天才アラーキーよりもっと天才、その名は荒木一郎

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自他ともに天才と認めるアラーキーこと荒木経惟は写真家です。たしかに、アラーキーの写真は、独特のエロティシズムがあますところなく表現され、間違いなく楽しめます。でも、分野は違うものの、天才度にかけては、アラーキーの上を行くのではないかと思われるのが、苗字は同じ「荒木」なのですが、日本のシンガーソングライターの元祖といわれる荒木一郎です。

若い人にはあまりなじみがないかもしれませんが、私くらいの年齢の者にとって、とりあえずミュージシャンとして、その存在感は圧倒的なものがあるのではないでしょうか。ちょうど私が高校に入ったばかりのころ、ラジオから流れてくる彼の曲を聴いて身震いした人は少なくないはずです。

その荒木一郎が6月13~15日、大胆不敵というか、なんと3日間連続のライブをおこないました。これほど大規模なライブは8年ぶりだそうです。ライブで3日間連続というのは珍しくないでしょうが、日によって内容がすべて違うというところにユニークさがあります。1日目は、10代のころ、まだ歌手になるとかいう話などない時期につくって歌った曲、2日目は歌手として全盛をきわめた20代のころの曲、そして最終日は、それより後、どちらかといえばほかの歌手や俳優のためにつくった曲で構成されていました。

L1040679 会場は、東京・世田谷区の北沢タウンホールという、地味なところです。下北沢の駅から徒歩3分ほどのところにあるのですが、基本は区役所の分庁舎。その2階に400人弱収容のホールがありました。客のほとんどは50代以上でしたが、関西や名古屋あたりから、このライブのためにわざわざ上京してきた人も少なからずいたようで、荒木一郎への支持の根強さが感じられます。もちろん、3日間とも満席。私も毎日通いましたが、なんとも素晴らしい内容でした。

ミリオンセラーになった「空に星があるように」「今夜は踊ろう」「いとしのマックス」「君に捧げるほろ苦いブルース」の4曲は毎日聴かせてくれました。しかし、ほかにも「梅の実」「海」「あなたといるだけで」「傷だらけの栄光」「あなたのいない夜」「ジャスミンの花は咲いてますか」「夜明けのマイウェイ」など、次から次とヒット曲を歌ってくれました。よく知られている作品の中で歌わなかったのは「ジャニスを聴きながら」くらいでしょう。MCもさえさえで、それだけ聞いていても飽きないところなど、たいしたものです。

若いころは気づきませんでしたが、今回思ったのは、その後シンガーソングライターとして名を成していったミュージシャンにも荒木一郎は多大な影響を与えたのではないかということです。たとえば、ひとつの曲の中で何度も転調する手法など、松任谷由実の専売特許のように言われますが、荒木一郎は10代のころからそうしたテクニックを盛り込んだ曲をいくつもつくっていますし、詞に表現される都会性も、こんな時代からと思わせるほど、卓越したものを感じさせます。そんなこともあるからでしょう、いま活躍中のミュージシャンにも、荒木一郎をリスペクトしている人は多いようです。

さすが天才、小説を書いたり、映画とかかわったり(俳優として、また監督として)など、さまざまな分野で活躍してきた荒木一郎。最近は音楽界での活動がめっきり減っていますが、それでも、その天才ぶりはいっこうに衰えを感じさせません。3日間、通しで楽しませてもらい、本当によかった! というのがいつわらざる実感です。

Thank you,荒木一郎!!