南アに逆転勝利! ラグビーの歴史を塗り替えた日

2015年9月19日

L1040176今日は、今回の世界一周旅行のメインイベント=ラグビーW杯です。試合は夕方4時半からなので、午前中は、ホテルにほど近いところにあることがわかったダヴィストック・スクエアへ。特段の観光スポットというわけではありませんが、マハトマ・ガンジーの銅像、広島・長崎の原爆犠牲者を慰霊する銘板があることで知られています。そこを観たあと地下鉄でヴィクトリア駅へ。

ここからはサザンレイルに乗り、ブライトンまでおよそ40分。そこで乗り換え5~6分でファルマー駅へ。駅前のコミュニティースタジアムには2時半ごろ着きましたが、芝が美しく輝く、素晴らしいラグビー場です。

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ニュージーランドでの前回大会と違い、赤と白のストライプのレプリカユニフォームを着た日本人の姿がえらく多いのにまずびっくり。さすが次回のW杯開催国。会場入り口では、例によって日の丸と南アの国旗が配られていました。

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今回は「HOSPIRALITY」という、食事・飲み物付きのかなりハイレベルの席を買い込みました。スタンド席から自由に出入りできるスペース(そこに丸いテーブルが20ほど並べられ、自由に飲食ができる)には200人ほどいたでしょうか。4分の1が日本人でした。

昨日から始まったW杯の今日は2日目。予選プールBの日本は南アフリカが最初の相手です。世界ランキング3位、過去に2度優勝を経験している強豪ですから、まず勝ち目はないだろうと思っていたのですが、な、な、なんと劇的な逆転勝ちで終わりました。W杯はこれまで2引き分けをはさんで16連敗、勝ったのは第2回大会(1991年)のジンバブエ戦以来24年ぶり。大金星というか、日本のラグビーの歴史を変える一大事です!!

 

L1040230まさか勝てるなどとは思ってもいなかったので、前半29分、ラインアウトからモールを作り押し込み最後はリーチマイケルが押さえてのトライで8対7、五郎丸のコンバージョンも決まって10対7とリードしたときは、こんなスコアになることは(この試合で)二度とあるまいと、シャッターを押してしまいました。案の定その4分後、まったく同じパターンで南アにトライを許し逆転されます。しかし、前半終了時でわずか2点差ですから、それだけでもアッパレ! でしょう。これまでの日本なら、ここまで善戦しても、後半20分過ぎあたりからガタッと崩れてしまうのが常でしたが、今日はまだまだ行けそうな感じがします。ノックオンなどハンドリング・ミスがほとんどないのが最大の違いです。

面白いのは、3万人収容のスタンドに日本人は1割足らずしかいないのに、「ニッポン!」「JAPAN!」、その2つが混ざり合った「ジャッパン!」という声援が目立ったこと。「ジャイアントキリング」に対する期待なのでしょうか。前回までの大会ではまず目にすることのなかった光景です。

ハーフタイムでスタンド奥のテーブル席に戻っても、皆かなり興奮気味。それはそうです、南アを相手に10対12なのですから。だれもが多弁になり、笑顔でまわりの人と言葉を交わしています。「タックルが低いよね」「いままでの日本とは別の国のチームみたい」「ここまで強くなってるとは思わなかった」と、後半への期待も盛り上がります。それでも私は、これまで50年間のファン経験から、「でも……」と半信半疑、いな3信7疑といった感じで、アタマの片隅では冷静を保っていました。

さて、後半が始まりました。始まってすぐ南ア陣22メートルライン近くでペナルティーを獲得、五郎丸がPGを決め、13対12に。しかし、その直後、キックオフからのディフェンスの一瞬の穴を衝かれ13対19と逆転されます。その3分後南アのペナルティーがありPKで16対19、さらに、後半10分過ぎ、南アが自陣でペナルティーを犯し、また五郎丸がPGを決め同点に。このあたり、後半5分過ぎから入ったFWのマフィのフィジカルの強さが目立ちます。

後半16分、日本陣内で得たPGを南アが決め、19対22。しかし、19分に得たゴール正面のPKを日本が決めまたまた同点に。しかし、21分に、南アFW1列のアドリアーン・ストラウス(体重102キロ)にゴールポスト下にトライを決められ(コンバージョンも成功)22対29。このあたりが限界かという思いも一瞬きざしましたが、日本選手の動きは、これまでの大会とはまったく違います。

