インド映画最大のヒット作『チェイス!』

2015年1月8日
2014年にインドで公開され、『きっと、うまくいく』(2009)を抜いて、史上最高の興行成績(日本円にして約47億円だとか)を記録したのが『チェイス!』です。アメリカでも全米週末興行ランキングで9位にランクされたアクションエンタテインメント作品ですが、そこには深い人間ドラマが描かれていました。

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2カ月ほど前、どこかの映画館でチラシを見たときはいまイチ食指が動きませんでした。ただ、主演が『きっと、うまくいく』のアーミル・カーンだったので、見逃して公開しては……との思いがきざし、急きょ観に行った次第。

よかったです、観て。ストーリーは省きますが、シカゴ市内を縦横無尽に走り回るカー(&バイク)アクションだけでも一見の価値ありでしょう。強烈にアクロバティックな「chase(チェイス)」の迫力ときたら! それもこれも、主人公がサーカスの団長ゆえのこと。冷静に考えると荒唐無稽な感じもなくはないのですが、それより天衣無縫といったほうが正確かもしれません。

インド映画の専売特許といもいえる「集団ダンス」も、昔と違い、適切な場面で適切に出てきます。これなら、日本人もアメリカ人も納得できるのではないでしょうか。

気になったのは、予告編でやっていた『ミルカ』です。タイトルの「ミルカ」とは、アジア大会男子400メートルで1958・62年と2回連続で金メダルを取った実在の選手(ミルカ・シン)の名前。その数奇な運命を描いた作品のようですが、「シン」という名前は、子どものころから強烈に私の頭に焼きついています。

昔から、ターバンとヒゲがトレードマークというのがインド人のイメージですが、ターバンを巻くのはインドの中でもシーク教徒だけ。彼らが多く住む北部のパンジャブ州(すぐ西隣はパキスタン)には、「シン」という苗字がとても多いようです。そういえば、かつてプロレスで活躍したタイガー・ジェット・ソンもこのシーク教徒でした。

1947年8月、イギリスのインド植民地解体に際し、当初の筋書きが大きく狂ってしまいました。その根底にあったのは宗教対立です。結局、ヒンドゥー教徒がインド連邦、イスラーム教徒がパキスタンを作りました。しかも、イスラーム教徒はインドをはさんで東西に分かれるという、なんとも不自然な形になりました(東パキスタンは後にバングラディシュとして分離独立)。

分離独立の方針が決まったとき、インド領内にいたイスラーム教徒はパキスタンへ、パキスタン領内のヒンドゥー教徒はインドへ、それぞれ迫害を逃れて大移動が始まります。その過程で悲惨な衝突が起こりました。ガンディーが暗殺されたのも、この両国=両宗教の対立にからんでのことです。また、北部のカシミール州の帰属問題がもとで、独立直後に起こったインド=パキスタン戦争はいまに至るまで最終決着を見ていません。両国が核兵器まで持つようになったのは、それが原因とされています。

このインド・パキスタン両国の分離独立にあたり、シーク教徒はインド連邦に帰属することを選びました。それが、この映画のポイントのようなのですが、エンタテインメント作品ばかりが目立つインド映画の中でこうしたシリアスなテーマがどのように作られるのか、詳しくは観てのお楽しみですね。