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辛辣な気持ちにさせるメンフィスの公民権博物館

2019年11月25日
今回のミシシッピー川クルーズはテネシー州メンフィスからルイジアナ州ニューオーリンズまで600数十キロを7泊8日で下っていくというもの。リバークルーズですから、もちろんゆっくりではあるのですが、今回はそのゆっくり度がきわだっています。というのも、船が外輪船で動くスタイルだからです。かつてのような蒸気船ではなくディーゼルを用いてはいるものの、外輪船なのでゆっくり、そして風情もある──という触れ込みです。

メンフィス(Memphis)という地名は、古代エジプトにちなんだものだそうです。そういえば、カイロからピラミッドを見に行ったことを思い出しました。たしか、古代エジプトのメネス王によって建設され、古王国の首都だったこともある由緒のある町で、世界遺産にもなっています。いまでも当時の遺跡が博物館として残されており、ラムセス2世の巨大な石像が横たわった姿で展示されているのが印象的でした。ナイル川沿いに築かれたそのメンフィスにちなみ、ミシシッピー川沿いに築かれたこの町を同じ名前で呼んだのかもしれません。なんと、博物館のすぐ近くにピラミッドの形をした大きな建物まで建っていました。

ホテルからそのピラミッド型の建物近くにある観光案内所まで歩き、中に入ると当地が生んだロックンロールの大スター=エルヴィス・プレスリーとブルースの大御所B・B・キングの大きな像が。ただ、真ん前を流れるミシシッピーの流れはたしかに雄大ですが、対岸が見えないほどの川幅ではありません。

そこから再び町に戻り、トラムに乗車。そして、1968年遊説中のマーチン・ルーサー・キングJr.牧師が暗殺されたロレインモーテル306号室(現在その部屋を含め建物全体が「公民権運動博物館」として公開されている)に行きます。

館内に入ると、17世紀の初め西アフリカから最初にアメリカに奴隷が連れてこられたときから南北戦争が始まる1861年までの奴隷制度に関する資料が展示されています。しかし、その後も南部一帯では人種分離政策がおこなわれ、学校やレストラン、病院などすべての公共の場で、有色人種は差別されていました。そうした社会状況の起こったのが「ローザ・パークスの逮捕とバスボイコット事件(1955~56年)」です。

アラバマ州モンゴメリー市内で、混雑していた市バスに乗っていたローザ・パークスは、運転手から席を空けるように命じられましたが、それを拒み逮捕されました。彼女は拘置所に入れられましたが即日保釈となり、後日、罰金刑を課されます。しかし、これに抗議した黒人たちが「バス乗車ボイコット運動」を始めたのです。そのため市バスの運賃収入が絶たれたモンゴメリーの財政は大きなダメージをこうむります。黒人たちが、バス車内における人種分離条例は違憲であると認めるように求めた裁判で、翌年連邦最高裁判所は違憲判決を下し、公共交通機関における人種差別は禁止されることになりました。このボイコット運動をリードした一人がキング牧師でした。

この当時のバス(レプリカですが)が展示されており、実際その中に乗ることもできます。テープで「そこの女! 席を立て! 立たないと警察に通報するぞ!」というバスの運転手の声も再現されています。その横柄でぞんざいな口調を聞くと、当時の黒人がどのような差別を受けていたのかが実感できます。

 

 

その後キング牧師が主導し全米に広がっていった公民権運動の様子や、1963年8月28日のワシントン大行進、そのときの有名な演説「I have a dream.……」が記録映像とともに流れているのですが、アメリカにおける黒人差別→市民権の奪還の様子がよく理解できる、非常にユニークな施設になっています。

そのあとランチを取った店は、メンフィスでも最古のカフェ(というかダイナー)だそうで、歴史を感じさせる造りをしていました。メニューはハンバーガーで、案の定大変なボリューム。とてもではありませんが食べ切ることはできません。今年で創業100周年ということで、記念のグッズも売られていたので、マグカップを買いました。

ランチのあとはメンフィスの目抜き通りともいえるビールストリート(Beale Street)へ。夜になると数十軒あるというライブハウスが一斉に営業を始め、大変な盛り上がりを見せるようですが、今日はまだ明るい時間帯なので、その迫力に触れることはできませんでした。

再びホテルに戻りしばし休憩ののち、迎えのバスに乗って船着き場まで行きます。いよいよ乗船開始で、あてがわれた部屋に行ってみると、これが予想していたより広い印象で安心しました。バスルームもバスタブ付き。これなら安心です。

テレビのスイッチを入れWEATHER CHANNELに合わせると、ここ2、3日、アメリカのほぼ全土を襲っているウインターストームの様子が報じられていました。先口がDOROTHY、後口がEZEKIELと名づけられ、日本で言う「爆弾低気圧」、その超大型版といった感じです。大変な猛威を振るっているようで、その影響が及んでいないのは、私たちがいるテネシー州南部からミシシッピー州、そして目的地のルイジアナ州のあたりだけ。それ以外の地域はすべて、豪雨、豪雪、吹雪、竜巻、雷雨などがこのあとも数日は続くようです。

アメリカではクリスマスに次ぐ大々的な休日(11月の第4木曜日)「サンクスギビングデー(感謝祭)」とちょうど重なっています。この時期は、日本でいう「帰省」をする人も多く、航空機の大幅遅れや欠航、道路の通行止め・事故による渋滞は大打撃。また、電気・ガス・水道のライフラインがストップしたり洪水や降雪による事故も起こったりしているようで、大きな混乱をきたさないといいのですが。私たちのような旅する身としても、12月4日のニューオーリンズ出発のときまでは、とりあえず無事であってほしいものです。