後半28分、日本陣内で得たPKを南ア陣に蹴り込みラインアウトに。素早い球出しからバックスの小野→松島→五郎丸とつないで、右中間になんとも美しいトライ。コンバージョンも決まり、29対29の同点に。しかし、31分に自陣ゴール前で与えたペナルティーを南アに決められ29対32に。それにしても、その前の南アの攻撃を必死で止める日本のディフェンスの素晴らしいこと。もう感動的です! 過去の日本の面影はどこにもありません。

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後半35分からフェイズ19まで続いた南ア陣内での連続攻撃は、もうすさまじいのひと言。南アゴールラインまで攻め、そこで得たペナルティー(この時点で南アのFWがシンビンで退場)。PGを選ばずタッチに蹴り出してラインアウト。これは同点狙いでなく、もう勝ちに行っています。そこからバックスまで加わったモールを押し込みトライかとも思われましたが、ほんのわずか足らなかったようで、5mスクラムに。この直前、ヘスケスが交替でウイングに入っていました。

40分を超えたところでまた南アがペナルティー。ここで日本はスクラムを選びます。私の後ろで観戦していた同年齢の男性はラグビーのプレー経験があるようで、「ウソだろ! ショットだろう!」と叫んでいましたが、当然でしょう。24年間勝っていないのですから。まして南アなら引き分けで十分じゃない? でも、今回の日本は“Brave Blossoms(勇気あるサクラ)”です。崩れかけたスクラムからギリギリの球出しで、ハーフの日和佐から左へ。その後も右、左、右と攻撃をつなぎます。こういうところでハンドリングミスやペナルティーを犯さないのも、これまでの日本とは大違い。プレーが途切れたら、引き分けどころか負けです。

ところが、43分、マフィから交代したばかりのヘスケスにつなぎ、左中間隅にトライ!!!!! 日本の勝ちです。その瞬間、スタジアムの興奮・歓声は頂点に。選手は皆、体を震わせて泣いています。南アの選手は皆、アンビリーバボーの表情。HCのエディー・ジョーンズも「信じられない」とコメントしていたくらいですから、だれもがこの瞬間を、そうした思いで見ていにちがいありません。

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もちろん、私もマジで泣きました。高校時代初めて楕円級のボールを手にして以来50年。半世紀ですよ! エディー・ジョーンズがHCになる前まで、上位ランク相手のテストマッチで勝ったのは、宿澤JAPANのスコットランド戦(1989年)くらいしか記憶にありません。負けはしたものの、対イングランド戦(1971年・秩父宮)もあわやという戦いぶりでした。それが2013年以降は、ウェールズにも勝ちましたし、トンガ、サモアとも互角の勝負ができるようになり、かなり勝ち星をあげています。カナダやアメリカとのゲームも安心して見ていられるようになりました。もう、信じられないくらいの進歩です。

私たちのすぐ前にすわっていた南アのサポーターは全員、ガックリ下を向いてしまいました。「そんなバカな!」「あり得ない」「ウソだろう」と、どの人の目もそういっています。
大番狂わせとはまさにこのことです。95年大会でNZ相手に屈辱的な大敗を喫した日本。勝ちとなると、24年前までさかのぼらなくてはなりません。そのときの相手はジンバブエです。その後W杯には出場さえ果たしていません。

ジョン・カーワンに率いられて出場した前回ニュージーランド大会も、「前より強くなった」といわれながら1試合も勝てませんでした。それがなんとなんと、南ア相手に土壇場の大逆転勝利。スタンドから部屋に戻ると、どのテーブルも乾杯、乾杯で沸き返っています。私たちのすわっている席も同じ。ただ、4人いた南アサポーターのうち女性2人がなんとも不機嫌な顔を見せていたのが印象的でした。

会場を出てからも、見も知らぬ人からどんどん声をかけられます。何人とハイタッチ、握手、ハグしたでしょうか。数え切れません。1時間半以上かけてロンドン市内ヴィクトリア駅まで戻っても状況は同じ。手を振って歓声を上げながら祝福してくれます。いやいや、今夜は眠れそうにありません。

ちなみに、このゲームで光ったのはFWではアマナキ・レレイ・マフィ、リーチマイケル、バックスでは松島幸太朗、立川理道、そして五郎丸歩でしょうか。あと、トンプソンルーク(ロック)、堀江翔太(フッカー)も素晴らしかったですね。