早明戦もいいですが、やはり「トップリーグ」でしょう

2019年11月22日
とてもうれしい話を聞きました。11月15日から始まったトップリーグの一つ下「トップチャレンジリーグ(TCL)」の試合に多くの観客が詰めかけたそうです。「TCL」は言うならば「トップリーグ」の2部で、8チームの構成。この日は平日(金曜日)で、しかもナイターという悪条件。にもかかわらず、愛知県刈谷市のウェーブスタジアム刈谷(豊田自動織機vsマツダ)に、3182人もの観客が集まったといいます。昨年9月の「TCL」開幕戦(マツダvs近鉄)のなんと4倍で、これは明らかにW杯で日本中が盛り上がった余波でしょう。豊田自動織機には、W杯予選プールであいまみえたサモアのトゥシ・ピシが先発出場していた影響もありそうです。(写真は日刊スポーツ)

   

さらに、翌11月17日、大阪のヤンマーフィールド長居でおこなわれた近鉄vs清水建設のゲームには、W杯で献身的な活躍を見せたトンプソンルーク、元オーストラリア代表(70キャップ)のクウェイド・クーパーが先発出場。同じくオーストラリア代表のウィル・ゲニア(110キャップ・写真はスポニチ)も後半途中からプレーし、スタンドをほぼ埋め尽くした5068人の観衆も大喜びだったといいます。トンプソンルーク(写真は共同通信)にとっては最後のシーズンですが、「本当にびっくり。近鉄入りしたときはこんなに人はいなかった。雰囲気が変わってうれしい。最後のシーズン。でも、いつものように次の試合に集中してチームのためにプレーする」と語っていたそうです。

 

ちなみに、この試合でフル出場した清水建設のサム・ワイクス(元オーストラリアU20代表・ポジションはロック)は昨年2月、リオデジャネイロで私が観戦したスーパーラグビー(ジャガーズvsサンウルブズ)の試合に出場しており、日本への帰途、乗り継ぎのサンチャゴ空港でその姿を見かけ一緒に写真を撮ってもらいました(左端)。

ほかにも、コカ・コーラにはウィリアム・トゥポウ(JAPAN代表)、清水建設にはルーク・マカリスター(元ニュージーランド代表・33キャップ)が所属しており、コアなファンには見逃せないカードも少なくありません。とともに、年明けからスタートする「トップリーグ」への期待が高まります。

そんな中、「早明戦」(毎年12月第1日曜日)のチケットが取れないというニュースを聞きました。関東大学ラグビー対抗戦グループに属する早大vs明大の試合は、かつて「学生スポーツのドル箱」と言われるほど多くの客を集めました。秩父宮に入りきらないということで、1973年~2013年は旧国立競技場でおこなわれたほどです。なかでも82年の入場者数66999人は、64年の東京オリンピック開会式・閉会式に次いで3番目に多かったとのこと。早大の本城和彦、吉野俊郎、明治の藤田剛、河瀬泰治など、いまでもその顔やプレーぶりが目に浮かびます。80年代後半から90年代初め頃は早大が清宮克幸、堀越正巳、今泉清、増保輝則、明大は大西一平、太田治、永友洋司、吉田義人、元木由記雄らが活躍。それより前、70年代にも、早大の藤原優、石塚武生、明大の笹田学、松尾雄治など、名プレーヤーがいました。

私も早明戦は何度か国立で観戦しましたが、感動で胸を熱くした記憶があります。しかし、それから何年か経ち、世界のラグビーを見始めるようになると、プレーのレベルの低さに愕然としてしまいました。「世界」どころか、大学ラグビーの前に社会人ラグビーが立ちはだかったのです。

1960年に始まった日本選手権(当初はNHK杯)は大学選手権の優勝チームと社会人の優勝チームが雌雄を決するスタイルでした。87年まで両者の力は拮抗しており、早大が4回、同大が2回、日体大と明大が各1回、社会人に勝ったこともあります。日本人特有の判官びいきの心情もたぶんに影響していたのでしょうが、大学チームが勝ったときは非常に気分がよかったものです。しかし、87年の早大を最後に(東芝府中に22対16)大学勢は社会人にまったく歯が立たなくなります。その差が年々顕著になったこともあり、97年からは出場チームの選定など試合方式を変更したのですがそれも焼け石に水。大学チームの優勝はここ四半世紀ありません。

それだけ社会人の力が学生をはるかにしのぐようになったわけですが、その社会人のベストメンバーを集めて編成されるJAPANが、世界を相手にするとさっぱり歯が立たないのです。それは1987年に始まったW杯でくっきりあらわれました。W杯には毎回出場しているJAPANですが、第1回の代表メンバーは、大学ラグビーで大活躍した選手も含め26人。しかし、予選プールではアメリカ、イングランド、オーストラリアに連敗しました。次の91年は宿沢広朗の率いたチームで、スコットランド、アイルランドに連敗したあと、3戦目のジンバブエ戦で初めて勝利します(52対8)。しかし、このあと2011年まで5大会(20年間)、JAPANの勝利はありませんでした。

91年のスコッドを見ると、FWに藤田剛、大八木淳史、林敏之、HBに堀越正巳、BKに平尾誠二、朽木英次、元木由記雄、吉田義人など、当時国内では超一流とされていた選手の名前がズラッと並んでいます。それでもまったく歯が立たないのですから、日本のレベルがよくわかります。

