「すそ野を広げる」といっても、土のグラウンドでは絶望

2019年11月15日
11月5日、新聞のスポーツ欄に、高校ラグビーの県予選の結果が出ていました。文字だけ見ると、
「島根県 決勝 石見智翠館 130─0 出雲
(石見智翠館は29大会連続29回目)」
とあり、同校の強さがきわだっているような印象を受けます。ただ、「決勝」といっても、そもそも同県の予選参加校はこの2校のみ。夏の甲子園(野球)が39校 サッカーが32校、予選に参加していることを思うと悲しいというか、情けないというか。

ほかにも、高校ラグビーの予選参加校が少ないのは、山形県が4校(サッカー24校、野球48校)、福井県が3校(サッカー28校、野球30校)、香川県が4校(サッカー37校、野球38校)、徳島県が4校(サッカー29校、野球30校)、佐賀県が2校(サッカー35校、野球39校)など、いくつかあります。もちろん、予選参加校が少ないからといって本大会に出場することの価値がダウンするわけではありません。ただ、これでは、「日本のラグビー、大丈夫なの?」と心配になってしまいます。

そういえば、今年3月、母校ラグビー部の創部70周年を祝う会でも、後輩が「去年、今年は入部者が少なく、単独でチームを組めない心配もあります」と語っていました。6年前、「選抜高校ラグビー」に“21世紀希望枠”で出場したことがある我が母校ですらこれが現実なのです。それから3年ほどの間に急激に弱くなってしまったという背景はあるにしても、たかだか2、3年でこれはないんじゃないの!? と言いたくなりますね。

それはともかく、日本のラグビーのすそ野の狭さはただただ驚くばかり。それでも、今大会のベスト8達成で、ラグビーをやってみようという子どもがかなり増えるかもしれません。ただし、彼らのモチベーションをどうやって維持するかが実は大きな問題で、前にもこのブログで記したように、信じられないほどプアな日本のグラウンド事情(芝でなく土)が大きな妨げになるのではないかと心配しています。

ラグビーのルールブックの中に、「人工芝の使用に関する基準」という条項(第22条)があります。そこには、「ラグビーの試合は伝統的に天然芝の競技場で行われてきた。(中略)理想的な状態の天然芝の競技場は、ラグビーの試合に最適だからである。天然芝によるフィールドは、最高レベルの国際試合に適した足場の確保、衝撃吸収性、ボールの弾み、トラクション(スパイクの引っかかり)、変形度や安定性のほか、景観的な美しさを実現することができる」とあります。ただし、こうした理想的な天然芝は、その性能特性を維持するために、徹底的な維持管理体制が必要なため、将来は人工芝、あるいはハイブリッドの芝の採用も考えていかなければならない。その基準・仕様についてもルールで定めていきましょうということのようです。

早い話、あれほど危険に満ちたスポーツを土のグラウンドの上ですること自体、大げさかもしれませんが非人道的なのです。というか、ラグビー発祥の地イングランドでは、サッカーやラグビーを土のグラウンドでおこなうなど、想像すらしていなかったのでしょう。世界各地に広がっていたイギリスの植民地も同様です。

しかし、サッカーもラグビーも、数十年という時を経てから入ってきた日本にはそうした考え方がなじまなかったのか、土の上でプレーすることになってしまいました。だからといって、誰も不平不満を口にしたりはしませんでした。私が高校生の頃「泥濘【でいねい】戦」という言葉を教えられたことがあります。グラウンドが雨でぬかるむと、足が思うように動かくなくなります。かりに雨自他はあがっていても、水分をたっぷり含んだグラウンドでは、通常のときと同じようにはプレーできません。また、雨が降るとボールが滑りやすくなり、どうしてもノックオンが増えます。つまり雨が降っているとき(降ったあと)の試合は、ふだんとはまったく違った注意を向けないとダメだよという意味でした。ノックオンしやすくなるのは別として、こうした注意はグラウンドが土だからシビアな内容になるわけで、芝生であればかなり様相は違ってきます。

今大会スコットランド戦でトライを決めたプロップ稲垣啓太の母校・新潟工業高校では今年、新入部員が7人しか集まらなかったといいます。それに危機感を抱いた同校の監督が、人工芝のあるライバル校に対抗して芝生の導入を思いつきました。そして各方面に相談したところ、稲垣が快諾し資金を提供したとのこと。こんな粋な話が各地で実現すればいいのですが、果たして……。

さて、校庭の芝生化と並行して進めなくてはならないのが競技人口を増やすことです。野球の甲子園、サッカーの国立(ただし、2020東京五輪に向け工事中のためおそらくは埼玉スタジアム?)に対し、ラグビーは花園(東大阪市)。ただ、全国高校ラグビーの参加校数はここのところ減少の一途をたどっており、2020年大会(第100回の記念大会)はおそらく1000校を割っているはず。高校生の競技人口も2万人カツカツで、これはサッカーの8分の1。バスケットボール、バレーボールより少ないのはなんとなく実感できますが、ハンドボールよりも少ないという事実には驚きました。

対象を全世代に広げても、日本は約11万人(総人口1億2600万人に対し0.09%)。南アフリカの約63万人(同1.1%)のほぼ6分の1です。サッカーの約89万人(0.71%)、バスケットボールの約62万人(0.49%)と比べるとあまりに差が大きすぎます。

世界各国のラグビー「選手登録者」 2018年
順位 国   名 競技人口 総人口 比率
1位 南アフリカ 63万人 5543万人 1.1%
2位 イングランド 35万人 5561万人 0.6%
3位 オーストラリア 27万人 2464万人 1.1%
4位 フランス 26万人 6493万人 0.4%
5位 ニュージーランド 15万人 460万人 3.3%
6位 アメリカ 13万人 3.2億人 0.04%
7位 フィジー 12.3万人 90万人 13.7%
8位 ケニア 12.2万人 4970万人 0.25%
9位 アルゼンチン 12.1万人 4427万人 0.27%
10位 中国 11万人 13.8億人 0.008%
https://rugbyhack.com/2016/09/28/population/ をもとに算出

日本ラグビー協会は2019年に20万人に増やすことを目標に掲げていました(「日本ラグビー戦略計画2016-2020」)が、2015年の115205人から108796人(2018年)と、逆に6千人以上も減っているのが現実です。ちなみに、ここには登場していませんが、アメリカは近年、学校の授業などでラグビーを取り入れるなど普及に力を入れてきた成果もあり約150万人まで増えました。これは絶対数ではイングランドに次いで第2位です。2018年にはプロリーグ「Major League Rugby」がスタート、近い将来代表チームも強くなることが予想されます。

サッカーの競技人口がここまで増えたのはひとえにJリーグの成功によるものです。野球も一時期の危機を脱した感がありますが、プロスポーツはいまや地域振興を支える重要なコンテンツの一つ。とくに地方ではその傾向が強く、Jリーグが大きく拡散したことでサッカー(球技)用スタジアムが全国各地にできました。ラグビーW杯もそうしたインフラがあったからこそ日本開催がかなったのですが、それが整備されてからせいぜい四半世紀しか経っていません。

しかし、だからといってサッカー&ラグビー場を新しく作ろうといっても、おいそれとは行きません。そこで、これから先は(少年)野球場をサッカー&ラグビー場に仕様替えしていくのも一法かもしれません。というのは、少年野球の競技人口はここ数年減る一方だそうです。将来野球場がダブつくのははっきりしていますし、しかも全国、どんな小さな町や村にもあるので、それを有効に使いまわせばいいのではないでしょうか。