「にわか」から「本格ファン」に昇格したいなら

2019年11月1日
これまで1999年(イギリス)、2007年(フランス)、11年(ニュージーランド)、15年(イギリス)と見て回りましたが、今回のW杯ほどうまくハマったというか、盛り上がりを見せた大会は、なかったように思います。主催者のWR(ワールドエアグビー)も万々歳のはずです。

どの開催都市に行っても、空港、駅、主要道路、繁華街、デパート、小売店など、ポスターや横断幕、幟【のぼり】、捨て看、バナー、ラグビーボールのオブジェ、公式マスコットの「レンジー」を見かけましたし、居酒屋やカフェもにぎわっていました。「4年に一度じゃない。一生に一度だ」のキャッチコピーどおりの体験をした人もいっぱいいるのではないでしょうか。

 

経済効果は4300億を突破しそうだといいますし、JAPANvs南アフリカ戦のテレビ実況中継は41・6%という驚異的な視聴率を達成したとも。これは、今年に入ってすべての番組の中でトップのようです。あと2カ月余、よほどの一大事でもない限り変わらないでしょう。

しかも、9月20日から11月2日までのW杯開催期間と日程が重なり合うスポーツイベントには、プロ野球のセ・パ両リーグのCS、日本シリーズ(ソフトバンクのストレート勝ちで10月23日に終戦)、バレーボール男子のワールドカップ、競馬のGⅠ菊花賞に天皇賞、プロ野球ドラフト会議(高校生)、日本初開催となる男子ゴルフのPGAツアー「ZOZOチャンピオンシップ」(タイガー・ウッズが13年ぶりに日本で出場)など、強力なコンテンツが目白押し。また、サッカーJリーグも最終盤に来て激しい優勝争い(10月29日現在、4チームが勝ち点5の差でひしめく)が展開されていますし、バスケットボールBリーグも開幕しました。

そうした中で大変な数の「にわか」ラグビーファンが生まれたのは間違いありません。多くの人が「いやぁ、私はにわかなので」「世の中ラグビーで盛り上がっているのに一人だけ外れているとさびしくて」……、さまざまな人がいるでしょうが、とりあえず2試合でもテレビ中継を観た人は、なぜラグビーがこれほど多くの人の心を鷲づかみにするのか、理屈抜きで感じ取れたと思います。こまかなルールなどうっちゃってOK、要は相手ゴールラインを越えたエリアにグラウンディングすればトライだということさえ分かっていれば、ハンパなく濃密な80分間を経験できることが体感できたのではないでしょうか。

つい半年、いな3カ月ほど前までは、どこに行ってもラグビーの「ラ」の字も見えませんでした。「これで大丈夫かなぁ」と、大会関係者でもなんでもない私ですら心配になったものです。それがなんと、国民の半分半分近くが、突然“ラグビーファン”になって熱くなり、南アに負けて“JAPANロス”、そして大会が終わったら“ラグビーロス”になりかねないような雰囲気すら感じられます。

それはともかく、今回「にわかラグビーファン」になった中には、このままではもったいない、もっともっとJAPANを応援したいと思っている人もいるはずです。ただ、座して待っているだけでは、どんどん熱が下がるのは確実。そこで、そうならないための秘訣を一つお伝えしましょう。来年2月まで、日本国内は高校・大学ラグビーが盛り上がります。

高校ラグビーはちょうど高校サッカーと時期が重なりますが、サッカーよりよほど面白いのではないかと思います。大学ラグビーも近頃は様変わりしつつあり、海外からの留学生もけっこういますし、そうした中から次のJAPAN代表になりそうな選手を見つけるのも楽しいのではないでしょうか。一定期間続けてラグビーに触れれば、かならずハマるのがラグビーです。(各国サポーターの写真はすべて©Getty Images)

トヨタスタジアムで遭遇した、私より少し年上とおぼしきご婦人(「おばちゃん」と呼ぶのがはばかられるほど上品な雰囲気をただよわせていた)は、試合が始まるやいなやガラッと変貌、すぐ横にいた私はただただ驚くばかりでした。「堀江~~っ、ハリハリー(=急げを意味するかけ声)!」「姫野――っ! めくれ、めくれよーっ(=ラックでボールを奪うさまたげになっているプレーヤーを排除する)!」などと、けっこうかん高い、というよりドスの利いた声で叫び続けるのです。それも、JAPANのワンプレー、ワンプレーに対してですよ。かなり年季の入ったファンとお見受けしましたが、ここまで到達するのは時間とエネルギーが要ります。

でも最初は彼女も、「ラファエレティモシーっていうの? あの人、いいわねェ」と笑顔でのたまうおばあちゃんや、「稲垣――! 笑ってぇ」「福岡さーん、こっち向いてー!」という女子高生のレベルだったのではないかという気がします。女性の多くがこのパターンかと思いますが、何事も「好き」になるのが一番のきっかけですから。

好きな選手の一挙手一投足に注目することから、各ポジションの役割や選手の動き、パスやキック、ラン、ボールキャリー、タックルについての見方、相手のディフェンスをかわすさまざまな手立て、スクラムやラインアウトの駆け引きなど、一つひとつのプレーを見る目が養われていきます。さらに、両チームの布陣や個々の選手の動きなど、ゲーム全体が見えてくれば面白さはぐんと増すでしょう。興味・関心を抱いた一人の選手が、ラグビー全体にあなたを引き込んでくれるというわけです。言うならば、好きな選手こそが「にかわ」=“接着剤”のようなもの。「にわか」が「にかわ」に代わるのは簡単だということがわかるでしょう。

