輪島から出発し、能登半島をほぼ全周

2018年7月10日
早起きして「朝市」に。車は海っぷちの駐車場に止め、通りをブラブラ。青い目の外国人の姿も目につきます。おばあちゃんやおかあさんたちが路上に敷いたシートの上に、朝採れたばかりであろう魚介類や、前の日に天日干しした魚を、ウソみたいに安い値段で売っていました。店舗のほうはお土産屋さんがほとんどで、輪島塗の小物を売っている店も。全部で100店ほどで、端から端までゆっくり歩いても1時間あれば十分です。

 

家人はゆっくり買い物に歩いていましたが、私はその周辺の古い町並みを歩きながら、写真を撮ったりしていました。目を引いたのが、「朝市」のど真ん中に建つ一見“元美術館”風の建物。地元の方にお聞きすると、やはりそうだったようで、かつての「イナチュウ美術館」跡だそうです。「イナチュウ」とは輪島塗の大手・稲忠漆芸堂(1929年創業)のことらしく、バブルの時代に手にした利益をつぎ込んで建てた(1992年)もののようです。資産価値数百億ともいわれる古今東西の美術工芸品が展示されていたものの、その後2012年に稲忠漆芸堂が倒産、当然、美術館も閉鎖とあいなりました。ヴェルサイユ宮殿を模して建てたバロック建築風の建物と、前庭の噴水などはそのまま残っていますが、「朝市」の通りにはまったく場違いといった雰囲気で、よくもまあ、こんなものをこんなところに作ったなぁと、あきれるほかありません。

同じ会社が経営していた「キリコ会館」のほうは、大手旅行代理店や地元の観光業界関係者の要望もあり、輪島商工会議所が引き継ぐ形で2015年にリニューアルオープンしたといいます。観光客にとってはこちらのほうが断然、役に立つと言うか、行って楽しめそうですから、それは救いといえるでしょう。ちなみに、「稲忠漆芸会館」のほうはいまも閉鎖されたままです。

輪島の街は2007年3月に能登半島地震に遭い、少なからぬ建物が損壊してしまったそうですが、建て直した家も、昔風の様式を復活させ、町全体がとても整っている印象を受けます。主だった場所は道も広いので、ワイドな景観を楽しめるのが、この種の古い町と決定的に違うところかもしれません。

それでも、「朝市」をひとめぐりしたころはもうお昼前。自家製のパンを売っている店を見つけたのでパンを少々買い込み、次の目的地「白米千枚田【しろよねせんまいだ】」に急ぎます。ここは名うての観光スポットのようで、駐車場には何台もの大型観光バスが。中国・韓国・台湾・香港などから団体客がひっきりなしにやってきているようでした。

「白米千枚田」から能登半島最東端にある禄剛【ろっこう】崎に向かいます。ここが能登内浦と能登外浦の分かれ目なのだとか。しかし、こんな辺鄙な場所にも、けっこう人が訪れているのには驚きました。ただ、メジャーなところではないので、日本人だけです。要するに、車さえあれば簡単に訪れることができるのが強みなのでしょう。それに、道路が走りやすいのも魅力です。余談ですが、新潟県、島根県、山口県……など、総理大臣が出た県はどこも例外なく、道路が立派です。幹線道路だけでなく農道まで、どんな道路も例外はありません。

途中、旧JRの珠洲【すず】駅跡を改装して作られたユニークな道の駅「すずなり」に立ち寄ってランチを済ませ、次の目的地「軍艦島」をめざします。10分ほどで着きましたが、ひと目見ただけでその名の由来が分かります。正式には見附【みつけ】島といい、高さ28メートルほどの岩から成る無人島なのですが、その形が船そのもの。観ればだれもが写真に撮りたくなる、能登の代表的な観光スポットといっていいでしょう。

次の目的地は「黒島天領北前船資料館」。途中に「總持寺祖院」という曹洞宗のかつての本山がありました。1321年の創建ですが、1898年、大火に遭ったため、本山が1911年、横浜市鶴見に移ったのちは、「祖院」と呼ばれているのだそうです。なんとも立派な姿に思わず足を止め、境内に。寺の真ん前に建つ輪島市門前総合支所に「祝日本遺産認定 北前船寄港地・船主集落」と書かれた大きな幕が吊るされていたので、なんだかうれしくなりました。

 

 

 

 

ただ、境内はあいにく修復工事の真っ最中のようで山門、仏殿など主だった建物の多くが中に入れませんでした。いずれも2007年の地震で被災したためのようです。工事が終われば、元の立派な伽藍が見られるのでしょうが、いつのことなのか。帰り際、出口の近くに「持寺【じじ】珈琲」という小さなカフェを見つけたので、修行僧がたててくれた自家焙煎のおいしいコーヒーでのどを潤してから駐車場に向かいました。

「黒島天領【くろしまてんりょう】北前船資料館」のほうは、おもしろい仕組みになっていて、すぐ近くに建つ「旧角海家【かどみけ】住宅(国指定重要文化財)」が、北前船船主の屋敷兼作業所で、そちらを訪れた人が希望すれば見られるとのこと。「旧角海家住宅」宅で地域ボランティアの女性から詳しくお話をお聞きし、いたく興味をそそられたので、当然、資料館のほうも案内していただきました。

 

駆け足で能登半島をほぼ全周し、金沢のホテルに到着したころは夜6時を過ぎていました。レンタカーを返しホテルに戻って食事に。この日は、遠くまで行く気分にもなれず、駅ビル内のおでん屋さんで済ませました。