“ヘミングウェイさまさま”のキューバ

 2018年4月28日
ハバナといえばヘミングウェイ、ヘミングウェイといえばハバナというくらい、両者の関係は密接です。それまでアメリカ・フロリダ州のキーウェストに住みながら、趣味の釣りを楽しむため、キューバに足しげく通っていたそうです。何せ、キーウェストからハバナまではわずか140km。飛行機に乗ればそれこそあっという間で行ける距離です。彼の定宿は、旧市街にある「アンボス・ムンドス(Ambos Mundos)」というホテル。
通りに面した最上階の角部屋がお気に入りだったようで、空きがあればかならずそこに滞在し、執筆と釣りにいそしんだとのこと。

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そして、1939年、スペイン内戦の取材から戻ると、3人目の妻とともに移り住むことに。ハバナの南東にあるフィンカ・ビヒアに9000冊の本、57匹の猫、4頭の犬、そして妻たち(1944年からは4人目の妻に)とともに、22年間住んでいました。広大な敷地に建つ自宅は、『武器よさらば』で稼いだ印税で購入したといいます。

DSC05844そこから毎日のようにコヒマルという漁村に出て釣りを楽しみながら、『誰がために鐘は鳴る』『老人と海』を書き上げたそうです。革命後キューバを離れたため、現在は「ヘミングウェイ博物館」になっています。

 

コヒマルというのは小さな漁村で、ヘミングウェイが通っていた当時とさほど変わっていない様子。村の中にある「La Terraza」は、ヘミングウェイがしょっちゅうやって来て、お酒を飲んだり食事をしたりしていたといい、観光客も訪れるコースが組まれています。

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キューバには観光資源が多々ありますが、「ヘミングウェイ」はアメ車とともに、その中でも筆頭格といった感じがします。先のホテルや、食べたり飲んだりしに行った店、そのメニューがいまもなお世界中の人を惹きつけているのですから。まさに“ヘミングウェイさまさま”でしょうか。アメリカからの実質的独立をめざして革命を成功させたキューバですが、いまなおその「アメリカ」で稼いでいるのは歴史の皮肉としか言いようがありません。

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コヒマルで時間があったので、漁船が係留されているっぷちまでガイドさんに連れて行ってもらいました。すると、その一角で「サンテリーア」の宗教儀式がおこなわれています。「サンテリーア」は西アフリカに起源を持つ宗教で、奴隷としてキューバに連れてこられた人々が持ち込んだものだそうです。キューバやドミニカ、ハイチといったカリブ海諸国は住民のほとんどは、16~19世紀にかけて、アフリカから奴隷として連れてこられた黒人がそのルーツ。当然、彼らも信仰を持っていたわけで、それが今日まで営々と続いているわけです。

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彼らを支配していたスペイン人はそうした信仰を禁じカトリックに改宗させようとしまし
た。しかし、表向きはキリスト教を信じるふりをしながら、密かに受け継がれていた「サ
ンテリーア」がいまなお息づいているのです。ハイチのブードゥー教に似て呪術的な
要素が強い(いけにえを捧げたりする)ため、白人にはうさんくさく見られているようですが、何せ先祖代々の信仰ですから、そう簡単には廃れません。

 

IMG_E4190ハバナに戻った私たちが行った先は「国立動物園」。「国立」などというと、いささかも
のものしい印象を受けますが、社会主義の国ですから、キホンすべては国立です。ところが、この動物園が出色。広大な敷地の中をバスに乗って走るのですが、どの動物もたいそうな数がいるのです。シマウマに至ってはおそらく200頭近いのではないでしょうか。

 

もちろん、キリンもいましたよ(バスで、遠い側の席にすわっていたので写真は撮れませんでしたが)。高くて頑丈な柵で囲まれたエリアには20頭近くのライオンが、昼ひなかだというのに、皆起きています。こういう時間帯で目を覚ましているライオンを目にしたのは初めてですが、そこかしこにいるのを見ると、なんだかうれしくなってしまいます。絵になりそうな場所に近づくとバスが停車し、写真もゆっくり撮らせてくれるなど、社会主義国らしからぬサービス精神も発揮してくれたのには感心しました。

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今日の午前中は、市民が食料品を買い求める「市場」をのぞきました。キューバでは、パンや砂糖、米、卵、牛乳などは配給制になっています。「配給手帳」を持って配給所に行くと、一定の量が無料でいただけるという仕組みです。

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DSC05806れ以外の肉や野菜・果物は市場で購入しますが、値段はべらぼうな安さ。これもアメリカの経済制裁の“おかげ”とでも言えばいいのでしょうか、農畜産物はすべてオーガニック。日本の野菜や果物のように美しい形もしておらず、色もくすんでいたりしますが、質的には安心です。「世界幸福度指数」というデータがありますが、キューバは6位(日本は95位!)。物は、量より質なのかもしれません。

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そんなキューバですから、音楽も陽気そのもの。アメリカが我が物顔でこの国を支配していた時代は、もっぱらそちらのほうが強調されていたのでしょう。夜行った「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ(Buena Vista Social Club)」のコンサートは、食事をしながらライブを聴くというスタイルですが、3時間近く、心行くまで楽しむことができました。

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私たちが泊まっているホテルからライブがおこなわれる「オテル・ナシオナル」までは海沿いの道を走っていきますが、土曜日の夜だったこともあり、防波堤の上には人がびっしり。ビール片手のグループもいれば、家族連れ、カップルなど、近在の人は皆ここに集結しているのではないかと思われるほどの人出でにぎわっていました。

驚いたのは帰り。夜の11時を過ぎているというのに、行きに見たときより人の数がさらに増えているようです。キューバの人々は週末になると、こういう時間の過ごし方をするのですね。バーもなければカラオケハウスもない、コンビニもない……となれば、こういうシーンは不思議でもなんでもありません。