すぐ近くの海で大きな事故があったのにビックリ

2019年3月24日
昨夜10時30分、眠っているうちにベルゲンを出航したフィンマルケン号。最初の行程はかなり長く、今朝4時30分、フローロに寄港するまでノンストップ、163kmを一気に走り抜けます。この夜はほとんど雨で、明け方近くには雪に変わっていました。

たまに雨・雪がやんでも空はどんより鉛色。すぐまたぶり返してもおかしくない雲行きです。朝食は例によってバフェットスタイルですが、ノルウェー航路だけあって、シーフードのオンパレード。タラ、ニシン、サーモンの3種がさまざま料理されていて、ぱっと見は10種類以上(といっても、うち半分は漬けたもの)。それにチーズやらハムやら各種野菜が加わるので、1周20メートルはある陳列台を回っていると、目移りします。まあ、1週間あるのだからとは思いつつも、ついつい手が出てしまい、気がつけば取り皿には料理が山盛り状態に。

朝食を済ませ部屋に戻ってしばらくすると、船が大きく揺れ始めました。2つ目の寄港地モーロイ(ここまでが52km)から外洋に出ると、天気はかなり荒れていて、海もうねっている状態。その波を蹴立てながらの航海ですから、揺れるのは致し方ありません。すぐに船酔い用の薬を飲み、私のほうは事なきを得ました。その代わり、デッキに出て極寒の中、半分雨に当たりながら遠く離れていく陸地を見続けたりなど、酔わないように必死。でも、72km走って3つ目の寄港地トルヴィクに近づいた頃にはうねりもかなり和らいでいました。

トルヴィクからオーレスン(Alesund)は28km。この間は内海というかフィヨルドなのでゆっくり航行しますし、湾の奥に入るにつれ穏やかになってくるので、体もだんだん平常に戻っていきます。11時30分からの昼食もそこそこ食べられました。家人は先の揺れで、朝食べたものを全部戻してしまったらしく、食欲はゼロのよう。薬も効かなかったのですね。

4つ目の寄港地オーレスンに到着したのは12時ちょうど。ノルウェー人が選ぶ「ノルウェーでもっとも美しい町」に選ばれた町だそうで、ガイランゲルフィヨルドを始めいくつかのフィヨルド観光の中継地にもなっています。最初の下船観光が予定されているところなので、私たちはもちろん降りましたが、同じツアーの中で3、4人の方が船室で休まれていたようです。

オーレスンはとても美しい町です。添乗員さんの話によると、20世紀の初め頃、町のほぼ全体が火事で焼けてしまい、いまの建物はすべてそのあとで建て直されたものなのだとか。町がまるまる焼けたのは、当時の家が木造だったからです。そのため、建て直しにあたってはすべて石かレンガ造りにしなければならないとされ、そうした家々が100年近くたったいまもそのまま残っているのです。

オーレスンの港に船が着く前、甲板や展望デッキから町の様子がだんだんはっきり見えてきましたが、ちょうど天気も持ち直していたこともあり、その美しいこと! 個々の家もそうですが、それが合わさって作り上げられる色彩に満ちた景色が心を慰めてくれます。冬場だけかもしれませんが、空がこうも暗く厚い雲に覆われていると、人々の気持ちもどうしたって滅入ってくるでしょう。それを少しでも和らげようという思いで、家の外壁を黄色や赤、オレンジ色、空色など、パステルカラー系のペンキで塗ったのにちがいありません。たしかに、出航してから3日間ずっと、走れど走れど雨・雪、たまにやんでもどん曇りという空模様でしたから、誰もがいいかげん重い気分になりかけていたようです。そこにあらわれた明るい色彩の家々はそうした憂鬱を吹き飛ばしてくれました。

迎えのバスに乗って向かった先は標高187mのアクスル山の展望台。この頃になると不思議と雨もやみ、青空に覆われた展望台からのながめは最高でした。遠くスカンジナヴィア半島を覆う山々の頂上付近は雪で覆われ、それが間近に見えるのとあいまって、写真撮りまくりの2時間。5年前、夏のフィヨルドを楽しむ旅をしたとき、当初この町も訪れる計画でしたが、結局あきらめただけに、今回来ることができてよかったです。

 

 

 

アクスル山を下りたあと訪れたのが「アール・ヌーヴォー博物館」。かつては薬局だった建物をそっくり博物館にリノベーションしたのだそうです。建物の前は小さな港で、その周辺は、どこを見ても絵になりそうなたたずまい。水辺にある小さな公園に置かれているベンチには熱が流れていて、心地よくすわれます。冬が寒い町ならではの心遣いですね。

 

 

1904年1月の大火で町がほとんど焼けたあと、ヴィルヘルム2世 (皇帝)の号令一下、ドイツはもちろん、ほかのヨーロッパ諸国も資金、復興作業の人員を派遣するなど、国際的な協力のもとで再建がおこなわれたそうです。当時のお金で15億ドル・3年余をかけて、アール・ヌーヴォー様式の建物が立ち並ぶ新しいオーレスンが作られたのだとか。どこを切り取っても絵はがきのような光景を見せてくれる街並みの所以です。

展望台から港の近くまで戻り、私たちの乗っている船の全景を初めて見ました。ナイル川クルーズで乗ったのは2千トンほど、ドナウ川クルーズで乗ったのは1600トン弱。それに比べ今回のフィンマルケン号は1万6千トン近く。やはり大きいです。

午後3時、オーレスンを後にしばらく外洋に出たものの、またフィヨルドに入っていきました。次の停船地モルデ(Molde)に至るまでのフィヨルドはまさしく絶景。山々が海岸線近くにまで迫っており、わずかな平地に家が並んでいます。遠目で見ても色彩感に満ちた美しい家が多いのが印象的。無数の島々や中洲が点在する中、ときにはうっそうと生い茂る緑の木々が山の中腹まで積もっている雪とコントラストをなしながら、私たちの目を癒してくれます。8階の室内展望デッキの席がすべていっぱいだったのもよくわかります。

 

ヨーロッパ系の人々はめいめい、読書にふけったり、同行の人と語らっていたり、夫婦でお茶をしたりなどしていましたが、その眼前にはフィヨルドの美しい光景がゆっくり流れていきます。ここぞという景色が近づくと、写真好きの人はカメラを手に屋外のデッキへ。もちろん気温は低いのですが、風も雨もなかったのが救いで、次から次へシャッターを切りたくなるのもよくわかります。

話は変わりますが、前日の午後、豪華客船「ヴァイキング・スカイ(Viking Sky)」が半島中央部のやや北にある町トロムソからスタヴァンゲルに向かう途中、悪天候に遭って動力を失い、漂流し始めたため、船長が遭難信号を発したというニュースをテレビが報じていました。その救助活動の模様も伝えられていましたが、この荒天と寒さの中では大変だろうなと、他人事ではない感じです。2017年にできた真新しい船だというのに、何があったのでしょう。

モルデ到着は夕方6時。私たちが停船する桟橋の手前に、その「ヴァイキング・スカイ」号が避難のため停泊していました。乗客乗員1370人のうち、500人ほどはすでにヘリで救出されていたのですが、その後エンジンが使える状態になったとかで自力で航行してきたようです。テレビでは、大西洋上でなんと8mもの波に襲われたとも報じていました。それでも目立った傷はないようで、大きな事故にならずよかったです。それにしても、48000トン、全長227.2m、全幅28.8mの豪華客船というのは、とてつもない大きさです。