イングランドが勝ったのはいいのですが……

2019年10月28日
さすがW杯、ベスト4が戦うステージともなると外国人の観客が目につきます。それも、目の肥えたイギリス人の数が圧倒的です。今日(26日)のカードは、事実上の決勝とも言われるイングランドvsニュージーランドですから余計でしょう。

ゴールドやグリーン、青や赤などカラフルなジャージが目立つ中、イングランドの、飾り気のない純白はかえってイキな印象。胸の赤いバラのマークもどこか由緒を感じさせます。ちなみに、15世紀の半ば頃イングランドの王位継承をめぐって起こった「バラ戦争」を戦った2つの名門一族(ランカスター家vsヨーク家)の家紋がどちらもバラだったことからそう呼ばれているですが、勝利したランカスター家のバラが「赤」だったそうです。写真はカンタベリー社の広告から(左からカリー、ジョセフ、ファレルの3選手)。

試合はイングランドがニュージーランドを破りました。それも、相手の力をまったく出させずじまいで、スコア以上(19対7)の完勝です。前回は、主催国であるにもかかわらず予選プールで敗退という屈辱を味わっただけに、今大会は並々ならぬ決意で臨んだようです。4年前までJAPANを見ていたエディー・ジョーンズをHCに迎えて強化の取り組み、ここ2年ほどでその成果がはっきり見えてきていましたから。当然の結果と言えなくもありません。

昨年から今年にかけてのテストマッチの結果を見てもそれははっきりしています。2018年の「6ネーションズ」は優勝(今年は3勝1分け1敗で2位。スコットランドと引き分け、ウェールズには勝っています)。南半球の国相手では南アに勝ち、ニュージーランドとオーストラリアには負け。また、昨年11月にはJAPANにも勝ちました。直近の8月のテストでも、イタリア、ウェールズ、アイルランドを破っており、一時期の苦境からはほぼ脱したと見られていました。それどころか、今大会でニュージーランドの3連覇を阻む第一候補として名前があがりさえしていたのです。

ただ、イングランドのラグビーというのは、強いかもしれませんが、いまひとつ面白みに欠けるのです。手堅さばかりが目立ち、華麗さ、奔放さ、意外性となるとほぼゼロ。泥臭いラグビーとでも言いますか。2003年W杯の決勝で延長戦終了間際にジョニー・ウィルキンソンのドロップゴールでオーストラリアに“サヨナラ勝ち”したのは、そうした意味では例外で、それ以外は地道に勝ちを積み重ねるスタイル。スコットランドやウェールズ、アイルランドと同様、やはり泥臭さが前面に出てくるのは、イングランドとしょっちゅう戦っているせいなのか? と言いたくなるほど。グレートブリテンの伝統なのかもしれません。

ホイッスルが吹かれる前、スタジアムにどよめきが起こりました。恒例によりハカを披露するニュージーランドの前で。イングランドの選手たちが「V」の字に並んでみせたのです。ハカの陣形は前の尖った三角形ですが、それを受け止めるかのような「V」の陣形。こういうパフォーマンスを見せれば、さしものニュージーランドも多少は動揺するのでは……というエディー・ジョーンズHCの読みがあったのかもしれません。それが功を奏したのか、開始早々イングランドがノーホイッスルトライ。ニュージーランドの選手がまだ心を落ち着かせずにいるスキを狙ったのだとすれば、これはみごとな采配としか言いようがありません。©『RUGBY JAPAN 365』

そう言えば2007年(開催地はフランス)の準々決勝で、フランスの選手全員がハーフウェーラインを越えニュージーランドの目の前に横一列に並んで挑発、ニュージーランドが負けたということがありました。同じように、次の大会(同ニュージーランド)は決勝での対決となり、フランス選手は「V」字形の陣列を作って少しずつ前進するという“挑発行為”をおこなっています(試合はニュージーランドの勝利)。それに比べれば、今回のイングランドはおとなしいものですが。
2007年→https://www.youtube.com/watch?v=_USmnbVbJNI
2011年→https://youtu.be/yiKFYTFJ_kw

しかし、ドラマチックだったのはここまで。その後はディフェンスの強さ・堅さを前面に出し、ニュージーランドに何もさせない78分でした。後半早々イングランドのトライかと思わせた部分もありましたが、TMOによる判定でノートライ。攻めの形は、イングランドらしくてよかったのですが……。

それにしても、イングランドのタックルはすさまじかったですね。なかでも、ロックのマロ・イトジェ、第3列のアンダーヒルとカリーは出色でした。イトジェはこの試合のPOTMにも選ばれていました。ニュージーランドの大きな選手が次々とその餌食になり吹っ飛ばされ、あるいは倒されていきます。1試合で数えるほどしかないようなシーンが、この試合では何度となく見られました。これほど漆黒のジャージがグラウンドの上に倒れるとは!!

ターンオーバーもずばずば決まっていました。密集戦でニュージーランドがキープしていたはずのボールが、気がつくとイングランドの手にというシーンが何度もありました。常日頃見ているニュージーランドとは真逆です。打つ手に窮し始めたニュージーランドはタッチを狙ってキックを放ちますが、それもプレッシャーを受けながら窮屈に蹴ることを余儀なくされ、思うような展開に持ち込めません。イングランドの素晴らしいディフェンスが最後の最後までニュージーランドを苦しめました。反則数はイングランドが6、一方ニュージーランドは11。この数字がすべてを物語っているのではないかという気がします。

一夜明けた27日のニュージーランドの地元紙の第1面は、なんと黒一色だったそうです。いかにショッキングな出来事だったのか、よくわかります。