン牛ステーキの店で。なぜか、このあたりは「アルゼンチン」の文字が目立ちます。貿易港だったころのなごりでしょうか。