記念すべき「サンウルブズ」の第1戦を観戦

2016年2月27日
今年から「スーパーラグビー」に日本チーム(「サンウルブズ」)の参加が決まったのは昨年の秋。ワールドカップで見せた大健闘の余韻がまだ残っている時期でした。

「スーパーラグビー」といえば、南半球に本拠を置く16のプロチームが3つのブロックに分かれて覇を競うもので、毎年7月から8月(南半球では真冬)、プレーオフが始まるころは、ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカの3カ国では、各チームのサポーターのテンションもかなり高まるそうです。準決勝、決勝ともなれば、開催地のスタジアムは満員札止め、入場券もプレミアがつき、簡単に手に入らない状況になるとも。日本でもJ-SPORTSが全試合を生で中継しており、画面からも興奮がひしひしと伝わってくるくらいですから、生で観戦すればさぞかし……といった感じがします。

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オーストラリアなど、これとは別に「NRL(ナショナルラグビーリーグ)」、さらにラグビーから派生した「オージーボール」という競技もおこなわれています。また、「スーパーラグビー」が終わると、8月・9月は「ラグビー・チャンピオンシップ」。こちらは、南半球4カ国の総当たり対抗戦です。ざっくりした「ラグビー」ファンの数となると、日本の比ではないでしょう。もちろん、オーストラリアには日本と違い、野球はほとんど根づいていませんし、相撲もなければバレーボールもありません。それ故、単純に比較するのはむずかしいのですが、ラグビーだけにかぎれば、むこうのほうがはるかに先を行っています。

ラグビーファンというのは昔から、サッカーのように大衆化するのをこころよしとしない、おかしな気質がありました。サッカーは労働者、ラグビーは貴族のスポーツという、いまの世の中ではまったく理解されない“伝統”のせいもあるのでしょうが、もはやそんなこともいっていられない状況に関係者が気づいたのが1990年代。そこからラグビーは一気にプロ化し、いまではれっきとしたスポーツビジネスにもなっています。ただ、それまで長らく、大衆化を実現するための努力を怠ってきたがために、サッカーにはまったく追いついていないというのが現実です。

日本の場合、プロ化がさらに遅れを取ったのは、大学とか高校レベルでのラグビーが曲がりなりにも国民行事化(もちろん、野球の比ではありませんが)していたため。“ラグビーはアマチュアの最後の砦”といった式の考えがけっこうしつこく残っていたからです。気がついたときは、それまでさほど大きな差のなかったサッカーのはるか後塵を拝するという状況になっていました。

それでも、今世紀に入ると諸外国にならい、それまで「社会人」というくくりでおこなわれていたのを、「トップリーグ」という形でセミプロ化し、ここまでなんとかやってきました。しかし、ファンの厚さという点では悲惨で、プレーオフの準決勝、決勝になっても観客は1万そこそこ入ればいいほうでした。

そこに大きなインパクトを与えたのが「2019年のW杯開催地決定」と昨年のW杯での「南ア戦勝利」です。それによってラグビーの注目度が一気に高まり、ファンも激増しました。ところが、悲しいかな、スタジアムひとつとっても、聖地・秩父宮でさえ2万5千弱しか収容できません。高校ラグビーの聖地・花園のほうは3万人で、こちらのほうが大きいのです。

しかも、秩父宮は開催試合の数が多すぎるため、毎年、準決勝・決勝がおこなわれる1月から2月にかけての時期は芝の傷みがひどく、「よく、こんなところで最高レベルの試合をするなぁ」と、ファンも嘆くようなありさま。W杯開催を機に建て替えられることになりましたが、肝心の本番には間に合わないそうです。

ラグビー専用のスタジアムを作るには、一定数以上のファンが、継続的に観戦しに来るという見込みが立たないとむずかしいのはよくわかります。一時のブームで終わってしまっては、W杯のあとはいつも閑古鳥、維持費ばかりがかさむという事態になりかねません。そうした悲惨な状況におちいらないようにするためにも、ラグビー関係者は真剣に悩んだはずで、それが「スーパーラグビー」への参入にもつながったのでしょう。

世界レベルの試合が、日本的にはシーズンオフの時期(3月から7月半ば)に見られるとなれば、まずはコアなファンが足を運ぶはずですし、そこからさらなる広がりを見せれば、そのまわりに新しいファンも生まれてきます。最初はにわかファンであってもかまわないわけで、その心さえつかめば持続するからです。

ただ、そうした大事な時期のただ中に置かれているわりには、関係者の対応がまだ追いついていません。今日も、日本のラグビー史に大きな足跡を刻む一大イベントであるわりには、どうにもおとなしすぎる感じがしました。女性の群舞と太鼓くらいだけというのはさびしすぎるでしょう。小型飛行機でも飛ばして空からラグビーボールを投げ落とせとはいいませんが、もう少しやりようがあったように思えるのです。

スケジュールの点でも気がかりなことがあります。日本での開催は全部で5試合なのですが、5月7日と7月2日のゲームも、冬場と同じ昼間のキックオフが予定されています。5月はまだしも、真夏の7月(南半球は1月!)、それも昼間に、南半球のチームを迎えて試合をやるつもりでいるのでしょうか。「仮」のスケジュールだとしてもお粗末すぎるというか、ホスピタリティーがまったく感じられない設定です。「お・も・て・な・し」はオリンピックだけではないはず。国際試合なのですから、どんなスポーツであっても、まずはファン、そして相手チームのことを考えてあげるべきではないでしょうか。

もうひとつ、腹が立ったことがあります。こうしたハイレベルの試合ではかならずシーズンガイドとかゲーム出場メンバーを紹介したガイド(小冊子)が販売されるのですが、「シーズンブック」なるシロモノが、月刊誌『ラグビーマガジン』の付録と中身がそっくり同じだったこと。表紙だけを差し替えて売られていたのです。しかも1000円でです。『ラグビーマガジン』の4月号は付録込みで980円。いったい、なんなんでしょうか!! こういうファンを愚弄するような姿勢が垣間見えるようでは、先行きが大いに心配です。

l1060291今日の、記念すべき試合は、予想どおり「サンウルブズ」の負けでしたが、まだまだ緒戦。チーム作りも遅れを取り、選手もコーチも、そのほかのスタッフも陣容が十分整っていないという現実もあります。今シーズンは仕方ないにしても、少なくとも、来シーズンまでには十分な体制を整え、「ラグビー」にもっと光が当たるような流れを作ってほしいですね。

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