昼は世界遺産の銀山、夜は日本遺産の神楽で石見[いわみ]を満喫

●「一畑[いちばた]電鉄」。日本一人口の少ない島根県内を走っている私鉄ですが、初めて乗りました。目的はコンビニに行くため(泊まったホテルが不便な場所だったもので)。JR西日本でさえローカル線の多くが赤字に苦しむ中、大丈夫なのかと心配になりますが、これがけっこう健闘しているようなのです。2両編成の車輌はかつて東急東横線を走っていた中古のよう。朝7時半頃とあって、乗客の9割は高校生でした。


●ツアー2日目のメインは世界遺産の石見銀山。戦国期から江戸中期まで、ここで掘られた銀は世界の主要国で貨幣の原材料になっていたそうです。佐渡の金と同じく鉱山一帯は幕府の天領で、代官所が置かれ、その周囲の町並みがみごとに保存されています。


●ここで採れた銀の積出港が、ツアー2日目の宿泊地・温泉津[ゆのつ]。その当時は北前船の寄港地としても大いに栄えた町ですが、いまは昭和30年代で時計がパタッと止まってしまったような雰囲気で、いまその面影が残っているのはおだやかそうな入江の奥にある港と温泉旅館の並ぶ細い通りだけです。ちなみに、耐火性に富む石見粘土で高温焼成され、硬く割れにくい大きな水甕[がめ]も北前船で全国各地に。それを焼く上がり窯[かま]もみごとでした。


●よくよく考えてみると、この県は「古事記」「日本書紀」に描かれている国生み神話の舞台。それもあってか、文化面での蓄積は並はずれたものがあります。その一つが日本遺産の石見神楽で、今回それをナマで観ることができました。会場は旅館近くにある小さな神社の拝殿とあって、舞いもお囃子[はやし]も目の前で迫力満点でした。小さな私鉄を支えているのも、数百年も続くこうした文化が生活の基底に息づいているからかもしれません。(2022/4/21)