トーハクで等伯!

2015年1月6日
東京国立博物館のことを最近は「トーハク」と呼ぶらしいですね。館長の銭谷眞美さん自身がそう呼んでいるので、“俗称・通称”といったレベルではなさそうです。

そのトーハクで年頭から開催されているのが恒例の「博物館に初もうで」。トーハクで所蔵している、その年の干支に関わる美術品を軸に、松竹梅や鶴亀、富士山など、新年にふさわしい作品をセレクトして展示した、企画性に富むユニークなイベントです。今年の目玉は、別にシャレたわけではないでしょうが、長谷川等伯(とうはく)の『松林図屏風』(国宝)です。実物を観る機会はめったにないと、家人の提案もあり、行ってみようということになりました。

L1000447
L1000456_2

展示の期間が2日から12日までと短いですし、正月休みの期間と、最後の3連休は込み合うだろういうことで平日の今日を選んだのは正解でした。

国立博物館の周辺は以前とすっかり様変わりしたようで、正面玄関の前には美しい池と噴水があります。その左右にはカフェも設けられており、そこだけ切り取ると、ほとんどヨーロッパの風情。海外からやってきた人など、さすが日本を代表する博物館という印象を受けるのではないでしょうか。

L1000446
さて、今年の干支は「未」。ふだんは「羊」と書きますが、古来、神への最適な捧げものとされていたそうです。「よきもの」という意味があるとされ、「美」「善」などの文字の中にも「羊」が使われています。私自身の名前(=祥史)の「祥」という漢字も、シメス偏に「羊」です。それにふさわしい生涯を送りたいと、常々思っています。

というわけで、まずは「羊」にまつわる品々が展示されている「ひつじと吉祥」という展示を観ようと、本館・特別1室へ。『羊と遊ぶ唐美人と唐子』(北尾重政筆/江戸時代・18世紀)『十二神将立像 未神』(重要文化財/京都・浄瑠璃寺伝来/鎌倉時代・13世紀)『よきことを菊の十二支』(歌川国芳筆/江戸時代・19世紀)など、興味深い作品が所狭しと並べられていました。

その中で私が気に入ったのは『灰陶羊』という、 中国・漢時代(前3~後3世紀)の置き物。「灰冬」とは、「陶質土器の一種で、鉄分が還元されて灰青色の色調を呈する」と辞書にはありますが、高さ20センチほどのもので、なんとも愛嬌のある顔をしています。

続いては、今回の本命・国宝『松林図屏風』。安土桃山時代の絵師・長谷川等伯の水墨画で、六曲一双になっています。等伯は、狩野永徳、海北友松(かいほくゆうしょう)らとともに活躍、墨の濃淡や光の効果的表現を追求した人ですが、この作品は等伯の代表作で、近世水墨画の傑作とされています。

L1000452

写真ではわかりませんが、学芸員の説明にはこう書かれていました。「白い和紙の上に墨の濃淡だけで、風と光の情景が生み出されています。画面に近づいて松の葉をみると、その激しい筆勢に押されて、後ずさりするくらいです。(略)繊細でありながら迷いなく筆を進め、一気に線を引いていることが見てとれます。(略)さまざまな工夫と技術によってあらわされたこの松林には、霧の晴れ間から柔らかな光が差し込んで、遠く雪山がのぞき、冷たく湿った空気が漂います。艶(つや)やかな墨の色と相まって。風の流れや盛りの清清しい香りまで実感できるでしょう」

一読して、なるほどなぁと感じました。作品が展示されていたのは「国宝室」という専用スペースで、広々としており、リッチな気分で観賞できます。イスにすわってじっくり楽しんでいる人も多くいました。

展示品の数が多いので、あとはサクサクとまわってしまいましたが、お正月ということで、版画・浮世絵にもそれっぽい作品がいっぱい。その中で印象に残ったのが、歌川国貞の『二見浦曙の図』です。昨年、伊勢神宮に行ったときは通り過ぎただけだったので、さほど印象がなかったのですが、こうして絵になったものを観ると、すごい場所だったということがよくわかります。

Photo

もう一つ、歌川広重の浮世絵『名所江戸百景』のうちの「するがてふ(駿河町)」という作品もGOODです。 いまの中央区日本橋室町3丁目あたりらしいのですが、もともと駿河国から出てきた人たちが住みついた町で、名前もそれにちなんでいます。駿府(いまの静岡市)の七間町から見た城と富士山とそっくりの景色が再現されている地域だったのでしょう。

Photo_2