それから4年後、95年のW杯でJAPANは歴史に残る屈辱を味わいます。予選プールでウェールズ、アイルランドに完敗したあとの最終戦、ニュージーランドになんと17対145という大敗(145得点は大会史上最高、得点差128、失トライ数21はいまもなおW杯のワースト記録)を喫したのです。このときのメンバーも、けっして91年に劣りません。にもかかわらずこの悲しい結果。世界とのあまりに大きな差に日本のラグビーファンは打ちひしがれました。というか、私など、ほとんどドッチラケ状態におちいりました。そして、この大会の2カ月後、世界のラグビーは本格的にプロ化が始まります。しかし、日本ではアマチュアリズム信仰が強く、そうした流れに乗れませんでした。

99年、2003年、07年、11年と、JAPANは4大会連続で1勝もできない状態が続き、予選プールで敗退。ようやく2003年になって「トップリーグ」が発足、プロ契約でラグビーをする選手が出てきました。それが前回の15年、エディー・ジョーンズに4年間鍛え上げられたJAPANはすっかり生まれ変わり、南アフリカ、サモア、アメリカと3勝をあげるまでに。勝ち点の差で残念ながら決勝トーナメントには進めませんでしたが、ようやく光が見えてきたのです。

しかし不思議なのは、W杯でまったくいいところなしの敗北を繰り返していたにもかかわらず、国内では大学ラグビーが相変わらず盛り上がりを見せていたことです。2008年までは早明2校を軸に大東文化、関東学院がリードしましたし、10年以降は帝京が大学選手権9連覇を達成しています。関西は1984年の同大を最後に低迷が続いていましたが、ようやく19年、天理大が決勝まで進みました(明大に敗れ優勝は逃す)。

2019年1月の大学選手権決勝=明大vs天理大はテレビで観戦しましたが、何より興味深かったのは天理大で外国人留学生の選手がプレーしていたことです。18年まで9連覇していた帝京大にも外国人選手はいましたが、1人だけ。同じ対抗戦グループに属する大学を見ても、日体大を除き外国人選手は皆無です。一方、リーグ戦グループ(1部)はというとガラリ一変、流通経大、拓大、東海大、法政大、日大など多くの大学で留学生がプレーしています。関西Aリーグでも天理大のほか、京都産業大、摂南大に外国人選手がいますが、同大、立命館、関大、関西学院大といった伝統校にはいません。(写真は毎日新聞社)関東・関西を問わず、伝統校の場合、チームは日本人だけでという考えがまだまだ強いのでしょう。

しかし、これからの時代、大学スポーツはもちろん、高校スポーツでも外国人留学生抜きで好成績を収めるのは難しくなるのではないでしょうか。ラグビーもいずれそうなるのは目に見えているにもかかわらず、そうした中、純血主義=日本人選手だけのチーム編成にこだわるのは時代錯誤というか、むしろ違和感を覚えます。

いまでこそ外国人選手抜きのプロ野球など考えられませんが、大昔のプロ野球セ・リーグの巨人は、どうした理由かわかりませんが、純血主義にこだわっていました(正確には「見かけ」だけ)。巨人の場合、姑息というか、顔が日本人ならOKと勝手な理屈をこさえ、ハワイに移民した日本人2世の選手(与那嶺要、宮本敏雄)を使っていたのです。まさかいまのラグビー協会がそうした考え方をしているとは思えませんが、これからはむしろ、外国人をどんどん、それも高校・大学のうちから集めたほうが賢明だと思います。

南太平洋のトンガ、フィジー、サモアを始め、ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、アルゼンチンといったラグビーの盛んな国々、さらにインド、スリランカといったアジアの国からどんどん留学生を集めるのです。私が密かに期待しているのはモンゴルです。モンゴルのラグビーなど聞いたことがありませんが、いまの大相撲での活躍ぶりを見ると、日本に来てから始めても、鍛えさえすれば強くなるのははっきりしています。高校から日本に留学してもらい、ラグビーを覚えさせても十分間に合うのではないでしょうか。最初はモヤシのような細い体であったとしても、こちらでトレーニングを積み、作っていけばよいのです。それこそ、大相撲の力士のような身長180センチ以上、体重も100キロ以上でラグビーができる学生が育ちJAPANのメンバーになれば、「ティア1」の国々と戦っても十分太刀打ちできると思うのですが。

今年はW杯の余波もあり、久しぶりに大学ラグビーにも大きな関心が集まっているようです。早明戦のチケットが手に入らないというのも、その影響でしょう。各大学には将来のJAPAN代表になるメンバーもいるはずで、4年後のW杯に出てくるような成長株を見つける楽しみもたしかにあります。大学生が一生懸命やっているのだから……という心情も理解できないではありません。ただ、そのあたりで満足していると、そのレベルで終わってしまいます。それだけならいいのですが、大学ラグビーの人気イコールラグビー全体の人気などと思い違いをする人が出てくるのが怖いのです。

もちろん、ラグビーですから、どんなレベルであっても、野球やサッカーをはるかに上回る面白さには満ちています。しかし、大学ラグビーはしょせん一段も二段も下。どうせお金と時間をかけて観戦するなら、やはり「トップリーグ」を追いかけたほうが得だと思います。