森と海の不思議な力が、絵と書を呼吸させるのかも

●”大人の社会見学”小田原&真鶴編”の2日目です。高校の同期生が━男子でも━7人もそろうと、話にとめどがなくなり、布団に入ったのは午前1時過ぎ。干物の朝食を済ませると、しゃべり過ぎて喉が……と、さっそく「ういろう」のお世話になるメンバーもいました。


●周りを散策に出ると、民宿の裏手から東映映画のオープニング映像で有名な巨岩(+波しぶき)のある海岸まで「お林」と呼ばれる大きな森が広がっています。「お」が付いていることからもわかるように、もともとは皇室の御用林。「お林」は俗称らしく、正式には「魚つき保安林」といって、魚の繁殖、保護を目的として海岸や湖岸に設けられた森林のことだそうです。


●森林の土に含まれる栄養分が地下水と一緒に海に流れ出るとプランクトンが繁殖、豊かな海を育てます。また、木々が直射日光を遮断して水温の急激な変化を防ぐなど、海の生物の繁殖を促す役割も。おいしい魚介類が穫れるのに大きく貢献しているというわけです。


●お林の一角に、生前この地で過ごした中川一政の個人美術館が。コンクリート打ち放しの建物ですが、周りの木々に溶け込むような感じがします。そこから少し歩くと相模湾が大きく開け、この日は向かい側の初島もくっきり見えました。アトリエがあったのもそのあたり。97歳まで創作を続けた中川の作品は天衣無縫というか、油絵も書も力みがなく、のびのびしています。彼が装丁した向田邦子の『あ・うん』は、まさしく”ジャストフィット”。森にも海にも備わる不思議な力が彼の才覚をいっそう刺激したのかもしれません。(2022/5/18)