「これで見納め」広島市民球場

広島カープは私にとってひじょうに思い出深い球団です。というのも、小学校3年生のとき、母親に連れられて行った当時の中日球場で、生まれて初めて観戦したプロ野球の試合が中日対広島だったからです。いまでも、3塁側内野スタンドから目にした、カクテル光線に映える鮮やかな芝生の色は頭の片隅に強く焼きついています。

 その広島(いまは東洋がつきます)カープが、今シーズンでその役目を終える広島市民球場で戦う“正真正銘のラストゲーム”を観にいきました。

 まずは、晴れたことに最大の感謝です。というのも、予定では、この日の東京ヤクルトスワローズ戦が「ラストゲーム」なのですが、万一、雨でも降ると、試合は中止です。また、それより1、2日前に予定されているゲームが雨天中止になると、全体としてスケジュールが繰り下がり、ヤクルト戦が「ラストゲーム」でなくなってしまう恐れがあります。
 もちろん、万一を想定し、“ラスト候補”2試合のチケットもいちおう購入してはいたのですが、日にちがズレると、広島に来れなくなる恐れもあります。今週は、週の初めから、天気予報をこまめにチェック、なんとか大丈夫そうだということで、今日の朝早く、羽田を出発、空路広島入りしました。

 試合は午後2時からでしたが、昼過ぎには球場へ。周辺一帯はもう興奮のルツボでした。当然、広島名物のダフ屋もいっぱい出ています。でも、来年、新しい球場がオープンしたら、彼らの姿も消えてしまうでしょう。
 ダフ屋が似合うというのも変ないい方ですが、とにかく広島市民球場というところは、いかにも古めかしいのです。外観はともかく、球場内は通路も狭いし、座席も前後のスペースが小さいため、移動するのもひと苦労。それでも、このラストゲームを見ようというファンでスタンドはいっぱいでした。

 老若男女という言葉がありますが、観客もまさしくそうした塩梅で、カープこそこの街のシンボルといったことがありありと感じられます。いや、シンボルというより、もはや生活の一部ではないでしょうか。地元にプロのチームがいることは、これほどうれしいことなのだと改めて実感しました。
 この球場の名物は「うどん」らしく、その出店には長蛇の列。私も、炭水化物ストップのドクター指令がなければ、まちがいなく列に並んだでしょう。

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 いかにも最後の試合らしく、試合開始前にさまざまなセレモニーがおこなわれましたが、残念なことに、こちらはそれほど感銘を与える内容ではありませんでした。1970年代半ばから80年代末までの赤ヘル黄金時代を築いた山本浩二や衣笠祥雄、水谷実郎、高橋慶彦、大下剛史、達川光男、長嶋清幸、野村謙二郎、水沼四郎、三村敏之、ホプキンス、シェーン、ライトル、ギャレット、小早川毅彦、正田耕三、江藤智、緒方孝市、木下富雄、北別府学、佐々岡真司、外木場義郎、大野豊、江夏豊、川口和久……。古くは白石勝巳、古葉竹識、安仁屋宗八、横溝桂、大和田明、藤井弘、森永勝也、山本一義、大石清、長谷川良平、備前喜夫、阿南準郎……など、主役、脇役を問わず、歴代の名選手に列席してもらうとかすればと、一段と盛り上がったにちがいありません。帽子をはじめカープのシンボルカラーをいまの「赤」に変え、それまでテールエンドだった広島カープのチームカラーをがらり一変させたジョー・ルーツ監督などにも声をかけてあげればよかったのにと思ったのは私だけではないでしょう。

 アメリカ大リーグのヤンキースタジアム、シェイスタジアム(どちらもニューヨーク)も今年限りだそうですが、かの地でこうしたイベントがおこなわれるとしたら、どのように盛り上げるのか、ふと思いました。

 たしかに、広島カープは、どこかの球団と違って、お金持ちではありません。でも、かりにその、どこかの球団がこの種のイベントをおこなうと仮定しても、今回のカープと大差ないのではないかという気がするのです。
 お金持ちであるとかないとかいうことではなく、野球、プロスポーツに対する考え方そのものが、日本の場合、まだまだ遅れているのではないかと思うのです。