JAPANが本当に強くなるには……

2019年9月19日
たしかに、JAPANのラグビーは強くなりました。とくに、ここ5、6年の進歩には目を見張ります。その要因はさまざま考えられますが、やはり外国人選手の存在が大きいのではないでしょうか。今大会もチーム31人のほぼ半数、15人が外国人です。内訳はニュージーランドが5人、トンガが4人、南アフリカが3人、サモアと韓国、オーストラリアが1人ずつ。なかには日本国籍の選手もいますが、容貌ははっきりそれとわかります。ちなみに、松島幸太朗はいわゆるハーフです。

スポーツで外国人選手といえば、まずはプロ野球でしょう。太平洋戦争前の1リーグ時代から、チームの中核を担い素晴らしい実績を残した選手がいました。ただし、外国人といっても、ハワイやカリフォルニアに移民した日本人の2世、あるいは当時日本の統治下にあった台湾の選手が多かったようです。容貌も外国人というのはハリスだけでした。

ただ、日本のスポーツ界というのは“純血主義”とでもいうのか、その容貌から外国人と分かると一歩距離を置いて見るところがあるようです。その壁を破ったのがJリーグで、1993年にスタートすると、そうした風習は一気に消滅していきます。いまでは大相撲を始め、Bリーグ(バスケットボール)、Vリーグ(バレーボール)、柔道、駅伝など、プロ、アマを問わず、いたるところで、さらに近ごろは高校レベルでも、「留学生」の外国人選手がけっこういます。テニス全米オープンで優勝した大坂ナオミ、NBAでドラフト1位指名された八村塁もハーフですし。

そうした点からすると、いま外国人(の血)がなければ成り立たないのでは? と思われるのが陸上競技とバスケットボールでしょう。とくに陸上短距離は、黒人独特のバネがものを言っているようです。サニブラウン・ハキーム、ケンブリッジ飛鳥、ウォルシュ・ジュリアンなど、国籍は日本でも容貌は外国人(ないしはハーフ)。その外国人と伍して山縣や桐生、小池が走っているのを見ると「立派!」などと思ってしまったりします。

前置きが長くなりましたが、スポーツもいまや「◎国人」とか「?国出身」とか「△国籍」といった壁がどんどん風化しているようです。これだけ多くの日本人が海外に留学・転勤(もちろん、逆もアリ)したりしているのですから当然かもしれません。ラグビーでもそれは同じこと。むしろ、体が大きく技量にもすぐれた彼らがいたおかげで日本のラグビーも大いに力をつけていったのです。

日本のラグビーは外国人が代表に選ばれたのも早かったのです。1987年の第1回W杯のとき(シナリ・)ラトゥとノフォムリの2人が名を連ねていますから。外国人はフィジカルが日本人より数段上だから勝てなくても当たり前という声をよく聞きます。でも、ラグビーについて言うならそれは違うのではないかと、私は思っています。たとえばニュージーランドの選手は、子どものときからラグビーに親しんでいます。しかし、それ以上に強く影響していると思うのは、芝生のグラウンドが数え切れないほどあることでしょう。ラグビーに欠かせないタックル。これは非常に怖い技です。ケガをするのは当たり前というか、かなりの勇気がなければ、全力疾走している相手選手の足もとや腰のまわりに飛び込むなど、できないことです。ケガをしないほうが不思議です。

でも、グラウンドが100%芝で覆われていればどうでしょう。そのリスクは大幅に下がります。衝撃や衝突を恐れない感覚をそれこそ3歳、4歳の頃から身に着ければ、これは有利です。私など高校時代は、ラグビーは土の上でやるものだと思い込んでいました。試合用のグラウンドですら、芝生の「シ」の字もありません。まして、学校のグラウンドは土、そして石、砂利です。その上で「飛び込め~っ!」「倒せ~っ!」と言われても……。

ある日、テレビでニュージーランドやオーストラリアの公園に芝がふんだんい植えられているのを知ったときは、驚きました。しかも「Keep off the grass」などという表示はどこにも見当たりません。「芝生に立ち入らないでください」というのが普通の日本とは真逆です。日常生活の中で、芝生に足を踏み入れる、ましてその上を走り回ったりするなど、とんでもないことと教えられてきたのが私たち日本人。それからすると、ニュージーランドのラグビーが世界一なのは、むしろ当たり前なのかもしれません。フィジカルの前に皮膚感覚そのものが違うのです。ニュージーランドではどこもかしこも、裸足で歩いている男性をよく見かけましたが、そうしたことと関係しているのかもしれません。

私の高校時代、日本代表がニュージーランドに遠征したことがあります。
FWの後川、猿田、堀越、小笠原、井沢、石塚、HBの桂口、BKの横井、尾崎、伊藤、萬谷と、選手の名前がいまでもすらすら出てきますが、その中にいたのが坂田好弘。坂田がオールブラックス・ジュニア相手に4トライをあげて勝ったときは仰天しました。その坂田が「(日本は)ラグビーができる場があまりに少ない」と嘆いているように、強くなるにはそれが一番の近道なのではないかと思います。そうでないと今回W杯が終わったあと、芝生の練習場も競技人口も増えないでしょう。それは、JAPANが強くなるのにまだまだ大変な時間がかかることを意味しています。