私が高校でラグビーをしていた頃、早稲田大学ラグビー部や日本代表チームの監督を務めた大西鐵之祐(1995年に死去)が打ち出した「接近・展開・連続」という理論を学ばされました。海外の強豪国に比べ体格の劣る日本人がそれに対抗するには、器用さや俊敏性、持久力では負けないという考え方に基づいたものです。攻撃するときは接触を避けつつギリギリまで相手に「接近」し、器用な手さばきでパスを出してつなぎ、グラウンドを広く使って「展開」する。こうした攻撃をチーム全員が粘り強く繰り返す(「連続」)ことで相手の優位性をくつがえすことができるという内容でした。実際、1968年5~6月、日本代表がニュージーランドに遠征したとき、オールブラックス・ジュニアに23対19で勝利を収め、私たちも大喜びしたものでした(このときの通算成績は5勝5敗・写真の出典は不明です)。

ラグビーの本格ファンになるのも、この「接近・展開・連続」が必要な気がします。W杯で「接近」、高校・大学ラグビーに「展開」、そして「連続」の対象は代表レベルの試合です。

今回JAPANの代表に選ばれた31人のほとんどが「トップリーグ(16チーム)」に所属しています。チーム別では、
◎NTTコミュニケーションズ(千葉県市川市) アマナキ・レレイ・マフィ
◎NTTドコモ(大阪市) ヴィンピー・ファンデルバルト
◎キャノン(東京都町田市) 田中史朗、田村優
◎クボタ(千葉県船橋市) ピーター・ラピース・ラブスカフニ
◎神戸製鋼 中島イシレリ、山中亮平、ラファエレティモシー アタアタ・モエアキオラ
◎サントリー(東京都府中市) 北出卓也、ツイヘンドリック、中村亮土、流大、松島幸太朗
◎東芝(東京都府中市) 徳永祥尭、リーチマイケル
◎トヨタ自動車(愛知県豊田市) 木津悠輔、茂野海人、姫野和樹
◎パナソニック(群馬県太田市) ヴァルアサエリ愛 稲垣啓太、坂手淳史、福岡堅樹、堀江翔太、松田力也
◎HONDA(三重県鈴鹿市) 具智元 レメキロマノラヴァ
◎宗像サニックス(福岡県宗像市) ジェームス・ムーア
◎ヤマハ(静岡県磐田市) ヘルウヴェ
同リーグにはこのほか、今大会では代表を送り込めなかったNEC(千葉県我孫子市)、リコー、日野自動車(東京都日野市)、三菱重工相模原の4チームがあります。
また、トップチャレンジリーグからは、
◎近鉄(大阪府東大阪市) トンプソンルーク
◎コカコーラ(福岡市) ウィリアム・トゥポウ
の2人が代表に選ばれていました(チーム名のあとのカッコは練習場のあるところ)。そうした選手たちに焦点を絞って試合を見て回るのも面白そうです。一般のファンが多く行けば行くほど、「仕事する場所が変わっただけの社員」「動員された取引先」「いやいや付き合わされた来た人」といった不自然な観客は減るでしょうから、ゲームも楽しめるはずです。

ちなみに、31人のうち東日本出身は稲垣啓太(新潟)のみ、西日本出身は京都が4人、大阪3人、愛知・福岡が各2人、兵庫・大分・鹿児島が各1人です。日本人の国民性を考えるのにさんこうになりそうな話です。また外国出身は、ニュージーランドとトンガが各5人、南アフリカが3人、韓国・オーストラリア・サモアが各1人。

トップリーグの試合は全国各地で開催されます。これはラグビーの普及という意味合いもあるようで、W杯の試合がおこなわれなかった秋田、仙台、千葉県、三重県、京都、広島県、山口県、高知県、佐賀県などでも1、2試合が組まれています。

ただし、JリーグやBリーグのようにホームとアウェーで1試合ずつという仕組みではありません。ハードなスポーツなので、5日~1週間のインターバルが必要なのです。スケジュールは1月から5月までほぼ毎週末、16チーム総当たり。W杯では同じJAPANのジャージを着ていた選手が敵味方に分かれて戦うのを見るのも一興です。トップリーグのウェブサイトは、
https://www.top-league.jp/

また、各チームとも外国人選手が大勢います。彼らが見せるハイレベルのプレーにも注目したいですね。自分の出身国で代表寸前まで行ったものの選ばれなかった、あるいは国代表としては引退してもまだプレーを続けたい……そうした選手が多いので、下手な日本人選手よりよほど迫力があります。なかには、次のJAPAN代表に選ばれようと、資格(居住期間5年)をクリアするためにプレーする選手もいるでしょうし。

トップリーグとほぼ同じ時期に「スーパーラグビー」が始まります。詳しくは近々書こうと思っていますが、こちらはニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、アルゼンチン、そして日本の5カ国にまたがる15のクラブで覇を競います。日本に本拠を置くのは「サンウルブズ」といい、今回のW杯に出場していた選手が異なるクラブに所属して戦うので、楽しみもいっぱい。トップリーグよりチケット代は少々高いのですが、それだけの価値は十分あります。スーパーラグビーのウェブサイトは、
https://super.rugby/superrugby/

「スーパーラグビー」、来シーズンは日本国内でも6試合開催されます。W杯とはかなり様相の違う攻撃的・冒険的なシーンの連続に、別の楽しみ方ができること請け合い。「一生に一度」で終わらせてしまってはホントもったいない話です。「4年後に(フランスで)もう一度」をめざし、ラグビーを楽しみたいものです。